『FFVII』の思い出
初代プレイステーションで『ファイナルファンタジーVII』が発売された1997年、俺はファミ通のニュースチームに所属するペーペーの記者だった。
1994年から続いていた次世代ハード戦争(プレイステーション、サターン、PC-FXとかとか)の趨勢を決める決定的なキラーソフトの登場とあって、ニュースチームの面々も色めき立っていた。当時は、いまほどネットメディアも普及していなかったし、SNSなんて呼べるものもほとんど存在しなかったので、“テレビゲームの最新情報発信現場”は新聞か、週刊誌であるファミ通のニュースページしかなかった。ゆえに、巻頭のトップニュースでは毎週のように『FFVII』を取り上げていて、ゲームファンの興奮を煽っていたのである。
そしていよいよ、ソフトの発売を2週間後に控えたある日、俺は当時の上司にこんなことを言われた。
「『FFVII』は事前人気が高すぎるので、発売当日に品不足になる可能性がある。そこで、ソフトの発売1週前にあたる来週号で、“『FFVII』は、どこで買えるのか?”という記事を作ろうと思う。……そんでだ」
俺は「ゴクリ」とツバを飲み込んだ。この上司が気を持たせる言いかたをしたときは、たいていロクでもないことを思いついたときなのだ。
そして……実際に上司は、とんでもないことを言い放った。
「全国のゲームショップ、量販店、コンビニ……などなど、ゲームソフトを取り扱う店舗にアンケートを取って、予約以外の当日販売をするかどうか調査してくれ」
「え……」と5秒ほど絶句したのち、俺は上司に恐る恐る確認した。
「それ……ふだんからやり取りのある協力店にはFAXでアンケートを取れますけど……そうじゃない大多数のお店は……どのように……?」
上司は太鼓腹をさすりながら、「ふんっwww」と鼻で笑い、冷たい表情でつぎのように告げた。
「電話があんだろwww ローラー作戦だよ!! ハイ、よろしく~~~!www」
それから1週間、朝から晩まで全国津々浦々のゲーム販売店に電話をし、当日販売をするのかどうか確認する日々……。こんなアナログかつ工数と結果が見合っていない作業、いまじゃ絶対にできないが、そうせずにはいられなかったほど『FFVII』のもたらした熱風は凄まじかったのだ。こんなことがあったので、俺的にはゲーム内容うんぬんよりも、“その周辺の事象”のほうが圧倒的に印象深いのである。
そしてこの大騒ぎはゲーム業界のみならず、一般のメディアもいっしょになってワイワイギャアギャアと煽り立てていたと思う。それはもう、お祭り騒ぎで……。当時を想うと、
「あれは……本当に存在した時間なのだろうか……?」
と、桃源郷に迷い込んだ旅人のような気分になってしまうが、あの熱狂を経験できた事実は、いまだ俺がゲーム業界の端っこで生きていくうえで大切な財産になっている。
そう、本当に凄まじかったのだ。“『FFVII』狂騒曲”は。
待った甲斐があった!
そんな、数ある『ファイナルファンタジー』のシリーズ作品の中でもっとも伝説的なタイトル『ファイナルファンタジーVII』がついにリメイクされ、4月10日に店頭に並ぶ。
その名は、プレイステーション4用ソフト『ファイナルファンタジーVII リメイク』。その体験版がいきなり配信されたので、さっそく編集部でやってみた。
……この体験版に割り当てられた容量、7.5ギガバイトを見て、さっそく漏らしそうになる。初代PSの『FFVII』もディスク3枚組という、当時としてはべらぼうに巨大な容量だったが、今回のはあくまでも体験版だ。それなのに7GB以上って……!!
「いったいどれだけ作り込んでるねん!!www」
と、遅々として終わらぬダウンロード画面を見てスタッフ一同で突っ込んでしまったよ。
そんな、まるでメテオのようにでっかいデータをどうにか落とし終わり、ついにスタート画面に。
「さーてやるか……」
コントローラーに手を伸ばした瞬間、「わしが最初や!!!」とデュアルショック4をブン取ったのは、「『FFVII』は12回クリアーした」と豪語する、編集部の女性スタッフである。コントローラーを奪おうとすると、「ガルルルルル……!! グルルルル!!!」と飢えたオオカミのように唸るので、1回目は見学に徹することにした。
スタートから終了まで、おそらく15分ほどのプレイだったと思う。7.5GBという容量を考えると「もっと遊ばせて!!」と思わなくもなかったが、プレイ中に俺たちが発した言葉に、『FFVII リメイク』の本質が現れていたと思う。
この15分間、我々から飛び出したセリフはシンプル極まりなかった。
「す、すげえええ!!!」、「綺麗ぃぃぃいいい!!」、「小気味いいぃぃぃいいい!!!」、「かっちょいいいぃぃいい!!!」、「わかりやすいぃぃいいい!!!」
そして……つぎの言葉に、すべてが言い表されていた。期せずして、俺たちは大声でわめいていたのだ。
「超楽しいぃぃぃいいいい!!!!」
と。
懸念はなくなった
スタッフに続いて、俺も最初から最後まで一瞬で遊び抜けた(ヘンな表現だが)のだが、なんと言うか……息つくヒマもないほどおもしろかったww
じつは事前情報を見たとき、昔の『FFVII』で慣れ親しんだアクティブタイムバトルが刷新され、アクション性の強い新たな戦闘モードが導入されたことを知り、若干不安になっていたのである。
しかし実際にやってみると、アクションとコマンド選択式のバトルがいい塩梅(あんばい)で掛け合わされ、わかりやすくも小気味いい、ある種“さわやかさ”すら感じさせる戦闘になっていた。おかげで、わずか1バトルを終えただけで、
「あwww こっちのほうがいいわwww」
と寝返って(?)しまったのだから、ゲームファンて勝手なものですね。
ちなみに俺以上に、
「戦闘モードが変わったとか……ショックすぎる……」
とうな垂れていた12回クリアーのスタッフも、
「あwww こっちのほうがいいやんwww」
と、手のひらがねじ切れるほどクルクル回っていたので、我々と同じような懸念を持っていた人も安心してもらっていいと思う。
製品版を遊び込むしかない!
というわけで、壮大な『FFVII』世界をほんのちょっとだけ齧ったわけだが、期待度はプレイ前と比べて100倍くらいに膨れ上がった。
圧倒的なグラフィック、練り込まれた世界観、そして刷新されたバトルモードなど、ゲームを形作る要素の一端に触れて、
「これを遊ばずして、今年のゲームは語れないだろう!」
そう確信してしまった次第である。
『ファイナルファンタジーVII』という稀代の作品の深淵に潜るには……製品版を徹底的にやり込むしかないな。
この春は、忙しくなりそうだなぁ。
大塚角満(おおつか・かどまん)
1971年9月17日生まれ。元週刊ファミ通副編集長、ファミ通コンテンツ企画編集部編集長。在職中からゲームエッセイを精力的に執筆する“サラリーマン作家”として活動し、2017年に独立。現在、ファミ通Appにて“大塚角満の熱血パズドラ部!”、ゲームエッセイブログ“角満GAMES”など複数の連載をこなしつつ、ゲームのシナリオや世界観設定も担当している。著書に『逆鱗日和』シリーズ、『熱血パズドラ部』シリーズ、『折れてたまるか!』シリーズなど多数。株式会社アクアミュール代表。 |
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