針原翼(はりーP)さんの曲作りに迫る!
2020年9月のサービスイン以来、コロコロオンラインがひたすら追い掛け続けているセガ×Colorful PaletteのiOS/Android向けアプリ『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』。
2021年10月には1周年を祝した特集を展開し、
さらに2022年10月には『プロセカ』2周年を記念した大特集を実施するなど、担当からほとばしる圧倒的な“プロセカ愛”をカタチにし続けている。
そんなコロコロオンラインプロセカ班がとくに情熱を注いで追っているのが、このゲームの根幹でもある楽曲……そして、それを制作されている“ボカロP”と呼ばれる“才能たち”であります!!
“子どもが将来なりたい職業ランキング”において、ゲームクリエイターやユーチューバーらと並んでボカロPが上位にランクインし、コロコロの読者層との親和性もめちゃくちゃ高いということで、前述のプロセカ1周年特集の際にボカロ界のビッグネームにつぎつぎとインタビューを敢行!! その内容の濃さは業界内外に衝撃を与え、このたび……不定期連載で、さらに多くのボカロPの皆様にご登場いただき、ナマの声をお届けできることになったのです!!
『プロセカ』はゲーム内容はもちろん、楽曲のすばらしさが高く評価されて現在の人気を確立したと言っても過言ではない。それらを生み出したボカロPたちの考えかた、作品への向き合いかたを掘り下げたこのインタビュー連載を読まれることで、ゲームを遊ぶだけでは知りえない情熱や、楽曲に対する想いを知ることができるはずだ。その結果……さらに登場キャラやユニット、『プロセカ』そのもののことが好きになること請け合い!!
そしてインタビューの後半では、“いかにしてボカロPになったのか?”という、将来この道に進みたいと思っている読者の皆様の道しるべになるような質問もぶつけているので、とにかくあらゆる人たちに読んでいただきたいなと!!
さて今回ご登場いただくのは、Leo/need(レオニ)にオリジナル楽曲『STAGE OF SEKAI』を提供された“針原翼(はりーP)”さんだ。
『STAGE OF SEKAI』が書き下ろされたイベントストーリー『揺るがぬ想い、今言葉にして』は、2曲目のオリジナル曲をライブで披露するため、曲作りと練習に没頭するレオニの4人の姿を描いたもの。そんな中、チケットノルマのためにひとりで奔走する志歩と、彼女の不穏な様子に気づいた穂波の感情がぶつかってしまう……! プロを目指す彼女たちは、直面した現実問題にどう対処するのか……?
そんな、非常に現実的かつ切ないストーリーに向けて制作されたのが『STAGE OF SEKAI』だ。針原さんはこの曲に、どんな想いを込めたのだろうか?
※インタビューは感染対策を徹底して行っております。
夢を追いかけていくときの高揚感を
--まずはたいへん恐縮なのですが、簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか!
針原 わかりました。“はりーP”こと、針原翼と申します。作詞作曲をおもな活動にしておりまして、最近は他のアーティストさんに楽曲提供をすることが増えてきました。もともとはバンドをやっていて、そのときの曲をボカロに歌わせてみたところ思いのほかウケまして(笑)。バンドで演奏していた曲をミクちゃんにそのまま歌わせただけだったんですけど、「こんなにウケるなら!」とバンド活動と並行してボカロPもやっていくことになりました。それ以来、バンドの曲を発表するのと同時にボカロバージョン投稿することになったので、そういう意味ではボカロとは切っても切れない関係にある人間……ということになりましょうか。
--バンドの曲をボーカロイドに歌わせてみよう……というアプローチからして、じつにおもしろいですね。
針原 はい。僕は2011年からボカロをやり始めたんですが、じつはその年に出すはずだったバンドのアルバムが、東日本大震災の影響ですべて飛んでしまったんですよ。僕だけでなく、音楽業界全体が自粛ムードの中にあってストップが掛かったような雰囲気に包まれていたんですけど、唯一、ニコニコ動画のボカロ界隈だけは変わらず……というか、以前にも増して活発化していました。それを見て、「音楽、止まってないじゃん!」と衝撃を受け、まわりでもボカロをやり始めるミュージシャンが多かったことから、「では自分も!」となりました。
--2011年は、ボカロ界でいまも語り継がれる名曲がたくさん生まれた年ですね。
針原 おっしゃる通りで、CDの発売やツアーなどが軒並み流れてしまっている中、ボカロ界は元気に動いていたんですよね。
--自粛ムードが叫ばれる中にあって、拠り所みたいになっていましたよね。そんなボカロに、初めて触ったときはどうだったのですか?
針原 すでにやり込んでいる方々から教えてもらうことができたので、かなりすんなりと入れたほうだと思います。当時は楽器店に行くと初音ミクのコーナーがあって、そこにはボカロPは名乗っていないながらも機能に詳しい店員さんたちがいました。そんな方たちからもいろいろと教えてもらうことができたので、恵まれた環境にあったと思います。
--それにしても針原さん、本当に多方面で活躍されていて驚いてしまったのですが。Evergreen Leland Studio(ELS)に所属して楽曲制作活動をするのと並行して、本日取材でお邪魔させてもらった下北沢の音楽スタジオLANDRUTH music studio も運営されていますし。
針原 そうですね。僕は高校卒業と同時に「音楽一本で生きていこう!」と決めて、現在も拠点にしている下北沢にやってきました。ここには本当にたくさんのライブハウスがあるんですけど、「この場所で絶対に成り上がってやる!」と決めて活動を始め、スタジオを作ったりもして、気が付けば20年近くの時が流れていました(笑)。
--そのストーリー、ビビバスの子たちみたいでめちゃくちゃ掘り下げたいんですけど……(笑)。でもグッとこらえて、改めましてお聞きしますが、『プロセカ』からオリジナル楽曲の依頼が来たとき、率直にどう思われましたか?
針原 『プロセカ』、まわりの音楽関係者でプレイしている人は多いんですけど、僕はゲームがヘタクソなものですからほとんど遊べていないんです……。でも、流行っているのは知っていましたし、勢いがあるのもまわりの人たちを見てわかっていたので、ボカロと、実際に人間が歌う歌が『プロセカ』の中で混ざり合うことで何かが起こるな……とは感じていました。ですので、依頼をいただけたときは、そりゃあもううれしかったですよ。
--じつは今日、針原さんといっしょにEvergreen Leland Studioとして活動もされてる“Heavenz”さんも同席されているんですが……! Heavenzさんはモモジャンにオリジナル楽曲『フロート・プランナー』 を提供されているボカロPなんですよね!
針原 そうなんです。でも、このチームで『プロセカ』に関わったのは僕が最初でした。Heavenz君やkoyori君(同じくELS所属のボカロP。ワンダショにオリジナル楽曲『箱庭のコラル』を提供されている)のほうがボカロP歴は長いし、ヒット曲も多いんですけど(笑)。
--Heavenzさん、針原さんに『プロセカ』からお話がきたという報告を受けて、率直にどう思われましたか?
Heavenz 我々の中で先陣を切って『プロセカ』に参画されたので、その後に続く僕らもやりやすくなったなと思いました。連絡が来たときは、「本当にめでたい!」と心から思ったことを覚えています。
--素敵な関係性ですね! そんな針原さんはオリジナル楽曲『STAGE OF SEKAI』をレオニの子たちに提供されたわけですけど、彼女たちを初めて見たときはどのような印象を持たれましたか?
針原 「一歌ちゃん、主人公だな!」と思いました。初音ミクちゃんと並んでも負けないくらいのキャラを持っていて、率直に「すごい」と感じたんです。Leo/needという名前からもうかがえるんですけど、やっぱり意志の強さを感じますし、目指すべきところがはっきりしている安定感のようなものも醸し出されていると思います。
--楽曲提供されたイベントストーリー『揺るがぬ想い、今言葉にして』のキーキャラクターは穂波ちゃんでしたけど、彼女の印象はいかがですか?
針原 僕も、バンドのまとめ役みたいな部分が多分にあるので、シンパシーを感じる部分が多かったです。引っ張っていく……というタイプとはまた違うのかもしれませんけど、この子が欠けたらバンドはダメになる……ということが明確に伝わってくるキャラクターなので、ちょっと目が離せませんでした。
--確かに穂波ちゃんって、レオニの中では縁の下の力持ちとして描かれることが多いですよね。このイベントストーリーでは仲間に真っすぐ想いを伝える描写がありますが、優しくて強い子だなと思いました。
針原 まさに。そういう子ですよね、穂波ちゃんて。
▲イベント『揺るがぬ想い、今言葉にして』の書き下ろし楽曲としてリリースされた。
--このイベントストーリーでは、バンドをやられている方は避けて通れないであろう“チケットノルマ”に言及されています。こういった部分でも、親近感が湧いてきたんじゃないですか?
針原 これがもう、本当にその通りで……!(苦笑) バンドにチケットノルマを課すのってどうなの……という議論があるのも承知しているんですが、実際に活動をしていると、自分たちが売れるためにお客さんをつかんでいく……という意味では必須のハードルなんだなと感じるんです。このイベストでレオニに課せられたノルマは“チケット30枚”でしたけど、下北沢ではふつうに50枚くらいがノルマですから。でも、そのステージには有名なバンドもたくさん出るし、そこでいっしょに演奏できたなら一気に活躍の場が広がる可能性もあるので、皆必死になってノルマをこなすんです。そういう意味でこのイベントストーリーは、じつにリアルだなとも感じました。
--このバンドマンの聖地、下北沢はレオニの曲を作るのにぴったりの環境……って気がしますけど、そんな中で生まれた名曲『STAGE OF SEKAI』のテーマを改めてお聞かせください。
針原 依頼をもらって最初に芽生えたのは、この『プロセカ』というゲームそのものに一役買える曲を作りたい……という想いでした。当然、まかされたイベントストーリーの書き下ろし楽曲も大事なんですけど、『プロセカ』というコンテンツそのものが持っている何か……。プレイヤー自身がそのセカイの中に入っていって、ゲーム内のキャラといっしょに躍動するかのようなドキドキとハラハラを表現できればいいな、と。レオニの子たちのように、何かを目指したり、夢を追いかけていくときの高揚感……みたいな“大きなもの”をテーマにしたいと思いました。
--おお……!
針原 とはいえ、いま言った通りイベントストーリーの書き下ろし楽曲を託されていたので、徹底した読み込みと、それを元にして何を発信できるのかを考えることから始めました。
--『STAGE OF SEKAI』、我々取材班もめちゃくちゃ好きな曲でして……! 思い出すのがセカライ2ndでトップバッターを務めたレオニが最初に演奏したのがまさにこの曲でしたよね。そのとき……本当に感動しまして!!
針原 ありがとうございます(笑)。そういう形でこの曲を使ってもらえて、僕もうれしかったです。
▲“プロジェクトセカイ COLORFUL LIVE 2nd – Will -”にて演奏するLeo/needのメンバーたち。1曲目で『STAGE OF SEKAI』を披露し、会場を大いに盛り上げてくれた。
--「『STAGE OF SEKAI』は、まるでレオニの主題歌のようだ」という、リスナーの声もめちゃくちゃ多いですよね。
針原 ありがたいことにそう言っていただいていることは、僕もよく目にします。これは……本当に、いちばんうれしい反応ですね。
--そんな『STAGE OF SEKAI』は印象的な歌詞が満載なんですけど、針原さん自身がもっとも好きなフレーズは?
針原 そうですね……! やっぱり、サビで何度も出てくる「君が輝ける場所はここだよ」というところ。このフレーズが生まれたから『STAGE OF SEKAI』が完成した……と言っても過言ではないと思います。
--わかるーーー!! めっちゃいいですよねそこ!! 加えて僕もモノ書きの端くれなのでついつい歌詞を読み込んでしまうんですけど、冒頭の「泣き虫が泣かなくなった帰り道」ってところで、速攻で泣きそうになりました(笑)。
針原 あー(笑)。そこは、僕も気に入っています。高校生くらいの思春期だと、ちょっと突っ張って意地を張って、自分の本音を隠したり、強がったりすることが多いじゃないですか。それが“強さ”なのかは本人次第なのでわかりませんけど、グッと涙をこらえて歩き出す……っていう思春期ならではの心の動きを表したいと思ったんですよね。
--正直、『STAGE OF SEKAI』を中高生のときに聴いたらヤバかったろうな……って、おじさんになったいま思います(笑)。そういった若者たちだと思うんですけど、「いまの自分の気持ちを代弁してくれている曲」というコメントがめちゃくちゃ多いです。
針原 でも、年を重ねた僕らにも響くってことは、やっぱりそこに何かがあるんですよね。もしかしたら、それこそが“青春”っていうものなのかもしれませんけど。でも改めて、『プロセカ』はゲームですけどだからこそ自己投影がしやすくて、『STAGE OF SEKAI』もたくさんの人に聴いてもらえることになったんだろうなと思います。
※MV画面はバーチャル・シンガーver.のものです。
--では改めてになりますけど、『STAGE OF SEKAI』の聴きどころをぜひ教えてください。
針原 よく聴くと、かなり展開が多い曲ということがわかると思います。ですのでちょっとした小技に見えてしまうかもしれませんけど、すごく大胆な転調だとか、ちょっとアカペラっぽくなるところとかを、意識して聴いてもらえるといいかなと。そこも含め、いつもいっしょに編曲をしてる“棚橋EDDYテルアキ”君っていうアーティストがいるんですけど、彼のテクニックがあらゆる箇所で活きているんです。歌詞やメロディーなど楽曲の根元の部分はもちろんあるんですが、最後にバーンと波を作ってくれるのが棚橋君の編曲なんですよ。
--編曲という行程が加わることで、楽曲がさらに1段階上にいく……という感じなんですね。
針原 おっしゃる通りで、棚橋君の作業には毎度毎度頭が上がりません。
--“プロを目指す”というレオニの子たちの気持ちも、かなり明確に反映された楽曲と感じました。
針原 そうですねー! 飛び込んでみたはいいものの、すごく大きなハードルがつぎからつぎへと出てくる世界ですからね。その中には「絶対に越えられない……!」とひるんでしまうようなものもあったりするんですけど、そんなのにぶつかってしまったら、とりあえず越えられそうなところから徐々に徐々に跳んで行って、どうにかしがみついて進んでいくしかありません。もう、そのくり返しなんです。
--くじけそうになったことも……?
針原 ありますあります。ていうか、いまでもそうですもん(苦笑)。依頼をいただいても毎回のように、「自分に書けるかな……」と不安に思いますしね。自分でハードルを高く設定してしまうからこそ壁に感じてしまうんでしょうけど、逆に言うとそれを乗り越え、リスナーの皆さんに喜んでもらえたときの感動は筆舌に尽くしがたいものがあって、“辛い”よりも“楽しい”が勝ってくれるのでいまでもこの世界で活動を続けています。
--レオニの子たちも、オリジナル楽曲の制作で産みの苦しみにぶつかりますよね。
針原 みんなそうなんです。バンドをやっている人も、ボカロPも、全員が共有する感情が“産みの苦しみ”だと思います。
--そこでぜひお聞きしたいのが、『STAGE OF SEKAI』の制作日数です。難度的には、いかがでしたか?
針原 そんなにかからなかったかな……と思います。依頼をいただいてからだいたい2、3ヵ月の猶予をもらったと思うんですけど、期日内にはしっかりと作ってお渡しできたと思うので。そもそも、いただいたリクエストの中に「どれだけキラキラしてもらってもかまいません!」というものがあって、それは僕の得意分野でもあったので、すごくフィットした状態で作業を進められました。ですので、いただいた時間を十分に使って、最終的に納得のいく楽曲を納品できたと思います。
--特別に難産だった……というわけではないんですね。
針原 はい、そうですね。いちばん時間がかかったのは、曲名を決めるときだったと思います(笑)。僕、タイトルを付けるのっていつも最後なんです。このときも、『STAGE OF SEKAI』に決まるまでに10個くらい、「これかな……」、「いや、違うな……」という書いては消し、消しては書いてをくり返しました。けっきょくギリギリまで決めきることができず、最後の最後に出てきた“STAGE OF SEKAI”という案を見て、「これだな!」となりました。
--そんな『STAGE OF SEKAI』がゲームに実装されたとき、どう思われましたか?
針原 なんだか……妙に感動しました。もちろん、実装されるまでにサンプル動画を見る機会があったんですけど、それよりも何よりも、実際にユーザーがプレイされているのと同じスマホやタブレットの画面で見たときに、言いようのない感動が押し寄せてきましたね。
--針原さん、音ゲーが苦手とおっしゃっていましたけど、実際にプレイはされたのですか?
針原 やりました! ……でもEASYですらまともにできなくて、すぐにあきらめたんです(苦笑)。
--では、ゲーム実装後にいろんな反響があったと思うんですけども、とくに印象に残っていることは?
針原 先日、『プロセカ』の「クリエイターズフェスタ」(プロセカに楽曲収録されているボカロPが参加する即売会)があったので参加させてもらったんですけど、そこでファンの方と直接やり取りができたのがうれしかったですね。それと、先ほどおっしゃってくれたセカライ2ndのオープニングで演奏してもらったあと、たくさんの方からポジティブな感想をもらえて感動しました。
--そういった、熱心なファンの子たちにひと言お願いいたします!
針原 僕は皆さんの声に背中を押されて楽曲制作ができているわけですけど……僕も、作った曲で皆さんの背中を押せているんだったら、こんなにうれしいことはありません。そういう意味では、アーティストとファンって持ちつ持たれつなんです。どうかこれからも、応援よろしくお願いいたします!
--ありがとうございます!! ではここから、将来の夢として「ボカロPになりたい!」と思っている人たちのために用意した質問にお答え願えればなと……! まずは……針原さんが、ボカロPになられたきっかけを教えてください!
針原 僕の音楽人生は、シンガーソングライター……というか、アコースティックギター1本で歌い始めたところから始まったんです。そのときはボカロなんてぜんぜん知らなかったので、数年後に見つけたときの新鮮さと、「こんなものがあったんだ!」という発見の驚きはスゴいものがありました。改めて、音楽にはいろいろな形があるという真理と、ちょっとでも興味が生まれたならまずは触ってみなきゃ……という積極性を、このときに叩き込まれたような気がします。
--針原さんは子どものころから、将来は音楽で食べていきたい……と思っていたのですか?
針原 そうですね。高校生になったころには、そう決めていました。楽器を始めたのは中学生のときで、そのころから作詞作曲を始めたので、バンドを組んでもコピーではなく、いきなりオリジナル楽曲を演奏していたんです(笑)。
--へーーー!! 早熟……というか、コピーバンドから入る人が多いと思っていたので、ちょっと驚きました。でも、早いうちから楽器に触れていたのは大きかったんじゃないですか?
針原 あ、それは思います。家に廃れたドラムがあって父が趣味で叩いていたんですけど、音楽に触れるきっかけがあったのはよかったなと感じます。でも僕はドラムじゃなく、叔父にもらったアコギばかり弾いていて、フォークソングが好きだった父と母の影響で弾き語りの真似事みたいなことをやっていたんですよね(笑)。
--そうやって、作曲に通じる楽器のノウハウを身に付けていかれたと思うんですけど、作詞の能力はどうやって鍛えたのですか!?
針原 あーーー、これは難しいですね……。というのも、いまだに僕も何がいい歌詞なのかわからなくて、ときにへんてこりんな詞を書いてしまいますから……(苦笑)。
一同 (笑)
針原 ですので作曲だけ担当して、作詞はプロの人にお願いすることもあるんです。すると、もう……! 目が点になってしまうくらいすばらしい歌詞が上がってきて、自分とのレベルの差を痛感させられるんですよ……。
--針原さんですら、そうなのか……!
針原 そんな中でも僕が心掛けているのが、自分の近くで言ってくれているような、聞き手に寄り添える言葉をチョイスすること。誰が聞いても、「私のことを言ってくれているのかな」なんて思えるような詞が書けたらいいな……と、いつも思いながら作詞を行っています。……まあ、難しいんですけどね。
--すごく『STAGE OF SEKAI』の歌詞に現れていると思います……!!
針原 ありがとうございます。そう言っていただけてよかった!
--では、質問を変えまして……! ボカロPになるために必要なスキルがあれば、ぜひ教えてください!
針原 楽器は、何かやれたらいいだろうな……とは思います。でも、楽器に触れたことがなくても、パソコンひとつあれば作曲はできる時代ですからね。それほどこだわる必要はないんじゃないかな、と。それよりも、“誰かに聴かせたい”という気持ちの強さが重要になってくると感じます。ボカロ“P”と名乗るのであれば、やっぱり作品を発表するという意思を明確にしておいたほうがいいと思うんです。いまの時代、ボカロPは職業になり得ます。つまり、お金を稼ぐ手段にもなるということです。である以上、“いいものを作って聴いてもらうぞ”という意識こそが大事になってくると思います。
--自分の作った作品を発信するのが恥ずかしい……と感じる子も少なくないと思うのですが、そういった感情とはどう向き合えばいいんですかね……?
針原 そう、必ずそういう感情とぶつかると思います。でも本気でこの道に進みたいなら、絶対に恥ずかしさを凌駕する“発信したい”という強い思いが芽生えるはずです。自分だけで楽しむ音楽も、もちろんアリです。でも“ボカロP”として歩むなら、世間に向けて発信することは避けて通れませんから。
--そうか……! 強い気持ち……ハートが重要になってくるんですね。
針原 おっしゃる通りです。この世界で生きていこうと思ったなら、“作りたい”の先にある“発表したい”という気持ちも強く持ってほしいなと考えます。
--では、 ボカロPになってよかったと思うことがあれば、具体的に教えてほしいのですが!
針原 やっぱり、“いまをすごく楽しめている”ってことがいちばんかと思います。過酷なのは、間違いないんです。僕も順風満帆というわけではなく、料理好きなのもあって、そっちの道に行こうかなぁ……と思ったことは一度や二度ではありません。でも、そのたびに乗り越えていまがあり、いちばん好きな音楽を続けられているので、改めて「ボカロPになってよかった!」と感じます。
-- Heavenzさんもそうですけど、ボカロPどうしのネットワークが広がったのも大きいんじゃないですか?
針原 それはもう、間違いありません。むしろ、いちばん大きなトピックかもしれないですね。
Heavenz うんうん。仲間内のネットワークができて、いっしょにチームを組んでやれているっていうのは、僕も音楽活動を続けてきた中でもっとも重要な出来事になっています。
針原 支え合っているんです。くじけそうなときも、彼らの存在にすごく助けられていますから。
Heavenz ボカロPって、だいたいひとりで完結することが多いんですね。ですのでドツボにハマってしまうこともあるんですけど、そういったときに何でも相談できる仲間がいるのは、本当に大きいんです。
--これまでたくさんのボカロPにお話を聞いてきましたけど、やっぱり「基本的には、孤独な仕事です」とおっしゃる方が多かった印象です。
針原 じつはその“孤独さ”も、大切なキーワードなんですけどね。ただ集まってワイワイしているだけじゃなく、名のあるボカロPはみんな孤独を経験したからこそいまがある……と僕は考えています。
--そんなボカロPを目指す全国の少年少女に、先達としてエールをお願いしたいのですが……!
針原 職業として目指すのならば本当に厳しい世界だよ……ということは、しっかりと言ってあげたいと思います。先ほども言った通り、自分で楽しむだけじゃなく発表したいと思ったら、乗り越えなければならないハードルがたくさん現れる業界ですから。でも、そこを突破し、本気で歩んでいこうと思えたなら、僕のTwitterにリプライでオリジナル楽曲を入れてもらってかまわないので、アクションを起こしていきましょう!
--これ書いたら、ホントに子どもたちから楽曲が届いちゃうかもしれませんよ!?
針原 大丈夫です。届いたものは絶対に聴きますので!
--それも含めて、ありがとうございます……! では最後に、『プロセカ』についてもひと言お願いできますでしょうか。
針原 ……2曲目のご依頼、お待ちしてます(笑)。僕、キラキラだけじゃなく悲しい曲もわりと得意なので、ぜひお声がけください!(笑)
--本日は楽しいお話、本当にありがとうございましたー!!
針原翼(はりーP)
作詞 作曲・プロデュース
自身のロックバンド、ROZEO EMBLEMの活動と並行しながら、VOCALOIDを使用した楽曲を制作をする。
2012年に動画投稿サイトへ投稿したVOCALOID楽曲「ぼくらのレットイットビー」がヒット。
その後も覚えやすくキャッチーなメロディーを中心とした楽曲が評価を得る。
ボカロP名はHarryP(はりーP)。
2015年には小説「ぼくらは、そっとキスをした」で作家デビューをした。
2017年、初音ミク10周年イベントにて「TODAY THE FUTURE」公式テーマソングを発表。
2019年12月より、シンガーソングライターおよびボーカリストのセツコ、ソングライター koyoriと共に「空白ごっこ」を結成。
以降、テレビアニメ・ドラマ、映画、TVCM、人気ゲームなどに多くの楽曲提供を行う。
2023年、NHKコズミックフロント×おしりたんていテーマソングを担当した。
レコーディング時のディレクションやボーカリゼーション技術に定評がある。
楽曲提供、プロデュースも国内外を問わず精力的に行なっている。
代表作「ぼくらのレットイットビー」「泥中に咲く」など。
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ボカロPインタビュー連載 |
1周年ボカロPインタビュー |
タイトル概要
プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク
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■配信開始日:配信中(2020年9月30日(水)配信)
■価格:基本無料(アイテム課金あり)
■ジャンル:リズム&アドベンチャー
■メーカー:セガ/ Colorful Palette
■公式Twitter:https://twitter.com/pj_sekai