烏屋茶房さんの曲作りに迫る!
2020年9月のサービスイン以来、コロコロオンラインがひたすら追い掛け続けているセガ×Colorful PaletteのiOS/Android向けアプリ『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』。
2021年10月には1周年を祝した特集を展開し、
さらに2022年10月には『プロセカ』2周年を記念した大特集を実施するなど、担当からほとばしる圧倒的な“プロセカ愛”をカタチにし続けている。
そんなコロコロオンラインプロセカ班がとくに情熱を注いで追っているのが、このゲームの根幹でもある楽曲……そして、それを制作されている“ボカロP”と呼ばれる“才能たち”であります!!
“子どもが将来なりたい職業ランキング”において、ゲームクリエイターやユーチューバーらと並んでボカロPが上位にランクインし、コロコロの読者層との親和性もめちゃくちゃ高いということで、前述のプロセカ1周年特集の際にボカロ界のビッグネームにつぎつぎとインタビューを敢行!! その内容の濃さは業界内外に衝撃を与え、このたび……不定期連載で、さらに多くのボカロPの皆様にご登場いただき、ナマの声をお届けできることになったのです!!
『プロセカ』はゲーム内容はもちろん、楽曲のすばらしさが高く評価されて現在の人気を確立したと言っても過言ではない。それらを生み出したボカロPたちの考えかた、作品への向き合いかたを掘り下げたこのインタビュー連載を読まれることで、ゲームを遊ぶだけでは知りえない情熱や、楽曲に対する想いを知ることができるはずだ。その結果……さらに登場キャラやユニット、『プロセカ』そのもののことが好きになること請け合い!!
そしてインタビューの後半では、“いかにしてボカロPになったのか?”という、将来この道に進みたいと思っている読者の皆様の道しるべになるような質問もぶつけているので、とにかくあらゆる人たちに読んでいただきたいなと!!
さて今回ご登場いただくのは、ワンダーランズ×ショウタイム(ワンダショ)にオリジナル楽曲『ショウタイム・ルーラー』を提供された“烏屋茶房(カラスヤサボウ)”さんだ。
『ショウタイム・ルーラー』が書き下ろされたイベントストーリー『Revival my dream』は、ワンダショのメンバー、神代類が演出家として歩みだす原点とも言えるエピソード。しかしその内容はほろ苦く、彼にとってはトラウマとも言えるものだった。時を経てワンダショの仲間を得た類は、世界的な洋館を使った特殊なステージを使い、あのときできなかった思い出のショーを実現しようとするが……?
類、並びにワンダショの鍵のひとつとも言えるストーリーに書き下ろされた『ショウタイム・ルーラー』には、どんな思いが込められているのか? じっくりとお話を伺ったぞ。
※インタビューはオンラインで行ったものです。
あの名フレーズの秘密
--まずはたいへん恐縮なんですけれども、簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか?
烏屋茶房 わかりました! 烏屋茶房と申しまして、ボカロPとして……と言うか、もともとは『東方アレンジ』というジャンルで楽曲を作っていました。そして大学生になったとき、ボカロを使って曲作りをしている友人がいたことをきっかけに、「じゃあ自分も……!」となりまして(笑)。以来10年ほど活動を続けてきたんですけど、最近はボカロPからさらに幅が広がって、いろいろな場所で楽曲を書かせてもらっております。
--ふむふむ!
烏屋茶房 ボカロPって、1年くらい新曲を発表していないと「免許切れ」なんて、冗談とも本気ともつかないことを言われる世界なんですけど、私はギリギリのところを行ったり来たりしている人間だな……と自己評価しています(笑)。
--烏屋茶房さんは実際に、アニソンを始めとしてさまざまなジャンルに打って出ているボカロPですよね。リスナーからも、「烏屋茶房さんの本業はどれなんだろう?」と言われているのを見かけますし。
烏屋茶房 そうなんですよー! 実際私も、ボカロPであることは間違いないんですけど、意識としてはどちらかというと、商業作家であることのほうが比重が大きくなってきている気がします。
--とはいえ!! 今回、『プロセカ』に提供されたオリジナル楽曲『ショウタイム・ルーラー』は名曲として名高いです。まずは、この依頼を受けたときにどう思われたのかをお聞かせ願えますでしょうか?
烏屋茶房 本当に率直なところを語らせていただきますと、このお話は“ボカロPの烏屋茶房”に来たのではなく、“商業作家の烏屋茶房”に来たんだな……という意識で受けさせてもらったんです。と言いますのも、私は直近ではボカロ楽曲で大ヒットした作品もそれほどないですので、あくまでも所属事務所を通して依頼してもらったゲーム制作のお手伝い……という感じでした。
--めちゃくちゃ控えめじゃないですか!
烏屋茶房 いやいや、そんなこともないんですが(笑)。『プロセカ』にオリジナル楽曲を提供されているボカロPって、日々この分野で精力的に活動されていて、再生回数1000万超えなんてザラにある……というような、大人気の方ばかりじゃないですか。だからこそ、自分はいま言ったような意識で制作に入ったわけですが、他のボカロPの方々がアーティスティックな楽曲を提供されている中にあって、いい意味でそれまでの『プロセカ』にはなかったテイストの作品をお渡しすることができたんじゃないかなと思っています。
--依頼を受けたとき、『プロセカ』の存在は自体はご存知だったのですか?
烏屋茶房 はい、知っていました。自分がお話をいただいたときはすでに大きなうねりになっていて、まわりにもプレイしている人がたくさんいたんです。そこで、参画されているボカロPの名前を見たら、いま言ったように綺羅星の如き実力者がズラリと並んでいて……! 当然、オリジナル楽曲のクオリティーはめちゃくちゃ高いし、誰もが知っているようなボカロ曲をつぎつぎとカバーしていたので、「これはますます、巨大なコンテンツになるぞ……!」と思って見ていました。
--まさに、ローンチ直後からとんでもない勢いがありましたもんね。
烏屋茶房 はい。ボカロ曲ってよく言われている通り、衰退と隆盛をくり返してきたジャンルなんですね。それがここにきて、新しいムーブメントが『プロセカ』によって生まれている気がして、純粋に「コンテンツとしてすばらしいな!」と感じたんです。……逆に言うとそれくらい勢いがあったので、「自分にお声が掛かることはまずないだろう。うらやましい……」と思っていたことも(苦笑)。
--あ、そうなんですか!?
烏屋茶房 はい(笑)。『プロセカ』に収録されているオリジナル楽曲はどれもキャッチーですばらしかったので、「自分はここに入るための努力を怠っていたかもしれないな……」なんてブルーになって考えたり……。そんな矢先にお話をいただいたので、驚くやらうれしいやらでたいへんでした。
--でも烏屋茶房さんのおっしゃる通り、ボカロの波は明らかに『プロセカ』によって勢いが増しましたよね。
烏屋茶房 そうなんです。世代によってボカロに対する熱量って違うと思うんですけど、『プロセカ』の登場でここに一度集約されて、歴史が整理されたような印象を受けました。
--あーーー!! それはすごくわかりやすいですね。若い子たちも、『プロセカ』をきっかけに昔のボカロ曲を聴くようになっていますし。
烏屋茶房 いい再発見が起こっていそうですよね。その当時を知らないと聴くチャンスがなかったような物語性の強い楽曲も、『プロセカ』の影響で聴いている子は多いでしょうし。昔の若者たちに刺さったんですから、いまの子たちもきっかけさえあればハマるのは当然の帰結な気がします。
▲イベント『Revival my dream』の書き下ろし楽曲としてリリースされた。
--今回、烏屋茶房さんはワンダショに向けてオリジナル楽曲を制作されたわけですけど、彼らを初めて見たときはどのような印象を持たれましたか?
烏屋茶房 見た目からしてすごくハッピーな子たちで、提供される楽曲もワクワクとかキラキラが前面に押し出されているものが多いと感じました。でも、曲を作るにあたって彼らの背景やストーリーを読んでいくと……! おやおやおや、ちょっと待てよ……と。私が思っていたのと比べて10倍くらいシリアスな面があるし、自分の心と向き合うという確固たるテーマもある。それが、ふだんは明るい子たちだからゆえに、それぞれが越えなければいけない壁や心の傷がすごく印象的に描かれていて、一気に惹きつけられてしまいました。「これは……一筋縄ではいかない子たちだぞ」と、そのときに思ったんですよね。
--その中でもとくに、イベントストーリー『Revival my dream』のキーキャラクターである神代類君についてはいかがですか?
烏屋茶房 ビジュアルの第一印象からして、「この子は絶対に何かを抱えているな」と思いました。と同時に、間違いなく類君は人気が出るだろうし、つねに隣には明るい男の子がいるという構図がすばらしく素敵だと感じたんです。ストーリーを読んでも、類君は飄々とした立ち回りでつかみどころがないんですけど、逆にそれが魅力的で、最初から「この子はどんな内面を見せてくれるんだろう?」とワクワクとさせられたことを覚えています。
--さあ、そこで『ショウタイム・ルーラー』ですが、この楽曲を作られたときのテーマを教えていただけますでしょうか!
烏屋茶房 まず大前提として、いただいた資料やストーリーは可能な限り読み込ませていただきました。
--はい。
烏屋茶房 類君は演出家なわけですけど、ショーのパフォーマンスってある意味、“どう演出で味付けされるか”に完成度が著しく左右されると思うんですね。その根幹を成すのが類君なので、まず“ショー”、“ショウ”という言葉は大切に使いたいと考えました。そしてこのイベントストーリーでは、類君の過去に何があったのかについてかなり大胆に触れているので、なぜ彼はショーが好きなのか、ショーを作りたがるのか、そしておもしろいことをしたがるのか……というところに、楽曲を作る上でどんどんフォーカスを当てていこうと意識したんです。
--そこでお聞きしたいのが、曲名かつキーワードにもなっている“ルーラー”という言葉です。こちらの解説を、ぜひお願いしたいのですが……!!
烏屋茶房 わかりました。ルーラーには“支配者”という意味があります。これを採用した理由は、ショーの支配者、空間の支配者、心の支配者、視線の支配者……という、影から人心を巧みに操るイメージがピタリと類君と重なる気がしたからです。僕は歌詞とかタイトルを作るときに、浮かんだキーワードをもとにとにかく検索しまくるんですけど、このときは類君のイメージからすぐに“支配者”という言葉が浮かんできて、「支配者だ支配者! 支配者を英語にすると……ルーラー!! これしかない!」ってことで、わりとパチンとハマるように決まっちゃった感じです。
--へーーーー!!!
烏屋茶房 ショウタイム・ルーラー……ショーの支配者っていう言葉、神代類君を象徴するフレーズになっているんじゃないかなと思います。そういう意味ではおそらく、ファンの皆さんが抱いている類君のイメージがそのまま曲名になった……とも言えるんじゃないかなと。ですので、自分から解説することはあまりないのかもしれません。
--類君はミステリアスな雰囲気を纏っているのでいろいろと考察されていますけど、やっぱり“ルーラー”という言葉はファンにも刺さりまくっていますよ。
烏屋茶房 そうみたいですね! ありがたいことです!
--烏屋茶房さんの中でとくにお気に入りの歌詞というとどのあたりになるのでしょう?
烏屋茶房 これは、2番のAメロから飛ぶ先の……。「二度と孤独になんてなれないよ」という箇所。正直、ここにすべてを込めた……と言っても過言じゃないくらい重要な歌詞になっていますね。
--わかるーーーー!!! やっぱりそこですよね!!
烏屋茶房 「わかる!!」と言っていただけただけで、めちゃくちゃうれしいなあ(笑)。
--いやあ、やっぱりこの部分は響きますよ!
烏屋茶房 この箇所ってゲームサイズだと聞けない部分ではあるんですけど、『ショウタイム・ルーラー』という曲のすべてが詰まっていると思うんです。「二度と孤独になんてなれないよ」っていうのはイコール、「もう孤独になりたくない」という想いに通じるでしょうし、あの3人の仲間が絶対に放っておいてくれないんだから孤独にはなれないんだよ……という意味にもとれると思うんです。この短い歌詞に、本当にさまざまな意味が含有されているということですね。たまたま音の数がハマったからではあるんですけど、このフレーズが降りてきたときに「カチッ」と音がするような感慨も覚えて……。『ショウタイム・ルーラー』を作っていたときに、もっとも気持ちのよかった瞬間でした。そのとき、「類君好きには、絶対に刺さってくれるはず!」と思ったし、むしろ「刺され!」と願いながら書いたフレーズです。
--おそらく、全ワンダショファン、類君ファンに刺さりまくっています。なので、安心されていいかと!
烏屋茶房 ありがとうございます! ……じつはインタビューの質問をいただいた時に、「きっとこの部分のことを話してほしいんだろうな」と予感していました(笑)。
--まんまと、そう思っていました!!
烏屋茶房 それはよかったです!!
--ここでインタビューを締められるくらい、いい言葉をいただけたと思います。それにしても、「二度と孤独になんてなれないよ」はどうやって降りてきたのですか?
烏屋茶房 もちろん、いただいた資料やストーリーを読み込んで、類君の人となりとかワンダショのメンバーとの関係性を自分なりに解釈した結果ではあります。でもそれ以外にも、ファンの皆さんが作っている創作物なども可能な範囲で見させてもらって、公式設定と齟齬のないように慎重に情報を積み重ねていきました。そういう意味では『ショウタイム・ルーラー』の歌詞は、ワンダショファンの皆さんといっしょに作っていったかのような、そんな気持ちにもなるんです。
--それも、非常におもしろいアプローチですね。これを読んだファンも驚くんじゃないかなー。
烏屋茶房 『プロセカ』で遊んでいる人は、自分の推しキャラについてSNSで頻繁に発信していると思うんです。そういう熱量の高いつぶやきって、ゲームを作っている人はもちろんですけど、参画しているクリエイターもけっこう調べて見ているものですよ(笑)。キャラどうしの関係性についての考察とか、大勢の人にどう思われているのか……といった情報はモノ作りをするうえでたいへん参考になるので、この場を借りて、「ファンの皆さん、いつも感想などを発信してくれて本当にありがとうございます!」と言いたいですね。
※MV画面はバーチャル・シンガーver.のものです。
--わかりました! そしてもうひとつお聞きしたいのが、『ショウタイム・ルーラー』の歌詞のいたるところで見られる“言葉遊び”の部分についてです。たとえばサビのラストにある「夢中に招待 夢みたいな時間」の箇所などは、読みを変えると「ショウタイム」になりますよね。
烏屋茶房 はい、そうですね! それに関しては、“ショウタイム”という言葉の響きを曲の中心にしたかったので、かなりこだわりました。
--その部分も含めて、決してテキスト量が多い楽曲ではないのに、非常に密度が濃い印象を受けます。いったいどうやって、こういった印象に残る歌詞を紡がれているのですか?
烏屋茶房 僕は作詞をするときに、まず最初に核にしたい言葉を探すんです。今回ですと、「ショウタイム・ルーラー」というサビの頭のところ。ここから、関連するであろう単語や表現を紡ぎ出していくんです。演劇や、ステージイベントの用語とかですね。それを汲み上げつつ、これまでのワンダショのストーリーの流れを接着剤にして、パズルを組むように構築していきました。ただ、最終的には音に合わせていかなければいけないので、勝手気ままに言葉をチョイスするのではなく、音数の縛りはつねに意識しています。
--歌詞は、制限の中で紡ぐ文学ですもんね……!
烏屋茶房 そうなんです。加えて、やっぱり類君のイメージに合う言葉を中心に据えたかったので、煙に巻く感じとか、何が起こるのかわからないワクワク感とか、あとあえて堅めの言葉もチョイスすることは心掛けたと思います。また曲の流れという点においては、実際に演劇を見ているような気持になってもらえたら……という想いがあったので、そのあたりも考慮して……って、こういうのって言語化するのが難しいですね(笑)。
--いやあ、勉強になります。音数に合わせるとなると、「これはいい表現だ!」と思っても、捨てなければならない場合も出てきますよね?
烏屋茶房 ありますあります!! でも『ショウタイム・ルーラー』は作詞作曲ともにひとりで行ったので、かなり融通が利きました。作詞だけを担当するときは本当に頭を悩ませるんですけど、今回は入りにくい表現があったらメロディーのほうをいじることができたので、その点においては気が楽だったかもしれませんね。
--では、いまの質問とちょっと似通ってしまうんですけれども、『ショウタイム・ルーラー』の聴き所を教えていただけますでしょうか。
烏屋茶房 先ほども言った通り、なるべく演劇を見ているような感慨を覚えてほしいと思ったので、無理矢理リスナーを乗せてしまうようなギミックにこだわっています。たとえば、クラップ(手拍子)を要求したり、言葉を畳みかけたり、何を歌っているのかわからないけど耳が向いてしまうようなリズムにしたり……。サビの掛け声とかもそうなんですけど、「強引にでも楽しくさせるよ!」って感じのギミックをいっぱい入れ込みました。
--すごくよくわかります!
烏屋茶房 ミステリアスな類君じゃなく、みんなといる時間を楽しんでいる彼の姿が曲と重なればいいな……と思っていたんですよね。ですので、“無理矢理乗せる”は、『ショウタイム・ルーラー』のひとつのキーワードだと思います。類君が曲といっしょに、その時間の感情も支配してしまうよ……っていうイメージを持ちながら作りました。
--ワンダショらしくかわいくてポップなんだけどクールでもある……という、いろいろな要素が詰まった曲ですよね。しかも、3DMVとの相性がめちゃくちゃ良くて!!
烏屋茶房 かわいいですよねーーー! 後ろのほうでちょこちょこやってる類君もそうですけど、ひとりひとりに特徴的な振り付けがあって、すごく曲と噛み合っていると思いました。
--しかしそれだけこだわられたとなると、制作日数はかなりのものになったんじゃないですか?
烏屋茶房 じつは『ショウタイム・ルーラー』とは別の、ボツ案がひとつ存在するんです。そちらは何と言うか……もっとジャジー(※ジャズっぽい、派手で華やかな曲)な曲調だったんですけど、運営サイドから「こういう感じではなく……!」と方向性の修正をお願いされて。でも、話し合った結果「なるほど!」と合点がいき、そこからは早かったと思います。ボツになった曲は、自分でもちょっと迷走しているな……と思ったので、しっかりとダメ出しをしてもらえてよかったなと思います。歌詞も、“ルーラー”という単語がパチッとハマってくれてからはわりとスラスラと書けたので、あまり難産だったという印象はありませんね。
--ボツにしてしまったほうでは、ルーラーというキーワードは出てきていなかったんですね。
烏屋茶房 はい。曲調ももっと華やかで、どちらかと言うと類君のミステリアスさにフォーカスしていたと思います。いま改めて聞いてみると、「確かに、これはワンダショではないな」と感じます(苦笑)。
--……そのボツ曲は、公開されていないんですか?
烏屋茶房 はい、もちろん。
--……うーん、それはそれでお宝だなぁ!
烏屋茶房 あはははは。
--では、完成した『ショウタイム・ルーラー』がゲームに実装されたのを見たときの感想を教えてください。
烏屋茶房 先ほどおっしゃっていただいたように、「このMVかわいいな!」というのが第一印象かなと(笑)。……じつは私、音ゲーが本当にヘタクソで、いろいろなゲームに自分の曲を実装していただくんですけど、まったくクリアーできないという……。とはいえ、『プロセカ』に自分の曲が入る日が来るとは夢にも思っていなかったので、感慨深いものがありましたねえ……。
--ゲーム実装後にさまざまな反響があったかと思いますが、いかがですか?
烏屋茶房 まず驚いたのが、反響の“大きさ”ですね。「つぎのボカロPはこの人だ」という予告が出た瞬間からファンがめちゃくちゃ沸いてくれたんですけど、そのときに改めて『プロセカ』というコンテンツそのものの勢いを実感したんです。リスナーから寄せられるコメントも読ませていただいているんですけど、正直、「この曲の解釈は違う」と言われてしまうかなと恐れていた部分もあったんですが、蓋を開けてみたら非常に好意的に受け入れてもらえて……。皆様の大切な神代類君を預かり、それにフォーカスする作り方をしたので反発も予想していたんですけど、最終的には「間違ってなかったんだ!」と思えてよかったです……!
--まず最初に去来したのは、安心感だったんですね。
烏屋茶房 そうですね。安心感と……純粋な喜びでしょうか。もともとボカロにのめり込んだのも、リスナーの皆さんからたくさんの反応をもらえてうれしかったから……という背景があるので、「『ショウタイム・ルーラー』、多くの人に聴いてもらえてよかったなー!」と思いました。
--『ショウタイム・ルーラー』をきっかけに類君推しになりました、なんて声もけっこう多かったように思います。
烏屋茶房 なんと!!
--それくらい、多くの人に刺さった曲ということですね!
烏屋茶房 ありがとうございます……! どちらかと言うと、すでに類君のことを知っている人に向けて書いた曲ではあったんです。でも、この曲が入口にもなってくれているのなら、こんなにうれしいことはありません。自分の仕事は果たせたかな……って思いました。
--では、この曲が大好きな人に向けてひと言お願いできますでしょうか?
烏屋茶房 私はすでにボカロだけではなく、いろいろなところで活動している人間ですが、なんというか……そうやってさまざまなことができているのも、夢中になってボカロの楽曲を作っていたころの経験が土台になっているからだと考えているんです。『ショウタイム・ルーラー』が神代類君を語るときに外せない曲のひとつになってくれたならうれしいですし、曲から得たこととか感じたことを外に向けてどんどん発信してくれたら、作者冥利に尽きます。
--ありがとうございます! ではここから、将来の夢として「ボカロPになりたい!」と思っている人たちのために用意した質問にお答え願えればなと……! まずは……烏屋茶房さんが、ボカロPになられたきっかけを教えてください!
烏屋茶房 きっかけは最初にお話しした通り、大学のサークルの友だちがボカロPをやっていたからです。私も、そのときすでに音楽の投稿をやっていたんですけど、その友だちを通じてボーカロイドを知って、「なるほど……! やってみるかな」と思いました。
--音楽活動自体は、ボカロを知るかなり前からやられていたんですか?
烏屋茶房 中学生のころにギターを始めたんですけど、これがめちゃくちゃ難しくて。ですのでギターが好きというより、“知っている曲を弾けた瞬間が好き”という感覚で、とにかくジャカジャカとやっていました(笑)。コード進行などは勉強したような気もしますけど、それほど特別なことはやっていませんね。音楽の投稿も、高校3年のころだったか『東方プロジェクト』のゲーム音楽アレンジをやってみたら楽しくて、機材もDTMもない中で、本当に中途半端な状態で作っては投稿し……をくり返していました。それでも楽しかったんですけど、あるとき、「どうやらもっと違う方法で音楽は作れるらしいぞ」と聞いて、パソコンでの曲作りを知ることとなります(笑)。
--初めてボカロを触ったとき、どんな感じでしたか? 素人目だと、すごく難しいんじゃないかなと思っちゃうんですけど。
烏屋茶房 確かに難しいところはありますし、最初は「これどうなってるの?」という疑問ばかりだったんですけど、慣れれば……ある程度の段階までがんばって進めれば、意外となんとかなると思います! とくに、いまは情報が整理されていますし、PCも一般的ですから、我々の時代よりもかなりハードルは下がっているんじゃないかな、と。
--そこでぜひお聞きしたいのですが、ボカロPになるために必要なスキルが何かありましたら、具体的に教えていただけますでしょうか?
烏屋茶房 これは、“1曲を完成させられる気概”じゃないですかね。やっぱり最初は、思い通りには作れないと思うんです。それでも何とか形にして、友だちや家族に聴かせてみるとか、思い切って発信してみるとか、そこまでできるかどうかに尽きるんじゃないかなと感じます。そもそも、やらないとできるようにはならないですし、途中で飽きてしまうこともあるんですけど、そこを乗り越える気概こそ、いちばん大切な素養なんじゃないかと思います。
--そういう意味では、楽器や楽譜といった物理的な要素よりも、やり遂げる気持ちが大事になってくるんですね。
烏屋茶房 はい。私は、そんな気がします。自分も楽譜はそんなに読めなかったですし、ちょろっとギターに触ったことがあるくらいのスタートラインでしたけど、それでも曲は作れましたから。根性とか根気とか、そういう感情ともちょっと違うんですけど……惰性でもいいので、とにかく“作り切る”ってところから始めてみてほしいです。
--とりあえず、一度最後までやってみようと。
烏屋茶房 そうですね! 何とか形にしたものって意外なほど愛着が湧きますし、単純にすごくうれしくなると思います。その感情がつぎのモチベーションにつながって、「2曲目はこういうことをやってみようかな!」なんていう、いいサイクルが生まれるんじゃないかな、と。
--とはいえ、完成したものを誰かに見せるのが恥ずかしい……という感情を覚える子も少なくないと思います。この恥ずかしさを克服するには、どうすればいいんですかね……?
烏屋茶房 最初から大勢の視聴者に向けて発信するのは、本当に勇気がいると思います。ですのでまずはリアルな友だちとか、SNSでつながっている知り合いやコミュニティーに向けて、気楽にポンと投げてみるのがいいでしょうね。
--なるほどなるほど。
烏屋茶房 でも……何かしら作品ができたときって、絶対に「聴いてほしい!」という感情が湧き上がってくると思いますよ。最初は恥ずかしくても、「こういうことやってるんだね!」とか「意外だけどスゴい」なんて言われると、けっこう気持ちいいですし(笑)。楽曲を作るのって、はたから見るとすごくスキルが必要なクリエイティブだと思われるじゃないですか。そんな世界で作品作りに触れ、完成までこぎ着けたのなら、間違いなく誰かに聴かせたくなると思いますよ!
--ありがとうございます! では、そんなボカロPになってよかったと思うことがありましたら、具体的に教えてください!
烏屋茶房 よかったことと悪かったことが、かなり紙一重のところにあったんですよ。まずよかったことですが、モノの見方……つまり視野が広がったと思います。それまで自分の中だけで生きていたのが、いろいろな作品を作ったり、さまざまなクリエイターさんと出会ったりして、確実に世界が変わったんです。何かに対する自分の意見を持ち始めたとき、いわゆる中二病的な価値観ではあったんですけど、それを言葉ではなく音楽で発信できたことは、私の人生の中でとても大きなトピックだと思います。私にとっての音楽は、“新しい感情のようなものを作れる装置”なんでしょうね。これ、音楽ではなく言葉だけで吐き出していたら確実に黒歴史になっていたと思うんですけど(苦笑)。
--では、悪かったこと、というのは……?
烏屋茶房 悪かった……というと語弊があるかもしれませんが、ボカロPにならなかったら、音楽も遊びで触れただけだったでしょうし、いまの職業作家の仕事にも到達できていなかったと思います。
--わかりました! では、将来ボカロPになりたいと思っている全国の少年少女に向けて、先達としてエールをお願いしたいのですが!
烏屋茶房 いまの話の続きになりますけど、若いころに黒歴史をバラまいていた人間も、あの『プロセカ』に曲書かせていただけるくらいになりました。なので皆さん、世に出すことを恐れずにどんどん創作してください。モノを作る楽しさを、一生懸命育てていきましょう! この世界は、自由な遊び場です。楽しんでいきましょう!!
--ありがとうございます……! では最後の質問になりますが、『プロセカ』にもひと言お願いできますでしょうか!
烏屋茶房 『プロセカ』は、ストーリーを読みたい人、曲を聴きたい人、キャラクターを愛したい人、そしてガチで音ゲーをやりたい人などなど、どんな嗜好の人も取り入れられる、稀有なバランスで成り立っているコンテンツだと思っています。その、無秩序なまでのエネルギーの塊がどういった方向に飛んでいくのか……? 自分はそこにすごく興味があるので、今後もいろいろと驚かせてほしいです。きっと私が思い描ける範囲なんて超越した、とんでもないことが起こるんじゃないかと期待しております!!
--本日はお忙しい中、楽しいお話をありがとうございました!!
烏屋茶房
2010年6月6日ボカロPデビュー。疾走感のあるギターサウンドと独自の世界観を展開した楽曲で人気を博している
烏屋茶房名義にてプロの作詞作曲編曲家として活動中。
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ボカロPインタビュー連載 |
1周年ボカロPインタビュー |
タイトル概要
プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク
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■配信開始日:配信中(2020年9月30日(水)配信)
■価格:基本無料(アイテム課金あり)
■ジャンル:リズム&アドベンチャー
■メーカー:セガ/ Colorful Palette
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