――樫本先生もヒット作が出るまで苦労されたと聞きました。
樫本:僕はデビューして10年くらいは全然人気がありませんでしたから。
吉もと:そうなんですね……5年の僕は可愛い方かもしれないですね。
樫本:ほんっとうに、何を描いてもダメで。
吉もと:どのあたりから手応えを感じたんですか?
樫本:新井さんという方が担当編集になってからですね。サッカーギャグまんが『やったね!ラモズくん』で初めて人気が来たなと実感しました。
吉もと:そうなんですね!
樫本:もともとは月刊で連載していた『嵐のJボーイ ぶっとび闘人』という別のサッカーまんがをメインに描いていたけど、ちょっとおまけで描いた『ラモズくん』の方が人気出ちゃって。複雑な心境ではありましたね(笑)。
▲平成5年10月号で『やったね!ラモズくん』が表紙を大きく飾った。
吉もと:世の中なにが流行るか分からないですよね。
樫本:最初はたった3~4Pのおまけ四コマだったのにね。そこから2作品同時に連載が始まって大変でした。
(このエピソードは樫本先生のインタビュー記事をチェック!)
吉もと:僕がコロコロに来たとき、樫本先生は『コロッケ!』や『ぼくはガリレオ』を描かれていました。僕自身、ストーリーまんがを描きたかったこともあって、当時の編集さんから「いいから樫本先生のまんがを読みまくって勉強しなさい」と言われました。見やすさ、分かりやすさ、格好良さ、可愛さ、ギャグが全部入ってるからと。
樫本:買いかぶり過ぎですよ。
吉もと:いえ、本当にすごいです。だからいまだに格好良くコマを見せるときに思うんですよ。樫本先生ならどうするんだろう。樫本先生や松本しげのぶ先生(代表作『デュエル・マスターズ』など)のまんがは、見るだけでスゥッと自分のなかに入ってくるんですよ。もし途中から読んでしまって話の内容が分からなくても、面白いものとして読めちゃう。
樫本:そうあってほしいとは思っているけどね。
吉もと:不思議な魅力なんですよね。
樫本:うまく説明はできないけど、読みやすく、分かりやすく描くことを一番に頭に入れて描いているつもりです。
吉もと:なるほど。それは2Pの見開き単位で考えているのですか?
樫本:そうですね。ここを一番見せたい、というのはあります。
吉もと:僕が新人の頃は、全部同じ大きさのコマになっちゃったりとか、やたらめったらセリフがあったり、そういう失敗はありましたね。
樫本:児童向けのまんがに限ったことじゃないけど、そこは重要だと思うよ。
――コロコロで連載を続けてよかったな、と思うことはありますか?
吉もと:僕は児童まんが家であることを誇りに思っています。子どもの頃好きだった作品は、絶対その人の根っこに残っているじゃないですか。それこそ、僕が樫本先生の『G筆まん吉』をはっきり覚えているように。だから、やらしい考え方かもしれませんが、今の子どもたちが大人になって「ゴクオーくんって面白かったよな」と言ってくれないかと、密かに期待しています。
樫本:言ってくれますって!
吉もと:ふふ、20年後が楽しみです。
樫本:そのうち、子どもを連れた元読者が会いに来てくれますから。めちゃくちゃ嬉しいですよ。
吉もと:それは嬉しいですね! 実際に経験されたんですか?
樫本: 2017年のコロツアーで僕の出身である愛媛県に行ったんだけど、そこに子ども連れの方が来てくれました。じつはその親御さん、僕が数十年前に初めて松山(愛媛県)でサイン会をしたときに来てくれた子だったんです。
吉もと:うわあああ! ホントですか!? 今、鳥肌立ちました!!
樫本:本当にめちゃくちゃ嬉しかったです。
吉もと:本人から「あのときサインを貰ったんですけど」と言ってくれたんですね。
樫本:そうなんです。今回サイン会をやるって聞いて来ちゃいましたと。そういう時が必ず来ますから。
吉もと:いいなぁ! 沢田ユキオ先生も結構そういうエピソード仰りますもんね。僕はまんが家になるまで結構寄り道が多かったから、まだまだ先かも知れません。
樫本:でも、その寄り道がすべてまんがに活かされていると思いますよ。
吉もと:そうだと良いんですけどね……。ずっとその部分に劣等感を持っていて、樫本先生みたいに高校を卒業してすぐにまんが家という人がって思うんですよ。
樫本:僕の場合はずっとまんがしかやっていないんで。それゆえに”浅さ”みたいなのがあります。だから、いろんな経験をされている方は強いなと思います。
――作品を作る上で、よく「本を読め、映画を見ろ」というのはありますが、おふたりもそういったインプットをされていますか?
樫本:う~ん。僕はよく映画は見ますが、「自分ならここはこうする」とかはまったく思わず、純粋に楽しんでますよ。
吉もと:あ、わかります!
樫本:わざわざ勉強で見ることはしないですね。
吉もと:「この映画を見に行け」と言われて見に行ったことはありますが、確かに面白いけど、あんなの僕には描けねぇよと思っちゃうんですよね。ネガティブなんで。
樫本:その辺りは僕も通じますね。年代的なものあるかもしれないけど、僕はゲームに関してもさっぱりで。
吉もと:僕は村瀬範行先生(代表作『ケシカスくん』など)がすごいなと思ってて。実際に自分の子どもたちと遊んでいるという強みがある。昔、村瀬先生が『デュエル・マスターズ』の別冊ふろくでルール説明のまんがを描かれていたんですが、全然知らない僕が読んでもすごく分かりやすかったんですよ。カードのコストをきびだんごに例えて、これを6つあげるから戦ってこい、みたいな。
樫本:すごいですよね。本当に好きじゃないとできないと思う。そういえば、「自分の子どもがブレインに付いているから、あと何年行ける」みたいなことを言ってましたね。
プロフィール
吉もと誠 先生
千葉県出身。4月6日生まれ。「第58回 新人コミック大賞」児童部門にて『ユメチャ!』で佳作を受賞。代表作『ウソツキ!ゴクオーくん』は、「第61回小学館漫画賞(児童部門)」受賞。
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樫本学ヴ 先生
愛媛県出身。8月12日生まれ。昭和61年『G筆まん吉』で「第12回 藤子不二雄賞」受賞。代表作は『がってん太助』『嵐のJボーイ ぶっとび闘人』『やったね!ラモズくん』『学級王ヤマザキ』『コロッケ!』『ぼくはガリレオ』『キメルのYOYO!』『ぷにゅぷにゅ勇者 ミャメミャメ』『手裏拳トンマ』ほか。『コロッケ!』にて「第48回小学館漫画賞(児童部門)」受賞。