藤子不二雄Ⓐ先生×吉田豪「藤子不二雄Ⓐ展 -Ⓐの変コレクション-」開催記念ロングインタビュー!!


藤子不二雄Ⓐ先生は、『忍者ハットリくん』や『怪物くん』、『プロゴルファー猿』などの少年向け作品から、『魔太郎がくる!!』、『笑ゥせぇるすまん』などの青年・大人向け作品も数多く生み出してきた日本漫画カルチャーの伝説的な漫画家です。その藤子不二雄Ⓐ先生の奇妙な世界を先生の「変コレクション」とともに紹介する展覧会が、2019年1月6日(日)まで六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)で開催中。ということで、コロコロオンラインでは開催を記念してプロインタビュアー・吉田豪さんにインタビューを依頼しました。Ⓐ先生の大ファンである吉田豪さんによる、超・超・超貴重なインタビュー90分1本勝負をコロコロオンライン独占でお届けします!!

藤子不二雄Ⓐプロフィール
1934年富山県氷見市生まれ、84歳(2018年12月現在)。1951年より漫画制作を始める。主な著作は『忍者ハットリくん』、『怪物くん』、『プロゴルファー猿』、『笑ゥせぇるすまん』など。1990年自作漫画をもとに映画「少年時代」を製作、日本アカデミー賞他多数受賞。2005年文部科学大臣賞受賞、2008年旭日小綬章受章。
吉田豪プロフィール
1970年9月3日生まれ、東京都出身。徹底した下調べの後にインタビューに臨み、本人も忘れていたことを聞き出すプロインタビュアーであり、プロ書評家。主な著作は『人間コク宝 まんが道』、『聞き出す力』、『吉田豪の”最狂”全女伝説 女子プロレスラー・インタビュー集』など。

――先日、藤子不二雄Ⓐ展に行ってきたばかりですよ! とんでもないグッズが山ほどあるらしいとネットで知って、これは行かなきゃいけないと思いました。

藤子Ⓐ:そうでしょ、開催前に行ってこんなにたくさんグッズあって大丈夫かなと思って心配しました。

――ご心配しないでも、あれはグッズ目当てで会場に行く人も出るレベルですよ! 

▲吉田豪さんはスケートボード全3種類(各12960円・税込)もフルコンプ!

――会場の作りも、いわゆる原画展示的なものとはちょっと違ってましたね。

藤子Ⓐ:あれはスタッフが一生懸命いろんな工夫してくれて、僕は初日に行ってビックリしてね。僕の素材をいろんな展開でグッズにしてくれるから、すごくおもしろいなと思って感激しました。

――まず会場に入るなりご自分がいたことに驚かれたんじゃないですか?

藤子Ⓐ:あれは前に写真を撮って3Dで作ってもらったんだけど、それが会場に行ったら等身大になっててちょっと気持ち悪かった(笑)。それと、通常は漫画家の展覧会は原画を展示するというものですけど、原画をいくら展示しても渋いから、何かもっと工夫してという注文は出したんです。それと、ふつうは「写真を撮らないでください」って言うけど、「写真撮ったっていいじゃないか、どんどん撮ってもらうように」って。

――女性スタッフが中心になった結果、今回の『藤子不二雄Ⓐ展』がインスタ映えする感じの作りになったんでしょうね。

▲会場にある先生の等身大フィギュア。ちなみに右が本物の先生で左がフィギュアだぞ!

藤子Ⓐ:そうですね。いま若い人たちは、みんなスマホでなんでも撮るのが好きだし、僕も写真を撮るの大好きなんで、だからそれがよかったんじゃないかなと思うんです。

――新しい方向性ですよね、積極的に写真を撮って拡散してもらうっていう。

藤子Ⓐ:そう、逆にね。

――今回、意外だったのがこういうもの(ブラックユーモア短編『明日は日曜日そしてまた明後日も……』の田宮坊一郎メタルキーホルダー)までちゃんとグッズ化していたことです。

▲「明日は日曜日そしてまた明後日も……」(電子書籍シリーズ・藤子不二雄Ⓐデジタルセレクション「藤子不二雄Ⓐのブラックユーモア」1巻収録)のトビラページ

▲衝撃度の高い「田宮坊一郎メタルキーホルダー」。マスト・バイだ!

藤子Ⓐ:これは『明日は日曜日そしてまた明後日も……』っていう。

――大好きな作品です!

藤子Ⓐ:これも展覧会のモニターで観てビックリしてね。

――いろんな作品のオリジナル動画がモニターで上映されてました。

藤子Ⓐ:非常におもしろい作りをしてあって、アニメでもないし、漫画をそのままセリフを入れたりちょっと動かしたり、ものすごく工夫してあって。これはホントに地味な漫画で、ある意味で引きこもりの漫画で、50年ぐらい前、まだ引きこもりとかニートとか言わない頃に、こういう子がおそらくいるだろう、そういう子が会社に行って初日に失敗して会社に行けない、家ではお父さんにもお母さんにも本当のことを言えなくて、家に帰れば「よく会社に入った!」ってお父さんもお母さんもごちそうを作って待ってて、毎日会社に行く振りして家を出る。それから何十年経って、お父さんも老いさらばえてお母さんもお婆さんになってる。坊一郎くんは丸々と太って、『明日は日曜日そしてまた明後日も……』っていう展開のブラックユーモアな作品。

――でも、このグッズ化はうれしかったです。

藤子Ⓐ:そうですか。この子が今回えらい人気になってね。ネットでも「坊一郎くんがどうのこうの」って、きっと共感するものがあるんだろうね。僕はひとつの漫画を描いてると飽きちゃって、長く続いたのは『まんが道』ぐらいじゃないかな? あとはせいぜい5~6年で自分からやめるって言って、それでまたまったく別の作品を描く癖があってね。

▲漫画家漫画の原点にして頂点「まんが道」(藤子不二雄Ⓐデジタルセレクション1巻表紙)

――編集サイドとしては当然、当たってたら「ぜひ続けてください」ってなりますよね。

藤子Ⓐ:言うんだけど、僕は「そろそろ限度だ、これ以上描くとマンネリになるから嫌だ」って言って、それをやめてまったく別のものに転換するっていうふうにやってきた。他に興味はいっぱいあるから、そのジャンルだけじゃないっていうか、これ描いたら今度はこっち描こうとかすぐ思う。もともと僕は少年漫画を描いてたけど、だんだん読者だった子供たちも成長するからね。この前も『ビッグコミック』の50周年があったけど、ああいうふうに大人向けの『ビッグ~』が出たりいろんな雑誌が出たから、そういうとこにいろんなものを描けたことが非常に楽しみにもなるし、人がまったく描かないジャンルを描くことが僕の喜びみたいになってたんじゃないかな。

――短編では『マグリットの石』が大好きで。

▲「マグリットの石」(藤子不二雄Ⓐデジタルセレクション「藤子不二雄Ⓐのブラックユーモア」1巻収録)

藤子Ⓐ:ありがとう。あれも変な漫画で。

――あれでルネ・マグリットを知った人はボクも含めて相当多いはずですよ。

藤子Ⓐ:ああいう妙なものがね。

――そこがいいんですよ! ちなみに長編では『少年時代』が一番好きです。

藤子Ⓐ:そうですか、あれはホントに苦労した……。

――そして今回、展示された作品を見てあらためて思いましたけど、藤子Ⓐ先生は色の使い方が本当にきれいなんですよね。初期の『怪物くん』とか『仮面太郎』とか、1960年代後半のサイケな時代とリンクした感じの色使いが大好きなんです。

藤子Ⓐ:あの頃は色というのは雑誌のなかでも特別な扱いでね。4色で巻頭に出るってことはすごくうれしいから一生懸命描いたんです。だから作品によって色使いというのは微妙な変化っていうか、たとえば『忍者ハットリくん』と『怪物くん』では同じ山でも色を変えるとか、そういう点ではカラーを描くのは楽しみだった。

――『ハットリくん』も初期の目の下に隈取がある頃が大好きで。

▲「忍者ハットリくん」(藤子不二雄Ⓐデジタルセレクション1巻表紙)。隈取がクールだぜ!

藤子Ⓐ:自分では意識してないんだけど、何年か経つとだんだん顔が変わってくる。喪黒福造なんか初めの頃とあとではまったく違う人物になっちゃってるから(笑)。アニメになるとまた変わるしね。

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