「ウンチは、“人気ホビーに対抗する武器”!」 樫本学ヴ&担当編集『学級王ヤマザキ』スペシャル対談【前編】


現在、コロコロオンラインでは毎週土曜日に超名作まんが『学級王ヤマザキ』をリバイバル連載中
 
それを記念して、作者・樫本学ヴ先生と当時の担当編集・新井氏に、今だから話せる作品の魅力や大きなムーブメントを巻き起こしたアニメ化にまつわる裏話を前後編の2本立てでお届け!
 
前編では、『学級王ヤマザキ』誕生までの経緯や人気低迷を救った伝説回、そしてヤマザキにおけるウンチの魅力が明らかに!

■リンク
コロコロオンライン:リバイバル連載『学級王ヤマザキ』 
https://corocoro-news.jp/学級王ヤマザキ/

 


▲作者・樫本学ヴ先生(左)、担当編集・新井氏(右)。

『学級王ヤマザキ』とは
 

自分は王子であると言い放つ史上最強の転校生・ヤマザキが私立冠学園小学校にやってきた! そんなヤマザキが抱く野望はただひとつ! 6年3組の学級委員長になること、つまり学級王になることだった。そのためにはうんちだって使うし、ち〇こだって見せちゃう。おばば様、おじじ様、配下のワタナベといったヤマザキの野望を手助けをしてくれるたのもしい(?)キャラも多数登場する、大爆笑まちがいなしの史上最強学園ギャグまんが。1995年~2001年連載。

 

仮タイトルは『学級王イシバシ』!?

――まず『学級王ヤマザキ』が生まれたときのエピソードを教えてください。
樫本:ヤマザキがスタートする以前は、『やったね!ラモズくん』などを連載していました。その次の作品は、既存のキャラをモチーフにしているギャグまんがではなく、オリジナルキャラのギャグまんががやりたいですと、新井さんに相談して始まったのが『学級王ヤマザキ』です。
ヤマザキを始めるときに、まず新井さんと「どういうギャグまんがにしようか」という方向性を話し合いました。そこで当時のコロコロには“学校モノ”の作品があまりなかったところに気付いたんです。
 
新井:アニメ化もあり、小学館漫画賞も取った大ヒット作『つるピカハゲ丸』(1985年~1995年連載)と『おぼっちゃまくん』(1984年~1994年連載)の連載がちょうど終わった頃で、「コロコロの看板になるオリジナルギャグ作品がないよね」って話になったんです。
 
樫本:『スーパーマリオくん』(1990年~連載中)や『星のカービィ デデデでプププなものがたり』(1994年~2006年連載)など、既存のキャラクターをお借りしている人気作はあっても、オリジナルがなかったですからね。


▲主人公・ヤマザキ。

 
――『学級王ヤマザキ』という主人公の名字を使ったタイトルは、今考えると結構珍しいですよね。「学級王」という言葉を入れることは確定だったんですか?
新井:いえ、まだ作品が固まる前に、僕がいくつかタイトルの候補を樫本さんに持っていきました。主人公が「ただ元気な男の子」というだけにならないように、何かしらの設定が欲しくて。そこで“クラスで一番になる、学校で一番になる”という意味の言葉「究極学級委員ヤマザキ」はどうですかと提案したんです。ちなみに「究極」という言葉は、当時人気だったまんが「美味しんぼ」の「究極と至高の料理対決」をヒントにしました。
 
樫本:名前はともかく、設定自体は、その方向で行こうってなったんですよね。
 
新井:そのあとネームのやり取りをしているうちに、樫本さんから「タイトル、(究極学級委員ではなく)学級王はどうですか」と言われ、それでいきましょう、と。今考えても、「究極学級委員」は長いね(笑)。
 
――たしかに長いですね(笑)。ちなみに、タイトルに“くん”を付ける案はなかったんですか?
樫本:たしかに、今も昔もコロコロのギャグまんがは「◯◯くん」っていうのが非常に多いですね。
 
新井:先輩からも、「〇〇くん」は、一番分かりやすいタイトルと言われていました。けど、他を真似てもしょうがないし、なんかちょっと子どもっぽいなぁって。そこで大学卒業してちょっとの僕は、反骨精神も含めて「ベタな付け方は止めましょう」と樫本さんに言いました。ちなみに『ラモズくん』の「くん」は、編集部の上の人が付けちゃったんです。
 
新井:結果的に「ヤマザキ」になったのは、濁点があるとタイトルに力強さが出ると思ったからです。ちなみに、ボツ案で僕が覚えているのは「イシバシ」ですね。
 
樫本:学級王イシバシ(笑)。
 

――それはそれで見たかったかも(笑)。では、“ヤマザキ”という妙なおっさん感のある名前にした理由は?
新井:男の子向けのストーリーまんがだと、ハヤトとかシュンとか、かっこいい名前を付けがちじゃないですか。だからこそ、どこかおっさんくさい“ヤマザキ”。子ども向けの物語の主人公に付けない名前を、あえて“大人の感覚”で付けたんです。
 
樫本:作中の犬の名前も“ワタナベ”ですからね。
 
新井:そうそう。普通だったらクロとかシロのところを、あえて“ワタナベ”と付けることで、違和感が生まれる。その方が目立つんじゃないかなって。
 


▲ヤマザキの家来・ワタナベ。動物の軍団”ワタナベ軍団”のリーダー。

 
――ヤマザキに下の名前はあるんですか?
樫本:それはよくファンレターで聞かれるんですけど、明かしていません。僕が墓場まで持っていきます。
 
新井:他のマンガを始める時もそうですが、設定をすごく大事に作り上げていくことは大切です。元気なのか、暗いのか、イッちゃてるのか、正義感が強いのか――。でも、そのキャラが何をやって、どこで生まれて、これからどうするってあまりに決めすぎると、それにそったお話になって、ストーリーが縛られてしまう。
 
樫本:設定をガチガチに固めるよりは、主人公の性格やテンション、パッションだけを決めておく。僕は、そのときに思いついたアイディアで勝手に動いてくれるのが一番いい主人公だと思います。例えば“運動会”の場合、いいキャラクターというものは、「そいつはきっと運動会だったらこういうズルするよね、こうやって仮病で休むよね」って、勝手に動いていくわけです。
 
新井:行動原理とかキャラクターの核になる部分は決めておかないと、面白さの方向性がブレてしまう。今でいうキャラブレですね。ちなみに、樫本さんはストーリーマンガですら、先のことを決めてなかったんですよ(笑)。でも、考えてないということは、読者が「きっとこう勝つんだろうな」っていう予測ができない。そこからもう一度悩んで考えることによって、思いもよらない面白いところに着地する可能性が出てくる。だからあえて、先のことはガチガチに決めてないんです。
 
樫本:それに、ヤマザキの下の名前を公表しなかったからこそ、今こうして話題に挙げてもらえてますしね。
 

人気低迷から救った“床下の秘密基地の回

――いざ連載開始となって、人気のほどはいかがでしたか?
新井:「樫本さんだったらいけるはずだ!」と思い、連載を始めたんですけど、当時のアンケート順位は真ん中辺りでした。ベスト3はいけると思ってたんですけど……。
 
樫本:連載を始めてから、第3回くらいまでは人気が全然なかったでしたね。その理由は単行本1巻を見て貰えば分かるんですけど、まだ絵も固まっていない時期で、話も全然“ヤマザキをしていない感覚”があるんです。ヤマザキの良さが全然出ていない。何かのトラブルに対して、主人公がただジタバタしているだけでした。
 
新井:今までと違うギャグマンガを描こうって始まったのに、結局ベタな話をやってしまっていたわけです。
 
樫本:でも、そのあと僕の一番大好きな話でもある、ヤマザキが学校の床下を秘密基地にする回が掲載されてから、状況が変わりました。
 


▲第4話「ゆか下の大王国」。ヤマザキが密かに教室の床下にスペースを作り、やがて学校全体をヤマザキ王国のひみつ基地として改造していく。

新井:床下の回から人気アンケートはずっと上位で、あっという間に1位・2位を取る作品になりました。同時期に連載していたゲームやホビーの巨大なバックグラウンドがある作品のなか、オリジナル作品で上位を取れたのは嬉しかったですね。
 
樫本:結局、僕が小学校のときに面白いや楽しいと感じていたことを作品に込めるようになって、それが読者に共感して貰えるようになったと思います。床下の話もそうですし、凍っているプールの下に王国を作ったり。それらは小学校の頃に「こんなのできたらいいな」と、思っていたことなので。
 
――小学生の気持ちに寄り添う形にしたことで、良い結果に結びついたわけですね。
新井:そうですね。そしてアニメ化やゲーム化があって、CDが出て、イベントがあったりで、人気漫画にのし上がりました。
 
樫本:あと、お下品の代名詞であるウンチ。あれでもうひとつ跳ねましたね。
 
新井:おっぱいもね(笑)。
 
樫本:会話だけ聞くとヘンタイですね(笑)。
 
新井:まんがに出てくるウンチって、よくデフォルメされているんでそんなに汚くないじゃないですか。でも、樫本さんのは、結構汚くて……。
 
樫本:最初はとにかくクソリアルに描いてました。だんだんと可愛いウンチにシフトしてくんです。そのうちヤマザキウンチが登場してからはポヨポヨウンチを描くようになりました。
 

▲連載当初のウンチ。

▲プリッとしたヤマザキウンチ。

新井:そのうちバンダイさんから『ヤマザキウンウンチ』ていう商品を出たんです。
 
新井:ウンチのふたを開けると中からいろんなウンチが出てくるんです。柔らかいのとかハードタイプとか、チョロQタイプとか、バネではねるやつとか。
 
樫本:ひとつひとつデザインしました(ドヤ)。
 
――売り上げ的にはどうでしたか?
樫本:結構、売れたんです。ウンチ型のおもちゃシリーズの中では。バンダイさんいわく、そういうカテゴリがあるみたいですよ(笑)。
 
新井:一時期、ヤマザキウンチの缶詰がお店に結構な数が陳列されていました。
 
樫本:サイン会を含めた販促イベントもやってね。デパートのきっちりした店員のおじさんが「ヤマザキウンチありますよ~」って案内してて、なんか申し訳ない気持ちになりました(笑)。
 
――ウンチによる躍進。さすがはコロコロコミックですね。
新井:ただ、これはヤマザキに関わらず、「コロコロってウンチとか下ネタ出しとけば笑いを取れるんだろ」って、結構言われるんです。そんなことないですから! ラブコメだって可愛い女の子を出せば、ヒットするわけじゃない。それと一緒です。ウンチはあくまで飛び道具。ちゃんとギャグとしての伏線があってからのオチに使う、ビジュアルだって面白く描く技術やセンスがないといけない。
 
樫本:ウンチを使ってるからって人気や笑いが取れるわけじゃない。そこは強く言っておきたいですね。ウンチは僕にとって“ホビーに対抗する武器”なんです。オリジナル作品だからこそ、これが重要でした。
 
新井:ミニ四駆で例えると新しいマシン。「お、なんだこれは?」と読者が前のめりになるようなものです。読者のテンションを上げるためのアイテム、爆弾ですね。
 
樫本:その究極型が、ヤマザキに出てくるウンチの生命体「プー助」です。
 


▲1カ月の便秘の末、大量の下剤を飲んだヤマザキが生み出した生命体・プー助。

 
新井:このキャラを出したときは、アンケートでダントツ1位でした。当時人気絶頂のポケモンやミニ四駆のまんががあったので、いつもは頑張っても2位とか、3位だったんです。
 
樫本:ヤマザキはギャグマンガなので、普段はお涙頂戴の話ではありません。でも、この時は「プー助」が最後死んじゃうので、子どもたちは面白いうえに感動できたことで、ダブルで票が集まりました。
 
新井:プー助の登場回以降の単行本を見ると、このキャラばっか出しちゃって。
 
樫本:ちょっと味をしめちゃった(笑)。
 
新井:物語的には川に溶けて、さよならしたはずなんですけどね。このキャラを死なすのはもったいないな、こんなに人気取れるならって感じで準レギュラーになりました。
 
<後半へ続く>


 

後編ではアニメ化での苦労話が明らかに! 全国のヤマザキくん&エリカちゃんから苦情が来ていた……!?

後編は下記の画像をクリック!


 
『学級王ヤマザキ』が気になった方は、コロコロオンラインでリバイバル連載中のまんがをチェック!!
 

■リンク
コロコロオンライン:リバイバル連載『学級王ヤマザキ』 
https://corocoro-news.jp/学級王ヤマザキ/

 
ⓒ樫本学ヴ/小学館