By 神結
・発売から5年経過するごとに、そのカードの使用するコストが1少なくなる(ただし0以下にはならない)
(参考)
2002(4弾まで) →4軽減
2003~2007(5弾~26弾まで) →3軽減
2008~2012(27弾~E2 ゴールデンドラゴンまで) →2軽減
2013~2017(BBP1弾~新章裁まで) →1軽減
2018~(新章魔~) →軽減なし
・発売年は、カードの右下に記された版権表記の年数に従う
おかしな話なのだ。
「ミヤくん? ああ、あの光と闇のデッキを使っている子だよね?」
「ミヤくんなら対戦したことあるよ。強かったなぁ。確か火と自然のデッキだったかな」
「前大会で当たったときは、確か光水を使ってたと思う」
誰に聞いても、ミヤのデッキはバラバラ。明らかにおかしい。いくら超エリートといえど、1枚1枚が貴重なヒストリー・デュエマにおいて、全デッキを所持できるはずがない。
《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》1枚をとっても、所持するのは難しい。それほどまでに、貴重なカードたちなのだ。
おかしな話なのだ。
「名取川ミヤには関わらない方がいいかもしれない。天才かもしれないが、何かヤバいんだ」
「わからない。わからないけど、気付くとアイツは信じられないカードとデッキを使ってる」
そんな証言も出てきた。
あの時、僕が覚えた嫌悪感は決して間違ってはいなかった。
「……もしかして、マズいんじゃないか?」
これはもう――あるいはカードゲーマーとしては失格なのかもしれないが――第六感だ。第六感がそう告げている。
そこから先は、走った。あの河岸段丘の坂道を登って、養成学校まで全速力で。
そしてギリギリ間に合った。
「お師匠、邪魔をしないで。そのカードはもう僕のものなんだよ?」
「実は世の中にはクーリング・オフという制度があってね。中学校で習うから覚えておきな」
「カードだって、僕に使われることを望んでいるんだよ?」
「……もし食い下がるなら」
僕はデッキを取り出し、ミヤの瞳を凝視した。
彼も負けずに、こちらを睨みつけてくる。
「まさか僕に勝つつもり? その2-3デッキで?」
「悪いが、正確には1-3の1byeだ。二度と間違うなよ。そして安心して欲しい。君が使っているデッキが『自然単ガレット』でないのも知っているし、僕のデッキもアップデートされているからね」
もちろん、嘘はない。時間はなかったが今日の試合を踏まえて、僕の中の暫定の結論を詰め込んでいる。
「僕は最強になるんだよ。だから僕が負けるはずない」
「いままでずっと避けてたのに?」
「…………」
「おかしいと思っていたんだよ。マナとだけはずっとやってるのに、僕とは一回と対戦してないからね? マナのアルカディアスが目的だったにせよ、いくらなんでも避けすぎでしょ」
「今日ここで倒す、それで終わりだよ」
「おう、勝ってみせてくれよな」
こうして、勝負が始まった。
†
暫定の結論。
顔見知りプレイヤーからミヤの話をそれとなく聞く過程において、当然ながらと会話の導入として環境やデッキの話もしている。
そして自分の考えも言語化していく中で、僕はようやく自分の思考を整理することができた。
環境の最強は、自然であることに間違いはない。1コストで《アルティメット・フォース》と《鳴動するギガ・ホーン》の択があるのは流石におかしい。
一方、ブーストとしての最強カードである《逆転のオーロラ》は使用難易度が高かった。
このゲームは1~2ターン目にビックアクションをする一方で、そこから急激に詰めきるのは案外難しい。一見すると3ターン目に勝ってしまいそうだが(もちろんそれを実現できるデッキもあるが、そういったデッキは《解体人形ジェニー》が激烈に重い)、マナがゲームを伸ばして《聖霊王アルカディアス》を出していたように、実は一定の猶予がある。
だからオーロラを撃って、即勝ちするのは難しい。
そして逆にその猶予を作る、あるいは相手の猶予を奪う闇は、結局やっぱり強いのだ。
僕は3敗のうち確かに2回《ガチンコ・ルーレット》を引かれて負けているが、1回は《ロスト・ソウル》を食らって負けている。
だが闇自然は、本当にギリギリのリソースで戦わざるをえなく、この2つを組み合わせても強くないのが面白いところだ。それは「闇自然超次元」が超次元をなくしたのと同じ。これがいかに貧弱か、伝わる人には伝わると思う。
だから僕は、闇を使わない選択をした。そして生まれたデッキが、今手元にある。
ゲームはミヤの先攻《解体人形ジェニー》からスタートした。僕は手札を開く。
「自然単だと……?」
僕が見せたのは、《アルティメット・フォース》や《運命の選択》といったカードたち。全て自然のカードであった。
だがもちろん、《ガチンコ・ルーレット》は採用していない。もちろん。
ジェニーで《アルティメット・フォース》は落とされたが、僕は《運命の選択》からスタートできる。
「効果で《天災 デドダム》を場に」
「デドダム? 3コストで3色も必要なあんなカードをデッキに入れてるの?」
デドダムに”あんな”って冠詞が付くことってあるんだな……。
「いや、強いよこのカード。みんな何にでも入れてる」
「いやいや、そのカード手札に来たら大事故じゃん」
「だから《運命の選択》で出す用に減らしてるんだよ」
そういって、僕はマナを増やしてターンを返す。
ミヤはというと《雷鳴の守護者ミスト・リエス》から展開していく。僕に使うデッキは、あくまで光闇らしい。このデッキは《雷鳴の守護者ミスト・リエス》でドローを稼ぎながら、早々に《聖霊王エルフェウス》を複数立てて殴ってくるタイプのデッキだ。
アルカディアスは自分が使う、という意志表示だろうか?
ただこちらのデッキは、盤面を作るデッキにもちゃんと強い。
僕は2マナで《樹界の守護車アイオン・ユピテル》を召喚すると、マッハファイターでミスト・リエスを破壊する。このカードを残すと、大変なことになってしまう。このゲームはマナの拘束が少ない分、手札1枚の価値が凄まじいのだ。
ミヤの動きも強い。《神令の精霊ウルテミス》から《聖霊王エルフェウス》まで召喚し、ユピテルをアタックで破壊する。
エルフェウスが出てきた以上、そんなに猶予はない。
僕はチャージして1枚の呪文を唱える。《逆転のオーロラ》だ。
非常に撃ちどころの難しいカードだが、この機を逃すともう撃てない。
アタックに備えてシールドを残したいが、《オリオティス・ジャッジ》等を考えるとギリギリまでマナゾーンのカードを増やしたい。《運命の選択》でシールドの中身は知っている。マナに落ちて欲しいカードがいくつかあった。
意を決して、僕は4枚のシールドを置く。
「よし」
続けて《鳴動するギガ・ホーン》を召喚するとギガホーンをサーチしてそのまま3連鎖。最後のギガホーンで回収したのは《革命目 ギョギョウ》。そしてそのまま、「革命2」の効果で1コストで召喚を決める。
ギョギョウの効果は、相手がクリーチャーを出したときに、そのコスト以下の自然のカードをマナから繰り出すことができる。そして僕のマナには、《霊騎ラグマール》がいる。
要するに、相手が4コスト以上のクリーチャーを出したときにラグマールがマナから駆けつける、という仕組みだ。
このカードは対光のデッキを考えてきたときに思い付いたものだった。《逆転のオーロラ》+《革命目 ギョギョウ》からのロックは、盤面の質でなんとかしようとする光文明にはよく効く。
エルフェウスの効果でギョギョウはタップして出るが、そこは問題ない。
僕はデドダムでエルフェウスに突っ込むと、マナから「侵略」宣言、《SSS級天災 デッドダムド》を繰り出す。
これでエルフェウスとジェニーを破壊し、盤面は空となった。ギョギョウロックが完成したのだ。
マナゾーンにはカードが7枚残っている。《オリオティス・ジャッジ》を撃たれても、ギョギョウは残る。そして盤面には、7打点。
「強いですね。でも僕は負けてないですよ」
ミヤの返しのターンの動きは、これを読んでたか《天使と悪魔の墳墓》だった。マナを2枚失い、そしてギガホーン軍団も一瞬で消し飛ぶ。ギガホーンを全て使いきっていたらマズかっただろう。山札に1枚残しておいてよかった。
しかしこうなると、楯からの《オリオティス・ジャッジ》は警戒せざるをえない。シールドを殴りにはいけないだろう。
対してミヤは続けて《グローリー・スノー》を唱えて、マナも順調に増やしていく。
状況は少し膠着したが、僕も《アルティメット・フォース》を唱えて、ギョギョウを《オリオティス・ジャッジ》の射程圏から救う。あとは、フィニッシャーを待つだけだ。
しかし、ミヤはその猶予を与えてくれなかった。
ミヤが唱えたカードは、《ロジック・キューブ》。じっくり山札を吟味し、僕のマナゾーンも確認する。そして回収したのは、なんと《デビル・ドレーン》。
「5枚回収します」
一切の躊躇いがなかった。そう、山札を確認した今この5枚は確定ドローなのだ。
そしてミヤは回収したカードが思い通りのカードであることを確認すると、まずは《グローリー・スノー》でブースト。《オリオティス・ジャッジ》でダムドを退かし、《学校男》を投げてきた。
先にこちらのマナゾーンを確認したのは、僕のマナゾーンにコスト2以下の何のクリーチャーがいるかの確認だったのだろう。いま僕のマナにいるのは《ベイB セガーレ》くらいだ。一応場には出しておくがこのカードは殴れないし、互いにマナが増えた以上役には立たない。
そして残る手札から、《制御の翼 オリオティス》というブロッカーまで繰り出してきた。
相手も相手で、パワフルカードで一気に形勢を戻し……なんなら、有利にまで持っていったのだ。
一旦状況を整理しよう。
ミヤの手札は2枚で場にはオリオティス。対して自分は手札1で場にはセガーレのみ。盾はミヤが0で僕が1。
先のターン、ミヤが2マナ残してターンを返したことを察するに、あの手札は3コストになる《ロスト・ソウル》である可能性は高い。僕が先ほど何もしていないことを鑑みて、ハンデスよりもブロッカーを優先したのだろう。
ただ打点になることを考慮すれば、恐らく《解体人形ジェニー》があれば召喚している。だからジェニーは持っていない。他のクリーチャーでもそうだ。
となると、残る手札は《ロスト・ソウル》+《聖霊王エルフェウス》なのではないか。
これは進化元を引かれる前に、決着を付けたい。
だがドローしたカードは《逆転のオーロラ》。
ギガホーンならほぼ勝ちだったが、仕方が無い。ターンエンド。
しかし最悪なことに、ミヤは続くドローで《神令の精霊ウルテミス》を引いたらしく、なんと《聖霊王エルフェウス》は着地してしまう。そして最後のシールドも、ブレイクされてしまった。手札は2枚。
僕はドローをする。
引いたのは《鳴動するギガ・ホーン》。1ターン遅かったが、これは迷わず出す。
だがここで《革命目 ギョギョウ》を持ってきても、負けだ。相手のブロッカーを越えられない。
熟慮の末、回収したのは《光牙忍ハヤブサマル》。
「エルフェウスでハヤブサは……あー、セガーレをブロッカーにするんですね」
そういって、ミヤはドローをする。
「お師匠、さすがに頑張るね」
「それはどうも」
「でも気付いているとは思うけど、僕には最強カードがあるから」
そういって、ミヤは手札の《ロスト・ソウル》を見せた。
「だから、結局僕の勝ちだよ」
「そうか、そうなるのか」
僕は1つ息を整えた。
「ところでミヤ、せっかくだから聞いておきたいんだけど、君の使う《ロスト・ソウル》って本当に強いか?」
「? それって、どういう……?」
「君の技量が高いのも、閃きが優れているのも、対応力も認めている。でもミヤ、君は明らかに《ロスト・ソウル》を撃ち慣れてないと思う。当たり前だよな。そのカードに君の物語がないんだから」
「物語……?」
ミヤは不可解そうな顔をした。僕は続ける。
「他人から奪ったカード、すぐに変えるデッキ。そこに、なんの物語がある?」
物語とは、共に戦ってきた試合であり、そして得てきた勝利でもある。
「もしミヤが『最強になる自分に、カードも使われたいと思っている』と言うなら、それは間違っている。カードは君を選ばない。君とカードの間には、なんの物語も存在していないのだから。だから君が《聖霊王アルカディアス》を手にしても強くないし、もっと言えば、マナが使うから《聖霊王アルカディアス》は強い」
「そんなこと、あるわけないでしょ」
ミヤの語気がやや強まった。
物語、は確かに欺瞞にも聞こえる。だが僕は別に嘘を吐いていない。マナが使う《聖霊王アルカディアス》の方が強い。それは事実だ。
それはマナがアルカディアスとともに戦いを潜り抜けてきた経験があるから。そう、経験則なのだ。どの場面でどうプレイするのが強いのか。数々の戦いの中で、練度を高めプレイを培ってきた。
どんなに才能に溢れたプレイヤーでも、初見で全てを理解することはできない。これまでの物語はプレイヤーを助ける。
そしてそれは、マナでなくても同じ。
「とにかく、僕は《ロスト・ソウル》を撃つよ。上から解答引かれるのも嫌だし」
「そうか、撃つんだな。ロスト」
「もちろん……!」
そしてミヤは《ロスト・ソウル》を唱えた。
僕の手札から落ちたのは、先に見せた《光牙忍ハヤブサマル》と《斬隠蒼頭龍バイケン》だった。
「えっ、バイケン……?」
ミヤのエルフェウスが、手札に帰っていく。
「だから言ったじゃん、撃ち慣れてないって。大会で《ロスト・ソウル》に負けたから対策として積んだんだよ。ギガホーンで拾えるし。ちなみにこの状況で上からの解答はなかったね。焦りすぎ」
「そんな……」
「でも、ギョギョウを突破したのは見事だった。普通に負けると思った」
「そんな……僕が負ける……?」
「そうだ」
「最強の僕が……?」
「そうだ」
「嘘だよね?」
なるほど、と理解した。
ミヤが僕との対戦を避けていた理由がわかった気がした。
「ミヤ、僕からのアドバイスだ。負けは経験しておいた方がいい。少なくとも僕との戦いを避け続けて敗北をしないことより、敗北の方が君を強くする。大丈夫、別に怖いことではないから」
僕の盤面には、殴れるバイケンとギガホーン。対してミヤは、ブロッカーが1体しかいない。
「そうか、僕は選ばれなかったのか。物語、か……」
ミヤはがっくりと肩を落とした。
†
後日。
名取川ミヤは「カードはそれを手にするに相応しい人が持つべき」という理屈自体は、変えなかったようだ。
ただし、「それはそれとして、相応しいかを決めるのは強さではない」と考えるには至ったらしい。
だからカードも、元の持ち主に返したという。今は僕との対戦で気に入ったらしい準自然単を練習しているようで、今は構築やらプレイの見直しをしているとのことだった。
なおミヤはクーリングオフ制度についても調べたそうで、「関係ないじゃん」と抗議の連絡を受けた。大人は子どもの知らない理屈でそれっぽく誤魔化す生き物だから、しょうがない。
そんなわけで、今日も僕らはカードショップにいる。相変わらず、ヒストリー・デュエマを楽しんでいる。
このゲーム、神ゲーだ。無限に試したいものが湧いてくる。
「いやぁ、それにしてもまたイオナさんに助けてもらいましたね」
マナが《聖霊王アルカディアス》を召喚しながら、そんなことを言った。実はそのカードで割と詰んでいるので、やめて欲しいんだけど。
「弟子の不始末は師匠が咎めないといけないからね」
「ちなみにその後の戦績ってどうなんですか? ミヤくんと」
「10勝8敗。ギリ勝ち越して体裁を保ってる」
まぁ、そのうち抜かれるんだろうな、という気はしている。
天才、歴代最強……そう言われるだけの実力は確かにあるんだよな……。
「……そういえばイオナさん、あの時『先約がある』って言ってましたよね?」
マナは《聖霊王アルカディアス》を手にしながら、ニコニコと笑っていた。
「あれれ? おかしくないですか? 私はイオナさんにアルカディアスを渡す約束したことはもちろんないんですよね?」
「…………」
「じゃあ、先約って何に対して言ったんですか? 教えて欲しいです」
「いやだよ」
「いいじゃないですか」
「いやだ」
「ダメです、今日は」
マナがグッと顔を近づけてきた。逃がしてはくれないらしい。
いやでも、しょうもないんだよな……。
「……しょうもない話だけど」
思わず溜め息を吐いた。
「マナが僕とのデュエマより他の約束優先したのが普通に面白くなかった。それだけ」
マナは少しの間、ポカンとしていた。そして直後、その表情は満面の笑みに変わった。
だから、いやだったんだよ。
「はぁ~~~やっぱりイオナさんにはわ・た・し・がいないとダメなんですねぇ~~~」
「うるさいなぁ、なんなんだよ」
「いえいえ、これからもイオナさんと存分、デュエマさせていただきますよ」
そしてマナは、一旦カードを置いた。
「ですので、改めて約束をしましょう、イオナさん。いずれイオナさんが――」
外は桜が満開だった。
桜吹雪は春風に乗って空を舞う。目に焼きつけられるほどの麗らかな光景が、そこにはあった。
(ヒストリー・デュエマ 完。次回、9-1に続く)
神結(かみゆい)
Twitter:@kamiyuilemonフリーライター。デュエル・マスターズのカバレージや環境分析記事、ネタ記事など幅広いジャンルで活躍するオールラウンダー。ちなみに異世界転生の経験はない。
『異世界転生宣言 デュエル・マスターズ「覇」』バックナンバーはこちら!!