異世界転生宣言 デュエル・マスターズ「覇」 2-3 ~1コストデュエマ 下~

By 神結

 かつて、そのカードは栄光の中心だった。眩い実績を、幾度となく手にした。
 その事実が、誇らしかった。何よりの、自慢だった。
 
 だが、その両手からも溢れる栄誉は、いつの日か憎悪の対象となった。
 ”忌み子””生まれるべきではなかった”……数々の言葉の暴力に晒された。
 
 やがて、このカードは”数々の悪事を成したもの”として放逐されてしまった。ある人曰く「平和が戻った」と。またある人曰く「これが元からあるべき姿だった」と。
 
 あらゆる悪意を一身に背負ったこの子は、わたくしの元に帰ってきた。
 わたくしの36と4枚のデッキ、その中には入れぬかもしれど。
 
 大丈夫、わたくしが、お友達を作ってあげますからね。
 
          †
 
 今日はよく晴れていた。
 ただそれでも、平日の昼間となると公園にそれほど人影はなかった。親子連れが、ほんと一組二組いるくらいだろうか。
 
「いい天気ですよね、過ごしやすいですし」
 
 風が優しく、草木を撫でている。視界に映る白いワンピースも、静かに揺れていた。

「子どもたちも楽しそうに遊んでいます。砂場は滑り台、追いかけっこ、サッカー。楽しそうでいいですねぇ……」
「…………」
 
 彼女の眼は真っすぐだった。

 一見するとただ公園の風景を眺めながら喋っているだけに見えるが、さっきも言ったようにいま目の前には親子連れが二組ほどいるだけである。誰もサッカーなんかしていない。
 この人には、何が見えているのだろうか。

「お誘いに応じていただき、感謝です。森燃イオナさん。改めてまして、石柱マリアと申します」
 
 歳は20代前半から中頃くらいだろう。背はやや高く落ち着いた佇まいなのだが、人というのはやはり外見だけでは語るに足りない。今日来てしまったのも、なんかもう失敗だった気がしてきた。
 
「……それで、用件はなんなんですか」
「それはもちろん、“お友達”になっていただきたく」
 
 彼女は微笑みながらそう言った。ニヤリといった下卑た笑いではなく、あくまで自然体でニコリといったような言葉に近いものであった。普通であればこんな微笑みを向けられたらドキリとしそうなものなのだが、残念なことに恐怖しか感じない。

「どうして僕なんですか?」
「なんとなくわたくしが気に入ったからです。本当は昨日お迎えしたかったんですが……あいにく寝落ちしてしまったみたいですし」
「アレはなんなんですか?」
「言いませんでしたっけ? S(少し)F(不思議)なことが起こっているだけですよ。格好よく言うなら、『特殊能力』とでも思っていただいて構いません」

 身の回りに起こる不思議なこと、で言うなら全く身に覚えがないわけではないので、受け入れるしかない。

「で、その”お友達”とやらなんですけど、これまでの”お友達”は何処で何をしてるんです?」
「もちろん、わたくしのデッキの中で、ほかの子たちと仲良くしていますよ。みんなほんとにいい子なんですよ。わたくしも嬉しいです」
「僕がいまから逃げたら、どうします?」
「逃げないと思っているので、大丈夫ですよ」

 そう言うと、彼女はデッキを取り出した。
 作業台のようなものにテーブルクロスを敷くと、シールドを並べ始めた。

「では、始めましょうか」

 これには無言で頷くしかなかった。

          †

 互いにシールドを展開し、ゲームは始まった。
 先攻を取ったのはマリアの方だった。

 1ターン目は《トレジャー・マップ》からの《D2B バブール》を回収して終了。
 彼女の使用するミルクボーイデッキは、様々なサーチカードを持っているため、事故が少ないのもポイントだ。

 対してイオナも、《犠牲の影オンリー・ウォーカー》を召喚して終了。

▲超天篇第1弾「新世界ガチ誕!超GRとオレガ・オーラ!!」収録、《犠牲の影オンリー・ウォーカー》

 このカードは1コストでは破格の効果であるパワー6000のW・ブレイカー持ち。ただし、クリーチャーが破壊されていないと攻撃ができないというデメリットも持っている。

 マリアは今度は《トレジャー・ナスカ》からの、《ベイB ソーター》を召喚。序盤の動きとしてはまずまずか。

 ここに《D2B バブール》の召喚や《Dの揺籠 メリーボーイラウンド》を展開する、といったのがミルクボーイ側の狙いだ。
 一度盤面が作られてしまうと、圧倒的なパワーで圧殺されてしまう。仮にブロッカーで耐えようとしてもジリ貧には《ツクっちょ》が襲いかかってきて、分が悪い。

 こうなると一体イオナ側がどう対応していくのか、というところになる。
 
 が、彼の表情は随分凜々しかった。自信のある展開だったのだろう。
 そしてマナを1つ捻って、こう宣言した。

「こちら、1マナ使って《クエイク・スタッフ》をジェネレートします」

▲「コロコロドリームパック3」収録、《クエイク・スタッフ》

          †

 マナと一緒にカードを漁っていたときに見つけたカード、それが《クエイク・スタッフ》だった。
 1コストデュエマにおいては、基本的にクリーチャーの横並びの数がモノをいうことが多い。その点、「クロスギア」というギミックはかなり悠長だ。

 だが、それもミルクボーイが相手だと話は別だ。相手は基本的にはタップインして召喚されるので返しに殴り返すことが可能。クリーチャーの質で勝負をするこのデッキに対しては、かなり大きなカードだ。
 加えて《犠牲の影オンリー・ウォーカー》とも相性がいい。本来狙ってクリーチャーを破壊するのは難しいが、《クエイク・スタッフ》ならばできる。

 唯一怖かったのは《クエイク・スタッフ》を引けないことだったが、そこは自然を採用することでカバーした。《トレジャー・ナスカ》はやっぱり凄い。

▲革命ファイナル第2章「世界は0だ!!ブラックアウト!!」収録、《トレジャー・ナスカ》

 総合的には小型を並べる水系のデッキには不利が付くかもしれないが、今日ここで石柱マリアを倒す分には相当いけるデッキだ。

 このゲーム、僕の勝ちだ。やはりデュエル・マスターズの女神は、僕の勝ちを望んでいるらしい。

「《クエイク・スタッフ》を《ねじれる者ボーン・スライム》にクロス、《ベイB ソーター》を攻撃します。スレイヤーで相討ちで。続けて《犠牲の影オンリー・ウォーカー》でW・ブレイクします」

 こうなるともう、ペースはこっちだ。ミルクボーイを破壊するには《ツクっちょ》+《クエイク・スタッフ》でも対処可能。こっちの闇のクリーチャーが墓地に置かれれば《死神術士デスマーチ》が使えるようになっていく。

▲「20周年超感謝メモリアルパック 技の章 英雄戦略パーフェクト20」収録、《死神術士デスマーチ》
▲革命ファイナル第2章「世界は0だ!!ブラックアウト!!」収録、《D2B バブール》

 デスマーチが立つと、いよいよ今度は相手の《ツクっちょ》すら効かなくなってくる。

 向こうの自慢の《D2B バブール》《Dの揺籠 メリーボーイラウンド》といったカードは、盤面にある程度の打点が並んでいないと機能しない。
 
 あとは出されたミルクボーイに特攻していきながら、《犠牲の影オンリー・ウォーカー》が攻撃し続けるだけ。

 しかし最初に諦めた「黒緑速攻」と同じ文明のデッキがここに来て答えになるとは、こちらも思いもしなかった。

「では、ダイレクトアタックで」
「……そう、ですか。負けですね」

 彼女はがっくりと肩を落とした。そして、墓地に置かれたミルクボーイ1枚1枚を手に取っていく。

「ああ、わたしくの子どもたちが、みんな破壊されていってしまいました……。忌々しいクロスギアに……どうして……」
「違いますよ。これはデュエマというルールの中で遊んでいるんです。召喚も破壊も全てデュエマなんですし、試合が終わったら元に戻るんですから」
「そう、ですか……そうかもしれませんね……」

 彼女は愛おしそうにデッキのカードたちを眺めていた。
 彼女が尋常ならざる感性を持っているのは事実だが、それはそれとしてカードたちを愛しているのは間違いなかった。

「イオナさん、参りました。対戦ありがとうございました。これからもデュエマを愛してあげてください」
「それは、もちろん」
「それでは、また何処かで」

 そう言うと、彼女は僕の顔の前にスッと手をかざした。
 そこから先の記憶は、ない。

          †

 ふと気が付くと、夕日に照らされていた。風も少し、肌寒くなっている。
 どうやら昼の陽気に当てられて、少し寝ていたのかもしれない。

「やっぱりここにいたんですね、イオナさん。迎えにきましたよ」

 顔を上げると、大地マナがそこにはいた。確かに公会堂の方に用がある、と伝えたような記憶がある。

「イオナさん、こんな時間まで公園で何してたんです? まさか滑り台や追いかけっこしていたわけでもないでしょう?」
「うーんと……」

 ここ数時間の記憶が朧気だった。何か大事なことをしていたような気がするし、大事なことを言ったような気もする。だが奇妙なことに、モヤが掛かっているような感じがして、はっきりと思い出せなかった。
 
「ごめん、覚えてない」
「そんなことあります? まあいいですけど。もう大分寒くなってきましたし、帰りましょう」
「いや、待って」

 自分が座っていたベンチにカードが置かれているのに気が付いた。
 拾い上げてみる。そのカードは《ベイB ジャック》だった。

▲革命ファイナル最終章「ドギラゴールデン vs. ドルマゲドンX」収録、《ベイB ジャック》

「なんでそんなところに禁止カードが落ちてるんですかね。私、そのカードにいい思い出ないんですよ」
「うーん……わからないけど、僕はこのカード好きだよ」
「そうなんですか?」
「うん。わからないかもしれないけど、ジャックステップルマリニャンとか、ジャッククリスタバーナインみたいな王道ムーブがあったり、盤面を作ってジャックを引き込めるまで頑張ったりしてね。まあオーバーパワーなのは認めるけど、何度も勝たせてくれたし、いいカードだったかな」
「そうなんですか……」

 《ベイB ジャック》、実戦の舞台で使われることはもうないと思うけど……この子に救われたことは少なくなかった。恐らく、同じ境遇の人が何人もいるだろう。

僕は拾った《ベイB ジャック》を鞄にしまうと、公園を後にした。


(1コストデュエマ 完 次回3-1へ続く)

神結(かみゆい)
Twitter:@kamiyuilemon

フリーライター。デュエル・マスターズのカバレージや環境分析記事、ネタ記事など幅広いジャンルで活躍するオールラウンダー。ちなみに異世界転生の経験はない。

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