By 神結
目を覚ますと――という表現が正しいのかはわからないが、ともかくふと気が付いたときには、僕はカードショップにいた。
……あれ、これでいいんだっけ?
少し記憶を整理してみよう。
確か僕――森燃イオナ――は、ロジカル・デュエマで帝王と戦って、そして勝った。
確かその後、トラックに跳ねられた気もするし、そうでない気もする。
とにかく今の僕に理解できているのは、僕はいま何故かカードショップにいるし、目の前には対戦相手が座っているし、そしていままさに試合中ということだ。
盤面を見る。シールドがあるし、山札も手札もある。そして何よりマナゾーンにカードが置かれている。
そう、マナゾーンにカードがあるのだ。
つまり、これはロジカル・デュエマではない。
(なるほど、そうか。そういうことか)
わかってきたぞ。僕はロジカル・デュエマの戦いを終えた後、トラックに跳ねられて再度転生……つまり、元の世界に戻ってきたというわけだ。
だから僕はいま、普通のデュエマができている。
嗚呼、素晴らしい。
別にロジカル・デュエマが嫌いというわけではもちろんないが、小学校時代からよく知っている地元に帰ってきたような気分だ。
「あの、そちらのターンですよ……?」
「あ、ごめんなさい」
ついつい浮かれてしまったが、いまは試合中だ。
気持ちを引き締め直して、自分の手札を確認する。
「あれ?」
思わず、二度見した。
手札にあったカードは《孤独の影ロンリー・ウォーカー》、《冒険妖精ポレゴン》、《スナイプ・モスキート》……。
このデッキはよく知っている。近代デュエマの歴史そのものである「黒緑速攻」だ。
このデッキは名前の通り、闇と自然の軽量カードをふんだんに採用した速攻デッキである。
神化編で「墓地進化」系のカードが出たことで生まれ、ドラゴン・サーガくらいまでは現役で活躍したデッキだったが、さすがに現在は現役引退したようなデッキだった。
え、僕はCSに「黒緑速攻」を持ち込んだってこと?
いや、マジか。
何を考えてそうなったのかは知らないが、とりあえず盤面に《スナイプ・モスキート》を出してターンを返した。
相手のデッキは《ホップ・チュリス》や《ブンブン・チュリス》などが見えることを考えると、「赤単速攻」だろう。
普通に考えれば、《”罰怒”ブランド》が着地してしまうとこっちは負ける。こちらは出したクリーチャー大半が召喚酔いしてしまうのに対し、相手は《”罰怒”ブランド》の効果ですぐに動ける。こっちはS・トリガーなんか入ってないから、攻撃を防ぎようがないのだ。
だが幸い、このターンは出てこなかった。《凶戦士ブレイズ・クロー》がシールドを攻撃し、こちらのシールドは残り3。
こちらも盤面を並べながら、《凶戦士ブレイズ・クロー》を殴り返し、盛り返していく。《”罰怒”ブランド》を引かれてしまうと厳しいので、シールドは攻撃しない。
そうなるといつ攻撃するんだ、という話にはなるが、こちらには《無頼封魔アニマベルギス》や《密林の総督ハックル・キリンソーヤ》といったカードが入っている。盤面に小型を並べて凌ぎながら、これらの追加打点合わせて殴りにいけばいい。
幸い、いま盤面には5点並んでいる。どちらかを引けば勝ちなのだ。
一方の相手は、引いたクリーチャーを出しながらシールドに攻撃を仕掛けてくる。
「《ブンブン・チュリス》、《ホップ・チュリス》、《勇気の爪 コルナゴ》でシールドを攻撃します」
「了解です」
こちらのパワーラインは2000で、向こうのクリーチャーのパワーラインは基本的に1000程度。簡単に殴り返せるし、なんならこちらにベルギスや《死神術士デスマーチ》を引かせてしまう可能性が高くなるので、あまり得策には見えないが……。
もしかしたらお相手はあまり試合に慣れてないのかもしれない。
まあ、そういうプレイヤーもいるよなぁと思ったが、それはそれとしてシールドからもドローからも、一向にベルギスもキリンも来ないのだ。
いやぁ、引けば勝ちなんだが。どっちでも良かったんだが。
さて、どうしたものか。
とりあえず《ねじれる者ボーン・スライム》を出してブロッカーを確保し、ほかにクリーチャーを並べると相手のクリーチャーを殴り返してターンを返すことにした
盤面は揃ったから、次のターンには勝てるだろう。
が、それは甘い見込みだったらしい。
相手はドローしたカードを嬉しそうに眺めると、それをすぐさまプレイ。
「《スチーム・ハエタタキ》で《ねじれる者ボーン・スライム》を破壊します。1マナで《グレイト”S-駆”》を召喚します。手札がないのでスピードアタッカーなので、そのままダイレクトアタックで」
「あっ」
どうやら、ごり押されてしまったようだ。
まあ、そもそも《”罰怒”ブランド》を引かれていたら負けなので、あまり関係ないといえばないのだが。それより自分が「黒緑速攻」を持ち込んだ方が悪いと言える。
いやぁ、負けたかぁとぼーっと席に座っていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「イオナさん、どうしたんですか? もしかして試合中寝てました?」
「えっ、マナ……? どうしてここに?」
「なんですか、私がCS見に来ちゃマズいんですか?」
「いや、そうじゃないけど……」
妙な話である。
もし僕が元の世界に戻ってきたのならば、マナはいないはずだ。だって、ロジカル・デュエマが流行っていたあの異世界で出会ったのだから。
え、じゃあどうしてマナはここにいるんだ? この世界は一体……?
「イオナさん、凄いプレイミスしてましたけど……」
「え? そんなマズかった? 確かに《グレイト”S-駆”》はケアできてなかったけど、殴って《”罰怒”ブランド》引かれたら負けだし、そもそもこっちは《無頼封魔アニマベルギス》か《密林の総督ハックル・キリンソーヤ》引ければ勝ちだったんだから、別に何も悪くないと思うけど……」
「????? ちょっと何言ってるのかわからないんでまだ寝てると思うんですが、一旦自分のデッキを確認した方がいいと思いますよ」
「え、それって……」
僕は言われた通り自分のデッキを確認した。
デッキを開いてみると、《無頼封魔アニマベルギス》も《密林の総督ハックル・キリンソーヤ》も入っていなかった。それどころか《停滞の影タイム・トリッパー》もないし、《ジオ・ナスオ》も入っていない。
入っているのは《スナイプ・モスキート》や《冒険妖精ポレゴン》の他、《孤独の影ロンリー・ウォーカー》、《死神術士デスマーチ》……。
そして、気付いた。
「1コストのカードしか入っていない……?」
「そりゃそうですよ。そういうルールなんですから。野球観戦に行って『もしかして、いま観ているのって野球?』とか言ってるようなもんですよ」
その例えはいま一つピンと来ないけど、とくかく自分の発言が間抜けであることはよくわかった。
そして、一つ気付くことができた。
どうやら『元の世界に戻ってきた』というのは、僕の間違いだったらしい。
正しくは『さらに別な異世界に飛ばされてしまった』ということのようだ。
「1コストのカードしか採用できないデュエマ……通称、1コストデュエマです」
いや、そのまんまやないかい。
・デッキに採用できるカードは1コストのカードのみ
いや、待てよ。もしそのルールだとしたら……?
なんかぶっ壊れカード存在しないか?
「マナ、《ベイB ジャック》ってカードもしかして……」
「イオナさん、まだ寝てます? とっくにプレ殿になったじゃないですか」
あ、この世界でも《ベイB ジャック》はダメなんだ……。
しかしこの前のロジカル・デュエマと違って、またわけのわからないことを学ぶ必要はないかもしれない。
このルールであれば、来週にもCSに参加できるのではないだろうか?
早くも来週のCSが楽しみになってきた。
†
その部屋は不思議な光景をしていた。
壁にはクレヨンで描かれた絵がいくつも飾られ、積み木やプラレールのような玩具が部屋の中に綺麗に並べられている。
だがそんな部屋にいたのは、その光景とは似つかわしくはない20代くらいの女性であった。
部屋には一人で、家族がいる様子もない。
「はい、今日も皆さん頑張りましたね。偉いですよ」
彼女はそう言うと、デッキケースから自身のデッキを取り出した。そして机の上で、順番にカードを並べていく。
「さすが、わたくしの自慢の子たちです。見事な勝利でした」
彼女は鞄から新たに1枚のカードを取り出すと、少し迷ってからカードを入れ替えをしていた。抜かれたカードは、別のデッキへとそのまま入れ替えられていく。
「大丈夫ですよ。これからもいっぱいお友達、連れてきてあげますからね。待っててくださいね」
そう言って、彼女は穏やかな微笑みを浮かべたのだった。
(次回2-2 1コストデュエマ 中 に続く)
神結(かみゆい)
Twitter:@kamiyuilemonフリーライター。デュエル・マスターズのカバレージや環境分析記事、ネタ記事など幅広いジャンルで活躍するオールラウンダー。ちなみに異世界転生の経験はない。