『ドラえもん』の大長編劇場版シリーズ39作目『映画ドラえもん のび太の月面探査記』が公開中!
第15回本屋大賞を受賞した『かがみの孤城』、ひみつ道具を各章のタイトルにした『凍りのくじら』などで知られる人気作家・辻村深月先生が脚本を担当し、ドラえもんたちの新たな冒険を描いた作品だ。
映画公開にあたって、コロコロオンラインでは脚本の辻村深月先生と、藤子・F・不二雄先生の最後の弟子・むぎわらしんたろう先生の豪華過ぎる対談記事を3日間連続掲載!!
第2回は月を舞台にした経緯や、作品の見どころを紹介! かつて何度も舞台を月にしようとした、超貴重な過去の企画書も大公開!!
なお、作品の紹介はコチラの記事をチェック!
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辻村深月先生×むぎわらしんたろう先生SP対談~1~
<対談者プロフィール>
辻村深月 先生
1980年生まれ。千葉大学教育学部卒。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞を受賞。12年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞を受賞。18年『かがみの孤城』で第15回本屋大賞第1位となる。著書に、章タイトルをすべて『ドラえもん』のひみつ道具にした『凍りのくじら』などがある。むぎわらしんたろう 先生
1968年、東京都生まれ。『秋風の贈り物』で第14回小学館新人コミック大賞児童部門藤子不二雄賞受賞。1988年、藤子プロ入社。代表作に『ドラベース ドラえもん超野球外伝』『新ドラベース』『野球の星 メットマン』『ドラえもん物語 ~藤子・F・不二雄先生の背中~』などがある。
ついにドラえもんたちが月に立つ!
――舞台を月にした経緯を教えてください。
辻村:海底、雲の上、宇宙、魔界など、ドラえもんたちが映画で冒険に行っていない場所はほとんどないんです。そんななかで、自分が関わらせて頂くからには、子どもたちが身近に知っている場所を舞台にしようと思いました。
――そこで月を選んだと。
辻村:はい。しかし、月は身近な天体だからこそ観測が進んでいて、「のび太たちが行ったら、すでに月の王国がありました!」というのは無理があります。だから、スタッフの皆さんと科学の専門誌を読みながら、どこに生命が介在できる余地があるかを探っていきました。大変な場所に手を出してしまったと後悔しかけたこともあります(笑)。実際、これまでの映画のスタッフさんたちも何度か月を舞台にした作品を作ろうとして、そのたび実現せずに別の案が採用されてきた、と後から聞きました。
むぎわら:藤子・F・不二雄先生(以下、藤子先生)が亡くなられたあと、いくつか大長編ドラえもんのまんがや映画の原案協力をさせて頂きましたが、毎回舞台の候補に挙がるのが月でした。実際、その当時の資料もありまして――。
▲むぎわら先生の当時のアイデアメモ。
辻村:え、これは凄く貴重ですね!
むぎわら:「道路光線(※)」を使って月に行くものや、かぐや姫伝説をモチーフにしようなど、様々な案がありました。
※:ドラえもんのひみつ道具。中が四次元空間になっている光を放ち、どんな物でも突き抜ける。
辻村:こちらはこちらで観てみたい……。
むぎわら:こうやって何度も月を舞台にしようとチャレンジしましたが、”着陸”に失敗してきました。辻村さんが仰った通り、月は我々にとって身近で、研究し尽くされた”知られた世界”です。だからこそ、物語の舞台にするのは難しい。
辻村:実はあまりに難しいので、途中、別の場所にしようかと考えたりもしたんですが、あるスタッフさんから「辻村さんの名前にも”月”が入っていますね。」と言われたとき、「あ、これで引き返せなくなった」と思いました(笑)。
むぎわら:たしかにそれは引き返せないですね。
辻村:はい。そこから、月を舞台に最大限なにが出来るかを模索することになったのですが、なかなか進まなくて……。八鍬監督も私も、原作に登場したひみつ道具を使って、のび太が冒険に行くキッカケにしたいと思っていました。そんななか、八鍬監督が「異説クラブメンバーズバッジを使ってみてはどうでしょう」と提案してくれたんです。その瞬間、私も「たしかにそれなら書ける!」となって、一気に物語が動いていきました。
▲作品に登場する「異説クラブメンバーズバッジ」。セットのマイクに向けて”異説”を唱えると、バッジを付けた人だけ、その説が成り立った世界を見ることができる。
むぎわら:ようやく、無事にドラえもんたちが月に”着陸”することができました。ありがとうございます。
辻村:そんなふうに言って頂けるなんて、光栄です。こちらこそ、ありがとうございます。
映画を観る時はここに注目!
――今作の見どころについて教えてください。
むぎわら:僕は今回、亀のモゾのキャラクターデザインについて藤子プロから相談をうけて、少しお手伝いをさせて頂きました。そのため、モゾが出ているときは、心のなかで「モゾ頑張れ!」と力を入れながら見ていたんです。ぜひ、モゾの活躍を注目してみてください。
辻村:実際に頑張りますからね。モゾはスタッフのみんなからも人気があります。
▲ルカの友だちのツキノワリクガメ・モゾ。口癖は「ご存じない?」
むぎわら:辻村さんの見どころは?
辻村:“ルカとのび太の友情”ですね。じつは脚本を書き始めた当初、映画ドラえもんでは、のび太たちが出会ったばかりのゲストキャラのために命を懸けて頑張ることが当然だと思っていました。しかし、八鍬監督から「なぜ、のび太はルカたちのために頑張ることが出来るのでしょうか。何を考え、どこでのび太と友だちになったのかをハッキリしなければ、のび太たちは命を懸けられません」と。
むぎわら:その部分は重要ですね。ルカにとって友だちとはどういう存在で、のび太との関係はどのようなものなのか。
▲のび太たちの学校に転校してきた、不思議な雰囲気を持つ少年・ルカ。
辻村:そこで具体的にいろいろ考えていったんです。なぜルカは出木杉君ではなく、のび太を頼ったのか。のび太にとって友だちとはどういう存在なのか。ドラえもんの映画だから友情が描かれるのは当たり前とは思わず、”のび太とルカだからこそ生まれる友情”を意識しました。ですので、ゲストキャラとのび太たちとの間に生まれ、築かれていく関係や想いに注目して頂けると嬉しいです。
むぎわら:あと、後半ののび太たちが戦うシーンは良かったです。
辻村:私が頭で考えた以上の絵とアクションを、八鍬監督をはじめとする皆さんが想像力と技術を駆使して作り上げてくださいました。作り手の皆さんのことを考えたら、嬉しくて涙が出ました。改めて、アニメはこんなにもたくさんの大人の本気で出来ていたんだとわかって、自分がそういう映画をこれまで観ながら育ってこられたことにも幸せを感じました。今年観てくれる子たちにも、その幸せが届くといいな、と願っています。
▲のび太たちが大活躍!
貴重な話が満載のSP対談も次回で最終回! ドラえもんファン必見の内容になっているので乞うご期待!!