By 神結
クリーチャーが具現化される世界で、体験型イベント『ミステリーデュエマツアー』へ招待されたイオナ。
高森財閥が持つ洋館へと案内されたが、主催である高森麗子自身の到着が遅れることになってしまった。
他の参加者たちとデュエマをして待つことになったが、何やら参加者同士はそれなりに因縁があるらしく、不穏な空気になってしまう。
そして翌日朝、参加者の一人であった出羽リンリが《卍 デ・スザーク 卍》のカードとともに、胸にナイフを突き立てられて死亡していた。周りには魔導具を模した道具が散らばっており、「無月の門」によるデ・スザーク降臨の儀式が行われていたようにも見えたが――
・登場人物紹介
鏡(かがみ)ミライ : デュエマをメインとした動画投稿者・配信者
出羽(でわ)リンリ : デュエマの大会主催者で、鏡の友人。死亡。
薬子(くすこ)イズミ : 鏡ミライのマネージャー、及び鏡の動画の編集担当
甲斐(かい)カイガ : デュエマのイラストをメインに活動するイラストレーター
新宮(にいみや)シンク : 我我我轟轟轟(がががごごご)新聞の記者で、デュエマ担当
†
全員が、応接室に集まっていた。
鏡、薬子、甲斐、新宮、マナ、そしてイオナ。舞台は整った。
「今回集まってもらったのは、他でもありません。出羽リンリ殺しの真相について、僕の方からお話しようと思います」
この言葉に対する反応はまちまちだった。新宮だけは面白そうに笑っていた。
「もちろんこの事件は、出羽リンリが《卍 デ・スザーク 卍》を召喚しようとして自滅したわけではなく、計画的に行われた殺人事件です。順を追って説明していきましょう」
イオナは、全員を見渡せる位置に立った。
「ですがその前に、そもそもこのツアーに招かれざる客が混ざっています。ツアーの参加者は本来僕とマナを含めても6名でした。しかしイベントサイトのハッキング等を行い、このツアーに潜り込んだ7人目の客がいたんです」
「7人目の客?」
「それが新宮シンク、というわけです」
「あー、バレてしましたか、流石に」
新宮は相変わらず、ニコニコと笑っている。
「じゃあ、彼女が出羽殺しの犯人……」
「まだそうは言っていません。実際に調べたところ、彼女の名前も『我我我轟轟轟新聞の記者』という経歴も、嘘偽りない真実とのことでした。彼女は記者として、ある目的のためにこのツアーの客として忍び込んでいたんです」
「ある目的?」
「それが朱雀マオの死に関する真相です」
全員の表情が変わった。
「もとより朱雀マオの事故死について疑問を持っていた貴女は、記者としての様々な情報網を使い、独自にその真相を追っていました。そして鏡、出羽、薬子、甲斐の4人の誰かが、朱雀マオの死に関わっていることに気付き、彼らが参加しているこのツアーに潜り込んだ……違いますか?」
「だいたいは合ってます」
新宮シンクは、あっさりと認めた。
「正直私の手で真相を掴みたかった想いはありますが……森燃さんの口ぶりだとある程度は真相に辿り着いてますよね?」
「まぁ、おおよそは」
「じゃあいいです。後はお任せします」
そう言って、新宮は一歩下がった。
「……じゃあ、コイツは出羽殺しの犯人じゃないのか?」
「ええ、違います」
鏡の質問に、イオナは首肯した。
「犯人はこのツアーに一参加者として加わり、そして昨日の夕食の後に密かに出羽を『無月の門』を開いて殺害。その後は何食わぬ顔で翌朝を迎えています。昨夜はほぼ全員が自室で過ごしていたため、誰にもアリバイがありません。正確に言えば僕とマナはほぼ朝までデュエマをしていたためアリバイがあるのですが……犯人にとって僕らは正直どうでもいい存在なので、計画としては問題なかったでしょう」
「出羽は結局、どうやって殺されたんだ? 《卍 デ・スザーク 卍》はどうやって具現化されたんだ?」
「それについては、今からご説明します。そもそも、《卍 デ・スザーク 卍》は具現化などされていません。犯人は自らの手で出羽を殺害し、密室を完成させています」
「なんだと?」
「そのトリックについて、これから説明します。そもそも、犯人はどうしてあんな見立て殺人を行ったのか、どうして密室にせねばならなかったのか、これにはしっかり理由がありました」
イオナは自身の《卍 デ・スザーク 卍》を取り出し、机の上に置く。
「そもそも、どうして犯人は密室を作る必要があったのか。これは比較的単純です。翌朝まで死体が発見されてはいけなかったからです」
「と、いうと?」
「もし何らかの理由で夜の10時などに遺体が見つかったとしましょう。こうなると前後の状況からアリバイの有無がバラバラになってしまい、犯人は絞られてしまいます。しかし翌朝の死体となれば、話は別です。参加者は夜はおおよそ自室に帰るわけですから、絶対にアリバイのない時間が発生してしまいます。そうなると、犯人捜しは平行線となるわけです。『木を隠すなら森の中』と言いますが……自分のアリバイを作るのではなく、逆に誰もアリバイがないことによって、犯人は自らを森の中に隠すことにしたんです」
そしてもう一つ、とイオナは付け加えた。
「この『無月の門』の仕掛けもまた、大きく2つの意味がありました」
「2つの意味?」
「そうです」
イオナは続けて、4枚の魔導具カードを並べた。
「ご存知、無月の門は魔導具カード4枚で開きます。そして出羽の殺害現場には《堕魔 ヴォーミラ》であるところの鏡面台、《堕魔 ドゥシーザ》であるところの鋏、《堕魔 ヴォガイガ》であるところの額縁、そして《堕魔 グリギャン》であるところの燭台がありましたね。どれもデ・スザークのデッキでは使われるので、違和感はなかったでしょう」
しかし、とイオナは話を続ける。
「僕も最初はただただ演出のために設置されたものだと思っていましたが、それは密室を生み出すのに必要な魔導具たちだったんです」
「密室の生み出すのに? その道具を使ったってことか?」
「そうです。サムターン回しのちょっとした応用です」
イオナは《堕魔 ヴォガイガ》と《堕魔 グリギャン》の2枚を手に取ると、紙を敷いてペンを走らせた。
「まず犯人は出羽の夕食に睡眠薬を仕込むと、部屋に戻って眠りに落ちたところを首を絞めて殺害。そして首に細いロープを括らせると、鏡面台を足場にして出羽の遺体を吊り上げます。続いてそのロープを途中で部屋のサムターン鍵に括りつけます。さらに、それとは別に2本目のロープをこの鏡面台の脚に引っかけておけば、準備はOK」
大雑把に、イオナは絵を描いた。
「あとは『無月の門』の演出するための道具を並べて死体の胸をナイフで突き、燭台に火を灯し、両方のロープの両端をドアの隙間から通して鍵をかけず、自分は部屋を出ます。どちらのロープも、両端が外に出ていることを除いて室内で輪っかを作ったような形ですね。そして鏡面台の脚に引っかけた方のロープを引っ張ると……」
イオナはイラストに描き込んでいく。
「鏡面台は倒れ、足場を失った出羽の遺体は落下し、サムターンが落ちて鍵がかかるという仕組みです」
「でも、それだと出羽の死体の方に括られた方のロープは部屋の中に残りますよね? 部屋にも出羽の遺体にも、ロープなんか残ってなかったはずだけど……」
「それはそうです、残りませんよ。ちゃんとロープはどちらも回収したんですから」
イオナは、イラストにそれぞれの”魔導具”が置かれていた位置を描き込んでいく。
「そもそも、鏡面台に引っかけた方のロープは特にどことも括りつけていたわけではないので、真っ直ぐ引っ張るだけで回収ができます。そしてもう一本の鍵をかけるのに使ったロープですが、遺体にこうやって通すと、その先には《堕魔 グリギャン》がいるため……」
イオナはロープと《堕魔 グリギャン》が重なる部分に×印を描き込んだ。
「あとはロウソクの火でロープが燃えて切れるので、両端をそれぞれ引っ張るだけで回収できるようになる、というわけです。実際、鏡面台の脚にはロープが擦れたような痕がありましたし、燭台の近くには燃えカスのようなものが落ちていました。必要だったのは足場となる《堕魔 ヴォーミラ》と、ロープを焼き切る《堕魔 グリギャン》。これがこの殺人を『無月の門』に見立てた1つ目の意味です」
そして、とイオナは続ける。
「この見立てにはもう1つの意味がありました。『無月の門』の演出によって、朱雀マオの存在を連想してもらうためです」
「朱雀マオを連想……?」
「朱雀マオのプレイヤーとしての特徴として、非常に優秀なデ・スザークの使い手であることが挙げられます。そしてこのメンバーが集まっていることを重々承知した上で、犯人は『無月の門』の儀式を行うことにより、出羽の死に対して朱雀マオを関連づけることに成功します。結果、あの場で甲斐さんが『朱雀マオの呪いだ!』と叫んでくれたことで、この目論見も成功します」
「どうして、そんなことをする必要が……?」
「これは、犯人にある想定がありました」
イオナは今度はスマホを取り出した。電波は繋がらないが、当然ながらオフラインで撮った写真などを見ることは可能だ。
「もともと犯人としては、この事件を起こしたときに高森麗子自身が捜査に乗り出すと考えていました。それ自体は自然な考えです。彼女は15歳ではありますが明晰な頭脳と、高森の持つ膨大なネットワークと人材があります。彼女はその力を普通に行使してしまうだけで、それなりの隠し事は明らかになってしまうでしょう。そして――」
イオナは写真を開いた。これは先ほど、麗子が送ってきた画像をモニター越しに撮影したものだ。
「当然、朱雀マオの名前が挙がれば……ここにいる人物と朱雀マオの関連事項を洗い出されることになります。例えば、この写真みたいに」
「これは……?」
「鏡さんには、見覚えがあるんじゃないですか? 流石に知らないとは言わせませんよ」
イオナは鏡へと視線をやった。
彼は、明らかに動揺していた。それもそうだろう。自分の作った動画のスクリーンショットが、目の前にあるのだから。
「もちろん知らないわけではない……だが、何が言いたいんだ?」
「落ち着いてください。別に鏡さんが朱雀マオの作ったデッキを自作のものと発言して動画にしていたことや、そのことでおそらくは出羽に弱みを握られていたことなんて、まだ指摘していないじゃないですか。そしてこれらが、恐らくは朱雀マオの死因そのものになっていることも」
「ふざけるな、オレは殺しなんかやってないぞ!?」
「……といった事実に、恐らく高森麗子であれば辿り着くと読んだのでしょう。高森麗子がこの場にいなかったのは、犯人にとっての誤算でした。まぁ結果的に、高森麗子と直接繋がりがあった僕がいたので事なきをえましたが。実際、この事実をもって鏡ミライを重要参考人とするには充分過ぎますからね」
「え? つまり……」
「いやー、僕も騙されましたよ。ずっと鏡さんじゃないか、と思っていましたからね。特に高森麗子からの指摘をもらったときには、さすがに鏡だろうと決めうって証拠を探していましたから。出羽を殺し、それを鏡に押しつける――それが犯人の狙いだったわけです」
ですが、一つだけずっと気になってることがありました、とイオナは言った。
「この密室トリック、冷静に考えると一つの大きな欠陥があるんです。ロウソクの火がロープを焼き切るのに、相応の時間が必要なことです。そしてその間、誰も出羽の部屋に近づいてはならない……トリックがバレますからね。だから犯人は、館のどこに誰がいるかを把握している必要があったんです」
「そんなことできる人が?」
「マナが『どこのデッキに何のパーツを入れているのか把握できなくなった』と言ったときに気づいたんですよ。一人いたじゃないですか。どのデッキにどのパーツが入っているのか、正確に把握していた人が。だってそうなるよう、自分から仕向けたんですから」
イオナは《卍 デ・スザーク 卍》を手に取ると、犯人の方へそのカードを滑らせた。
「薬子イズミさん。アンタが出羽リンリを殺した、その犯人です」
†
「イズミが?」
「薬子さんが……?」
イオナはじっと、薬子の顔を見た。彼女は数秒間黙していたが、小さな笑い声とともに口を開く。
「なるほど、面白い推理ですね。どうして私が、皆の居場所を把握できたと?」
「だって貴女が、風呂の順番を決め、僕らを遊技場に案内した本人じゃないですか。おおよそ、鏡には『用事を済ませたらあとで部屋に行くから、待ってて欲しい』などと伝えたのでしょう。甲斐さんはまだ雨が降っていなかったので絵を描くために外にいましたし、新宮さんはお風呂にいましたから。30分、それだけあれば充分だったんじゃないですか」
「…………」
「そして貴女は出羽を殺害し、ロープが焼ききれるのを待つとそれを回収し、何食わぬ顔で鏡の部屋に行った……そうじゃないですか?」
「だとしても、私が殺したという証拠はあるの? イオナくん、私が出羽を殺したという証拠があるなら、出してみなさいよ」
「……あるんじゃないですか、貴女の部屋に行けば。例えば……処分できなかったロープとか」
「!?」
「本来であれば、貴女は全員が寝静まった夜に外に出てロープを埋めるなり焼くなり一旦隠すなり、何気なく処分することを考えたはずです。しかし、いくつかの誤算がありました。まず一つは、深夜から今朝にかけて降っていた大雨。外に出れば濡れるのは必至ですし、万が一濡れてる姿を見つかってしまったら不審に思うはずです。そしてもしかしたら、僕らが一晩中遊んでいたのも誤算だったかもしれません。本当に、何かのタイミングで鉢合わせの可能性を考えた貴女は、処分を保留せざるをえなかった。そうじゃないですか?」
「…………」
「実際ロープなりなんなりが見つかれば、その痕跡から何かしらの事実は確定するわけです。もし薬子さんが良かったら、お部屋に案内させていただけると……」
薬子イズミは、大きく息を吐いた。そして少しよろけた後、椅子へと腰かける。
「……ねぇ、イオナくん。貴方は主に競技プレイヤーで、デッキビルダーでもあるでしょ? 貴方ならわかってくれるかな。デッキビルダーにとって、もっとも悔しいこと」
心当たりはある。それは徹夜して作ったデッキに欠陥があったことでもなく、自信を持って挑んだ新デッキがCSで0-5した時でもない。
「……自分の作ったデッキを他人のものにされること」
「そう。そんな屈辱はマオは毎回毎回受けることになった……」
「やっぱり、『鏡の未来研究所』のデッキって、あれは全部朱雀マオさんが作ったものだったんですか?」
「正解よ、イオナくん。だけど鏡は自分の名声欲しさに、それを全部自分の名誉としたの。既に有名配信者だった鏡と、一般的な知名度はないマオ。声を上げても無駄なことは、わかりきっていた」
薬子の表情は悲しそうに、溜め息を吐いた。
「薬子さん、もしかしてとは思ってたんですが、貴女の恋人って鏡でも出羽でもなく……」
「私にとっての朱雀マオは、私の全てです。昔も今も」
薬子はギロリと鏡を睨む。
「コイツと出羽は最初からグル。コイツらは二人でマオにデッキを作らせ、それを自分たちのものとして動画にし、利益を出していた。私はずっとそれを知っていたし、マオに辞めるよう言った。でもマオは律儀だから、鏡に昔借りた恩があるから、とか言って……。でもある日、ついにマオも嫌気が差して、『自分で動画を始める』って言ってくれたんです。そうしたら編集をイズミに任せたい、とも。私はそれをずっと楽しみにしてた。なのに、マオは死んだ。いや、殺された。コイツらに」
「殺された……?」
「オ、オレは殺してなんかいない」
「まだそう言い逃れる気? 殺したも同然じゃない!」
薬子の言葉、表情には凄みがあった。
「もともと鏡なんかに、デッキを作る能力なんてさしてないのよ。だから、コイツらはマオに辞められたら困る。だから、説得……いや、脅迫しようとした。そしたら口論になって、結果突き飛ばされたマオは頭の打ち所が悪く転落死。事故として処理されました」
「そういうことだったんですか……」
朱雀マオの死の真相を追っていた新宮も、神妙な面持ちで聞いていた。
「偶然の事故死なんてありえない。そう思った私は真相を知るために、復讐のために鏡の動画制作スタッフに応募したんです。もちろん、私とマオの関係など知らないでしょうから。恋人になって欲しいなどとという、コイツからの屈辱的な提案も受け入れた。真相のためにね。そして出羽もこの死に絡んでいることを知ると、私は出羽にも言い寄った。甲斐さん、貴方の指摘はごもっともよ。私は本当に、どうしようもない女」
「…………」
「やがて真相を知ることができた私は、出羽を殺してその罪を鏡に被せるための計画を立てたの。だから計画は半分成功、半分失敗ね。出羽には死を、鏡には死より重い屈辱を、と思ったんですけど……。だったら両方、殺しておけばよかった」
数秒の沈黙が訪れた。だがその後、堰を切った用に声が上がった。
「ハハハ、馬鹿な女だ」
鏡ミライが、狂気の笑みを浮かべていた。
「オレは何の罪に問われることもない。デッキに著作権はないからね。そして朱雀マオは事故死だ。勘違いした女の馬鹿な計画のお陰で、邪魔な出羽は消えた。ありがとうイズミ、感謝してるよ」
「コイツ……!!」
「そしてありがとう森燃イオナくん。僕の無実の証明と、殺人鬼を捕まえてくれてね。『ミステリーデュエマツアー』、最高のイベントだったよ。そう宣伝しておいてあげようかな」
「お前、自分で何言ってるのか」
「いいんですよ、別に」
薬子が吐き捨てるように言った。
「その人の言うとおりです。全ては私が悪いわ。もうじき、高森さんも警察も来るでしょ。大人しくしてるわ」
「…………薬子さん」
やがて薬子の言葉通り、麗子は警察とともにやってきた。薬子は、パトカーの中へと去っていった。
イオナもマナも、後味が最悪な虚無感を覚えていた。
†
「納得いかねー!」
後日、イオナとマナは高森麗子の邸宅に呼ばれていた。諸々の労い、ということらしかった。
「アイツぜってー朱雀マオ殺しに関わってるのに、なんでアイツが今回の件で利益得てんだよ。おかしいだろ」
「ほんとですよ」
薬子イズミの話は、真実のようだった。そして出羽が朱雀マオの死に関しての事実を把握し、鏡を脅していたのも事実らしかった。
ちなみに甲斐は元々鏡とも朱雀とも仲が良かったらしい。朱雀の死については、ある日鏡から聞かされてしまってしまい、秘密を共有することになってしまった。ただ薬子と朱雀マオの関係までは知らなかったようで、「申し訳ないことをした」とかなり落ち込んでいた。
結局、今回の関係者で何もなかったのは鏡ミライだけ、ということになる。イオナとマナの怒りは収まらなかった。
「お二人の怒りはごもっともです。私も今回の件につきましては、少なからず怒りと申し訳なさを覚えています」
「高森の力でなんとかならないの?」
「鏡ミライが罪に問われない、というのは事実ですからね。“私の方から”はどうすることもできません」
「そんなぁ……」
「ですがイオナさん、誰か一人、事件関係者で忘れてる人がいませんか?」
「……あ」
麗子は少し笑って、モニターのスイッチを付けた。
画面に映っていたのは、ネットのニュースサイトだった。
タイトルには、鏡ミライの名前。そして、これまでの経緯と今回の件について、事細かに音声データを含む、文字通りの”全て”がそこには記されていた。
「そっか、新宮さんが……!」
「彼女、朱雀マオの姉らしいですね。異母姉弟、らしいですけど。弟の死について、ここ2ヶ月ずっと追いかけていたみたいです」
「それで今回のツアーに……」
「私も調べている途中でハッキングには気付きましたが、経緯が経緯だけに今回は見逃してあげることにしました。……ここまで証拠付きで全てがバラ撒かれたんです。動画サイトも、SNSも、話題一色。鏡は最早、再起は不能でしょう」
何か、ホッとする思いだった。
「もちろん殺人は許されない行為ではありますが……しかし彼と彼女の無念は少し、晴らすことができたんじゃないでしょうか。イオナさん、マナさん。この後、面会の予約をしています。そこで全てを薬子さんに報告して、今回の件は終わらせようと思います」
「そう、だね」
イオナはふと朱雀マオのことを思った。
会ったこともないプレイヤー、会ったこともデッキビルダーのはずだった。
(あまり、他人の気がしないんだよな……)
願わくば、彼の遺作たちがこれからの世で評価されんことを……そう思う、イオナであった。
(デュエマ殺人事件 FILE.3 完)
神結(かみゆい)
Twitter:@kamiyuilemonフリーライター。デュエル・マスターズのカバレージや環境分析記事、ネタ記事など幅広いジャンルで活躍するオールラウンダー。ちなみに異世界転生の経験はない。
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