By 神結
(前回までのあらすじ)
目を覚ましたイオナは、何故か自分が高校時代に戻っていることに気が付いた。しかしそこにあったのはかつての母校ではなく、生徒会によって徹底管理された自由のないものだった。
自身のデュエマを守るため、そして自由を取り戻すため、イオナは一週間後に生徒会長と「イニシャル・デュエマ」で決着をつけることを約束した。
その過程で、イオナは副会長の中之瀬スズナと戦うことになる。
彼女との対話の中で、イオナは生徒会側の姿勢に少し疑問を持つのだった。
・互いのプレイヤーは、どちらかがバトルゾーンに出した/唱えたカードと、同じ頭文字のカードをプレイすることができなくなる
(例:どちらかのプレイヤーが《ヤッタレマン》をプレイした場合、”や”から始まるカードは互いにプレイできない)
・濁点、半濁点は別の頭文字として扱う(例:ひ、ぴ、び、は全て違う頭文字として扱う)
†
ついに、この日を迎えた。
生徒会長天本ツバサと生徒代表森燃イオナとの対決が告知され、数多くの生徒達が会場である講堂に集合した。
講堂には『文デュ両道』の文字が掲げられており、文もデュエマも極めんとする数多くの生徒たちが、この学校から旅立っていった。
その講堂のステージ上に対戦卓は設けられており、イオナは約一週間ぶりに天本ツバサと対峙することになったのだ。
ただ前回のような、周囲の体温を奪うような悪寒は感じられなかった。
観戦する生徒たちからは、歓声のような声援のような言葉が飛んでいた。
「イオナくん、1つ言っておきたいことがある」
天本ツバサはそう言うと、観戦している生徒たちの方を見渡した。
「一見君を応援している彼らの姿をよく見て覚えておくんだ。彼らは、新しい校則ができてしまうというのに、何の反抗の意志も見せなかった人たちの姿だ。そして今日、何ら努力もなく君の努力に縋ろうとしている」
「…………」
まあ、それはそうなのかもしれない。誰かの努力にただ乗りしようとする人間は、どこにだっている。
例えば他人の努力と研究によってデッキリストを、さも自分が作ったかのように言う……いや、これ以上はやめよう。
「どうする? 試合をするかい? イオナくん」
「……僕はそれでも」
ただあくまでこれは、他の生徒たちは関係ない。
「僕と僕に関わる人たちのデュエマは守りたい」
「なるほど、いい答えだ。では試合をしようか」
ツバサの先攻でゲームは開始した。
ツバサのデッキは噂に聞いていたように、マナを伸ばしたコントロール系のデッキだった。
ちなみに《フェアリー・ライフ》などを採用して中盤以降のブーストを別のカードに頼るか、2コストブーストを別なカードにして《フェアリー・シャワー》などを採用するか、あるいはそれぞれを1~2枚ずつ採用するかは結構好みの出るところだ。
会長はというと、マナに置かれていくカードを鑑みるに割とハイランダー寄りの構築をしているようだった。いわゆる「5Cミラクル」に近く、多分《フェアリー・ミラクル》だけ4枚採用しており、それ以外はハイランダーに近いのだろう。
ただこの構築だと2ターン目にフェアリー系の呪文を唱えられる構築に弱いため、それ以外のブーストカードもそれなりに採用されているはずだ。
一方こちらの持ち込みデッキはというと、結局ビートダウン系の選択をした。
会長とコントロールミラーをするかも悩んだのだが、流石にその選択だとイニシャル・デュエマの知見が足りないと判断した。
ただ4枚構築の副会長みたいなのは、この前僕が捌いたように特定のカードに極めて弱くなるので、「火水自然ハイランダービート」みたいな構築になっている。
ゲームは僕が《フェアリー・ライフ》を撃ち、会長は《白米男しゃく》を返しに撃ったところからスタートした。
《ネ申・マニフェスト》から《マニフェスト <マルコ.Star>》と繋ぐ理想の動きで、手札を増やしながら攻めていく。
正直練習段階では「これさえ決まればだいたい勝てる」という感触だった、最高のムーブが決まったのだ。
一方で会長側もこれに対抗してくる。
《Dの牢閣 メメント守神宮》をトリガーさせて、一旦ブーストで繋いた。ターン開始時、こちらのマルコ.Starは効果でタップされる。
こちらとしてはメメントが残ると永久に勝てないので、これを《龍脈術 落城の計》で剥がすことにする。このゲーム、手札に戻すカードは破壊とそれほど遜色なく、かなり強力なのだ。
だが5ターン目には《ソーナンデス》から《ドンジャングルS7》が現れたのだ。
かつての【チェンジザドンジャングル】のような動きを彷彿とさせるが、会長のデッキはどちらかというとハイランダー寄りだ。それでも流石に、引くものは引いている、ということだろう。
こちらもカードをそれなりに引いてはいるので、対抗策は充分ある。ひとまず、ビートの大敵であるドンジャングルは《スパイラル・ゲート》でお帰りいただいた。
というわけで、ゲームはまだまだこれからだ。
†
『自由な校風』とは誰にとっての理想でもあるが、それは絵に描いた餅だ。
”自由”を維持するには凄まじい努力が必要だが、人というのはそのために努力をしない生き物なのでは? ということに、天本ツバサは気付いてしまっていた。
人は自由から逃走するし、制約を求める。人とは、自由を求めながら不自由が必要な生き物なのだ。
だから初めて生徒会室に入ったときのことは、よく覚えている。
「ああ、君が例の投書を書いた新入りだね。僕も読ませてもらったよ」
当時の生徒会長は、自分が書いた投書を手に、ニコニコと笑っていた。思えばこの人も、相当変わり者だった。
「いいじゃん、やってみたら? この学校はそれをするのも”自由”だから。そういう高校だからね」
過剰は校則はツバサの“社会実験”だった。
ある日、自由を奪ったとき、人はどう反応するのか。どう対応するのか。
もしも、もしもツバサが期待している以上に、人が自由に貪欲で殊勝であるならば、この高校の自由は守られるはずなのだ。
だが結局、そうはならなった。
生徒達は不満を募らせながらも直接的な行動はほぼ何もしなかったし、生徒会を打倒するために勉強(デュエマ)を頑張るわけでもなかった。
残念ながら、”社会実験”は成功してしまったのだ。
望まぬ独裁を手にしてしまった。
「……森燃イオナ、か」
一個人による革命は望んでいない。社会全体として、変化せねばならないと思っているからだ。
だが、キッカケとしては、誰かは立ち上がらねばならない。
「期待はしているよ、イオナくん」
†
ゲームもいよいよ終盤戦だ。
この対面、この状況において、僕がプレイされてはいけないカードがいくつかあった。
まず《百族の長 プチョヘンザ》(ミアモジャ)。僕のアタッカーが全て飛ばされる上に、タップして召喚されることになる。ただこれについては出された直後に負けるわけではなく、スター進化などでケアも可能。特に《キャンベロ <レッゾ.Star>》のような、バトルゾーンを離れるとアンタップする能力はこのカードに対して特に強くなる。
で、次に《砕慄接続 グレイトフル・ベン》(さいりつせつぞく)。自身がブロッカーを持っている上にマナからクリーチャーも出せるようになるヤバいカードだが、これは先ほど《サイバー・ブック》をプレイしているので問題ない。
お次は《大樹王 ギガンディダノス》。全ハンデスな上にアタッカーが動けなくなるのだが、これも《ダンディ・ナスオ》をとりあえずプレイしておいたことで、ケアに成功している。
そして、一番ヤバいと思っているのが会長の切り札らしい《零獄接続王 ロマノグリラ0世》(れいごくせつぞくおう)だ。こちらは墓地マナからカードが増える上にアタックされない、それでマッハファイターのEXライフ持ち。正直、何も対策していないなら、このカードに関しては出てきたら即投了まであるレベルだ。一応なんとかできるカードを採用はしているが、機能するかはまた別問題だ。
ただ、ここで最高のカードを引くことができた。《伝説の秘法 超動》(レイジクリスタル)だ。
2ドローするだけだが、実質的には《「本日のラッキーナンバー!」》を撃っているようなもの。ついに全てのシールドを割り切り、ターンを返した。
これは我ながらよく頑張っている。負け筋となるカードのケアする、クリーチャーを出して攻撃を続ける。両方やらなくちゃいけないのがイニシャル・デュエマの辛いところだが、ここまで相当上手くやっているだろう。
「なるほど、イオナくん。実に見事だ。全生徒が君のような人だったら、この学校もこうはなってはいなかったんだろう」
会長のターンに代わり、彼は1枚カードをドローした。
「それはどういう意味ですか。そもそも、どうして会長はこんな校則を次々打ち出したんです? 何が目的で、何を期待しているんですか?」
明確な目的と期待する結果がある、ということについては副会長から聞いている。
「なるほど、スズさんと多少話はしているんだね。彼女はよく好んでその言葉を使うからね。その質問については、流石に答えてあげるべきだろうな」
ツバサは続ける。
「簡単な話だよ、イオナくん。僕は“自由を求める”人の可能性を信じた。それが目的だ。しかし結果はこれだ。期待した結果にはならなかった」
「それはどういう……?」
「だからつまりね、生徒たちは団結して”自由を取り戻す戦い”をすると思ったんだよ。生徒会を打ち破るべくね。生徒たち全員から、そういう動きがあるのを期待した。だが結果は……散々だった。最初はスズさんの謀反に期待したけど……まあ彼女とは仲良くなりすぎてしまったからね」
別に校則を作って生徒達を支配したいわけじゃあないんだ、と彼は言う。
「結局みんな自由がいいと言いながら、その本質は”与えられた自由”がいいんだ。学校から与えられた『自由な校風』が好きなだけなんだよ。デュエマについてもそうかな」
彼は引いたカードを確認すると、軽く頷いてそれをプレイした。
そして登場したのは……《「無情」の極 シャングリラ》だった。
「……おいおい」
ロマノグリラの元となったカードだが、このカードは進化カードなためシンプルにすぐ殴れる。そして、タップされているとき、こちらのクリーチャーは殴ることはできない。攻撃ロック効果の元祖と言っていい。なんなら、除去効果もついている。
まさか”ロマノグリラ対策の対策”に、こんなカードが入っているとは……。
いや、完全に予想外だった。だが確かに、入っていてもおかしくない。イニシャル・デュエマにおいては、こうした散らす構築は肯定される。
「さぁ、ここからどうやって自由を求める? 森燃イオナくん」
†
ところで、デュエルマスターズは自由なゲームだ。
ただその中で、イニシャル・デュエマは不自由や制約が多い。
イニシャル・デュエマにおける対策として、相手も使いたい強いカードを先に使うことや、イニシャルを被せることは基本だ。
「しかしですよ会長、僕はキューブドラフトとかタワーデュエルも結構好きなんですよ」
「突然何の話かな?」
「要するに結構色んなカードを知っているし、『え? そんなのデッキに入れちゃうの?』ってカードも入れちゃうし、対策も割と自由な発想でやっていいと思っている、ということです」
そう、カードゲームにおいて自由な発想は大事だ。少なくとも”学習を目的としないデュエマ”がないと生きていけない。
「ほう。つまり、この状況から君は何かをしようとしているわけだ」
「《「無情」の極 シャングリラ》はさすがにビビりましたけど、冷静になりました。割となんとかなります。僕はそもそもロマノグリラ対策を考えていたわけですし」
そう、このゲーム僕の勝ちだ。やはり僕はデュエマの女神に愛されている。
僕は手札の1枚のカードを見せた。
いま引いた《神聖麒 シューゲイザー》。
「ん? シューゲイザー? また久しぶりに見たなそのカード」
「会長、僕がさっき《ダンディ・ナスオ》で何を埋めたか覚えてます?」
僕はマナゾーンのカードを1枚指差した。
その名は、《逆転王女プリン》。
「イオナくん、まさか……」
「そういうことです」
マナゾーンで息を潜めていた《逆転王女プリン》。そして彼女は、《神聖麒 シューゲイザー》の導きによってバトルゾーン登場した。
シャングリラがプリンの効果によって、アンタップされる。イオナに自由が訪れた。
シャングリラの持つ封殺の力に対抗できたのは、プリンの自由の力だった。
そしてこの瞬間、観客たちは一番の盛り上がりを見せた。
†
試合の決着が付いた直後、天本ツバサは少し安堵した様子を見せていた。
「いい試合だったかはわからない。だが、見事な勝利だった」
そう言って、握手を求めてきた。こちらも慌てて、それに応じる。
「だが、これは覚えておいて欲しい、イオナくん。自由とは、決して与えられるものではない。掴み取るものなのだ。そして掴み取った自由は、守り抜くよう努力すべきなのだ。その先に『自由な校風』は存在する」
「…………」
それは確かに、そうなのかもしれない。
デュエマだってそうだ。勝利を目指すことにおいて、自由なデッキは即座に許されるわけではない。環境を知り、対策を学び、様々な選択肢を検証した先で、ようやく好きなデッキで勝つことができる。自由なデッキ選択で――好きなデッキで勝つことは、かくも厳しい。
「だからこれからの学校の雰囲気を注視する。もし期待する方向に進むのなら、これまでの校則は是正せねばならない。生徒一人一人が自由を求め、それを掴み取る努力をする時が訪れたら、きっと多くの校則はその意味を失うだろう」
観戦していた生徒たちは、次々と声を上げ始めた。
彼らはきっと近く、デュエマを学び、これまでの校則を撤廃するよう生徒会に働きかけることだろう。
「この様子を見る限り、僕は今後を楽観しても許されるんじゃないかとは思ってるよ」
「会長……」
「では行こうか、スズさん。我々生徒会は、これからが忙しくなりそうだ」
「わかりました、会長。大丈夫です、どこまでもお供いたします」
そう言って二人は、講堂を去っていった。生徒たちからは色々な言葉が飛んでいたが、僕は黙って二人を見送ることにした。
後日――
僕は訳あって生徒会室を訪ねることとなった。
この前のイニシャル・デュエマの件での対決について、記録が取れたので一応確認をしてほしい、との依頼があったためだ。
生徒会室に入ると、会長が割と忙しそうに書類作業をしていた。
そして会長の傍らには、チョコレートが置いてあった。
ああ、そうか。今日は2月14日。そういう日だった。
「……会長、恋愛は禁止されているはずだったのでは?」
「人の感情を法で縛るのは愚かな行為なんだよ、イオナくん。それにそんな校則はもうなくなったからね」
「はぁ……」
「だいたい君も『普通にクソだと思います』と言った、って報告を受けたが?」
「で、チョコレートはその報告をした人から貰ったんですか?」
「それは本人に確認してくれ」
「貴方も当事者でしょ」
「まあ、そうなるか。僕とスズさんの間には切っても切れない関係があるからな。当事者になるのもやむなしか」
「あれ、もしかしていまから惚気話とか始まります?」
「それはそうと、君にもそういう人がいるんじゃないのか?」
「…………」
「僕から言えることがあるとすれば」
会長はチョコレートを1つ手に取りながら、言った。
「大切なものは大切にするんだよ、イオナくん。僕もスズさんには長らく申し訳ないことに付き合わせてしまったと思っているからね」
生徒会室を出ると、マナがそこで待っていた。
「探したんですよ、イオナさん」
「え? それはごめん」
「いや、別に謝る必要はないんですけどね」
マナはそう言って、楽しそうに身体を揺らしていた。
「イオナさんこっちの方に向かってたって聞いたんですけど、生徒会室にいたんですね」
「ああ、うん。会長に呼ばれててね」
「この前の件ですか」
「そんな感じ。あと会長と副会長の惚気話ね」
「まぁ、実質イオナさんのお陰でくっつけるようになった、って言っても過言ではないですからね。中之瀬副会長、イオナさんに感謝してましたよ」
「あー……」
なんか、以前あったときに色々濁された理由が納得できた気がする。
あの人は会長の理念に賛同してたけど、個人としては会長と付き合いたかったから、期待する方向に現状が打破されることを望んでいた、というわけだ。あのバカップルどもが。
「それで、私がなんでイオナさんのこと探していたわかります?」
わかるような、わかってしまうような。
「……この前結局すっぽかした、『デッキ構築論』を教える話とか?」
いや、流石にその回答はないだろ。
「そういえばそんな話もありましたね。忘れてました。イオナさん、それっきりになってたんで今日この後とかどうですか?」
「あー、そうだね。じゃあファミレスとか行く?」
「そうしましょう、せっかく行けるようになったんで。で、話はそれではなくて」
「…………」
ここで退くのは、流石に違う気がする。
(大切なものを大切に、か)
ふと、会長の言葉が頭をよぎった。
(僕はデュエマもマナも大切にしていると思うし、マナも僕を信頼してくれている。果たしてこれ以上、望むべきことがあるんだろうか?)
わからないなぁ、と思わず口に出そうになった。
ただとにかく、いまの僕にできることは、マナの期待に応えることであって。そして流石の僕でも、その期待とは勘付くことくらいはできるものだ。
だから少し勇気を出して、こう言った。
「……もしかして、貰えるものとかあったりする?」
「そうですね、イオナさん。ぜひ受け取ってください」
マナから渡されたもの、それは。
掴み取った自由の報酬と考えるには、ちょっと大きすぎて心を埋め尽くしてしまう、そんな気がしたのだった。
(イニシャル・デュエマ 下 終わり。次回、7-1に続く)
神結(かみゆい)
Twitter:@kamiyuilemonフリーライター。デュエル・マスターズのカバレージや環境分析記事、ネタ記事など幅広いジャンルで活躍するオールラウンダー。ちなみに異世界転生の経験はない。
『異世界転生宣言 デュエル・マスターズ「覇」』バックナンバーはこちら!!