3. 「ゼロ」を集めてみる
ところで、パイオニアにおいて0マナでできる行動は《モックス・アンバー》や装備品を出すことだけに限られない。
《果てしなきもの》や《石とぐろの海蛇》など、マナコストがXだけのクリーチャーは、0マナで召喚することが可能だからだ。
もちろんそんなことをしてもそのまま即座に墓地に落ちるだけなので通常は何の意味もない。
だが、もし意味があるとしたらどうだろうか?
《唯々+諾々》。このカードを唱えた上でマナコストがXだけのクリーチャーを0マナで召喚すれば、実質サイクリングすることが可能となる。
そして大量に墓地に送り込んだそれらのクリーチャーを《先祖の結集》「X=0」で呼び戻せば (そのまままたすぐに死ぬのだが) 、さらに大量ドローを重ねられるのである。
そうと決まればこのギミックでデッキを作ってみるしかない。
パイオニア環境においてマナコストがXだけのクリーチャーは6種類存在する。すなわち《羽ばたき飛行機械》を入れれば28枚もの0マナクリーチャーを搭載することが可能である。
つまりデッキの半分近くがゴミ。こんなに頭の悪そうなデッキができてしまっていいのか。
ともあれできあがったデッキがこちらだ。
『唯々諾々ストーム』
枚数 | カード名(メインボード) |
---|---|
1 | 《繁殖池》 |
2 | 《神聖なる泉》 |
2 | 《寺院の庭》 |
4 | 《マナの合流点》 |
2 | 《ギルド渡りの遊歩道》 |
2 | 《神秘の神殿》 |
1 | 《断崖の避難所》 |
1 | 《氷河の城砦》 |
1 | 《陽花弁の木立ち》 |
1 | 《シヴの浅瀬》 |
1 | 《ヤヴィマヤの沿岸》 |
4 | 《羽ばたき飛行機械》 |
4 | 《歩行バリスタ》 |
4 | 《搭載歩行機械》 |
4 | 《石とぐろの海蛇》 |
4 | 《庁舎の歩哨》 |
4 | 《ウギンの召喚体》 |
4 | 《果てしなきもの》 |
4 | 《唯々+諾々》 |
4 | 《先祖の結集》 |
3 | 《濃霧》 |
2 | 《衝撃の震え》 |
1 | 《回収》 |
枚数 | カード名(サイドボード) |
4 | 《沈黙》 |
4 | 《神聖の力線》 |
4 | 《ウルヴェンワルドの謎》 |
3 | 《造反者の解放》 |
このデッキの回し方は簡単である。まず初手に土地2枚と《唯々+諾々》が来るまでマリガンする。
あとはセットランドが止まりそうなところで1枚目の《唯々+諾々》を打って限界までドローし、4ターン目か5ターン目に2枚目の《唯々+諾々》からの《先祖の結集》で再び大量ドロー。ついでに引き込んでいるであろう《濃霧》でターンを稼いだら、《衝撃の震え》を設置してから《先祖の結集》を打って20点以上のダメージを叩き込んでフィニッシュ……という寸法だ。
作ったはいいもののどうなってしまうのか恐ろしすぎて対人では回していないデッキなのだが、「パイオニアでもこんなふざけたことができるよ」という一例としては良いデッキだと我ながら思う。
4. 「1+1」を突き詰める
ここまで考えた結果、ある恐ろしい結論が導き出されそうになった。
すなわち、パイオニアにおける「ゼロ」は基本的におふざけが過ぎるというものである。
イノベーションの余地がないというのはデッキビルダーにとっては息苦しいことこの上ない。勝っているデッキを完コピすることが最善の環境ということにもしなるのであれば、私はそのフォーマットを二度とプレイしないだろう。
だが、「ゼロ」を諦める=イノベーションの余地がないなどと、一体誰が決めたのか。
そう、「ゼロ」以外にも環境への打開策は存在する。「ゼロ」に可能性が残されていないというならば。
「1+1」を追求すればいいだけだ。
『サツイ 丙-一式』
枚数 | カード名(メインボード) |
---|---|
2 | 《山》 |
4 | 《聖なる鋳造所》 |
4 | 《感動的な眺望所》 |
4 | 《マナの合流点》 |
4 | 《戦場の鍛冶場》 |
1 | 《断崖の避難所》 |
4 | 《速太刀の擁護者》 |
4 | 《典雅な襲撃者》 |
4 | 《無私の霊魂》 |
4 | 《瓦礫帯のマーカ》 |
4 | 《タイタンの力》 |
4 | 《敵意借用》 |
4 | 《立腹》 |
4 | 《撃砕確約》 |
4 | 《アドレナリン作用》 |
1 | 《神々の思し召し》 |
4 | 《焼き尽くす熱情》 |
パイオニアには「赤1マナでパワーを3上げるカード」が6種類も存在するので、それをデッキにするとこのようになる。すなわち、殺意の塊である。
2ターン目に二段攻撃を持つ《速太刀の擁護者》か《典雅な襲撃者》を出し、3ターン目に(赤)(赤)(赤)から呪文3枚でパワーを9上げると10×2で20点。算数よくできたねたかし君というわけである。
もちろんありとあらゆる妨害で弾け飛ぶガラスの大砲なので《ルーンの母》が再録しない限りこのデッキで勝つのは不可能という結論に至った (のでサイドボードは作っていない) わけだが、結果としてこの発想がさらなるクソデッキへのブレイクスルーを育むこととなった。
すなわち。
いっそのこと《速太刀の擁護者》にクソデカ《巨像の鎚》を持たせたらスマッシュブラザースでは???
『ハンマータイム』
枚数 | カード名(メインボード) |
---|---|
4 | 《神聖なる泉》 |
1 | 《聖なる鋳造所》 |
1 | 《蒸気孔》 |
4 | 《マナの合流点》 |
4 | 《感動的な眺望所》 |
4 | 《尖塔断の運河》 |
2 | 《氷河の城砦》 |
4 | 《石とぐろの海蛇》 |
4 | 《審判官の使い魔》 |
4 | 《速太刀の擁護者》 |
1 | 《上級建設官、スラム》 |
4 | 《神々の思し召し》 |
1 | 《防護の光》 |
4 | 《武器庫の開放》 |
4 | 《シガルダの助け》 |
4 | 《執着的探訪》 |
4 | 《抑圧的な光線》 |
1 | 《液態化》 |
1 | 《きらきらするすべて》 |
4 | 《巨像の鎚》 |
枚数 | カード名(サイドボード) |
4 | 《潮縛りの魔道士》 |
4 | 《拘留代理人》 |
4 | 《鬼斬の聖騎士》 |
3 | 《防護の光》 |
殺意の弱点は「3ターン目に手札もマナもオールインしてようやく人が死にうる」ために相手の妨害に対して極端に弱いことにあった。
だが《シガルダの助け》と《巨像の鎚》なら2マナと手札2枚しか使っていない。つまり《神々の思し召し》を構える余地が生まれるのである。
《武器庫の開放》では《巨像の鎚》をサーチできても《シガルダの助け》を探すことができないため、《執着的探訪》を介して引きにいくしかないというのがネックだが、2ターン目からクリーチャーに《執着的探訪》を付けて殴りつつ《神々の思し召し》で守るなどのより多角的なプランがとれるようになったことで、ファンデッキとしての一応の体裁は保てるようになったものと思われる。
5. 「1+1」の限界
「1+1」を突き詰めると妨害で即死するというのがここまでの容赦のない結論であった。
だが、それならば妨害が効かない「1+1」を作れば最強ということだ。
しかし、そんなコンセプトがパイオニアに存在しているのだろうか?
答えはYes……もちろん存在している。
そう、呪禁オーラだ。
『呪禁オーラ』
枚数 | カード名(メインボード) |
---|---|
4 | 《繁殖池》 |
4 | 《寺院の庭》 |
4 | 《マナの合流点》 |
4 | 《植物の聖域》 |
4 | 《要塞化した村》 |
4 | 《林間隠れの斥候》 |
4 | 《バサーラ塔の弓兵》 |
4 | 《頑固な否認》 |
4 | 《抑圧的な光線》 |
4 | 《執着的探訪》 |
4 | 《第六感》 |
4 | 《液態化》 |
4 | 《天上の鎧》 |
4 | 《きらきらするすべて》 |
4 | 《ひるまぬ勇気》 |
枚数 | カード名(サイドボード) |
4 | 《防護の光》 |
4 | 《神聖の力線》 |
3 | 《送還》 |
2 | 《腹背+面従》 |
2 | 《歩哨の印》 |
パイオニアでオーラをコンセプトにするなら白単や白緑という選択肢もあるが、私の考えとしては3色をぶん回すしかないという結論に至った。環境に存在するオーラのカードパワーとマナカーブとの関係上から、《執着的探訪》は外せないと感じたからだ。
一部の強力なオーラや相手によっては《頑固な否認》を探すために、占術やドローが多い構成になっているのも特徴的である。環境的に《グリフの加護》では飛行が止まりやすく、また《怨恨》がない関係上ダメージを確実に通す手段が必要なのも《液態化》の採用を後押しした。
Pioneer Preliminary Bogles
R1 WR Knights WLW
R2 Mono Black Aggro WW
R3 Izzet Phoenix LWW
R4 Mono Green Ramp LWW
R5 RB Aggro WLW5-0!当たりを見るとメイン頑固じゃない気がするが、たまたまあまり引かなかった。送還と差し替えるのが丸そう。《腹背+面従》はランプ相手に活躍。 pic.twitter.com/q2XhVaKYLP
— Atsushi Ito (@matsugan) December 24, 2019
カードプールに「族霊鎧」持ちのエンチャントがなく《至高の評決》がかわせないという弱点はあるものの、《密輸人の回転翼機》が健在だった頃には死ぬほど打たれていた《突然の衰微》が環境から消えているのも追い風で、現時点でもメタられていなければ5-0できるくらいのポテンシャルはある。
さらに年明け1月24日に発売予定の新セット『テーロス還魂記』には、《圧倒的洞察》という《魂の絆》と《執着的探訪》が合わさった夢のようなカードが収録されるようなので、呪禁オーラは今後要注目のアーキタイプとなりそうだ。
「ゼロ」も「1+1」もどっちもおふざけじゃねーかと思われるかもしれない。
確かにパイオニアにおけるメタ上位のデッキたちは極めてタフであり、アグロとミッドレンジ以外のポジションにおいてローグデッキで勝ち抜くのは至難の業である。
だがこれらはまだ未完成なコンセプトの卵とも見ることができる。『テーロス還魂記』の新カードで強化されそうな呪禁オーラのように、今後のカードプールの広がりによっていずれかのコンセプトが日の目を見るときがきっと来る。
その日まで、デッキビルダーは刃を研ぎ続けるのみだ。
ではまた次回!
ライター:まつがん
フリーライター。クソデッキビルダー。
論理的な発想でカード同士にシナジーを見出すのだが、途中で飛躍して明後日の方向に行くことを得意とする。
オリジナルデッキでメタゲームに風穴を開けるべく日夜チャレンジを続けている(が、上記のような理由で大体失敗する)。
あああ
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パイオニア新妄想紀行 vol.1 ~パイオニアとは?~ |