By まつがん
世間の話題は今まさに開始したばかりの王来MAXに集中している頃と思われるが、今回は番外編ということで、ここで一つ今まであえて放置していた宿題の話をしようと思う。
読者諸賢ならば既に気づいているかもしれない。クソデッキ作りをコンセプトとして標榜するこの連載において、登場していてしかるべきとある1枚のカードが、いまだ登場していないことに。
それは、「20周年超感謝メモリアルパック 裏の章 パラレル・マスターズ」の中でも一際特異な能力を持つこのカード。
《砕界の左手 スミス》。
初手交換……TCG用語で言ういわゆる「マリガン」を実現するカードということで、今回のパラレル・マスターズでもコラボしていたデュエル・マスターズの兄貴分に当たるTCG「マジック:ザ・ギャザリング」のプレイヤー出身である私にとっては、懐かしき故郷の味がする郷土料理にも等しい効果を持っていることになる。
だがそれにもかかわらず、当連載におけるパラレル・マスターズの新カード紹介回に割り当てられていたのは、ご存知のとおり《エターナル・ブレイン/ブレイン珊瑚の仙樹》と《「カレーパンを食ってやるぜぇ!」》だった。
「どうしてまつがんは《砕界の左手 スミス》を紹介カードに選ばなかったのか?」
そのような疑問が出てくるのも無理からぬ状況と言える。だが、これにはしっかりとした理由があるのだ。
そもそも私がどのような基準で新セットからの紹介カードを選んでいるのかというと、基本的にどう使っても強いようなカードパワーに満ち溢れたSRやVRを紹介することはもとより本意ではなく、ちょっと一工夫しないとデッキにならなさそうだけれども面白い効果を持っているR以下のカードに光を当てることが使命と考えている (もちろんそれを乗り越えてSRやVRを紹介することもあるが、それはそのカードが単純に個人的に好きだったりデッキを作りやすかったりする場合が多い)。
だが、その本旨からすれば《砕界の左手 スミス》にこそ光が当たってしかるべきというようにも思える。それでも《砕界の左手 スミス》を選ばなかったのは、どういうことなのか。
答えは簡単だ。
一言で言って、マジでデッキにならなかったからである。
今回が番外編なのは、つまりはそういうことだ……これからお届けするのは「デッキを作る過程」ではなく、「デッキができなかった過程」なのである。その苦しみの軌跡を、あえて皆さんに共有することとしたい。
さて、《砕界の左手 スミス》でデッキを作るとなると、最初に考えるべきは何か。
それは、「《砕界の左手 スミス》の加入によって何が変わるのか?」ということだ。
こうした既存の概念の枠を打ち破るようなカードの場合、普通のカードよりも抽象的な考察が必要となる。ゴールがスタート地点から遠いので、一歩一歩論理を言葉にして踏みしめないと、途中で道に迷ってしまい正確な着地点を見出せなくなってしまうからだ。
それでは実際何が変わるのかということを考えてみると、「特定のカードを初手に引き込める確率が変わる」ということになるだろう。
ならば《砕界の左手 スミス》の加入は、「これまで特定のカードを引き込めないばかりにデッキにならなかったコンセプトをデッキにできるようになる」ということに他ならないのではないか。
具体的には、そう。
ゲーム開始時に設置できるフィールドと相性が良いのでは???🤔🤔🤔
《友情の誓い》や《熱血の誓い》はゲーム開始時に手札にあれば無料で設置できるオプションが付いたフィールドだが、手札交換がないこのゲームでは設置後のボーナスに比して後引きしたときのリスクが大きく、これまであまり使われてこなかった。
だが《砕界の左手 スミス》の登場によりこれらが安定してゲーム開始時に設置できるようになり、さらに同時に引き込めると手札1枚分得をするシナジーもあることで、現実的なコンセプトに生まれ変わったと言えるかもしれないのだ。
というわけで、できあがったのがこちらの「ノーチャージ・デュエル」だ!
『ノーチャージ・デュエル』
《滅亡の起源 零無》 | |
4 | 《砕界の左手 スミス》 |
《友情の誓い》 | |
4 | 《《「破壊の赤!スクラッパーレッド!」「知識の青!ブレインブルー!」「魅惑の緑!トラップグリーン!」「閃光の黄色!スパークイエロー!」「強欲の紫!ハンドパープル!」「ブレイクあるところに我らあり!シールド戦隊、トリガージャー!!」》》 |
《ビーチボーイズ》 | |
4 | 《レアカードハンター ウサギ団/ラビット・ハンド》 |
4 | 《五連の精霊オファニス》 |
4 | 《ニクジール・ブッシャー》 |
4 | 《”閃忍勝”威斬斗》 |
4 | 《”逆悪襲”ブランド》 |
1 | 《”轟轟轟”ブランド》 |
1 | 《暗黒鎧 ダースシスK》 |
1 | 《ドリル・スコール》 |
1 | 《グレイト”S-駆”》 |
4 | 《轟く覚醒 レッドゾーン・バスター》 |
2 | 《ドドド・ドーピードープ》 | 2 | 《鋼ド級 ダテンクウェールB》 | 2 | 《ヘルエグリゴリ-零式》 | 2 | 《暗黒の騎士ザガーン GR》 | 2 | 《ロッキーロック》 | 2 | 《Mt.富士山ックスMAX》 | 2 | 《ツタンメカーネン》 |
デュエマに存在するありとあらゆる「ゼロ」を集めることでもはやマナチャージすら不要になるのではないかという着想からできたこのデッキは、早速一人回しをした私にある一つの感情を抱かせた。
初手の5枚をつかみ取るたびにイメージされるのは黒板を爪でひっかいたような不協和音……牛乳を拭いた雑巾のごとき悪臭の気配……そう、この感覚は……。
デッキじゃない。
完成したデッキは、夏場にキッチンのシンクに一週間放置された生ゴミのごとき腐臭を放っていた。マナチャージは必要に決まっていた。
いくら《砕界の左手 スミス》といえど、特定のカード同士の組み合わせが初手に来る確率を100%にできるわけではない。不可能事を押しつけすぎるのは良くない。
ただこの経験を踏まえ、《砕界の左手 スミス》は単色に限りなく近いデッキの方がそのポテンシャルが生かせるのではないかというのが仮説として生まれた。
先攻だったり後引きした場合、《砕界の左手 スミス》は普通に使うとバニラクリーチャーなので役割がなさすぎてマナチャージせざるをえないが、ゼロ文明のカードなのでマナに負担がかかる。たとえば《天災 デドダム》と共存させるのはあまりに無茶だろう。そこで《砕界の左手 スミス》をマナチャージしたとしても問題なく回るデッキと考えると、単色のデッキということになるからだ。
さらにその上で、アイデアは次なる段階へと移行する。
マジック出身の効果を持つ《砕界の左手 スミス》。ならば、マジック出身のカードと組み合わせることでうまくいくのではないか?
そう、すなわち。
《Black Lotus》だ。
1ターン目に設置できると4ターン目に3軽減できるようになるので初手にあるかどうかが極めて重要なこのカード。ゼロ文明とゼロ文明、実質ノーコストのアクションと文字通りのゼロコストとの共演……これでデッキにならないはずがない。
というわけで、できあがったのがこちらの「スミスロータス不死鳥ドラグシュート」だ!
『スミスロータス不死鳥ドラグシュート』
《禁断 ~封印されしX~》 | |
4 | 《砕界の左手 スミス》 |
《Black Lotus》 | |
4 | 《爆流忍法 不死鳥の術》 |
《紅に染まりし者「王牙」/クリムゾン・ビクトリー》 | |
4 | 《王・龍覇 グレンモルト「刃」》 |
4 | 《無双龍幻バルガ・ド・ライバー》 |
4 | 《ボルシャックライシス・NEX》 |
4 | 《龍騎旋竜ボルシャック・バルガ》 |
4 | 《ドラグシュート・チャージャー》 |
1 | 《勝利宣言 鬼丸「覇」》 |
1 | 《フェアリー・ギフト》 |
1 | 《スクランブル・チェンジ》 |
1 | 《爆銀王剣 バトガイ刃斗》 |
ほか略 |
不死鳥の術とかボルシャックライシス・NEXでスミスとかロータスめくれて吐きそう。
どうやら《砕界の左手 スミス》を使うには「なるべく単色に近い方がいい」という以外にもまだ必要な条件があるようだった。
それは、「《砕界の左手 スミス》がデッキ内に入っていること」が確率上のデメリットとなるデッキタイプではうまく生かせないというものだ。
デッキ内にめくり要素を入れる限り、「《砕界の左手 スミス》がめくれる」という事象から逃れることはできない。そしてこうしたデッキタイプでは、《砕界の左手 スミス》の採用による初手の安定性向上よりも不純物の不採用によるめくりの成功率向上の方が優先すべきという結論になりやすいのだった。
ならば、めくり要素がなく単色に近いデッキで、《砕界の左手 スミス》で探す価値のあるカードといえば他に何があるだろうか。
私が考えたのは、《葉鳴妖精ハキリ》だった。《葉鳴妖精ハキリ》というカードは唯一無二の性能を持つために「《葉鳴妖精ハキリ》を引けばぶん回りだが引かないともっさりする」といったデッキになりやすい。その弱点を《砕界の左手 スミス》で補うことで、常時ぶん回りが可能なデッキになるのではないかという発想だ。
というわけで、できあがったのがこちらの「スミステージュラ」だ!
『スミステージュラ』
4 | 《砕界の左手 スミス》 |
《トレジャー・マップ》 | |
4 | 《葉鳴妖精ハキリ》 |
《桜風妖精ステップル》 | |
4 | 《天体妖精エスメル /「お茶はいかがですか?」》 |
4 | 《応援妖精エール /「みんな一緒に応援してね!」》 |
4 | 《雪精 ジャーベル》 |
4 | 《氷結龍 ダイヤモンド・クレバス》 |
4 | 《恋愛妖精アジサイ》 |
4 | 《武家類武士目 ステージュラ》 |
ジャーベルの「マナ武装」の邪魔じゃねーか!!!😡😡😡
いくら単色のデッキといっても「マナ武装」のようにマナ拘束がきつい能力がコンセプトの根幹にあると《砕界の左手 スミス》のメリットよりもデメリットが上回ってしまうのは当然の話だった。
そしてここまで来たとき、私はあえて目を向けないようにしていた問題点を直視さざるをえなくなってきたことに気が付いたのである。
それは、《砕界の左手 スミス》が起こりうるゲームのうち半分ではゴミ以下のスペックであるということだ。
もしこのスロットに他のカードを入れていたなら先攻だろうと後攻だろうと100%の力を発揮できる。だが《砕界の左手 スミス》を入れた場合、先攻を取った50%のゲームではこのスロットの勝利貢献度がほぼ0になることが確定してしまっているのである。
もちろんそのデメリットを上回るメリットがあれば問題はない。だがその条件は極めて達成困難に思われた。
なぜなら、そろそろみんな気が付いてきた頃だろうからはっきり言うが、《砕界の左手 スミス》を採用することで得られるメリットは極めて小さいものだからだ。
しかし、それでも私は諦めなかった……《砕界の左手 スミス》が唯一無二の働きをする、そんなデッキを。
そして、たどり着いたのだ。
確かにデメリットを上回るメリットはないかもしれない。だが、デメリットをデメリットにしない構造があれば問題はないということに。
そう、答えは手札の回転率が極めて高いデッキだったのだ。
オボロティガウォックでは???🤔🤔🤔
《砕界の左手 スミス》が普通に手札に来たときに勝利貢献度が無すぎるという問題……その解決策は、「いや、引いていないが???」と《砕界の左手 スミス》を山札の下に再度押し込むことだったのである。
というわけで、できあがったのがこちらの「スミスオボロタイフーン」だ!
『スミスオボロタイフーン』
4 | 《砕界の左手 スミス》 |
《月光電人オボロカゲロウ》 | |
4 | 《ガチャンコ ガチコピー》 |
《電脳鎧冑アカシック・オリジナル》 | |
4 | 《ニンプウ・タイフーン》 |
4 | 《絶海の虎将 ティガウォック》 |
2 | 《ビーチボーイズ》 |
2 | 《天災超邪 クロスファイア 2nd》 |
1 | 《BAKUOOON・ミッツァイル》 |
1 | 《時の法皇 ミラダンテXII》 |
4 | 《新世界王の闘気》 |
3 | 《新世界王の破壊》 |
3 | 《新世界王の創造》 |
2 | 《煌銀河 サヴァクティス》 | 2 | 《続召の意志 マーチス》 | 2 | 《”魔神轟怒”ブランド》 | 2 | 《ソニーソニック》 | 2 | 《ゴルドンゴルドー》 | 2 | 《ポッポーポップコー》 |
《月光電人オボロカゲロウ》とゼロ文明のカードとの理外の共存。そのやんちゃすぎる見た目に反し、今度こそ思想的には穴がないように思われた。
だが、手札をひたすら入れ替えてる間にボコスカ殴られて《砕界の左手 スミス》のせいでトリガーも薄くて憤死するという残酷な事実を前にしては、このアイデアもお蔵入りとせざるをえなかった。《砕界の左手 スミス》を入れるということは必然的にS・トリガー率は下がるので、その分速度が要求されてしまうのだ。
とはいえ、そんな中でも収穫はあった。
《ニンプウ・タイフーン》。《月光電人オボロカゲロウ》を安定して引き込むために搭載したカードだったが、「このカード実質《砕界の左手 スミス》とやってること同じでは???」という気付きを得ることができたのである。
つまり、いわばこのカードは《砕界の左手 スミス》の運命の双子。
ならば、「《ニンプウ・タイフーン》と《砕界の左手 スミス》によって特定のカードAを引きにいく火単のデッキ」こそが、求めるデッキコンセプトになるのではないか。
では、火単において1種類4枚でデッキコンセプトとなるそのカードA。その正体とは一体何なのか。
その答えが、これだ。
《”必駆”蛮触礼亞》だ。
《”必駆”蛮触礼亞》は、《ロジック・サークル》や《ロジック・キューブ》《ヘブンズ・キューブ》で水増しすることもできるが、前者はただでさえ手札消費が激しい《”必駆”蛮触礼亞》コンボにおいて自殺行為に等しいし、後者も必ず3ターン目に発射したい《”必駆”蛮触礼亞》コンボにおいて1ターンの遅れは致命傷となる。
その点、《ニンプウ・タイフーン》と《砕界の左手 スミス》ならば「手札を減らさず」「3ターン目までに」《”必駆”蛮触礼亞》を探しにいくことが可能となる。
かくして、「先攻は《ニンプウ・タイフーン》、後攻は《砕界の左手 スミス》で《”必駆”蛮触礼亞》を探しにいく」というコンセプトがここに爆誕したのだ。
というわけで、できあがったのがこちらの「スミス・フレア」だ!
『スミス・フレア』
《滅亡の起源 零無》 | |
4 | 《砕界の左手 スミス》 |
《ニンプウ・タイフーン》 | |
4 | 《”必駆”蛮触礼亞》 |
《U・S・A・CAPTEEEN》 | |
4 | 《”末法”チュリス》 |
3 | 《”乱振”舞神 G・W・D》 |
4 | 《DOOOPPLER・マクーレ》 |
4 | 《KONAGONA・ギャリング》 |
4 | 《アーチャー・チュリス/ボルカニック・アロー》 |
4 | 《龍装車 マグマジゴク/地獄スクラッパー》 |
1 | 《”轟轟轟”ブランド》 |
2 | 《全能ゼンノー》 | 2 | 《バツトラの父》 | 2 | 《超衛の意志 エイキャ》 | 2 | 《ロッキーロック》 | 2 | 《ポッポーポップコー》 | 2 | 《ブルンランブル》 |
「マジボンバー」というめくり要素はあるが、手札から出すことは可能だし、最悪一応《砕界の左手 スミス》も出せるので完全なハズレではない……といった言い訳を並べたところで、ひとまずここまでが現状の到達点だ。
私の研究力ではこれ以上先に進むことはできなかった……《砕界の左手 スミス》というカード自体が「ほぼ単色で」「めくり要素がなく」「ある程度の速度があるデッキ」など多すぎる要請を持ったカードということで、これを合理的に生かせるデッキを組むことは、正直今はできないのかもしれない。
だが、今後《ニンプウ・タイフーン》や《”必駆”蛮触礼亞》以上に噛み合うカードが生まれる可能性は否定できない。
《砕界の左手 スミス》の可能性は、そのときまで眠っているに違いない。パラレル・マスターズ……存在したかもしれない、並行世界のデュエル・マスターズから来たカードなのだから。
ではまた次回!
ライター:まつがん
フリーライター。クソデッキビルダー。
論理的な発想でカード同士にシナジーを見出すのだが、途中で飛躍して明後日の方向に行くことを得意とする。
オリジナルデッキでメタゲームに風穴を開けるべく日夜チャレンジを続けている(が、上記のような理由で大体失敗する)。