協力=天文教育普及研究会/JAXA
企画・文=石川裕二
子どもに大人気のメントスコーラ! コーラの中にメントスを入れると、ものすごい勢いでコーラが噴き出てくる、という現象だ!!
あまりにものすごい勢いで噴き出てくるものだから、記者は「もしかしたら、これで宇宙に行けるのでは……?」と思ってしまった! そして、その疑問に答えてくれたのが、なんとJAXAのロケットエンジン開発者である香河英史さん! 果たして、メントスコーラで宇宙に行けるのか……!?!?
コロコロにガチのロケットエンジン開発者が降臨
――まさかJAXAの方にインタビューを受けていただけるとは思っていませんでした! まず、香河さんがこれまでにどのような仕事をしてきたのか教えていただけますか!?
1987年に、旧宇宙開発事業団(※現JAXA)に入社しました。最初は、H-IIロケットのロケットエンジンを開発していて、後にはやぶさ2に載せるロケットエンジンを開発していました。本日はよろしくお願いいたします。
――す、すっげーーーー!! ガチのロケットエンジン開発者じゃないですか! そもそも、コロコロコミックってご存知ですか?
よく存じていますよ。と言うのも、私はコロコロ第一世代ですから。
――コロコロ第一世代!?
創刊してからしばらくの間、『ドラえもん』を読むためだけに購入していました。小学生から中学生の間くらいかな。学年誌を買っていたところ、今度こういうものが始まるよとコロコロコミックの告知がありまして。
何しろ『ドラえもん』が大好きで、家には単行本が全巻あります。科学好きになったのは『ドラえもん』の影響が大きいと言っても過言ではありません。現実には存在しないアイテムが出てきて、楽しいアイデアがいっぱいじゃないですか。それが楽しかったんです。
――おおおおお、一気に親近感が湧いてきましたよ!
メントスコーラの実験だって、したことがあるんですよ。
――えっ、そうなんですか!?
はい。
――うおお、一気に期待値が高まってきたーーー! では、ズバリ聞きます! メントスコーラで宇宙に行くことはできますか!? できませんか!?
全然無理です。
――えっ……。
全然無理ですね。宇宙には行けません。
――そ、そうなんですね……。メントスコーラで実験したことがあるとのことだったので、てっきり、その原理をロケットエンジンに生かすとかそういうことかと……。
それはですね、息子の夏休みの自由研究を手伝う形で実験したんです。炭酸飲料によって、吹き出す量や勢いに違いがあるのかを調べるというテーマでやりました。楽しかったですよ。
――そんなぁ! どうして宇宙に行けないんですか!!!!
まず、ロケットエンジンは、何かを吹き出すことの反動によって飛んでいます。一方、メントスコーラがどのようなものかと説明すると、あれって、コーラの中に溶け込んでいる炭酸ガスが出てくるだけなんですよ。液体の中に溶け込める炭酸ガスの量には限りがありますから、そこに一つの限界があります。
しかも、メントスコーラはふたが付いているほうを上に向けなければなりませんよね。ロケットの噴出方向と逆なんですよ。
――そ、それは上下逆さまにすればいいじゃないですか!
上下逆さまにすると、どうなると思いますか?
――フルーツポンチを逆さまにするとどうなる、みたいな質問じゃないですか……! 答えはチンポツールフだ!!
違います、逆さまにするとこぼれるんですよ。
――あっ///
そうです、メントスもコーラも出てきてしまうんです。夢のない話で申し訳ないですが……。
――でもでも、その辺の課題をクリアしたら、行けるんじゃないですか!?
うーん、計算してみましょうか。宇宙に行くには、秒速7000メートルほどの速度が必要なんです。えー、メントスコーラがああでこうでなんたらかんたら……ええと、答えが出ました。メントスコーラをロケットエンジンにするには、どうすればいいのかわかりましたよ。
――ええっ、すごい! さすがガチのロケットエンジン開発者!!
ええと、噴出する液体が10キログラムの61乗あれば、宇宙空間まで行けると思います。
――すみません、私の頭が悪くてよくわかりません!!
ロケットエンジンは何かを吹き出すことの反動によって飛んでいる、と説明しましたよね。つまり、重いものを出せば出すほど、その反動で速度も早くなるんです。
――ははあ。2乗っていうのは、同じ数字2つを掛け算することになるので、10キログラム×10キログラムを61回繰り返すということですよね。10キログラム×10キログラム×10キログラム×10キログラム×10キログラム……ええい、わからなくなってきた!!!!
結局、それってブラックホール級の重さなんですよ。そんなものを地球上で吹き出すなんてことは無理ですよね。だから、どう頑張っても、メントスコーラの性能では宇宙に行けないんですよ。
――何ともぴえんな結果です。……あ、あれならどうですか!? ペットボトルロケット!
あれも、せいぜい10気圧しか出ないので、メントスコーラの2倍程度の性能です。工業用の水圧カッターがあるじゃないですか。あれをロケットエンジンに応用できれば、もしやというレベルです。原理としては単純なんですけどね。
ロケットエンジン開発者になるには……?
――原理は単純と言いますが、開発はものすごく大変そうなイメージがありますよ!
高い圧力を保つのが難しいんです。あとは、ロケット本体をなるべく軽くする必要があるのですが、軽くすると壊れやすくなるのでジレンマが生じるんですよ。そうならないように丁寧に安全なロケットをつくるとなると、職人さんたちの叡智(えいち)がたくさん必要になってくるんです。
――なるほどなあ。そもそも、ロケットって何のために飛ばしているんですか?
一番は実用的な分野です。例えば気象衛星や通信衛星は、みなさんも恩恵を授かっているものですよね。あとは、宇宙の生命を研究しようとか、いろんな惑星を研究するために望遠鏡を宇宙空間に持って行ったり。JAXAでは、今度、火星の衛星であるフォボスに探査機を飛ばして、何があるか調べようとしています。
――いろいろな役目があるんですね! 最後に、JAXAの開発者に憧れる子どもたちも多いと思うんですが、何かアドバイスがあればお願いします!
「これだ!」と言えるような技術や知識を掘り下げてもらうのがいいと思います。JAXA全体で言うと理科系の人間だけではなくて、国際的な法律に精通した人間もいますし、求められる能力はさまざまなんですよ。ただ、広い知識が必要とされることは間違いありません。
それぞれの分野の最先端のものを研究して、「自分にはこれがある」とアピールできるものを身につけていただくのがいいかと思います。
――みんな、参考にしてくれよな! 香河さん、本日はありがとうございました!!
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