3. ターボヘリオッド
『基本セット2021』の発売前、カードリストがカードギャラリーにすべて出揃った段階で、私が「このカードは活躍するに違いない」と見込んだカードがあった。
《無私の救助犬》。このカードはパイオニアを通り過ぎてモダンにまで革新を起こしうるカードである。
なぜなら、それらのフォーマットには「1マナで召喚酔いに影響されずにタダでクリーチャーを守れるクリーチャー」がこれまで存在しなかったからだ。《命の恵みのアルセイド》はあったが、マナがかかる点が微妙に使いづらかった。
そんな《無私の救助犬》を搭載するのにふさわしいデッキといえば、モダンでいえば《献身のドルイド》コンボのように「除去が当たってしまうクリーチャーを使ったコンボ」だろう。
では、パイオニアにおいてクリーチャーを軸にしたコンボで従来除去がきつかったデッキといえば何があるだろうか?
そう、《太陽冠のヘリオッド》コンボだ。
ヘリオッドコンボといえば、ヘリオッド進化/ネオヘリオッドやザーダカンパニーなどで私が幾度も挑戦してきたコンセプトということで、《無私の救助犬》を見たときにこのコンボ自体はすぐに思いつくことができた。
だがヘリオッドコンボの課題はコンボパーツをどうやって揃えるのかという点にあったところ、《無私の救助犬》があっても《異界の進化》や《新生化》で《歩行バリスタ》を持ってこられない点は何も変わらないし、相棒ルールの改定によって《黎明起こし、ザーダ》が使い物にならなくなってしまった以上、《薄暮見の徴募兵》の能力を起動しまくるといった荒業も使えなくなってしまった。
そんな状況において、いかなる手段でコンボパーツを集めればいいのだろうか?
手動で気合で探しまくればいいのでは???🤔🤔🤔
そう、ゴリ押しである。
《シラナの道探し》や《孵化+不和》など、実はパイオニアのカードプールはデッキ内の特定のクリーチャーを探すことにある程度長けている。
だが「探す」というアクションは盤面的には何もしていないに等しいため、アグロが強いパイオニアではその差がテンポ損となって負けてしまうことが多いのだが、「探せたら勝つ即死コンボ」で使う分には、一時的なテンポロスなど些細な問題だ。
というわけで、仮組みしてみたのがこちらのデッキだ。
だが、このデッキでもパイオニアチャレンジに出場してみたところ、やはり重大な欠陥が見つかってしまったのである。
Pioneer Challenge Turbo Heliod
R1 Mono Black Vampire ❌🏆🏆
R2 Mono Black Aggro ❌🏆❌
R3 Burn 🏆❌🏆
R4 UB Twin ❌❌
R5 Bant Spirit 🏆❌🏆
R6 Gruul Aggro 🏆🏆
R7 Mono W Devotion ❌❌パイオニアを満喫した感ある当たり。だがクソデッキはトップメタがきついんじゃ(クソデッキなため) pic.twitter.com/VvcdGiGngM
— Atsushi Ito (@matsugan) July 26, 2020
このデッキの問題点は、トップメタである黒単アグロと青黒《真実を覆すもの》コンボがきついという点にあった。
そもそもこのデッキはリソースを削られることを前提として構築されていないので、《致命的な一押し》でテンポを崩された上で《思考囲い》で引き込んだコンボパーツだけを抜かれると守るほどの強いパーマネントのない犬と単体で何もしないゴミだけが手札に残ってしまうのである。
だが、それは2枚コンボの宿命であり、改善しようがない欠陥。ゆえに受け入れるしかない……そう思われた。
しかし『基本セット2021』は、そんな一見不可能にも思える課題を解決するスーパーカードを用意していたのだ。
《ガラクの先触れ》。冒頭の段落で紹介した緑黒カンパニーにも採用されていた、『基本セット2021』期待の新星である。
緑黒カンパニーにおけるこのカードは、黒いデッキ相手に除去を構えられているときなど、クロックを削られたりテンポロスをしたくないタイミングで出すという「利確」のためのカードという役割が強かった。
それに対しヘリオッドコンボでの《ガラクの先触れ》は、それ自体コンボパーツを探しにいける《孵化+不和》の上位互換でありつつ、本来クロックがなくプレッシャーがないこのデッキで単体で相手に行動を強要できるサブプランにもなれるという、まさしく至れり尽くせりの一枚になるのだ。
また、これまでは《太陽冠のヘリオッド》だけを単体で引いてしまっているとき、ライフゲインをしても+1/+1カウンターを乗せがいのあるクリーチャーがいないため、盤面を支えられないという展開がよく発生していた。しかし《ガラクの先触れ》は4/3と頼もしいサイズのため、すぐに手が付けられないサイズに育つという点も有用である。
というわけで、できあがったのがこちらのデッキだ!
『ターボヘリオッド』
枚数 | カード名(メインボード) |
---|---|
5 | 《森》 |
2 | 《平地》 |
4 | 《寺院の庭》 |
4 | 《マナの合流点》 |
4 | 《要塞化した村》 |
1 | 《陽花弁の木立ち》 |
4 | 《光輝の泉》 |
2 | 《永遠衆の墓所》 |
4 | 《歩行バリスタ》 |
4 | 《ラノワールのエルフ》 |
4 | 《エルフの神秘家》 |
4 | 《無私の救助犬》 |
4 | 《シラナの道探し》 |
2 | 《薄暮見の徴募兵》 |
4 | 《太陽冠のヘリオッド》 |
4 | 《ガラクの先触れ》 |
4 | 《博覧会場の警備員》 |
枚数 | カード名(サイドボード) |
4 | 《異端の輝き》 |
4 | 《敬虔な命令》 |
4 | 《ビビアンのアーク弓》 |
3 | 《秋の騎士》 |
サイドボードの《ビビアンのアーク弓》はコントロール相手の切り札となる1枚。2ターン目に設置できれば、あとは毎ターンX=3以上で起動して《ガラクの先触れ》を探しているだけで勝てそう (※脳内) である。
『基本セット2021』のカードを2スロットも採用し、ある程度の強さも確保できているという点で、極めてガチに近いファンデッキになったと自負している。
4. 異形化独創力
『基本セット2021』の中で、いかにも「ファンデッキで使ってください」というカードがあった。
《異形化》。《変身》の色違いであるこのカードは、《変身》自体モダンなどで既に実績を残したカードであることもあり、パイオニアで活躍させることもそう難しくないだろうと思われた。
そこでまず私が考えたのは、似たようなコンセプトであるジェスカイルーカファイアーズに入れこむというものであった。
従来5マナないと《裏切りの工作員》が出てこなかったのが、3ターン目《太陽の神のお告げ》から4ターン目《創案の火》→《異形化》という超ブン回りムーブを獲得したのは大きい。
だが、これでは特に面白味がない。何かもう少し奇抜なアイデアはないものか……。
と、そこまでで私は気づいたのである。
《不屈の独創力》が8枚になってるじゃねーか!!!
《不屈の独創力》を使用したデッキ自体はvol.4で既に一度挑戦済みではあるが、デッキに4枚しかないソーサリーをクリーチャーもアーティファクトも使わずに探さなければならないため、これまでは安定性に難があった。
それが8枚になったということは、無理に青をタッチして大量のドロー操作を入れずとも自然に引き込めるということになるので、土地を《山》で揃えて《ドワーフの鉱山》を採用することが可能になるのだ。
しかし、このコンセプトには一つの弱点があった。それは、インスタント除去にあまりにも弱いという点だ。
ジェスカイルーカは《時を解す者、テフェリー》で相手の行動をシャットアウトしたり、呪文ではないため使いきりにならずに《空を放浪するもの、ヨーリオン》で再利用もできる《銅纏いののけ者、ルーカ》を使っているという点で、相手の除去をかわせる工夫がなされていた。
だが、赤単で《異形化》と《不屈の独創力》にオールインするコンセプトだと、相手に《致命的な一押し》を構えられていた時点で破綻してしまう。一応X=2以上の《不屈の独創力》ならばかわせるが、それでは《異形化》を5~8枚目の《不屈の独創力》としてカウントした意味がなくなってしまう。
せめて赤い《時を解す者、テフェリー》がいれば……。
と、そこまで考えたところで、私は固定観念を打ち破る悪魔的発想に至ったのである。
赤単に《時を解す者、テフェリー》をタッチすればいいのでは???🤔🤔🤔
そう、狂気である。
というわけでできあがったのがこちらのデッキだ!
『異形化独創力』
10 | 《山》 |
4 | 《聖なる鋳造所》 |
4 | 《蒸気孔》 |
4 | 《ドワーフの鉱山》 |
4 | 《次元間の標》 |
4 | 《裏切りの工作員》 |
2 | 《虚空の選別者》 |
4 | 《ドラゴンの餌》 |
4 | 《禁じられた友情》 |
4 | 《火の予言》 |
4 | 《王神への敬意》 |
4 | 《不屈の独創力》 |
4 | 《異形化》 |
4 | 《時を解す者、テフェリー》 |
ちなみにこのデッキは見るからにヤバすぎてさすがの私でもパイオニアチャレンジに持ち込む勇気はなかった。 (完)
デッキ構築とは文脈である。
これまで作ってきたコンセプト、対戦してきた相手のデッキ、見てきたデッキリスト……それらすべてが脳内に蓄積され、やがてスパークしたとき、新たなコンセプトが生み出される。
だから必要なのは、より多くのデッキを作り、より多くの対戦をし、より多くのデッキリストを見ることなのだ。
ではまた次回!
ライター:まつがん フリーライター。クソデッキビルダー。 論理的な発想でカード同士にシナジーを見出すのだが、途中で飛躍して明後日の方向に行くことを得意とする。 オリジナルデッキでメタゲームに風穴を開けるべく日夜チャレンジを続けている(が、上記のような理由で大体失敗する)。