By まつがん
1. 「相棒」によるMTG3.0への突入
スタックルールの導入、プレインズウォーカーの誕生、ロンドンマリガンの採用……。
マジックは27年にも及ぶ歴史の中で、幾度となく大きな変革の時を迎えてきた。
だが、『イコリア:巨獣の棲処』は歴史上でも最大級の変革を、マジックに対してもたらしてしまったのかもしれない。
相棒。
条件を満たせばサイドボードから唱えることができる伝説のクリーチャーたち。
デッキ構築に制限はかかるものの、要するに疑似的に初手8枚を実現する (しかも1枚はスペル確定で、手札破壊も効かない) というもので、これにより相棒が使えるデッキとそうでないデッキとの間には、デッキポテンシャルの埋まらざる隔絶が生じてしまうこととなった。
当然、この相棒システムはマジックのありとあらゆるフォーマットにおいて圧倒的な使用率を誇る結果となり、そのプレイ感覚のあまりの激変ぶりに「MTG3.0」とすら揶揄される始末である。
もちろんパイオニアもその例に漏れず、現在では相棒なしで通用しているのはロータスストームと青黒《真実を覆すもの》コンボくらい、残りは大体相棒入りといった有り様である。
『サンプルデッキ:ルールスタカオーラ (albertoSD スーパーPTQ2位)』
枚数 | カード名(メインボード) |
---|---|
7 | 《平地》 |
4 | 《神無き祭殿》 |
4 | 《秘密の中庭》 |
4 | 《コイロスの洞窟》 |
4 | 《恩寵の重装歩兵》 |
4 | 《命の恵みのアルセイド》 |
4 | 《憎しみの幻霊》 |
4 | 《上級建設官、スラム》 |
2 | 《騒音のアフィミア》 |
4 | 《ケイラメトラの恩恵》 |
4 | 《天上の鎧》 |
4 | 《グリフの加護》 |
4 | 《歩哨の目》 |
3 | 《結束のカルトーシュ》 |
3 | 《きらきらするすべて》 |
枚数 | カード名(サイドボード) |
4 | 《浄光の使徒》 |
3 | 《静寂をもたらすもの》 |
3 | 《断片化》 |
3 | 《死の重み》 |
1 | 《高名な弁護士、トミク》 |
1 | 《夢の巣のルールス》 |
もともと強力なコンセプトだったタカオーラは、最も強力な相棒である《夢の巣のルールス》をデッキ構築に一切の制限を受けることなく採用できるアーキタイプだったため、一躍環境のトップメタに躍り出た。
『サンプルデッキ:ヨーリオン白青信心 (Toastxp スーパーPTQ4位)』
枚数 | カード名(メインボード) |
---|---|
14 | 《平地》 |
4 | 《神聖なる泉》 |
4 | 《灌漑農地》 |
4 | 《氷河の城砦》 |
4 | 《啓蒙の神殿》 |
4 | 《ニクスの祭殿、ニクソス》 |
4 | 《歩行バリスタ》 |
4 | 《スレイベンの検査官》 |
4 | 《白蘭の騎士》 |
4 | 《魅力的な王子》 |
3 | 《太陽に祝福されしダクソス》 |
4 | 《反射魔道士》 |
4 | 《太陽冠のヘリオッド》 |
4 | 《秘儀術師のフクロウ》 |
4 | 《不可解な終焉》 |
3 | 《停滞の罠》 |
4 | 《エルズペス、死に打ち勝つ》 |
4 | 《時を解す者、テフェリー》 |
枚数 | カード名(サイドボード) |
4 | 《軽蔑的な一撃》 |
2 | 《高名な弁護士、トミク》 |
2 | 《消去》 |
2 | 《疎外》 |
2 | 《安らかなる眠り》 |
2 | 《ギデオンの介入》 |
1 | 《空を放浪するもの、ヨーリオン》 |
対抗馬となったのが、《空を放浪するもの、ヨーリオン》を相棒としデッキを80枚に増量した白単タッチ青の信心デッキ。もともと信心を稼ぐためのパーマネントばかりが採用されていたため、パーマネントを追放して出し直すことで誘発型能力を使いまわせる《空を放浪するもの、ヨーリオン》は、それ自体白の信心の足しになることもあり、非常に噛み合った相棒と言える。
『サンプルデッキ:ルールスバーン (elad3127 スーパーPTQ7位)』
枚数 | カード名(メインボード) |
---|---|
7 | 《山》 |
4 | 《聖なる鋳造所》 |
4 | 《感動的な眺望所》 |
4 | 《戦場の鍛冶場》 |
4 | 《僧院の速槍》 |
4 | 《損魂魔道士》 |
4 | 《ギトゥの溶岩走り》 |
4 | 《大歓楽の幻霊》 |
3 | 《ヴィーアシーノの紅蓮術師》 |
4 | 《乱撃斬》 |
4 | 《ボロスの魔除け》 |
3 | 《稲妻の一撃》 |
4 | 《魔術師の稲妻》 |
4 | 《舞台照らし》 |
3 | 《批判家刺殺》 |
枚数 | カード名(サイドボード) |
4 | 《岩への繋ぎ止め》 |
3 | 《灼熱の血》 |
2 | 《灰の盲信者》 |
2 | 《摩耗+損耗》 |
1 | 《夢の巣のルールス》 |
1 | 《頭蓋割り》 |
1 | 《跳ね返す掌》 |
1 | 《カーリ・ゼヴの巧技》 |
《夢の巣のルールス》というカードはアグロデッキが使うと消耗戦に強くなるという恩恵をもたらしてくれる。そして増えたリソースを必ず無駄なく使いきれるのはバーンというデッキの特権だ。
『サンプルデッキ:赤緑オボシュアグロ (Silvos1992 スーパーPTQ3位)』
枚数 | カード名(メインボード) |
---|---|
8 | 《森》 |
2 | 《山》 |
4 | 《踏み鳴らされる地》 |
2 | 《マナの合流点》 |
4 | 《根縛りの岩山》 |
2 | 《獲物道》 |
4 | 《ラノワールのエルフ》 |
4 | 《エルフの神秘家》 |
4 | 《鉄葉のチャンピオン》 |
4 | 《恋煩いの野獣》 |
4 | 《砕骨の巨人》 |
4 | 《グルールの呪文砕き》 |
3 | 《殺戮角》 |
2 | 《ギャレンブリグの領主、ヨルヴォ》 |
2 | 《不屈の神ロナス》 |
1 | 《運命の神、クローティス》 |
2 | 《火口の爪》 |
2 | 《グレートヘンジ》 |
2 | 《ボーラスの壊乱者、ドムリ》 |
枚数 | カード名(サイドボード) |
2 | 《暴れ回るフェロキドン》 |
2 | 《自然のままに》 |
2 | 《引き裂く流弾》 |
2 | 《集団的抵抗》 |
2 | 《形成師の聖域》 |
1 | 《運命の神、クローティス》 |
1 | 《獲物貫き、オボシュ》 |
1 | 《驚天+動地》 |
1 | 《魂標ランタン》 |
1 | 《影槍》 |
相棒が環境に入って比較的早期に開発され、今でもトップメタとまではいかないまでもぶん回りの強さで上位に食い込むこともある”奇数単”のデッキ。《獲物貫き、オボシュ》は大ぶりだが、10点以上ライフが残っていても関係なく削りきれる圧倒的な打点が魅力だ。
……と現状のパイオニア環境を概観したところで、そんな世紀末な流れとは一切関係なく、今月もクソデッキを作っていくことにしよう。
2. 著大化
相棒相棒とばかり話題に取り上げたが、実のところ『イコリア:巨獣の棲処』が発売して私が最初にデッキ作りに挑戦したのは全く関係ないカードだった。
《著大化》。7マナのエンチャントでこれ1枚でクリーチャーのパワーを相手の初期ライフ値分だけデカくすることが可能 (ただしタップするので貼ったターンは殴れない) という、最高に頭の悪いカードである。
だが、私はこのカードを見た瞬間に天啓が訪れたような感覚に陥った。なぜなら、vol.3で紹介した『嵐の伝令スペシャル』に、このカードがまさしくジャストフィットしてしまったからだ。
すなわち、墓地に《著大化》と《燃え盛る怒り》の両方が落ちている状態で《嵐の伝令》を出すと、両方が一度に《嵐の伝令》に付き、その時点で《著大化》のタップ能力が誘発するのだが、それにスタックして《燃え盛る怒り》の能力を起動すれば、アタックを介さずに本体に20点以上のダメージを飛ばすことができるのだ。
つまり1~2ターン目の墓地肥やしでオーラ2枚を墓地に落としておくことができれば実質カード1枚引くだけで3キルできるコンボなのである。
しかもこのコンボのすごいところはそれだけではなく、《嵐の伝令》の登場時能力は誘発時にはオーラを付ける先を選んでいないので、登場時能力にスタックして《嵐の伝令》に除去が飛んできたとしても、脇にクリーチャーがいればそいつにオーラ2枚を付けて20点シュートが可能なのである。
『イコリア:巨獣の棲処』から見出していたコンセプトが、新カードの登場で500倍の完成度にいきなり仕上がってしまった。自分で考えたデッキということもあり、私はこのコンセプトにすっかり魅入られてしまった。
しかし、意外にもデッキ作りは難航した。
最大の問題はマナベースにあった。
・自分のライブラリーを削るのに最も長けた色は《査問長官》《秘本掃き》《マーフォークの秘守り》などが使える青で、次点は《サテュロスの道探し》《群れの結集》などが使える緑である。黒は《縫い師への供給者》だけ強いものの、相棒を青にして《強行+突入》を使わないと枚数を一気に掘れるカードがなく、赤は自分の手札を経由して捨てるしかない。白に至っては論外。
・《嵐の伝令》を素出しするオプションは欲しいので、少なくとも3色目には赤を採用する必要がある。
・《回生+会稽》は5~8枚目の《嵐の伝令》として機能するのでできれば採用したいが、ライブラリー削りが得意でない2色の混成シンボルのカードである。
こうした数々の要請を実現するべく、グリクシス型、ジャンド型、スゥルタイタッチ赤型、ジェスカイ型、赤黒型、エムリー型という実に6種類ものマナベースを検討する羽目になったのだ。
とはいえ、パイオニア環境の速度的に3キルのルートはどうしても外せないのと、どの色を採用しても安定性がそこまで変わらないというのが決め手となり、最終的にはグリクシス型に軍配が上がる結果となったのだった。
というわけで、できあがったのがこちらのデッキだ!
『著大化シュート』
枚数 | カード名(メインボード) |
---|---|
4 | 《血の墓所》 |
4 | 《湿った墓》 |
2 | 《蒸気孔》 |
1 | 《ラウグリンのトライオーム》 |
4 | 《マナの合流点》 |
4 | 《詰まった河口》 |
2 | 《凶兆の廃墟》 |
4 | 《査問長官》 |
4 | 《ヴリンの神童、ジェイス》 |
2 | 《戦慄衆の秘儀術師》 |
4 | 《嵐の伝令》 |
4 | 《秘本掃き》 |
4 | 《思考囲い》 |
1 | 《最大速度》 |
4 | 《回生+会稽》 |
4 | 《強行+突入》 |
4 | 《著大化》 |
4 | 《燃え盛る怒り》 |
枚数 | カード名(サイドボード) |
4 | 《致命的な一押し》 |
4 | 《時を越えた探索》 |
3 | 《アングラスの暴力》 |
2 | 《稲妻の斧》 |
1 | 《強迫》 |
1 | 《最後の望み、リリアナ》 |
さて、紆余曲折を経てついに3キルできる1枚コンボデッキが完成したわけだが、現在のパイオニア環境でこのデッキを使用しているデッキは0人である。これはどういうことなのか?
実はこのデッキの最大の誤算は、《著大化》と《燃え盛る怒り》のセットがそう簡単に墓地には揃って落ちないという一点に尽きる。
冷静に考えてみるとわかることだが、60枚のデッキで4枚ずつ入った2種類のカードを8割以上の確率で両方引き込むためには、最低でも20枚程度のカードを掘る必要があるのである。
つまりこのデッキのぶん回りである《査問長官》からの《強行+突入》という動きを決めたとしても必要枚数には全く達していないのであって (手札も合わせてどうにかだが、その場合は捨てる手段も別途必要になる)、「カード1枚引くだけで3キルできる」というのはそもそも全くの机上の空論だったわけだ。
大興奮して無限の時間をかけて調整したデッキが使い物にならなかったショックは相当なものだったが、デッキ作りには失敗も付き物である。この経験もいずれ別のデッキ作りに生かせると信じて、私はまた新しいデッキ作りに挑戦することにしたのだった。