By まつがん
1. 無風の禁止改定と上位Tierの固定化
3月9日の禁止改定で、大方の予想に反してパイオニアでは1枚も禁止カードが出なかった。
「《真実を覆すもの》と《タッサの神託者》 or 《神秘を操る者、ジェイス》」のコンボ (vol.4参照) はそのパーツの軽さとコンボ条件の容易さから、4ターン目には実質ゲームが終わってしまうことも頻発するデッキである。
しかもそれ以外のパーツは手札破壊・除去と《時を越えた探索》という青黒コントロールの体で構築されているため、幅広いアーキタイプに対する対応力も兼ね備えており、デッキの構造そのものが非常にタフであると言うことができる。
また、《死の国からの脱出》はデッキ自体 (『テーロス還魂記』前だがvol.2参照) の支配率はそれほど高くはないものの、《睡蓮の原野》という実質干渉が不可能なカードをキーパーツにしたコンボであり、お互いに相手の行動に全く干渉できないゲーム展開となることがほとんどのため、ゲーム性を損なっているのではないかと批判の対象になっていた。
だが、そうした事情を踏まえてもパイオニアでは禁止カードが出なかったのである。思うに、ウィザーズが禁止するかいなかの判断にあたっては「一つの戦略が突出した優位性を誇っているか」といった事情が考慮要素になると思われるが、現在のパイオニアはそれにあたらない、との認識なのだろう。
実際、ここ数週間のプレリミナリーやチャレンジの結果などを見る限り、現状のメタゲームは以下のようになっているように思われる。
・Tier1
白単/白青信心
青黒《真実を覆すもの》コンボ
・Tier2
バント/青白スピリット
緑単信心
スゥルタイ昂揚
ロータスブリーチ
・Tier3
ニヴ=ミゼット再誕
赤単アグロ/ミッドレンジ
緑黒ガルタ
青赤魂込め
黒単アグロ/吸血鬼
タカオーラ
青白コントロール
緑青ランプ
現在のトップメタは青黒《真実を覆すもの》コンボの他にも《太陽冠のヘリオッド》と《歩行バリスタ》とのコンボを搭載した白単もしくはタッチ青の信心デッキがあり、ほぼ同程度もしくは白単の方が少し多いくらい勝っている。したがって、「一つの戦略が突出した優位性を誇っている」わけではない、と言うことができる。
環境的には多様なアーキタイプが揃ってはいるものの、即死コンボを擁するミッドレンジが中心のため、最速の赤いデッキと最遅の純粋なコントロールは厳しい立ち位置で、「4ターン目までにいかに有効な手数を稼ぎ、優位を築き上げるか」が焦点となってきている。
それに加え、ここに載っていないアーキタイプはほぼ駆逐されているのが現状であり、メタデッキとそうでないデッキとの差が激しい環境なのが特徴と言える。
来月、4月24日(金) には新セットである『イコリア:巨獣の棲処』が発売となる。
はたして、この構図を打ち破れるような新しいデッキは誕生するのか。アーキタイプの核となるような神話レアの登場に期待がかかるところだ。
……といった真面目な環境分析はさておき、今回もクソデッキを作っていこう。
2. 部族とともにあれ!
パイオニア環境が始まった当初、私はモダンで活躍していた「5C人間」デッキをパイオニアで再現できないかと思い、調整を開始した。
だが、5C人間は最終的にこのような形となったものの、環境の進展とともにメタ上位のデッキに対して通用しなくなり、それからしばらくこのデッキを触ることはなかった。
では、なぜこのデッキは通用しなくなってしまったのか?
今思うに、それは「妨害の総量」「速度」の2点に問題があった。
まずは「妨害の総量」について、パイオニアには土地コンボも墓地コンボもほとんど存在しないため、シナジーを生み出すのはほとんどパーマネント間の相互作用 (代表的な例は「信心」など) となる。
つまり、相手がシナジーを活用するつもりで出してきたパーマネントを対処できなかった時点で、それは相手の望む展開を許す結果につながるということになり、一気に敗勢に近づいてしまうのだ。
したがって、パイオニアで強力なデッキは自分がシナジーを伸ばすアクションが強いことはもちろん、相手のシナジーを潰す動きもまた強力でなければならない。
それに照らすと上記の5C人間は相手に対して干渉できるのが《帆凧の掠め盗り》と《反射魔道士》しかなく、パーマネント対処という点に限れば《反射魔道士》一択となってしまっているのが弱い点だった。
これについては《拘留代理人》を採用するという解決手段もありえるところであり、実際サイドには採用していたのだが、マナベースを(ほぼ「人間」と宣言する前提の)《手付かずの領土》に頼っている上で《集合した中隊》も唱えたい関係上、「《手付かずの領土》以外の青・白・緑マナを用意する」というのがとてつもないハードルであり、マナフラッドが許容しがたいこのデッキにおいてメインからの採用は事実上不可能であるとの結論に至らざるをえなかった。
また「速度」についても、「相手のパーマネントを対処する」というのは極端な話、自分が先にシナジーを活用できるならばある程度無視できる問題である。すなわち、自分がシナジーを形成するのが遅いから、相手のシナジー形成を対処する必要に迫られてしまうという構造がそこにはある。
しかし、「人間」をベースにしたこのデッキにおいて加速する方法は極端に限られている。一時は《爪鳴らしの神秘家》を採用していたほどだが、《ゴブリンの鎖回し》がいる環境で後手2ターン目のこのカードがどれほどの虚無かは読者諸賢にとっても想像に難くないだろう。
「妨害の総量」と「速度」。これらの問題を解決できる新たな「人間」が新セットの発売などでカードプールに増えない限り、再び5C人間を握ることはないだろうと思っていた。
だが。
私は気が付いたのだ。この2点を1枚で解決できるソリューションの存在に。
《バネ葉の太鼓》を使えばいいのでは???
《バネ葉の太鼓》は十分な量のクリーチャーが入ったデッキで使えば、「3ターン目に4マナが出せるようになる」マナ加速カードである。つまりこれなら《集合した中隊》を唱えるターンが早まるため、スピード不足を補うのにうってつけだ。
また、5色が出るため万能の妨害札である《拘留代理人》の採用も容易になる。
「妨害の総量」と「速度」、2つの問題点が一気に解消されるのである。もはや5C人間のネクストレベルに到達したと言っても過言ではないだろう。
というわけでできあがったのがこちらのデッキだ!
『ネクストレベル5C人間』
枚数 | カード名(メインボード) |
---|---|
3 | 《寺院の庭》 |
1 | 《神聖なる泉》 |
1 | 《踏み鳴らされる地》 |
4 | 《マナの合流点》 |
4 | 《手付かずの領土》 |
2 | 《植物の聖域》 |
1 | 《秘密の中庭》 |
2 | 《感動的な眺望所》 |
4 | 《実験体》 |
4 | 《スレイベンの検査官》 |
4 | 《帆凧の掠め盗り》 |
4 | 《徴税人》 |
4 | 《サリアの副官》 |
2 | 《魅力的な王子》 |
4 | 《拘留代理人》 |
4 | 《反射魔道士》 |
4 | 《カマキリの乗り手》 |
4 | 《バネ葉の太鼓》 |
4 | 《集合した中隊》 |
スピリットがTier2にいることに鑑み、パイオニアの《スレイベンの守護者、サリア》(?)こと《徴税人》をフル採用している。インスタント除去は人間の天敵であるため、妨害に対する妨害という意味でもデッキを強化してくれることだろう。
だが、《バネ葉の太鼓》のすごいところはこれだけではない。
《バネ葉の太鼓》と《集合した中隊》のパッケージは、ありとあらゆる部族デッキに応用できるのだ。
『マーフォーク』
枚数 | カード名(メインボード) |
---|---|
2 | 《島》 |
4 | 《繁殖池》 |
4 | 《手付かずの領土》 |
4 | 《植物の聖域》 |
4 | 《ヤヴィマヤの沿岸》 |
4 | 《クメーナの語り部》 |
4 | 《水底の生術師》 |
4 | 《銀エラの達人》 |
4 | 《深根の精鋭》 |
4 | 《マーフォークのペテン師》 |
4 | 《マーフォークの霧縛り》 |
4 | 《水罠織り》 |
4 | 《オラーズカの暴君、クメーナ》 |
2 | 《波を司る者、コパラ》 |
4 | 《バネ葉の太鼓》 |
4 | 《集合した中隊》 |
マーフォークも人間と同じような弱点を抱えているが、《バネ葉の太鼓》を採用すれば解消が見込める。
『吸血鬼』
枚数 | カード名(メインボード) |
---|---|
2 | 《草むした墓》 |
4 | 《マナの合流点》 |
4 | 《手付かずの領土》 |
4 | 《秘密の中庭》 |
4 | 《花盛りの湿地》 |
4 | 《空渡りの野心家》 |
4 | 《漆黒軍の騎士》 |
4 | 《敵意ある征服者》 |
4 | 《流城の死刑囚》 |
4 | 《精神病棟の訪問者》 |
4 | 《才気ある霊基体》 |
4 | 《軍団の副官》 |
2 | 《マラキールの解放者、ドラーナ》 |
2 | 《不死の援護者、ヤヘンニ》 |
2 | 《ヴォルダーレンの下層民》 |
4 | 《バネ葉の太鼓》 |
4 | 《集合した中隊》 |
吸血鬼は黒単のアグロ型が主流だが、《軍団の副官》と《集合した中隊》を採用することでより横並びに特化させることもできる。
『スリヴァー』
枚数 | カード名(メインボード) |
---|---|
4 | 《マナの合流点》 |
4 | 《スリヴァーの巣》 |
4 | 《手付かずの領土》 |
4 | 《変わり谷》 |
4 | 《風乗りスリヴァー》 |
4 | 《先制スリヴァー》 |
4 | 《マナ編みスリヴァー》 |
4 | 《拡散スリヴァー》 |
4 | 《捕食スリヴァー》 |
4 | 《血吸いスリヴァー》 |
4 | 《毒牙スリヴァー》 |
4 | 《収差スリヴァー》 |
4 | 《吸管スリヴァー》 |
4 | 《バネ葉の太鼓》 |
4 | 《集合した中隊》 |
変わり種の部族としては、スリヴァーなんかもデッキが組めるかもしれない。
《バネ葉の太鼓》の弱点はクリーチャーを除去と交換された場合に機能不全を起こしてしまう脆さにあるが、クリーチャーと《集合した中隊》しか入っていない構成なら、その弱点が顕在化する危険性は小さい。
それに、まだあまり知られていない強力なクリーチャータイプが眠っている可能性もある。「これってパイオニアで組んだらどうなるんだろう?」と気になったクリーチャータイプがあったら、《バネ葉の太鼓》《集合した中隊》のパッケージとともに一度デッキを組んでみるといいかもしれない。