デバッグの恐怖
――では、開発の過程で苦労されたことを教えてください。
ある程度、現実に根差した設定だとスタッフもイメージしやすいんですけど……正解がないじゃないですか、こういった世界観って。この世界では何が正解で何が間違いなのか……ということをスタッフと共有するために、徹底してコミュニケーションを図って伝えていきました。そこは……やっぱりたいへんですよね。
――うんうん……。
たとえば開発の初期のころ、「直接攻撃はせず、重力で敵を巻き込んで高所から落とす……と言った世界観に根差した戦闘にしよう」ということになって、作り込みを進めていたんですね。でも……これがなかなかうまくいかない。わかりにくいし、煩雑だし。ちょうどその時にアクションに強いベテランスタッフが加わってきて、「これ、攻撃はふつうに殴ったり蹴ったりのほうがいいですよ」って。「ゲームのベース自体が新しいんだから、バランスを取る意味で“ふつうな”部分も入れたほうがいいですよ」と言われたんですよね。
――まさに、正解のない世界……。
そうなんです。初期から関わっていた人間からするとイメージがかけ離れてしまうので、踏み切るには覚悟が必要でした。そういったことがいくつもあったので、壁にぶつかったら誰かに試してもらって、そのフィードバックを活かすことも多かったと思います。
――トライ&エラーが多かった感じですか?
多かったです。僕が持っていたもともとのイメージって、どちらかというとパズル寄り……というか、いわゆる“メトロイドヴァニア”(※謎を解きながら探索するタイプのアクションゲームを指すことが多い)だったんです。最初は重力の制限があって街の一部しか移動できないけど、少しずつ能力を解放することで行動範囲が広がっていく……という感じの。苦労して段階を踏むことで最終的には空を自由に飛び回れるようになり、気持ちよさを感じてもらえればいいかなと考えていました。
――そっちに寄せなかった理由は?
制約の強いテストバージョンを遊んでもらったときの評判が、めちゃくちゃ悪くて(苦笑)。もうちょっとで目的地に着く……というところで重力の制御を失ってベチャっと落ちる……ってのが、「とにかくストレスです!!」と言われました……。
――それは……確かにツラい(笑)。
少しずつ自由になっていく……というゲーム性では、そういった躓きも必要じゃないですか。でもプレイした人の感想では、「すべてが解放されたときの気持ちよさがハンパないから、もうこれだけでいいです」と。僕としては「えええ!!」ですよ。
――でしょうねぇ。せっかくいろいろ仕込んでいるのに(笑)。
ここは、かなり抵抗したんです。「ちょっとずつ成長するから楽しいんでしょ!?」、「最初から全部できたら単調になっちゃうよ!?」って。でも、そういった不安すら押し切るくらい「最初から自由なほうがいい」という主張が強かったので、「わかった。そっちでいこう」となりました。その分、パズル性は抑えられたことによって、物語に焦点が当たるようになったんですよね。
――その決断、いま振り返ってどうですか?
いやあ、よかったですよ。我を通してたら、おそらく……。
――かな~り、人を選ぶゲームになっていたでしょうねぇ。
はい、その通りだと思います。
――少しずつ行動範囲が広がっていくことで得られるカタルシスもありますけど、自由に飛び回れるっていう爽快感を選んだのは正解だったと思います。
“我を通すことがすべてではない”ってことは、作り手として忘れてはならないと常々思っているんですけどね。“自分の思い込みと触った人の感想が違う”という現実を、このときほど強烈に突き付けられたことはないかもしれません。
――ずっと思っていることがあるんです。ゲームクリエイターって、3年も4年もかけてひとつのゲームを作るわけじゃないですか。でも、ずっと同じものに向き合っていると、あるとき、「いったい何がおもしろいんだろう……」と、思考が路頭に迷うことがあるんじゃないかな、って。
なりますよ。それはもう、確実に。
――ですよね。
“おもしろいかどうか”と考えられるレベルに来れているだけで、ずいぶんいい感じで制作が進んでいると思いますもん。
――ふむふむ。
ゲームのコンセプトをプログラマーに伝えて、試作を作ってもらうじゃないですか。『GRAVITY DAZE』の場合は、「こうやって傾けると重力が制御できて……」なんて説明して。でもプログラマーからは、「それは、おもしろいんですか?」と言われたりするわけです。演出もなにもなく、ただコントローラーやPS Vitaを傾けているだけでは解放感もへったくれもないので、伝わらないんですよね。そのときは本当に、不安になりました。
――無事完成してよかったですねぇ……。
ですねー! 正直、途中でプロジェクトが頓挫するんじゃないかとドキドキしたこともありましたけど、無事に完成にこぎつけてよかったです。
――1作目のPS Vita版の完成まで、何年くらいかかったんですか?
実際にチームとして動いたのだと……2年半とか3年くらいだったかなぁ。
――あー、やっぱり3年くらいかかるんですね。
最初はプレイステーション®3で試作を作っていたんです。その途中でPS Vitaが発表されて、『GRAVITY DAZE』もそちらで発売することに。なので一度、制作にリセットが入ったんですよね。それも含めると、やっぱり3年くらいはかかりました。
――ゲーム制作だと、制作期間3年はポピュラーな話なんでしょうけど、ひとつのものを作る年月としては……やっぱり長いな……。
最近は、3年じゃ短いくらいですよ。『GRAVITY DAZE 2』も、5年くらいかかりましたし。
――僕らメディアの人間は週刊だったり、デイリーで記事を作っているので、5年も制作を続けられるゲームクリエイターを心から尊敬しますわ。
でも、やっぱり不安はつねに付きまといますよ。たとえば、「ほかのゲームとコンセプトがかぶりませんように!」とか。『GRAVITY DAZE』なんて、“重力操作”という部分がかぶったら終わりだと思っていたので、発売するまでずっとドキドキでした。
――不思議なことに、斬新なコンセプトのゲームが出ると、その近辺で同じような作品が出たりするからなあ。
ありますよね、そういう傾向って。
――ちなみに、『GRAVITY DAZE』を遊ぶといつも、「これ……デバッグがすげえたいへんだったろうな」って思います。
それはもう……。コリジョンチェック(※衝突すること)はいわずもがな、ふつうのゲームだと行けない場所にすればいいだけのところ、『GRAVITY DAZE』は壁だろうが天井だろうが行けてしまうので。このへんのチェックは、ふつうのタイトルの数倍はやったんじゃないかなと……。この作業を楽にするための秘策もなく、ひたすら地道に潰していくしかありませんでした。
――考えただけで気が遠くなりそう……。
「このスピードと角度で突っ込むと壁を抜けることがあります」とかね(苦笑)。いまだったらAIを使って作業を楽に……ということもできるかもしれませんけど、当時はアナログにやり続けました。いまだから言えますけど、発売後もポロポロと漏れが見つかって、パッチでこっそり直したりとか……(苦笑)。