『ケシカスくん』村瀬先生の前では言えなかったこと
——……!!!!
そこで、振り返って「消しゴムが主人公の漫画っておもしろくない!? ちょっと、おれサイン会行ってくるから待ってて!!」って。
サイン会が終わったあと、村瀬先生と一緒にコロコロのブースに飾られている連載陣のポスターを見て、「あの真ん中に入る気あるんですか!?」って発破をかけてさ。主人公のデザインをファックスしてください、ってお願いしたんです。
それで、最初に来たデザインが思いっきり「mono」(笑)。何なら、「mono」って胴体に書いてたかもしれない(笑)。「『mono』の文字を外してネクタイを着けてください」とか、いろいろ注文はしたんですけど、目と口は最初から今のデザインです。「目と口はこれです。あとは変えられます」って。
——村瀬先生のこだわりを感じるエピソードですね。ケシカスくんのアイデンティティとも言える“ツノ”は、秋本さんが希望したことで付いたものだとか。
あれがないと、ただの坊主頭みたいで物足りなくて。でも、村瀬先生のセンスがあってこそのキャラクターデザインとなりました。消しゴムのスリーブもね、取ったらちんちんが見えるとか(笑)、そういうアイデアを出し合いながら。消しゴムって、コロコロ読者の小学生には当然身近なものですし、それが今も続く『ケシカスくん』人気の理由の一つだと思っています。
——長いお付き合いということもあってか、村瀬先生を褒める時、なんだか恥ずかしそうですね。
先生の結婚式のあいさつでも、めちゃくちゃなことを言ったからね。「ケシカスくんから、お手紙が届いています。よく結婚できたな!!」みたいな(笑)。……いやね、彼はギャグ漫画家として知られているけど、ストーリーものも描けるんです。おれの知人の子どもが、親が離婚しそうで落ち込んでいる時に「ケシカスくんならいいよね。なんでも消せるから」って言ったそうで、思わず、そのことを村瀬先生に話したんです。
そうしたら、彼がそのことをテーマに1話描いて、子どもに対するメッセージを漫画を通して伝えたんです。すごい染みるんですよ。本人の前では言いたくないんですけど。『ケシカスくん』の力を借りれば、こういうことも伝えられる作品なんだなと思いました。
あと、『ケシカスくん』は、07年度の小学館漫画賞を受賞していて。「受賞作品の担当編集者にしてくれてありがとうございます」とは伝えました。
——佐上さんとの握手のエピソードといい、秋本さんの人柄を感じられます。『ケシカスくん』は、その名の通り消しゴムの文房具「本物ケシカスくん」が発売していますが、誕生時のことを教えてください。
もともとは、消しゴムに目と口のシールを貼るとケシカスくんになるよっていうふろく企画を展開していました。でも、本当に消しゴムでケシカスくんをつくれたら、“本物のケシカスくん”がふろくになるじゃんと思って。ゾイドのモデリングを担当してくれるような人たちに原型を発注してつくってもらったんですけど、これが意外と似ないんですよ。なんだか、漫画より彫りが深くて、気持ちの悪い感じに仕上がって(笑)。
——ケシカスくんのデザインって、一見シンプルに見えるので、本当に意外です。
その後、アニメ化の話をいただいて、『ケシカスくん』消しゴムは、一気に商品化の話が進みました。これはおもちゃではなく、消しゴムであるべきだという思いがあったので、ホビーメーカーではなく、ショウワノートさんにお願いして。現在に至るまで長く続いている商品で、ありがたく思います。