京極:
ちゃんと松本さんのまんがなんですよ。でも別のキャラクターじゃダメだ、「鬼太郎がやりたいんだ!」という気持ちがすごく出ていますね。
だからこれはアリだと思いました。原作と全然違うって言う人もいると思うんですけど、中には。
松本:
言われますね。
京極:
違っていないと水木先生はOKしないですよ。無理に似せたってそれはニセモノですし、本物にはかなわない。というか、さっきいったとおり、水木さんの世界観の中で勝手に鬼太郎を変えちゃったりするのは、これは絶対NGなんです。まったく別の世界観の中に鬼太郎が入っていくのはOKなんですよ。「鬼太郎が大好きだから、鬼太郎が登場する俺のまんがを描かせてください」というのが正解だと思う。基準が難しいですけど。
松本:
難しいですね。
京極:
だけど、僕は松本版を読んで「鬼太郎」だと思いました。松本さんが描く世界観も、コマ割りも、筋運びも、水木まんがとはまるで違うんですが、でも、その中に「水木さんが作った鬼太郎」がちゃんといる感じがする。それは松本さんが鬼太郎が大好きだからなんですね。
松本:
本当に鬼太郎が大好きなんです。
京極:
水木まんがのフォロアーになっても意味はない。それこそ原作読め、で済んでしまいます。むしろその先、「水木しげるの作った鬼太郎というキャラクターを自分の作品の中でどう活かすか」をちゃんと考えたほうがいいですもん。
松本:
やっぱり、僕は水木先生が描く子ども向け作品が大好きなんです。
京極:
水木さん、子ども向け作品ほど力入れてましたから。松本さんの鬼太郎も年の若い読者さんに喜んでもらえるように苦心されていますよね。コロコロ作品として、コロコロの読者に向けた松本さんの作品として描かれているからこそ、僕は面白いんだと思います。
松本さんの鬼太郎を読んだ方が「鬼太郎っていいね」と思ってくれればそれでいいんです。もし水木先生がご存命だったらお読みになるだろうし、その時に「同じじゃん」と思われるようなものでは、いけないんですね。
松本:
ありがとうございます。
—松本先生はデュエル・マスターズもありますので、今月も100ページくらい描いています。
京極:
かぶると大変ですよね。でも、バックベアードが出てきたあたりは絶好調な感じですよね。
松本:
わぁ、そこまで読んでいただけるなんて、嬉しいです。
京極:
読みました。バックベアードのところノって描いてるな、と。
松本:
やっぱりわかりますか?
京極:
わかりました。最初の1ページ目の鬼太郎の顔が違いますから。「今回の敵、バックベアードだぞ」と、気合い入っている感じが爆破しましたね。もっと、出したい妖怪がいっぱいいるんだろうなとも思ったけど。
松本:
それはもう! あと、こだわりもあって第1話は「のびあがり」にさせていただいたんですが、それは原作の鬼太郎の中で、僕は単独で戦う鬼太郎が好きなんです。だから単独で戦うエピソードの中で好きな「のびあがり」を第1話に出しました。そして、原作でも妖怪大戦争編で仲間が集結するから、僕も今回「バックベアード」の話で砂かけ婆たちを出しました。
あとバックベアードの倒し方もこだわっていて、アニメに対しての対抗意識もあったと思います。
京極:
嬉しいな。その辺ですよ。80年代以降は鬼太郎ファミリーでセットみたいな感じになってるんですけど、そんなことはないですよね。今回松本先生のまんがを読んだら、やっと仲間が出てきた。けど、敵じゃん(笑)
松本:
それは本当に申し訳ございません(笑)
京極:
いいんじゃないですか。鬼太郎と仲間はほどんど戦ったことありませんから、戦うところも見たかったという声も、ファンの中にはあるんです。いや、まんが家さんに向かってこんなことは不遜な気がしますけど、水木ファンとして「なるほど」と思うところがあるんですよ。好きでもない人が作ると「こんなものでしょ?」という作り方になってしまうし。
松本:
わかります。子どもの頃から読んでいるので、見抜いていたから、それが許せなくて。
京極:
そうでしょう? ルパン3世だって、4人揃っている回ばかりじゃないんだから…。鬼太郎は1人でもいいの。1人の鬼太郎、かっこいいじゃないですか。
松本:
わかります。大好きです。
京極:
きっちり松本作品になっているのに、そういうところでこだわってくれるのは嬉しいですね。実は、連載前に不安だったのが、「アニメのコミカライズ」だったらちょっとどうかなって。多分松本さん以外の人だったらそれに近い感じになっていたんじゃないかなと思いますね。
—それはおっしゃるとおりで、他の人が描いていたらアニメ連動コミカライズになっていた可能性があります。
京極:
それは勘弁して欲しいですね。すでに3次創作(笑)。
松本:
それだと、ほぼ妖怪出せなかったですからね。
—アニメのスタッフさんも、「松本さんは鬼太郎が好き」ということで自由に描かせていただいています。
京極:
よかったですねぇ。本当に良かった。
—編集部からもこうしてください、というのは言ってなくて。編集部の誰よりも詳しいので。
松本:
やっぱり、編集さんに言われても「いやそれは、鬼太郎と違うし」と思わず言ってしまうんです(笑)
京極:
なるほど。好きこそ物の上手なれと言いますし。好きな人にやってもらうのが一番いいですよ。
松本:
僕は鬼太郎を描かせてもらって、さらに水木先生が理解できたのが嬉しいんです。こんなに妖怪が好きで、鬼太郎が好きなのに、いざ描いてみると描けない時があると、逆に嬉しいんですよね。「水木先生はとんでもない」と実感できるんです。
京極:
普通は描けないと辛いのにね。「絶対無理だけど、俺が描く」とか、「描けないことが嬉しい」とか、矛盾だらけですけどね(笑)。
松本:
確かにそうなんですけど、苦しんで描くんですけど、そこが嬉しいですね。
次回は描いてみないとわからない、水木しげる先生の「ゲゲゲの鬼太郎」に注ぎ込まれた数々の技法、そして「妖怪」とは何かに迫る!? お楽しみに!
京極夏彦 |
松本しげのぶ |