しゃいとさんの曲作りに迫る!
2020年9月のサービスイン以来、コロコロオンラインがひたすら追い掛け続けているセガ×Colorful PaletteのiOS/Android向けアプリ『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』。
リリース当初からこのコンテンツを追いかけてきたコロコロオンラインプロセカ班は、2021年10月には1周年を祝した特集の展開や、
2022年10月には『プロセカ』2周年を記念した大特集を実施。
さらに2023年10月に『プロセカ』3周年記念特集を掲載するなど、担当からほとばしる圧倒的な“プロセカ愛”をカタチにし続けてきた。
そんなコロコロオンラインプロセカ班がとくに情熱を注いで追っているのが、このゲームの根幹でもある楽曲……そして、それを制作されている“ボカロP”と呼ばれる“才能たち”であります!!
“子どもが将来なりたい職業ランキング”において、ゲームクリエイターやユーチューバーらと並んでボカロPが上位にランクインし、コロコロの読者層との親和性もめちゃくちゃ高いということで、前述のプロセカ1周年特集の際にボカロ界のビッグネームにつぎつぎとインタビューを敢行!! その内容の濃さは業界内外に衝撃を与え、このたび……不定期連載で、さらに多くのボカロPの皆様にご登場いただき、ナマの声をお届けできることになったのです!!
『プロセカ』はゲーム内容はもちろん、楽曲のすばらしさが高く評価されて現在の人気を確立したと言っても過言ではない。それらを生み出したボカロPたちの考えかた、作品への向き合いかたを掘り下げたこのインタビュー連載を読まれることで、ゲームを遊ぶだけでは知りえない情熱や、楽曲に対する想いを知ることができるはずだ。その結果……さらに登場キャラやユニット、『プロセカ』そのもののことが好きになること請け合い!!
そしてインタビューの後半では、“いかにしてボカロPになったのか?”という、将来この道に進みたいと思っている読者の皆様の道しるべになるような質問もぶつけているので、とにかくあらゆる人たちに読んでいただきたいなと!!
さて今回ご登場いただくのは、プロセカが主催する楽曲コンテスト“一緒に作ろう! 第9回楽曲コンテストプロセカNEXT”の採用曲『未完成讃歌』を手掛けられた“しゃいと”さんだ!
第9回のコンテストのテーマは“フリー”。縛りがいっさいなく、どんな曲で応募をしてもいい……という、ある意味究極のテーマに、しゃいとさんはどんな気持ちで臨んだのか? そして生まれた『未完成讃歌』の秘密とは……? じっくりと語ってもらったぞ!
※インタビューは、感染対策を徹底した上で行っています。
“未完成”の裏に、日光東照宮!?
――まずはたいへん恐縮なのですが、簡単に自己紹介をお願いいたします。
しゃいと わかりました! ボカロPをやっております“しゃいと”と申します。最近、ちょうどボカロPとして活動を始めてから10周年を迎えました。
――ありがとうございます! そんなしゃいとさんは、“一緒に作ろう!第9回楽曲コンテストプロセカNEXT”で受賞されたわけですけど、こちらに応募されたきっかけを教えてください。
しゃいと プロセカNEXTというコンテストはもちろん知っていたんですけど、自分には関係のない、雲の上のイベントだなぁ……とずっと思っていたんです。そんな中、SNSで僕をフォローしてくれているボカロPが何人かいるんですけど、気づけばその方たちがつぎつぎにプロセカNEXTで受賞していって……! それを見て初めて、自分も挑戦してみようかな……と思い始めたのが、最初のきっかけになります。
――……ということは、この第9回が初めての応募で?
しゃいと はい、そうなりますね。
――そうだったのか……! ちなみにそのフォロワーのボカロPというのは、タケノコ少年さんやネギシャワーPさん?
しゃいと まさに! その通りです!
――じつは彼らはすでにこのインタビュー連載に登場していて、かなり詳しくお話をお聞きしているんです。そのときのことを思い出すと……しゃいとさん、なんとなく纏っている雰囲気が彼らと似ている気がします(笑)。
しゃいと あ、本当ですか!?タケノコ少年さんはボカロP歴も自分と同じくらいで、かなり長くやっておられるんですよね。それもあってか、仲良くさせてもらっています。
――ほうほう! ふだんからけっこう交流も?
しゃいと はい、そうですね。即売会とかのイベントがあるときは、よく挨拶に行ったりします。
――へ~~~! 我々もクリエイターズマーケットがあると現地に行って、おふたりがいれば挨拶に行くんですけど、必ず「ああ! 来てくれたんですか!」といつも気さくに話かけてくれます(笑)。
しゃいと 今後は自分もよろしくお願いします!!
――ぜひぜひ(笑)。さて、初の挑戦で見事に受賞されたわけですけど、この報告を聞いたときはどんな感じでしたか?
しゃいと 「よっしゃ!!!」って言って、家の中を駆けずり回っていた記憶があります(笑)。
――連絡はメールか何かで?
しゃいと はい。SNSのアカウントにDMが届いたんですけど、(受賞しているとしたら、ぼちぼち来るはず……!)と構えていました。絶対に獲りたいと思っていたので、念願叶った感じです。
――これまでこの連載では多くの受賞者にお話を聞いてきたんですけど、皆さん第一報が届いたときに、「これ……誰かがいたずらで送ってきたのでは?」と疑ってかかったそうです。
しゃいと あははは! なるほどーーー!
――しゃいとさんは、どうでした?
しゃいと 自分の場合はさっき言った通り「絶対に受賞したい!」とかなり強く思っていましたし、(もしかしたら、いけるかも……!)という手ごたえもあったので、どちらかと言うと「キタ!!」って感じでした。
――でもそのDMって、『プロセカ』の公式から来るわけですよね? そんなのが来ちゃったら、相当焦るんじゃないかと思うんです。
しゃいと 確かに一瞬、似たアイコンを使っているフォロワーさんからDMが来たのかな……とは思いました(笑)。
――そんな第9回のテーマは“フリー”だったわけですけど、自由に作っていいよ……ということだと、逆に難しいんじゃないかと思うのですが。
しゃいと そうですね。僕はかなりいろいろなジャンルの曲を作っているんですけど、その中で、“自分が強く持っている感情をテーマにすると自信作が生まれやすい”っていうジンクスがあるんです。ですので、今回は過去にないくらい大事な場だったので、“自分自身とミクのメタ的なテーマ”にしようと決めました。(※メタ的:その物事を、ひとつ上の世界から見ているような感覚のこと)
――あーーー……! それが……。
しゃいと はい、“未完成”というテーマですね。でも……じつはその背景にあるのって、自分が子どものころに行った日光東照宮なんです。
――!? どういうこと!?
しゃいと 修学旅行で行ったと記憶しているんですけど、その日光東照宮に“陽明門”ってあるじゃないですか。
――はい、ありますね。世界遺産・日光東照宮を象徴する絢爛豪華な門ですな。
しゃいと はい。その陽明門には12本の柱があって模様(※グリ紋という紋様)が施されているんですけど、1本だけこれが逆になっているんです。不思議に思って調べたら、当時の価値観として“建物は完成と同時に衰退していく”という考えがあって、わざと未完成にしていた、と……! 少年だった僕はこの話に衝撃を受けて、大人になったいまでもずっと覚えていたんです。
――ほーーー!!
しゃいと で、今回の曲のテーマを考えたときに陽明門の柱のことを思い出して、「未完成をテーマにしたら、いままでの自分の活動と重ね合わせることができるのでは?」と確信し、曲作りを始めました。
――それで、曲名からしてそのものズバリな『未完成讃歌』にされて。しかも“讃歌”だから、未完成であることを褒めたたえよう、と……。
しゃいと まさに、その通りですね。
――いやでも、おもしろいなあ。子どものときに見て衝撃を受けたものを、ずっと胸の内に秘めていた……というのは、いかにもクリエイター的なエピソードですね。
しゃいと ありがとうございます。衝撃と同時に、その思想がめちゃくちゃかっこいいなと思っていました。
――それでも、いままではその想いを曲にすることはなく……。
しゃいと はい。今回、満を持して曲に仕上げました。
――僕も『未完成讃歌』はくり返し聴きましたけど、すごくキレイな曲なんですよね。もちろん、歌詞もすばらしくて、リスナーたちは「神曲!」って叫んでます。
しゃいと いやあ、本当にありがたいですねえ。
――そこでぜひお聞きしたいのが、お気に入りの歌詞です。どのあたりになりますか?
しゃいと 2番のBメロに、「届きそうもない 誰も待ってない それでも構わない 二人の理想を」という歌詞があるんですが、ここになりますかね。
――はい。
しゃいと 僕はボカロPの活動を始めてから5年くらいは、再生数も2〜3桁くらいのレベルだったんです。それでも、少しずつ聴いてくれる人が増えてきて、ポツポツと感想も寄せられるようになりました。それがすごくうれしかったのと、当時はとにかく曲を作ることが楽しかったので、夢中で音楽と向き合っていたんです。いまは、そのころと比べたらずっと評価をされるようになりましたけど、なんと言うか……「あのころのこと、忘れるなよオマエ!」って、自分に対する戒めとして、この歌詞を書いた記憶があります。ですので、個人的にすごく印象深いんです。
――ということは、“未完成”というテーマは、ご自身のことを投影していると?
しゃいと そうです! クリエイターとして未完成だよ、と……。
――自分はまだ未完成だけど、未完成だからこそ先に進んでいくよ……と。
しゃいと はい。最近になってようやく褒めてもらえることも増えましたけど、けっきょく、実力がなく、妥協をしながら曲を作っていたあのころの延長線上にいるのが、いまの自分ですから。
――たぶんそれと近い意味だと思うんですけど、「僕らは未完成でこんなに不完全で だからこそ何回も何回も 高みを目指していく」という箇所があるじゃないですか。
しゃいと はい、ありますね。
――ここ、めっちゃ好きです……!
しゃいと うわあ、ありがとうございます! うれしいです!
――ここが、『未完成讃歌』という曲でいちばん強い意味が込められているのでは……と思いながら聴いていました。
しゃいと ありがとうございます! さっきの陽明門の話もそうなんですけど、僕も完成して満足しちゃったら、あとはどんどん下がっていってしまうのでは……と考えることがあるんです。ですので、これは僕のクリエイターとしての信念なんですが、ずっと未完成で、完成を見ぬまま、ひたすら上を目指し続けたいなって思っています。そういう気持ちを込めた歌詞になりますね。
――陽明門の話を聞いてから改めて『未完成讃歌』を聴くと、やっぱり歌詞がめちゃくちゃハマっていますね。
しゃいと そうなんですよー!! これ、ほとんど誰にも話していないので、外に出すのは初めてだと思います。
――すばらしい! ファンの皆さんにも、ぜひ改めて歌詞を噛みしめて聴いてほしいですね。きっと、いままで以上に腑に落ちると思うので。
しゃいと はい。きっと、見えかたが変わってくるんじゃないかなと思います。
――でもしゃいとさん、言葉のチョイスが巧みですよね。すごくキレイな歌詞を書かれる人だなーと感じました。
しゃいと 本当ですか!? うれしいです!
――たとえば、「遍く星のディーヴァへ 永遠の輝きを」のところ。“あまねく星のディーヴァ”ですよ! ミクのことを指していると思うんですが、絶妙な歌詞ですよねえ。
しゃいと すべてのボカロPの家にボーカロイドが住んでいて、そのクリエイターそれぞれが、無数の初音ミクやKAITO、ルカたちを謳わせているわけです。そんな、すべてのクリエイターとすべてのミクたちに向けて、その歌詞を書いた感じです。
――いいですねぇ……! そういった歌詞を紡ぐうえで、何か心掛けていることはあるんですか? 語彙力の鍛えかたとか。
しゃいと じつは作詞がすごく苦手で、毎回毎回いちばん苦労するのが歌詞なんです……!
――あ、そうなんですか!? 意外ですねえ!
しゃいと それでも意識していることはいろいろあって、もっとも大事にしているのは“語感”で、いかに曲にフィットするか……ということを第一に考えます。ですのでまず、メロディーを思いついたら、言葉になっていない「ふんふん……ふにゃにゃほんほん~~……」みたいな、ただの“音”を当てていって、何となくの仮歌詞にしていきます。そしてつぎの段階で、その音に近い言葉を探して、作詞の手がかりを作っていくんです。
――へーーー!! おもしろいなあ。ということは、まずは作曲をされるわけですね。
しゃいと はい。僕の場合、サビを中心にキャッチーないいメロディーを作りたいという想いがいちばん強いので、そこを固めるのが最優先になります。そこに、徐々に詞を付けていく……という感じでしょうか。
――わかりました! では、その曲に関してはいかがでしょう。ぜひ、聴きどころを教えていただきたいのですが。
しゃいと わかりました。いま言ったようにサビのメロディーをとにかく重視していて、少しでもキャッチーなものを……と思いながらいつも曲を作っています。でも……。
――でも?
しゃいと 今回はコンテストの応募曲なので、いわゆる“ふつうのいい曲”だと絶対に埋もれちゃうと思いました。そこで、何かおもしろい仕掛けをいくつか仕込みたいな……と思って、たとえばAメロで異国風の音階を使ってみたり、Bメロでは変拍子に合わせてたくさん転調していく……とかとか。ちょっとトリッキーなことをいくつも仕込んでいきました。それにより、聴いてくれた方……とくに今回は審査してくれる皆さんが、『未完成讃歌』を聴いて「お?」と引っ掛かってくれればいいな、と……。そして結果として、こういった仕込みが『未完成讃歌』の聴きどころになったんじゃないかなと思います。
――なるほどー! キチンとコンテスト用の戦略として、そういったポイントも作っておいたんですね。
しゃいと そうなんですよー!
――僕が聴いていちばん印象的だったのは、曲の最後。「君と繋いだこの フィクションを綴る」という、いかにも続きそうな歌詞なのに、ピシャリと終わっちゃうじゃないですか。
しゃいと はい、そうですね。
――もしかしたらここでも、未完成と言うことを表現したのかなと思いましたが……いかがですか?
しゃいと おっしゃる通りです! これ、曲を公開してすぐに多くの人が同じように反応してくれて、「みんな鋭いな!」って感動したんです。
――うんうん。
しゃいと サビが終わったあとにAメロが来て終了する……という曲がたまにありますけど、そういった曲って物語として、このあとも続いていくような余韻を感じさせるんです。そういう曲を昔から聴いてきたので、「これは『未完成讃歌』の演出としても、すごくハマるかも!」と思いました。
――まさに、そういう効果を出していると思います。
しゃいと ありがとうございます。“未完成を賛美する讃歌”でありながら、“未完成の讃歌”でもある……。ちょっとしたダブルミーニングになっています。
――めちゃめちゃ工夫してるんですね! しかも、“コンテストだからこそ”ってのがキーワードとして存在するのが、すごくおもしろいです。
しゃいと そう言っていただけてよかった(笑)。
――あと、僕は個人的に、この曲のイントロがすごく好きなんです。なんというか、透明感があって、それでいてちょっと跳ねるようなピアノの音色が。
しゃいと うれしいです! イントロの部分は楽器としてはピアノと、あとマリンバを入れているんです。ふたつの楽器で同じ音を重ねているので、ふつうのピアノよりも煌びやかな感じになったんじゃないかなと思います。
――そうそう、キラキラしてるんです!
しゃいと あ、そうですね! ファンタジーな感じになるといいなぁ……と思って作りました(笑)。
――楽器選びというのは、曲が通しで完成した後から、いろいろと付けていって完成度を高めていく……というイメージでいいのですか?
しゃいと 僕はそういう作りかたが多いですね。メロディーを作っている段階で頭の中に音があったら、それに近いモノを模索して付けていく……ということもありますけど。
――頭の中に、音がある……? なんか……めちゃくちゃかっこいいですね!!
しゃいと あははは! いや確かに、言葉にするとかっこいい感じですね(笑)。
――僕みたいな文章を書く人間は、創作でも何でも、表現が降って来るという感覚は持っていますけど、音楽家はこれが、音になっていると考えればいいのか……!
しゃいと そうですね! 自分の場合はDAWに出力するよりも前に、メモも取らず、録音もせずに、オノレの脳内だけで曲を作って完成しちゃうパターンもあるんです。
――ええええ! なんか、僕らと脳の使いかたがぜんぜん違う気がします。でも、文章もそうなんですけど、「これすげえ!」って頭の中にあるものを出力しようとしたときに、ぽかーんと忘れたりしませんか……?
しゃいと そうなんですよ!! けっこう忘れちゃいます! でも、それがわかっていてもあえて録音しないのは、何日か経って脳内から消えてしまうメロディーって、きっと聴いた人も印象に残らず、すぐに忘れてしまうんだろうな……って思っているからなんです。
――あーーー……! それは真理かもしれない……。
しゃいと ですので、たくさん脳内だけで作って、何日もずっと頭にこびりついているものがあったら、初めてDAWで曲にしていく……というのが、いつもの流れになりますね。
――うんうん。それほど忘れられないメロディーなら、間違いなくキャッチーですもんね。
しゃいと そうなんです。聴かれた方の印象にも残りやすい楽曲になってくれるんじゃないかと思います。
――じゃあ、この『未完成讃歌』も?
しゃいと そうですね! メロディーの破片みたいなものを、頭の中で作っていきました。そのほかにもたくさんのメロディーが浮いていた中で、何日も生き残ったものを使った感じです。
――おおお……! まさに、精鋭たちを。
しゃいと あははは! そうですそうです! 選りすぐりのモノたちを総動員した感じです。
――そんな『未完成讃歌』の制作期間はどれくらいに?
しゃいと たしか2~3ヵ月くらいで、他のクリエイターの方々と比べると長めのほうなのかなぁと思います。でも僕的にはけっこう平均的な制作期間です。先ほど言ったようにメロディーを脳内で組み立てて泳がせている期間が長いので、場合によっては1年、2年くらいを経てようやく完成する曲もありますから。そういった曲と比べると『未完成讃歌』は平均的で、それほど難航せずに進んだかなと思います。
――なるほど……って、2年かかる曲もあるんですね!
しゃいと そうなんです。音にこだわるんですけどぜんぜん思うようにいかず、いろいろと研究を始めたりするので……。後から着手した曲がどんどん仕上がっていくのに、その曲だけはまったく進まない……なんてことは、よくありますねえ。
――『未完成讃歌』は、41作目ですよね。
しゃいと はい、そうですね。
――それを考えると、下積みの期間が長いと言うか、かなりの苦労人なのかなというイメージがあります。
しゃいと はい、でも自分としては苦労をしている感覚はないんです。脳内で音を作る作業はほとんど労力がかからないので、かなりの本数を同時並行でやっていますから。なのでその日の気分で、「今日はこの曲を突き詰めていこうかな」とか、「いや、それは休憩していま浮かんだこの音を……」なんて、誕生と消滅をくり返しながら少しずつ進行させていく感じです。なので、おそらく……つねに10曲くらいは、頭の中に同時進行している曲があります。
――10曲!?
しゃいと はい。ですので1曲が完成するまでに掛かる時間は多いんですけど、制作頻度ということになるとペースは保てているかな……と思っています。
――では、『未完成讃歌』がゲームに実装されたのを見たときの感想をお聞かせください。
しゃいと やっぱり、まずは「感動」ですね……!
――ですよねーーー!
しゃいと そしてそのあとすぐにダウンロードして遊んだんですけど、じつは『未完成讃歌』を作る前に『プロセカ』に実装されている曲をすべてプレイして、譜面はどんな感じで作られているのかを研究していたんです。どういう音のときに、どんなノーツが使われることが多いのか……とかですね。そこから、「こういった音を仕込んだら楽しくなるだろうな」というアイデアがいくつも出てきて、それを意識しながら仕上げたんですけど……ほぼ思い描いた譜面になっていたことにも、すごく感動しました!
――なんと!! そこまで考えて曲を作っていたんですか!
しゃいと そうなんです。感覚的には、僕が仕込んだメッセージを制作者の皆さんが全部見つけてくれて、譜面として反映してくれた……と思えて、無性にうれしかったんです。実装当時、『プロセカ』プレイヤーから「神譜面!」と称賛されましたけど、そういう前提もあったので余計に感激しました。
――……しゃいとさんて、じつは理系の人?
しゃいと いえいえ! むしろ理系は苦手でした。
――そうなんだ……。いや、なんかそういった理の詰め方が、すごく理系っぽい感じがしました。
しゃいと あ、本当ですか? 初めて言われました(笑)。
▲歌詞に合わせたノーツが可愛い『未完成讃歌』の譜面は、MASTERレベル31とやり応えのある難易度。楽しい譜面となっているので、是非、チャレンジしてみてくれ!
――でも、その「神譜面!」もそうですけど、ゲーム実装後にさまざまな反響があったんじゃないですか?
しゃいと そうですねーーー。『未完成讃歌』は、僕が活動を始めてから8年目くらいのときの曲なんですけど、過去に類を見ないほど多くの反響をいただけたことが純粋にうれしかったです。
――楽曲の再生回数も段違いですよね。
しゃいと そうなんです。もう、断トツでした。
――コメントもたくさん届いたと思いますが、僕が見た中ですごく印象的だったのが、「ミクの声がありえないくらいかわいい!」ってもの。ひとりやふたりじゃなく、本当に多くのリスナーがこの点に反応しているんですよね。
しゃいと あ、そうなんですよ! これもうれしかったなー!
――お話しできる範囲でいいんですが、調声にはどんな秘密が……?
しゃいと これは……言っちゃってもいいかなぁ……。
――いや! 企業秘密もあるでしょうし、ぜんぜんスルーしてもらってもいいですよ!!
しゃいと あ、大丈夫です(笑)。自分からSNSで発言しちゃったりしているので。
――ほっ(笑)。
しゃいと ふつう、調声のときにピッチラインをいじったり、編集したりしてミクの声を作っていく人が多いと思うんですけど、僕はあえて、ピッチはまったく書いていないんです。
――ほうほう!
しゃいと ピッチを書かなくても、ノートを細かく母音と子音に分けて置いていくことで、ちょっと特徴的な声を作れたりするんです。
――……ボカロで曲を作ったことがないので僕はわからないんですけど、曲作りをしている人はこれだけでピンとくるんでしょうね。
しゃいと はい、わかると思います。まあ僕の場合、ピッチを使った調声がよくわからなかったので、自分なりにノートの分割だけで整えていく……という方法にたどり着いたんですけどね(笑)。でもこれが、自分の個性になっているようなので、逆によかったですけど。
――しゃいとさん独自の調声の神髄がここにあるとするなら、ますます書くのを躊躇するなあ。
しゃいと いえいえ! かわいいミクの声が増えるのは大歓迎なので、どんどん書いちゃってください!
――えええ!! 聖人!!! 自分だったら、文章を書くコツなんて核心部分は死ぬまで伏せますよ!!
一同 (爆笑)
――いやでも、すばらしいと思います。ではそんなしゃいとさんから、『未完成讃歌』が大好きなリスナーの皆さんにひと言お願いいたします。
しゃいと わかりました! この曲は先ほども言った通り、すべてのクリエイターに向けた讃歌……応援歌のつもりで作りました。でも、聴いてくださるリスナーの皆さんも、日常生活のちょっとしたところで自分と曲を重ねてみて、「不完全でもいいんだ!」というメッセージを感じ取ってもらえたらうれしいです。
――ありがとうございます!! ではここから、将来の夢として「ボカロPになりたい!」と思っている人たちのために用意した質問にお答え願えればなと……! まずは……しゃいとさんが、ボカロPになられたきっかけを教えてください!
しゃいと 自分はもともとひとりのリスナーとして、ボカロの音楽を聴いていました。そしてそのうちに、(自分でも作ってみたいな……!)という憧れが芽生えてきて、ボカロPのソフトを買うに至った感じです。
――おおお……! なんというか……すごく王道な気がします。
しゃいと あ、そうですね! ボカロPになりたいがゆえにボカロのソフトを買ってきた……という流れです。
――それまでの音楽経験は?
しゃいと ピアノを弾いたりはしていたんですけど、それをきっかけに作曲を……ということはまったく思わず、ホントにボカロという文化に触れて憧れて、「ボカロ曲を作ってみたい!」って思いました。それが、ちょうど10年くらい前ですね。
――ボカロのソフトを買ってきて、すぐに使いこなせたんですか?
しゃいと それがぜんぜんわからなくて、何から手を付けていいのかすら見えなかったです……。でも、「ボカロ曲を作りたい!」という想いだけは強かったので、ソフトは使えなくても頭の中でどんどん作曲が進んでいって完成にこぎ着けちゃう……ということを、当時からやっていました(笑)。なので、脳内で曲を泳がせて……というやりかたは、そのときに身に着いたんだと思います。
――そうやって苦労されたことが、いま活きていると……! では、そんなしゃいとさんにぜひ、ボカロPになるために必要なスキルをお聞きしたいのですが!
しゃいと 極端なことを言ってしまうと、楽器とか楽譜とかに精通する必要はまったくないなと思っているんです。そこで、僕がもっとも大事だと思っているのは、“情報を自分で収拾する能力”になります。……それがなかったがゆえに、僕は脳内でひたすら妄想するタイプになったので(苦笑)。
――なるほどーーー。
しゃいと たとえば、「理想の音を実現するためには、こういうソフトが必要だ」とか、「でもお金がないから、無料の中から見つけないと」、「その中で評判がいいのはこれだな!」とかとか、情報を取捨選択していくことができれば、上達も劇的に早くなると思います。でも、当時の自分はそういう考えもなかったので、理想の音にこぎ着けるのに苦労しました。その結果、鳴かず飛ばずの時代が長く続いたということを思い返しても、もっとも大事なのは“自分で調べて行動を起こす力”かなと思います。
――情報が氾濫しているいまだからこそ、選ぶ力は重要ですもんね。
しゃいと まさに! いまは10年前と比べても格段に欲しいモノが手に入りやすくなっているじゃないですか。なので、「ボカロって難しそうだな」と尻込みするんじゃなくて、どんどん調べて、行動を起こしてほしいなと感じます。無料でできることも、本当に増えましたから。
――音楽理論とか楽器を知らなくても、なんとかなるものですか?
しゃいと なんとかなります! 自分はある程度の経験はありましたけど、それ以上に“好きだから勉強していた”ってことが大きかったですし。いろいろな曲を聴くだけでも勉強になりますし、引き出しが増えていくので、気になったものは聴きまくるといいと思います! この、ほかの人が作った曲を聴くことって、音楽家を目指すうえではいちばん重要かもしれませんね。
――そうか。その音楽にこそ、さまざまな情報が詰まっているんですもんね。
しゃいと おっしゃる通りだと思います!
――では、ボカロPになってよかったと思うことがあれば、ぜひ教えてください。
しゃいと これは、日常生活において感動したこととか、逆に辛いことがあっても、すべて曲を作るためのエネルギーに変換できることでしょうか。
――!!! な、なるほど。それは、じつに新鮮な回答です!
しゃいと 僕は、すべての感情は芸術にできると考えているので、はたから見たら辛いこととか、酷い状況にあったとしても、そのときの心境を込めて形にすればいい……と思っています。その作品でどこかの誰かが救われているかもしれない……って、すごくステキじゃないですか。
――言われてみれば確かに、めちゃくちゃドロドロな歌詞の名曲って、たくさんありますもんね。
しゃいと そうなんです! そういった曲が簡単に触れられる場にあふれているのも、ボカロの魅力じゃないかなって思います。
――わかりました! では、これからボカロPを目指す全国の少年少女に、先達としてエールをお願いいたします。
しゃいと 先ほども言った通り、いちばん大事なのは情報を集めて、自分から動くことです。最初は思うように曲は作れないし、評価もされないかもしれないですけど、それがふつうの世界ですから。僕の場合は7、8年も鳴かず飛ばずでしたけど、それでも「自分の理想の音を作っていきたい」という想いは消えなかったので、それくらい魅力的な場所でもあります。ですので、ぜひ楽しみながらがんばってください!
――ボカロP活動のいちばんの原動力は、“楽しい”ってことなんですね。
しゃいと そうですね! 楽しさと、好奇心です。僕はボカロのソフトを10種以上所有していて、作風もとにかくいろいろなんです。それも楽しいがゆえで、「つぎはこんな曲調なので、誰に歌ってもらおうかな」と好奇心の赴くままにやっているんですね。その楽しさを最優先で活動しているので、いまも続けられているのかもしれません。
――ありがとうございます! では最後に、『プロセカ』にもひと言お願いいたします。
しゃいと 先日発表された劇場版もそうなんですけど、『プロセカ』って本当に、つねに新しいことに挑戦を続けているイメージなんです。それをひとりのユーザーとして楽しませてもらいつつ、「自分ももっとがんばらないと!」という活力源にもさせてもらっています。これからもその背中を追うように、制作活動を続けていきたいと思います!
――わかりました! 本日は楽しいお話、本当にありがとうございましたー!
しゃいと
10人以上のボカロと共に、
幅広い雰囲気の楽曲を作り続けるボカロP。音街ウナやGUMIを 始めとした多数の公式楽曲コンテストでも受賞歴を持つ。
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タイトル概要
プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク
■対応OS:iOS/Android
■App Store URL:https://itunes.apple.com/app/id1489932710
■Google Play URL:https://play.google.com/store/apps/details?id=com.sega.pjsekai
■配信開始日:配信中(2020年9月30日(水)配信)
■価格:基本無料(アイテム課金あり)
■ジャンル:リズム&アドベンチャー
■メーカー:セガ/ Colorful Palette
■公式Twitter:https://twitter.com/pj_sekai
「VOCALOID(ボーカロイド)」および「ボカロ」はヤマハ株式会社の登録商標です。