ぶっちゃけ、めっちゃおもしろいです
大塚角満の『カブトクワガタ』プレイ日記をお読みの方は憶えているかと思うが、この連載が100回を迎えようとしていたとき、
「じつは……連載100回を記念するような“すごい企画”を仕込んでいる」
と書いたことがあった。
……本日やっと、そのアンサーとなる記事を公開することができる!!ww
それは、『カブトクワガタ』の中枢である開発者の植村比呂志さんと、プロデューサーであり、前コロコロコミック編集長の和田誠さんに、“発売4ヵ月のタイミングでインタビュー”をする……というものだったのである!!
「なんでそんな、中途半端なタイミングでインタビューを?」
と思うなかれ。
以下の記事を読んでいただければわかるんだけど、ここで初めて明かせるニュースが目白押しになっているため、“あえて”インタビューをしてから1ヵ月ほど寝かせてもらっていたのだ。
そんな未来を見据えての発言はもちろんだけど、「なぜ『カブトクワガタ』は全テキストを読み上げるのか?」とか、「リリース当初、ゲーム名が『カブクトクワガタ』になっていたのはなぜ?」という、いまや伝説となっている事象もタブーにせずに切り込んでいるので、マニア(?)は必見の内容ですよ!!ww
てなわけで、『カブトクワガタ』ユーザーはもちろんだけど、ふっつーーーーにめちゃくちゃおもしろいインタビューになっているので、どうか覚悟して読み進めてもらいたい!! 笑いながら、堪能してくださいな!!
「うわーーー」の秘密
--さて今回のインタビューは、『カブトクワガタ』の発売から4ヵ月ほどが経過した2023年7月初旬に実施しています。なぜこのタイミングなのかと言うと、記念すべきDLC第1弾の配信から1ヵ月が経過したのでその手応えもお聞きしたいのと、何やらお知らせもある……ということで急遽実施の運びとなったのです。あと……僭越ながら、僕が書いている『カブトクワガタ』日記も連載100回を迎えるタイミングでもあるので(笑)。
植村 そうなんですよね!! いやあ、すごいですね。もう100回ですか。よくまあ、あれだけおもしろい文章を書き続けられるなと思って。毎日、感心しながら読ませていただいているんです。
--ありがとうございます! ではさっそく始めさせていただきますが、『カブトクワガタ』の発売から、早4ヵ月。この時間は……早かったですか?
植村 私自身は、4ヵ月も経った感覚がほとんどないんです。なぜなら、DLCを配信していくという企画がソフト発売の半月後には決まって、作業に入らなければならなかったので……。私も長くゲーム業界にいますから、初動がよければDLCは出せるし、悪ければ無理だということはわかっていました。幸い、いろいろと話題にもなってセールスがよく、DLCの開発に入れたわけですけど、その時点で頭の中は完全にゲーム開発者のソレに。よって、無事にリリースされた喜びを感じる間もありませんでした。
--ずっと、開発が継続しているんですね。
植村 そうですそうです。運営しているということは、開発を続けているのと同義なんですよ。正直、ストーリーが尻切れトンボなところで終わっているのでキチッと決着を付けたいなと考えていますし、そういうことも含めて、頭の中はつねに開発モードなんです。
--ストーリー、回収できていないことがかなりありますもんね。
植村 そうなんです。ただ、ストーリーって開発に時間がかかるわりには一瞬で消費されてしまうので、いまはムシを追加させてもらったほうが遊びの量が増えるし、お金の使いどころとしてベストだと思えるので、現在はそちらに全力投球しています。
--では、プロデューサーの和田さんは?
和田 正直、セールス的にどうなんだろうという心配があったんですけど、ニンテンドーeショップのダウンロードランキングでは最高3位、さらにセールソフト部門では1位というこれ以上ないくらいのスタートが切れて、改めて世の虫好きの人々の情熱はすごいな……と再認識させられました。とくに、SNS上で発信力のある人々にしっかりと訴求することができたし、なかにはまったく思いもよらなかった部分がバズってヒットの足掛かりになったりもしたんですけど、物事がヒットするための条件はつぎつぎとクリアーしていけたなと分析しています。その結果として、やりたいと思っていたDLCも早々に着手することができましたし、早くからのファンに喜んでもらえるような仕掛けも実施に向けて動き出せたので、そういう意味では……植村さんと同じく、ホッとするような段階には来ていないと思います。
--ファンに喜んでもらえる仕掛け……ってのが気になりますね。
和田 はい。それについても今日、いろいろとお話させていただこうと思います。
--楽しみです!
和田 いま思えば、ソフトの発売直後には、この先どうしていこうかなんてほとんど考えられなかったんですよね~……。でも、セールス的にもうまく回り始めて、「じゃあいろいろやりましょうか!」ということになり、ようやく1年スパンでの運営を話し合うことができたんです。現在は、そのときに決めたロードマップに沿ってDLCや雑誌の付録などを展開している感じですね。
--DLCは2ヵ月に1回のペースで配信するわけですよね? それを考えると確かに、休んでいるヒマはなさそうだなぁ。
植村 1ヵ月で作ってすぐにチェックを出して……のくり返しですから。
--では和田さん、小学館社内の評価はいかがですか? こういう形でのゲームのパブリッシングは初めてだと思いますけど。
和田 社内の評判は、誇張ではなくうなぎ上りでよくなっていると思います。正直、最初のころの認知はコロコロコミックに関わる人だけだったと思うんですけど、あれくらいネットで話題になるとさすがに、社内全体に評判は広がっていきますね。すると、部署の垣根を越えて協力をお願いできるようになるので、すごくやりやすくなりました。
--僕は和田さんと同い年で、他社ですけど編集者として歩んできた道のりも似ているので、すごく気になっていたんです。
和田 ありがとうございます。コロコロ発信のゲームですけど、『図鑑NEO』編集部に協力してもらって図鑑機能を煮詰め、ムシのグラフィックやテキストを監修してもらえたからこそ、内外の高評価につながったと思っています。
--その“評価”の部分ですが、ユーザーの反応はいかがでしたか?
和田 図鑑に代表されますが、信念を持って作った部分が正当に評価されて、いちばん伝えたかったポイントはしっかりとクローズアップしてもらえたな、と感じました。
--植村さん、いかがですか?
植村 和田さんにお声がけをいただいて「ムシのゲームを作ろう!」と盛り上がったときから、我々の頭の中にあったのは、20年前のポリゴン全盛期に作ったムシゲームの、正統進化版になるようなグラフィックのゲームでした。そういう意味で、図鑑が評価されているのはうれしいですね。
和田 世論が動いていく瞬間が見えた気がしたんです。最初は「1億円のクソゲー」なんて言われていましたけど(苦笑)。
植村 そこも含めて、いまのこの時代にマジメにムシゲームを作ろうと判断された和田さんの想いが、見事に結実した感じはしました。
和田 でもやっぱりムシのゲームですから、“植村さんが作った”と言えるのは大きかったですよ。
植村 僕、あまり複雑なゲームは作らないんです。考えるのが苦手で。結果的にシンプルな内容になるのが、僕が手掛けるゲームの特長なんですね。絶望を感じるようなストーリーはないし、バトルもすごくわかりやすい。そこもよかったんじゃないかなと。
和田 そんな中にあって、リリースされたときから、テキストを全部読み上げることが話題になったじゃないですか。
--なりました!! ていうか、僕も笑……驚きましたもん。
和田 でも「これはすげえな!」という流れの中で、「しかし、なんでオンオフ機能がないんだ?」っていう書き込みを見たんです。それを読んだ瞬間に、「やばい! 確かにオンオフ機能をつければよかった!!」って思って……!
--そこで初めて(笑)。
和田 導入に踏み切ったときは、「全部読み上げる変な感じが、子どもたちにウケるだろうな」っていう気持ちしかなかったんですけど、確かに翻ってみたら、大人のためにはオフ機能があったほうがよかったんだ、と……(苦笑)。そこで植村さんに、それとなく聞いてみたんです。「これ、オンオフがあったほうがよかったですかね……?」って。そしたら、半ば怒られるような勢いで「そんなのありえません!」と。「これは全部読み上げなければいけないんです!」と、ピシャリと言われてしまいました。
--植村さん、読み上げ機能に対するこだわりについては……?
植村 私の感覚だと、読み上げ機能が入っていることでゲームが悪くなる要素って……何ひとつないと思っているんです。読み上げは、あったほうがいいんです(キッパリ)。
▲恐るべきことに、主人公のセリフのみならず、左側のメニューにある「はなす」、「ねる」、「かみん」などありとあらゆるテキストを、合成音声が律儀に読み上げてくれる。
和田 ここがね、植村さんのスゴいところだと思うんです。確固たる信念のもと、オフにするという概念そのものがないんですよ。僕はどうしても編集者の視点で、「オンオフできたほうが親切」という意見があったら、「確かにそっちのほうが便利かも」って思っちゃうんですけど、植村さんは微動だにしませんでした。
植村 じつは僕が音声のテキストをいろいろと工夫して、なんとか感情が込められるように、なんとか人間らしくしゃべるように調整をした張本人なんですよ。
--あ!! 植村さんが直でやられてたんですか!!
植村 はい。スタッフが少ないので、プランナーの僕が全部やったわけです。で、ず~~~っと調整をくり返していると、人間の耳って慣れてくるんですよね。そして……あの音声に、味が出てくるのがわかるようになるんです。
--!!? そうなんですか!?(笑)
和田 このゲームを遊ばれた人は皆共感してくれると思うんですけど、セリフ的ないちばんの名場面って間違いなく、主人公が木の“うろ”に手を突っ込んで、「うわーーー」って言うところです。
--わかります(笑)。ネットでも話題になりました。
和田 あの「うわーーー」の抑揚について、植村さんに言ったことがあるんです。「もうちょっとなんとかならなかったんですかね?」と。そしたらまた、烈火のごとく怒られまして。「あれだからいいんです!!」と。
植村 ナレーションソフトって、とにかく破綻しないようにしゃべることがキモなわけです。叫んだり、ビックリした声を出すことが本当に苦手で、我々は想定外の使い方をしたわけです。ですのであの「うわーーー」も、ふつうに入力しただけだと「うわ」で終わっちゃう。それを、ナレーションソフトのAIを騙し騙ししながら音引きをたくさん入れたり、あれこれと工夫を凝らして戦った結果、ようやくあの「うわーーー」が出来上がりました。あの名台詞ひとつ作るのに、どれだけの時間を要したことか!! そういう意味ではあの「うわーーー」は、私の魂の叫びと言っていいと思います。
一同 (爆笑)
--そんなに深い「うわーーー」だったんですね!!(笑)
植村 ナレーションソフトを作っているメーカーの方も、「想定外すぎる」って言ってました(笑)。ですので、キチンと聞いていると……クセになってくるんです。
--それ、米はずっと噛んでいると味の向こう側が見えてくる……ってのと同じじゃないですか(笑)。
植村 そうですそうです。最初はみんな、拒絶から入るんですよ。「何これ! 聞いてられねえ!」って。でも、ずっとゲームに集中して遊んでいると、「確かにこのキャラ、こんな声でこんな言い方をするよね」って、魂が宿る瞬間を感じられると思います。
--めちゃくちゃおもしろいんですけど……!
和田 そういうところで、作家性が垣間見えるんですよね。それが、『カブトクワガタ』というゲームがポジティブなほうに転換したポイントのひとつだと思います。
--ああ、そうかもしれないですね。
和田 でもここで、ひとつ振り返りたいんですけどね。
--はい。
和田 『カブトクワガタ』ってそもそも……ものすごい躓きからスタートしているんです。皆さん、ご存じかと思いますけど……タイトルを間違えました!!
--そうだ!! それがあった!! ゲームを購入して、さあ遊ぼう……と思ったとき、Nintendo Switchの画面に表示されたアイコン上のタイトルが……“カブクトクワガタ”になってました!!
植村 もう、マジメに間違えましたからね(遠い目)。
和田 2023年3月15日0時0分についにリリースだ……ということで、僕も家でダウンロードしようと思ったんですけど……。
植村 僕も同じころにダウンロードを始めていたんですけど、開発チームの誰かが気づいて連絡してきたんです。「なんでこれ、“カブト”じゃなくて“カブクト”になっているんですか?」って……。もう、絶句です。すぐに和田さん始め関係者の皆さんに謝罪のLINEを送ったんですよね。「すみません。これ、すぐに直りますかね?」と……(苦笑)。
和田 僕も一応、編集者として30年近くやってきて、自分にも部下たちにも口が酸っぱくなるくらい、「タイトルの誤字だけは絶対にするな!!」って言い続けてきた人間です。それが……! まさかプロデュースしたゲームソフトの1作目で、それをやらかしてしまうとは!!
植村 Nintendo Switchのホーム画面に表示されるタイトルですよ。あそこを間違えるヤツって、ふつうはいないですよね!?
--聞いたことないっす(苦笑)。
和田 ネットの反応も素早かったんです。「あれ? これ、タイトル間違えてない??」とすぐに話題になって。それを取っ掛かりに、「交尾シーンやばくね?」、「テキスト、全部読み上げるんだけどww」とかとか、いろいろなことが一気に噴出した印象ですね……(笑)。発売数時間で、ストンと谷に落ちた感じがしました。
--まあ結果的に、それが谷だったのか山だったのかは、判断が難しいですけど(笑)。
和田 でも、あんなことって狙ってできないじゃないですか。間違えたのは本当に申し訳ないし、ユーザーさんには謝らないといけないんですけど、ある意味、神懸かっていたと思います。
--実際、間違いは間違いですし、ネガティブな要素ではありましたけど、結果的にネットで話題になって、それをきっかけに『カブトクワガタ』というゲームの存在を知った人も少なくなかったんですよね。
和田 おっしゃる通りで、ちょっとネタ要素は多すぎだったと思いますけど……。
植村 でも、そのベースにあったのって“コロコロコミックがゲームを出した”という部分なんですよね。「何をやってくるかわからないぞ!」という期待も多分にあったので、失敗がすべて悪いほうに流れたわけじゃないのがありがたかったです。これ、大きいゲームメーカーがやらかしてたら、速攻で3人くらいクビになっていたと思いますもん。
一同 (笑)
和田 植村さん、その30分後くらいにカブクトをネタにしてツイートしてましたしね。
植村 いやあ、あれはバズりましたね。ていうか、あのときはもう、ツイートでもして笑い飛ばすくらいしか思いつきませんでした(苦笑)。
▲植村さんの魂のつぶやき。
--あれってけっきょく、直せたのって数日後とかでしたっけ?
和田 いやいや!!
植村 あれだけを直すのに、1ヵ月かかったんです……!!
--あ、そうだったのか!! それ、ふつうに考えたら致命的な間違いじゃないですか!
植村 そうなんですよ! だからこそ、あそこを間違える人間なんていないんです!!
一同 (爆笑)
和田 そういう、特殊なおもしろさもあったおかげか、すぐに配信者の方たちが飛びついて動画で紹介してくれたんですよね。それが、すごく大きかった。発売前からおぼろげに願っていたことだったんですけど、それを遥かに上回る勢いで取り上げてもらえて、一気に『カブトクワガタ』そのものが広がっていきました。
--では、ゲームの作り自体は、いま振り返ってみてどうですか?
植村 けっこう尖った作りになっていると思うんですけど、これは和田さんが編集者的な目線で見て、「修正せずにこのまま出しましょう」という判断をしてくれた結果によるものです。もしも、「ここはこうしてほしい」、「ここも直してほしい」とアレコレと言われていたらどんどん角が取れて、悪い意味で丸いソフトになってしまったと思います。ここは、和田さんが勝負に出たポイントのひとつですね。
和田 1ヵ所だけ、テストプレイをして意見をしたのはムシの“出現率”についてです。
--ほう。
和田 ひとつのムシにつき、レア度の違う遺伝子が3種類います。そのレア遺伝子の出現率が、テストプレイをしたときの感じだと、もうちょっと低くてもいいのかな……と感じたんです。
植村 レア度によって出現率を変えていたんですけど、抽選の確率に依存していたんですね。要するにその仕様だと、最レアなムシがいきなり見つかるパターンもあったんです。
--あーーー! なるほど! 最初から抽選だと、そうなりますよね!
和田 いきなりヘルクレスの“ブルー”が出現したりもしていたので、これだとやっぱり、遊びの味としては物足りないかな……と思って、植村さんに相談したんです。
植村 たとえばニジイロクワガタだと、もっともレアリティの低い緑色がガンガン出てきた末に、ようやくオレンジを捕まえてほしいと思いました。そのほうが、「なんだこのオレンジ! 見たことないぞ!」という感動が生まれますからね。これが最初の設定のままだと1匹目でオレンジのニジイロクワガタが手に入ってしまう可能性があったので、ここはかなり気を遣って調整しました。
--へ~~~!!
植村 でもあまりにも絞りすぎると、すべてのムシの高レア遺伝子がリッキーブルー級の、奇跡的にしかお目に掛かれないものになってしまうので、そこは遊びながら落としどころを探していきました。
和田 事前にアンケートを取ったり、子どもたちにテストプレイをしてもらったりしたときに感じたんですけど、やっぱり基本的なそのムシの色って理解されていないんですね。そんなところでいきなり、ヘルクレスのリッキーブルーが出てしまったら、「ヘルクレスって青いムシなんだね」と間違った解釈をされてしまう恐れがあります。ですので最初はノーマルの色に出てほしいし、そこから徐々に、レアなほうに流れていってもらえたらなと思いました。
--その流れでお聞きしたいんですけど、以前和田さんと話したときに、交配シーンの幼虫のグラフィックがリアル過ぎてどうしようかと思った……とおっしゃっていましたよね。
和田 ああ、そうですね。
--でも最終的にはリアルな幼虫に落ち着きましたけど、これも植村さんのこだわり?
和田 まさにそうですね。「ここでちょっとでもデフォルメを用いるのはありえない」とおっしゃって、最終的にはリアルな幼虫を採用しています。
--交尾のシーンもそうですよね。このへんも含めて、リアルなものを見せるという方向に舵を切られた、と。
植村 はい、そうですね。でもこれ、そもそも図鑑に載っているものですから。図鑑で見て、子どもたちはキチンと理解しているのに、ゲームでそういったところを封印するのはナンセンスですよ。
和田 おっしゃる通り、『カブトクワガタ』はある意味、“動く図鑑”的な意味合いも持たせているので、リアルに動くところを見せるのは当然の流れでした。
--ムシの交尾シーンが入っているからと言って、レーティングが上がるわけじゃないですもんね。
植村 そう!! まさにそこがポイントですね!
対戦モードはどうなる?
--そして発売になり、一定以上の評価もされたわけですけど、もっと盛り込みたかったこととか、作り込みたかった要素っていうのはあるんですか?
植村 私としては、ムシは最初からDLCで増やしていきたいと思っていたんです。開発中に「24種で大丈夫なんですか?」と和田さんに聞かれたことがあるんですけど、それは意味的に「ちょっと少ないのでは?」ということだったと思うんです。でもムシの種類は限りがあるので「24種で商品になると思います」と説明させていただくのと同時に、その後はDLCで増やしていければ……という考えも伝えさせてもらいました。そういう意味では現状、計画通りに進んでいると思います。
--なるほどなるほど。
植村 もっと作り込みたかった……ということに関しては、やはりストーリーになりますね。じつはRPGって、ひとつのエピソードを入れるだけでも作るのがたいへんなんです。ビジュアルノベルみたいなゲームならシナリオを読むだけで進められるんですけど、フラグを立てたらこのキャラにしゃべらせて、つぎは……とパズルみたいに組み立てていかなければならないので、手間のかかり具合が段違いなんです。ですので、ストーリーも当初はDLCで追加していくつもりだったんですけど、冒頭で言った通り限られたリソースを最大限に使い、かつ、ユーザーに多くの遊びを提供するために、DLCではまずは、ムシを追加しようということになりました。
--でも、となると『カブトクワガタ』のストーリーって……!
植村 はい、企画的には、もっと先までストーリーがあります。どうしてこういうことになったのか? 赤い虫の秘密は? なんで地球に戻ることができたのか? ……という、いま疑問に思われていることはすべて、キチンと構想として練ってあるんです。ただ、それを実装するには手間もお金もかかるので、お見せできるのがいつになるのかは、現時点ではわからないんですよね。
▲『カブトクワガタ』のストーリーには、いまだ多くのナゾが残されている……!
--おっしゃる通り、たくさん種はまかれているけど回収されていないことがけっこうあるので、納得できるような落としどころは考えられているんだろうか……? と、ちょっと懐疑的に思っていたんです。でもいま、すべて構想されていると聞いて安心しました(笑)。
植村 ちょっとだけ構想を話すと、いまゲームでは町から始まって、村、谷と進みます。じつはそこから……新しい章が始まって、町に駅ができるんです。
--!!?! 駅!?
植村 その駅から、いろいろな場所に移動できるようにしたかったんですよね。
和田 もちろん、植村さんの構想を形にしたいなとは思うんです。でも、いまはこのゲームの運営をしぶとく続け、安定した収益を得たうえで、初めて「じゃあつぎはどうしましょうか?」と考えられる段階に入ると思うんです。よりたくさんの人に手に取ってもらい、たくさんの遊びを堪能してほしいと考えたら、やはりストーリーの追加は優先順位が下がってしまうかな……と感じます。
植村 私もそれには100%納得していて、同じ手間をかけるなら、遊んで楽しいと思える部分に注力するべきなんです。これはゲームであって、映画ではないですから。
--この流れでお聞きしたいのが、“対戦モードの実装”です。これについては、何か構想していることがあるんでしょうか?
和田 拡張する……ということを考え始めたときに、ひとつの方向性として必ず上がるのが“対戦”ですよね。こういうゲーム内容ですから友人どうしの1対1の対戦ができたら絶対に盛り上がりますし、コロコロコミックも長年かけてそういう遊びをクローズアップしてきました。となれば、自社タイトルでそれをやり、大会とかを開ければ理想的ですし、正直、もっともやりたいことのひとつでもあります。ですので、この先も安定した運営ができればですけど、真っ先に着手する“最優先事項”は対戦の実装になると思います。
--おおおお!! すげえことが聞けた!!
和田 それがネットワークを介してなのか対面なのか、方法はわかりませんけどね。でも今日、植村さんと会ってその話をしたんですけど、いまのバトルのシステムで対戦がおもしろくなるのかを検証していけば、「なかなか勝負がつかないな」とか「大味だね」なんていろいろと意見が出てくると思うので、要素の追加や改良点などを考えていきたいなと。そしてできれば……1年以内くらいに、対戦モードの実装に着手したいと考えているんです。
--それは、ユーザーにとってもめちゃくちゃいい話だと思います。実際、対戦したくなりますもん。
植村 そうですね。そもそも対戦をベースに基本的なルールは考えてありますから。あの目押しのルーレットも最初は超ゆっくりながら、だんだん速くなりますよね。これが対戦になると余計に速く感じて、緊張感がスゴいことになると思うんです。対コンピューターだとふつうにできたことでも、対戦になったとたんにミスを連発したりすると思うので、きっとおもしろくなると思いますよ。
和田 僕はいまのシステムで対戦を空想してみたところ、使うムシはみんな同じで、攻撃の最大値も並びになってしまうから、大味になると思っていたんですね。でも植村さんの話を聞いて、緊張要素が加わってハプニングが続出するかも……と考えると、俄然やってみたくなりました。
--僕は『カブトクワガタ』をやってみて、対戦モードになったら目押しルーレットの強さの数値が、ランダムな並びになっているとおもしろいなと思いました。
植村 あー! なるほどー!
--でも、いろいろなアイデアがあるのは頼もしいですね! ではさらに踏み込んで、今後の構想をぜひお聞かせください。
和田 わかりました! まず、『カブトクワガタ』はダウンロード専売で売らせてもらっていて、ムシ好きな大人のプレイヤーには届いたかな……という手応えを得ているんですけど、その反面、当初からのターゲットだった子どもたちへの訴求はまだまだだなと考えているんです。
--はい。
和田 いまや各家庭にWi-Fiは行き渡っていて、ダウンロードでソフトを買うことに以前のような抵抗はなくなっていると思うんですけど、やっぱり低学年の子どもたちにはいろいろなアプローチの手段があったほうがいいと感じていました。そこで、ありがたいことにお声がけをいただいたこともあり、いまパッケージ版の準備を進めているところです。
--おおお! ついに!
和田 リリース時期も決まったので、これが直近ではいちばん大きなトピックになると思います。
植村 本当に、パッケージ版は構想になかったんですよね。でも、それができるところまでこぎ着けられたってことは、非常にポジティブだなと感じています。このプロジェクトがうまくいったことを象徴する事象ですからね。
--そして、ムシが追加されるDLCも今後続々と登場すると。
和田 はい、そうですね! 6月に第1弾が登場し、このインタビューが公開される8月に第2弾がリリースされます。続いて10月に第3弾、12月に第4弾が出ます。そして、ラストが2024年の2月。ムシのラインナップについては喧々諤々の上で決めていったので、ぜひ楽しみにしていてください!
--おおお! 1年にわたってキチンと運営してくれるっていうこと自体が、ユーザーからしたらすごくうれしいことです。このへんの抜かりなさは、さすがだなって思います。
和田 これは、雑誌編集とほぼ同じ手法ですね。年間を通してどこでどういう付録を付けようか、とか、特集はどうしよう……なんて考えていくので、ゲームのプロモーションにも応用することができました。
--植村さん、和田さんのゲーム初プロデュース、近くでご覧になっていかがでしたか?
植村 こういう考え方でゲームを運営していけるっていうのは、すばらしいことだと思います。本当に最後の仕事でごいっしょできて……って、最後って言っちゃった(笑)。
和田 待ってください!(笑) まだ早いですよ!!
植村 いや! 僕もあと2年で60歳なので(笑)。そういう意味で、最後にこういう環境でゲーム作りができたことは本当にうれしいし、人の縁ってありがたいものだなぁ……としみじみと思ったんです。ゲーム会社って基本的に、数字、売上本数ばかりを追いかけがちですけど、そうではない出版業界から名乗りを上げて、「もっと子どもたちを取り込んでいこうよ!」っていう未来を見ながら仕事ができるっていうのは……! やっぱり幸せなことですし、とても良いクリエイティブ集団だと感じましたね。
--なるほど、わかりました!! これからの展開も、いちユーザーとして楽しみにしておりますので、ぜひがんばってください!
和田 ありがとうございました! 今後ともよろしくお願いいたします!
植村 角満さんのプレイ日記、本当におもしろいので、200話、300話と書き続けてください!!
--がんばります(笑)。本日はお忙しい中、本当にありがとうございました!
大塚 角満
1971年9月17日生まれ。元週刊ファミ通副編集長、ファミ通コンテンツ企画編集部編集長。在職中からゲームエッセイを精力的に執筆する“サラリーマン作家”として活動し、2017年に独立。現在、ファミ通Appにて“大塚角満の熱血パズドラ部!”、ゲームエッセイブログ“角満GAMES”など複数の連載をこなしつつ、ゲームのシナリオや世界観設定も担当している。著書に『逆鱗日和』シリーズ、『熱血パズドラ部』シリーズ、『折れてたまるか!』シリーズなど多数。株式会社アクアミュール代表。
『カブトクワガタ』公式ツイッター:
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