異世界転生宣言 デュエル・マスターズ「覇」 15-2 ~不死鳥デュエマ 中~

By 神結

・これまでの『異世界転生宣言 デュエルマスターズ「覇」』

 森燃イオナは、デュエル・マスターズの競技プレイヤーである。

 ある日大会に向かっていたところ、トラックに跳ねられて意識を失ってしまった。
 目を覚ますとそこは異世界で――ということはなく、ごくありふれた景色の日常に帰ってきていた。

 だが大会へ向かうと、そこで行われていたデュエマはイオナの知るデュエマとは全くルールが異なるものであった!
 あるときはテキストが20倍になったり、またあるときは古いカードほどコストが軽減されたり、またまたあるときはディベートによって勝負をすることもあったり……。

「まぁ、デュエマができるなら何でもいいか」

 それはホントにデュエマなのか? というのはさておき。

 これは異世界転生体質になってしまったイオナが、その転生先で行われている”少し不思議なデュエマ”に挑む物語である。

 思えば、不思議な縁であった。

 倒れていた彼を、森燃イオナを見つけたのは、本当に偶然であったはずなのに。でもそれはまるでそう宿命づけられたかのような、自分の使命かのような感覚に陥った。気付けば彼を介抱していたし、一緒にデュエマもした。以来、その縁で約1年間、ずっと一緒にいるわけである。

 奇妙な関係である。

 最初は仰々しく『マナさん』なんて呼んでいた彼も、気付けば『マナ』なんて呼ぶようになっている。もちろんそう望んだわけだが、何よりそれが許されるだけの時間を過ごしたということでもある。

 ……だから、それなりに気付くこともあった。

 今日の彼は何か思い詰めているようだった。彼がショップに来店したとき、その表情で察してしまった。

 そして彼がメッセージを見た瞬間、それは確信に変わった。彼の表情は曇ったように見えたし、少なくともポジティブな雰囲気は感じられなかった。

「ごめん、マナ。急用できちゃって。また今度話そう」
「……わかりました」

 彼はどこか重い表情をしたまま、ショップを出て行ってしまった。

 ……私は急かさない。待つ。
 ただ嵐の前兆ような、妙な不安を感じずにはいられなかった。

          †

 指定されたのは、夜の公園だった。生い茂る木々から、虫の鳴き声が聞こえてくる。
 周囲には、誰もいない。遠くの方から、車の走行音が聞こえいた。壊れかけの街灯が、静かな空間を薄暗く照らしていた。

 メッセージの差出人は不明。しかし『異世界の旅人、森燃イオナ』と書かれたそれを、無視するわけにもいかなかった。

「来てくれたか、森燃イオナくん」

 やがて、それは現れた。逆光で顔は見えない。しかしその声で、影で、正体がわかってしまった。
 ……忘れるはずもない。

 その尊大な態度や言葉や、一度大きな屈辱を受けたこともあった。

『帝王』……
「ご名答」

 この人とは、ロジカル・デュエマの全国大会で勝負している。
 だがどちらかといえば、彼が「世界の真理を変えたい」とその尊大な態度で宣っていたことの方が、よく覚えていた。

「会えて嬉しい、イオナくん。私を覚えていてくれて、光栄だ」
「……それはどうも」
「私としては君に大きな邪魔をされているからね。君を忘れない日はなかったわけだが」

 帝王はベンチへと腰掛ける。

「……雰囲気、変わりました?」
「私は変えたつもりはないんだがな」

 別に話し方とか、そういった部分については記憶のままの帝王であった。

 だがなんと言えばよいのだろうか、イオナの知っている帝王は、その尊大さが少し滑稽にも映っていた。それは配信で彼が演説していたときのように、まるで彼が虚構の一人芝居を打っているような、そんな瞬間もあったはずなのだが。

 しかし、いま目の前にいる帝王からはその滑稽さは感じ取れない。
 むしろ彼が座ると、そのベンチがまるで玉座であるかのような錯覚にさえ陥った。それだけの威厳が、そこにはあった。

「それで、用件ってなんですか?」
「ふむ。やはり君からは歓迎されることはないか。早く用件を言いたまえ、と。いいだろう」

 彼は足を組んで座り直すと、話を始めた。

「私は一年前、君に負けて己の不足を実感した。しかしその時から既に話していた通り――私は当然、私自身の目的の達成を諦めていない」
「世の真理をどうこうとかいう……」
「そう、要するに世界の創造とも言える。私があるべきと思う姿に、世界を創っていく、組み替えていく」
「…………」

 無茶で突拍子もない話に聞こえるが、”彼ができると思ってしまえば、やる”。具体的な方法は想像もできないが……帝王という男には、そんな話を実行してしまうだけの何かがある。

「そして私は、研鑽を積む中で一つの”現象”の存在を知った。何かわかるかな?」
「現象……?」
「それは君はよく知っているもので、実際に出くわしたこともあるものだよ」

 ……一つ、思い当たるものがあった。

「その様子だと、気付いたようだね」
クリーチャーの具現化、か」
「その通りだ」

 帝王はさらに話を続ける。

「クリーチャーは無限の可能性を秘めている。それは時に、世界の理を覆すほどだ。本来起こりえないことが起こったり、未知の力を有している。だから私は、クリーチャーの具現化と、その力を使って世界を創り変えていこうと思ったわけだ」

 クリーチャーの具現化現象は、確かに無限の可能性を秘めているだろう。
 それは一つの世界を、廃墟にしてしまうほどに。

「それで、なぜその話を僕にするんですか?」

 そう聞くと、帝王はわざとらしく微笑んでみせた。

「気付いていないわけではないだろう? 君がクリーチャーの具現化現象と遭遇しているからだ。私はクリーチャーの具現化の解析を進めたい。だから森燃イオナくん、ぜひとも私たちに協力して欲しい
断る

 イオナにとっては、当然の回答だった。
 表情が険しくなっているだろうというのが、自覚できた。

「クリーチャーの具現化が何を引き起こすのか、お前は本当に知っているのか? その目で見たのか?」
「なるほど、やはり君は否定的なんだね。それは『大怪獣デュエマ』のトラウマが残っている、ということなのかな? それとも他の世界で見てきたことも含めてなのかな?」
「……なぜ知っている?」
「知っているから、知っている。それ以上でも以下でもない。もちろん知らないことは知らないからな」

 だからなぜ、と問うのはおそらく無意味だろう。彼はそれっぽいことを言ってはぐらかすはずだ。これはロジカル・デュエマの時から変わっていない。
 今分かることは、彼はある程度イオナのこれまでの遍歴や遭遇した出来事などをどういうわけか知っている、ということだ。

「……そこまで知っているなら、僕が断ることも分かっているんじゃないか?」
「もちろん」

 当然とばかりに首肯した。

「だとしても、君には伝えておきたかった。君は極めて希有な存在で、そして私の夢にとって、君の存在は希望なのだと。もう恨めしくすら思っているよ」

 嫌な話である。こんな風に自分の価値を評価されたいなど、思ったこともない。

「とにかく、断ります。自分の夢を実現したいなら、自分だけでなんとかしてください」
「そうか、残念だ。だが気が変わったらいつでも連絡してくれ。待っているからな」
「永劫ないと思いますけどね」

 イオナは帝王に背を向けると、公園から去って行く。この人と長く話していても意味がない。むしろ、飲み込まれてしまいかねない。
 帝王は、追うことはしなかった。
 イオナが去って行くその背中を見て、ずっと笑みを浮かべていただけだった。

          †

 週末、イオナはマナとともに千代之台のカードショップに来ていた。
 今日はCSが開催されており、イオナはそこに参加している、というわけだ。

 不死鳥デュエマは、『各ターンの終了後、そのターンに破壊されたクリーチャーを墓地からバトルゾーンに出す』というものだ。
 だからトリガーで破壊されたクリーチャーも、B・A・Dで破壊されたクリーチャーも出てくる。もちろんターンの終了時に不死鳥の効果で蘇生したものが即破壊されても、それが再び蘇生するわけではない。

 今回、イオナはそこまでこの不死鳥デュエマを詰めきれなかった。そもそもの時間が足りなかったのに加えて、帝王とのやりとりが頭を離れなかったのだ。

 それでも、一応それなりに結論は出している。

 不死鳥デュエマでもっともシンプルに強いギミックは2コストの自壊サイクルクリーチャーだろう。

▲「クロニクル・レガシー・デッキ 風雲!! 怒流牙忍法帖」収録、《電脳鎧冑アナリス》
▲「アルティメット・クロニクル・デッキ 2019 SSS!! 侵略デッドディザスター」収録、《悪魔妖精ベラドンナ》

 《霞み妖精ジャスミン》をはじめ、《悪魔妖精ベラドンナ》《電脳鎧冑アナリス》といったクリーチャーはかなり強力で、序盤から大きなアドバンテージを取ることができる。

 さすがに、2ハンデスできるとなると先攻でも《悪魔妖精ベラドンナ》でハンデスを飛ばすだろう。この辺りは、通常のデュエマと感覚が違ってくる部分だ。
 《有象夢造》などは、1枚で圧倒的なアドバンテージ差を稼ぎ出すことが可能だろう。

▲王来MAX 最終弾「切札! マスターCRYMAX!!」収録、《若き大長老 アプル》
▲「エピソード2 ゴールデン・ドラゴン」収録、《学校男》

 こうなると《若き大長老 アプル》のようなメタカードを使いたくなるが、これにもキチンと《学校男》のような回答はある。破壊しても不死鳥効果によって戻ってきそうだが、その不死鳥効果で《学校男》自身も蘇生するため、結局再度破壊できるというわけだ。
 ちなみに細かなルールの話をすると、アクティブプレイヤーからクリーチャーの蘇生を行い、その後非アクティブプレイヤーが蘇生を行う。そしてアクティブプレイヤーからクリーチャーのcip効果を処理していく、という流れになる。
 だから《若き大長老 アプル》がいる状況で《暴走龍 5000GT》のような全体破壊を行った場合、アクティブプレイヤーだけ蘇生が可能で、非アクティブプレイヤーはアプルの効果が利くのでクリーチャーが出せない、なんていうことも発生する。

 これらを生かせるのが水闇自然のハンデスコントロールデッキとなるだろうか。どこかで聞き覚えがあるかもしれないが、不死鳥デュエマの恩恵を最も受けているデッキと言えるだろう。

▲「第1弾」収録、《凶戦士ブレイズ・クロー》
▲王来篇 第2弾「禁時王の凶来」収録、《赤い稲妻 テスタ・ロッサ》

 一方、アグロ系のデッキも充分強力だ。
 特にやはりどこかで聞き覚えのありそうな火単なんかは、1ターン目に出した《凶戦士ブレイズ・クロー》がかなり長いことシールドに突撃し続けてくれることになる。
 先攻でブレイズ→《赤い稲妻 テスタ・ロッサ》みたいな動きができると、コントロール側の除去がほぼ意味を成さなくなるだろう。
 自身を破壊する《我我我ガイアール・ブランド》や、BAD持ちの《”罰怒”ブランド》なんかもこのルールと極めて相性がいいのも大きい。

▲「デュエマクエスト・パック 〜伝説の最強戦略12〜」収録、《貝獣 パウアー》
▲戦国編 第2弾「戦国英雄伝」収録、《斬隠蒼頭龍バイケン》

 その火単に強そうなのがマナが持ってきていた火水の覇道だったり、水自然を軸に動くギャラクシールド系のデッキだったりする。両者は《悪魔妖精ベラドンナ》の2ハンデスに対しても《貝獣 パウアー》《斬隠蒼頭龍バイケン》といった回答を持ち合わせているのも大きい。
 ちなみにビッグマナの好きなマナは、今回は光水自然のギャラクシールドを使っている。対して自分はというと、火水の覇道だ。こちらはパウワーに加えて《流星のガイアッシュ・カイザー》も採用している。

 ちなみにこれはまた細かいルールの話にはなるが、不死鳥効果の蘇生は「ターン終了時」の処理の後に行われるため、不死鳥で蘇生してきたクリーチャーに対してガイアッシュをトリガーさせることはできない。

 さて、コントロール寄りのマナより、イオナの方が圧倒的に早く試合が終わることになる。
 イオナは試合中のマナの様子を遠目で見ていた。

「苦戦してそうだな」

 対戦相手が使っているのは、闇を軸としたデッキのようだった。
 破壊除去はあまり意味を成さないため、このカラーのデッキはそこまで強くはなさそうだ、とイオナは思っていた。

「あれは……バウワウジャか」

▲ゴッド・オブ・アビス 第1弾「伝説の邪神」収録、《深淵の三咆哮 バウワウジャ》

 《深淵の三咆哮 バウワウジャ》はアビスロイヤルで、タマシードクリーチャーである。
 このカードは闇のクリーチャーかタマシードが4体いなければクリーチャーになれないが、4マナでT・ブレイカーを持っているのだ。そして何より、自分のターン中限定であるものの”破壊以外の方法で場を離れない”。

 つまり破壊されれば不死鳥効果で墓地から戻ってくるし、そうでなければ場に残り続けることができる。
 これを《アビスベル=ジャシン帝》の効果でアビスラッシュを与え墓地から繰り出していき、粘り強くビートダウンするというコンセプトらしい。

 ちなみにまたまた細かいルールの話にはなるが、アビスラッシュの山札に戻る効果は「クリーチャーであるとき」なため、アビスラッシュで出したクリーチャーがタマシード状態であるときは、場に留まることができる。

 なるほど、考えられている。確かにこれならば、闇文明でも不死鳥デュエマの恩恵を受けた戦い方ができるし、強そうだ。

 結局、マナはアビスクリーチャーたちに押しきられて負けてしまったようだ。場を離れないバウワウジャをどうしようもできなかったらしい。
 その対戦相手はというと、試合が終わるとカードを片付けたのちにマナに挨拶と一礼までしていた。茶道部なのだろうか。

「いやー、負けちゃいました。イオナさん見てました? あれ強かったです。いい人でしたし」
「ね、面白そうだった」

 やはり、詰めきれてない部分が出ているようだ。完全に未知のデッキだった。
 ただ余白というか、未開拓の部分が出てくるというのはかなり面白い。デュエマとは、未知の部分を探求していくのが何より楽しいゲームだと思う。

「あ、イオナさん。次のマッチング発表されてますよ。イオナさんの相手、さっき私と戦った人みたいです。頑張ってください!」
「ありがとう」

 マナはそう言って、一敗卓の方へと向かっていった。幸いなことに、イオナはここまで全勝である。
 席に座ると、例の彼はデッキを丁寧にカットしながら既に待っていた。

「森燃イオナさんで間違いないですか?」
「あ、そうです。よろしくお願いします」

 イオナはマッチングツールを見ながら応じた。

「はじめまして、森燃イオナさん。ようやく対戦が叶いましたね」
「ようやく……?」

 少し違和感を覚えた。
 初めて会ったはずの人だった。もしかしたら、自分のことを知っていてくれたのだろうか。

「そうです。森燃イオナさんのことは、前から存じております」
「それはありがたい話です」
「ええ。帝王様から、よく聞き及ぶ名前でしたので

 瞬間、イオナの手は止まってしまった。思わずデッキをこぼしそうになった。

 イオナは、恐る恐る対戦相手の顔を見る。
 目は合ったが、相手は特に気に留めない様子だった。

「申し遅れました。はじめまして森燃イオナさん。私は水無月。正確には、水無月将軍といいます。11人いる、帝王様の腹心の一人です」
「帝王の腹心……」

 イオナは息を呑んだ。まるで金縛りにあったかのように、身体が動かなくなった。

「……何の目的で、大会に?」
「無論」

 水無月と名乗った彼は、表情を一切崩すことなく答える。

「帝王様の、御言葉のままに」

 そして丁寧に、一礼をしたのだった。

(不死鳥デュエマ 下 に続く)

神結(かみゆい)
Twitter:@kamiyuilemon

フリーライター。デュエル・マスターズのカバレージや環境分析記事、ネタ記事など幅広いジャンルで活躍するオールラウンダー。ちなみに異世界転生の経験はない。

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