By 神結
森燃イオナはデュエマに全力で取り組むプレイヤー。
ある日大会に向かっていたところ、トラックに跳ねられて意識を失ってしまう。
目を覚ますとそこは異世界で――ということはなく、ごくありふれた景色がある日常に帰ってきていた。
さっそくデュエマの大会へと向かったイオナ。しかしそこで行われていたデュエマは、イオナの知るデュエマとは全くルールが異なるものであった。やはり、異世界へと転生してしまっていたのだった。
どんな世界であっても、デュエマをやる以上は一番を目指す――
これは異世界転生体質になってしまったイオナが、その転生先で行われている”少し不思議なデュエマ”に挑む物語である。
ドルマゲドンと零龍の封印が解かれ、滅びの道を歩む世界。知ってる街は廃墟と化し、彼らは異形となって蠢いていた。
だがイオナは、自分を助けてくれた神社の巫女・朧月カグラより、「世界を救え」と告げられる。それは、自分にしかできない使命のような気もした。
そんなわけでイオナは、この神社で世界を救うための修行に励むこととなった。
……だが、世界を救えといっても、一体どうやって?
「ふむ、それはいいタイミングの質問じゃな」
そもそも、とカグラは口元に指を押し当てながら話を始める。年齢は不明だが、外見的には20代半ばくらいだろうか。口調はともかく、少し高嶺の美人に映った。だが相変わらず、イオナはその表情がこの世の人間のものとは思えなかった。
目の下にくっきり浮かぶ紋様が、妖しげな雰囲気を醸し出している。曰く、その紋様は「血の宿命」らしい。
「あの大怪獣どもは、元はこの神社に封印され祀られていたものなのじゃ。この九十九神社とは元々、そういう場所じゃからのう」
「だから、クロニクルデッキをお供えしてたんですね」
「うむ」
カグラはイオナに座布団を勧める。恐らく、話はそれなりに長くなるのだろう。
「ところがある日、魔に取り憑かれた一人の愚か者によって、奴らの封印は解かれてしまってな。そしてこの有様じゃ。一度封印が解かれてしまった以上、再度封印するのは無理じゃのう」
「じゃあ、どうすれば……」
「ふむ。それは気になるはずじゃな」
カグラはカードを手に取ると、それをシールドとして並べ始めた。
「だから方法は1つしかない。お主をワレの力で過去に飛ばす。そこで、愚か者をデュエマで止めろ」
「デュエマで?」
「そうじゃ」
シールド展開後に手札を揃えると、カグラは続けてバトルゾーンに《終焉の禁断 ドルマゲドンX》と《零龍》を並べた。
「『大怪獣デュエマ』で、な」
・ゲーム開始時、バトルゾーンに《終焉の禁断 ドルマゲドンX》及び《零龍》がある状態でゲームが始まる。(それぞれ既に禁断爆発、零龍卍誕がなされたものとして扱う)
…………?
「え、つまりゲーム開始時から《零龍》と《終焉の禁断 ドルマゲドンX》が場にいるってことですか? 既に完成された状態で?」
「そうなる」
いや、それって先攻1ターンで殴って終わるんじゃ……。
「まぁ、そういうこともあるかもしれん。だがその上で。お主は絶対に勝たねばならん」
「いやいやいやいや、だって」
イオナは《零龍》でワールド・ブレイカーを宣言する。
イオナの盤面には、まだ未攻撃の《終焉の禁断 ドルマゲドンX》が残っている――
「終わりじゃん」
「はたしてそうかのう?」
カグラは自分のシールドを開いて見せた。5枚の中から出てきたのは《テック団の波壊Go!》、《閃光の守護者ホーリー》などなど……。
「テック団で5以下バウンス、《閃光の守護者ホーリー》で全タップ。次のターンにワレの《零龍》がお主の《終焉の禁断 ドルマゲドンX》を殴ればゲームセットじゃ。のう?」
「…………」
《終焉の禁断 ドルマゲドンX》は2回の除去耐性を持っているが、《テック団の波壊Go!》であれば手足を同時にもぎ取ることができる……というわけである。《零龍》は当然、全てのバトルに勝つ。
「……理不尽では?」
「大怪獣じゃぞ。そんなん理不尽に決まっておろう」
そう言われてしまうと、そんな気がする。怪獣映画に出てくる怪獣どもが、聞き分けがよかった記憶もない。
「というわけじゃ。時間はないが、1日だけやる。『理不尽』と割り切らずに、色々考えてみることじゃ、イオナ」
どうやら世界を救うためには、準備が必要らしかった。
†
カグラに言われたとおり、イオナは頭の整理をしていた。
理不尽の極みである『大怪獣デュエマ』。確かに名前に相応しいとも言えるが……。
ひとまず、カグラが例えで提示したトリガーで固めるのは1つの手ではある。これは先攻1ターンでとりあえず殴ってくる相手に対しての回答になる。
イオナは境内の建物に保存されていたデュエマカード図鑑を眺める。
1枚のトリガーで《零龍》を処理できそうなカードに《めっちゃ!デンヂャラスG3/ケッシング・ゼロ》がある。「気に入らねぇやつは消す」と言えば相手のクリーチャーの能力をすべて無視するカードだ。
それによって「このクリーチャーは、パワーが0以下の間離れず、すべてのバトルに勝つ」という零龍の能力が無視され、零龍はバトルゾーンを離れゲームが終わる。トリガー1枚でエクストラウィンだ。
また先ほどやったように、《テック団の波壊Go!》+何かがあればドルマゲドン側の解体も可能だ。+何か、の部分にどんなカードを取るかはまた難しい話にはなるが。候補としては先攻なら2ターン目に撃てる《スパイラル・ゲート》などだろうか。
……となると、正直なところ余裕があるならシールドはなるべく殴りたくない。トリガーの即負けパターンが多すぎる。
一旦、殴らずに勝てるルートを探してみよう。
なんかあった気がするのだ。確かプロモカードだったろうか? 「これで零龍倒して下さい」みたいなデザイナーズカードが。
イオナは、カード図鑑のプロモのページを捲る。
「あった」
その名も《ジョギライド・ファイナルフィーバー》だ。
3コストの呪文で、クリーチャーを1体選んでパワーを+2000し、その上で自分と相手のクリーチャーを1体ずつバトルさせる。パワーを上げるクリーチャーは、敵味方を問わない。
つまりこのカードで相手の《零龍》のパワーを上げて0でなくすることにより、バトルで倒して勝つというカードである。
しかしこのカード、ちょっと問題もある。
「火と自然か……」
《テック団の波壊Go!》などが強いカラーであることを考えると、火と自然はあまり使わない文明である。要するに、このカードの色が弱い。
できれば《テック団の波壊Go!》や《終末の時計 ザ・クロック》などと同居できるカードで……。
「いや、待てよ。確かなんかあった気がしたな」
イオナは再びページをめくる。あれでもない、これでもない。《神聖龍 エモーショナル・ハードコア》も、《あたりポンの助》も違う。
確かあれもプロモだったような……。
「見つけたぞ、コイツだ」
その名は《ゼーロJr.&ゲンムエンペラー》。
4コストの水闇クリーチャーで、バトルゾーンに出た時にコスト5以下のクリーチャー1体選び、その効果を無視する。
《ジョギライド・ファイナルフィーバー》よりは1コスト重いが、こっちの方が色は絶対いい。
……と思ったところで、テキストをよく読む。
「……ムゲンクライム2?」
ムゲンクライムとは、自分のクリーチャーをその数字分タップし、数字分のコストを払うことで手札か墓地からクリーチャーを出せるという能力である。
ムゲンクライム2であれば、クリーチャーを2体タップし、2マナで出すことができる。そしてバトルゾーンには、ゲーム開始時から2体の大怪獣が存在している。
つまり。
「え、先攻2ターン目に勝てるってこと?」
なんてことだ。《ジョギライド・ファイナルフィーバー》より軽いではないか。
ターボ・デュエマの《完全不明》よろしく、このルールの最強カードを見つけてしまった。しかもコイツは先攻2ターン目のカードである。
「方針は決まったか……?」
あとはデッキリストとして具体化すること、再現性の確認をすること、そして「相手に使われたときのことを考える」ことだ。
「ここからが大変だな……」
なんせ、相手が先攻2ターン目に勝つカードの対策など、考えようがない。
「まぁ、現実的に後手だったらシールド殴るしかないかなぁ」
ひとまずイオナは置かれていたカードを引っ張り出しながら、それらを並べてデッキを作りはじめた。
†
嗚呼、滅びの宿命は逃れられないのだろうか。
それは月食の夜だった。空は闇に落ち、月が赤く染まるその夜。異変は起こった。
目が、紋様が、妖しく光り始めた。身体が、熱を帯びる。熱い。強烈な頭痛に襲われた。
……この日がくることは、薄々知ってはいた。これが宿命なのだと。
だからこの日が来たとき、強く自我を保って、打ち克とうと、心に決めていた。神は乗り越えられない試練は与えないと、そう思っていた。
だが違った。そうではなかった。
苦しい、苦しい。内なる何かが、首をもたげてきていた。
激しく咳き込み、血を吐いた。それでもなお、治まらなかった。
これは自我で抑えられるようなものでもなく、試練などというものでもないことを、この時になってようやく知った。
やがて自分が、別な自分に乗り変わったことに気付いた。
もしも、もしもそこで曖昧に意識が途切れていたら、どんなに幸せだったろうか?
目が覚めて気付いたら、記憶はないけどこうなっていた。それであれば、どんなに楽だったろうか?
しかし、現実は残酷だ。そうはならなかった。
全てを、ハッキリと覚えてしまっていた。封印を解放する儀式も、大怪獣が復活する、その瞬間も――
やがて零になるための、終焉の、始まり。
それが課せられた余りにも重い罪とともに、己の中に深く刻み込まれてしまったのだった。
だが同時に、言葉に出来ない高揚感もまた、感じてしまっていた。
(大怪獣デュエマ 下 に続く)
神結(かみゆい)
Twitter:@kamiyuilemonフリーライター。デュエル・マスターズのカバレージや環境分析記事、ネタ記事など幅広いジャンルで活躍するオールラウンダー。ちなみに異世界転生の経験はない。
『異世界転生宣言 デュエル・マスターズ「覇」』バックナンバーはこちら!!