By 神結
森燃イオナはデュエマに全力で取り組むプレイヤー。
ある日大会に向かっていたところ、トラックに跳ねられて意識を失ってしまう。
目を覚ますとそこは異世界で――ということはなく、ごくありふれた景色がある日常に帰ってきていた。
さっそくデュエマの大会へと向かったイオナ。しかしそこで行われていたデュエマは、イオナの知るデュエマとは全くルールが異なるものであった。やはり、異世界へと転生してしまっていたのだった。
どんな世界であっても、デュエマをやる以上は一番を目指す――
これは異世界転生体質になってしまったイオナが、その転生先で行われている”少し不思議なデュエマ”に挑む物語である。
大会当日、イオナはマナの付き添いとしてイベント会場にいた。
有名プレイヤーを集めた配信ありの大会イベントで、今回は総当たり戦で優勝を決めるらしい。
総当たり戦ということもあって、対コントロール戦と対ランプ同型を同時に見る必要があったが……まぁ、納得のいくものはできた。あとはマナの頑張りに期待しよう。
「じゃあ行ってきますね、イオナさん。優勝したらハンバーグポテトセットとメロンパフェ奢ってください」
「わかったから、頑張ってきてくれ」
行ってきます、と言っても試合をするのは目の前なのだが。
ちなみに対戦相手をざっと調べたが、「有名プレイヤー」とは言っても動画配信などで有名な人が多くて、必ずしも大会入賞常連みたいな人ではなかった。
……ただ唯一、その中に例のハンバーガー侍(通称ハンざむ)もいるのである。見た目も言動も奇天烈だが、まぁ、強さは確かだろう。ランキング7位らしいし。
おそらく今回優勝するためには、ハンバーガー侍が一番の強敵となるだろう。
「頼むぞマナ、信じてるからな……」
・各ターンの開始時に、自分の山札の上から1枚目を表向きにし、手札に加える。その後、表向きにしたカードをマナゾーンに置く。後攻のプレイヤーは最初の1ターン目だけ、自分の山札の上から1枚目を表向きにする時、かわりに1枚目と2枚目を表向きで手札に加え、それらをマナゾーンに置く。
†
イベントは順調に進行し、マナも順調に勝ちを重ねていた。
イオナはずっと腕を組みながらマナの試合を背後から眺めている。
ここまで全勝で来ており、そして全勝のまま、この日の大一番を迎えることになった。
もちろん相手は、例のアレである。
頭から頭巾を被り、腰には玩具の刀を下げ、夏用のやや涼しいらしい袴を履き、そして片時も手放さないハンバーガーショップの袋を持ったアレである。
ちなみにこの試合は配信されているが、ハンバーガー侍が登場してもその反応は普通だった。おかしい。だんだん自分の感覚が異常な気がしてきた。
そして、彼はやっぱり几帳面すぎるほど丁寧にシールドを並べながら言う。
「残念だ、少女。君はコントロールを選ばなかったか……」
「やっぱり、ランプが一番ですからね」
マナも今回は、自信のある表情でそう言い切った。そう、それでいい。実際、自信も戻ったのだろう。
ゲームはマナの先攻で始まった。
一般的に対ハンデスは後攻が欲しいと言われるが、今回はほぼ関係ない。
マナは1ターン目、2コストの《フェアリー・Re:ライフ》を撃つ。
「なるほど、興味深いね少女」
これも事前の打ち合わせ通りだった。どうせ手札をキープできないなら、ブーストは撃った方がいい、という話になったのだ。
返しに《特攻人形ジェニー》からハンデスをもらい、《天災 デドダム》が落ちる。だがマナは、気に留めていない様子だ。
2ターン目、タップインを埋めて5マナ。ここで唱えたのは《【マニフェスト】チームウェイブを救いたい【聞け】》だ。これで2ブーストしながら、マナゾーンの《天災 デドダム》を拾う。
マナの手札は2枚。
「なるほど、なるほどな……」
マナは試合中はカードのプレイ以外でほとんど喋らなかったが、あっちはぶつぶつ何かを言っている。ちなみに今回は屋内での開催となっているため、残念ながら大自然の恵みには感謝していなかった。
「まぁ、素直に、か」
ハンバーガー侍からは、当然《有象夢造》を撃たれた。ドローののちに《悪魔妖精ベラドンナ》らが捨てられ、《特攻人形ジェニー》と共に蘇生される。2ハンデス、手札を全て狩りに来た。
……本来であれば、これでハンデス側優勢となり、ランプ側は少なくとも数回の強力なトップドローを要求されることになる。
だが《特攻人形ジェニー》によって落とされたカードを見て、ハンバーガー侍は思わず声を上げた。
「《絶望と反魂と滅殺の決断》……!?」
僕は思わず、ニヤリと笑ってしまった。
†
実のところ、対コントロールも対同型も、マナはずっと課題として認識していたらしい。
だからその点について、イオナに見解を求めたく、相談したというわけだった。
そしてイオナは、例のハンバーガー侍と試合をしたことで、対コントロールについていくつかの知見を得ることに成功した。
1つ目は、手札をキープし続ける戦術は成立しなそうなこと。これは相手側が繰り出せるハンデスの量が、イオナがよく知るデュエマのそれとは大きく異なっていたためだ。
2つ目は、トップ解決をさせてくれる猶予ターンが意外と少ないこと。このデッキのハンデスとはあくまで時間の獲得が目的であり、「ハンデスをして勝つこと」ではない。時間を稼ぎながらメタカードを並べていき、《魔天降臨》なり《CRYMAX ジャオウガ》なりを送り込んで勝つ、というのがコントロール軸の基本戦術なのだ。
とはいえドローソースのようなカードを投入するのは同型に対して有効にならないし、手札を増やすことは意外と勝ちには繋がらない。例えば先攻2ターン目に《サイバー・ブレイン》を唱えたところで、3ターン目に勝ちに行くための札が存在するわけではない。1ターンパスしているのとそこまで違いはないのだ。
というわけで、課題を共有したイオナとマナはデッキの解答を探した。
まず試したのが《連唱 フェアリー・ダブルライフ》だった。これならば、墓地から撃つことで継続してランプすることが可能だ。
しかし墓地から《連唱 フェアリー・ダブルライフ》を撃つのに必要なコストは8で、これを撃ちたい状況となると、結局次のトップが《完全不明》でないと解決しないのだ。
だが墓地から撃てる、という発想は正しかった。
そして辿り着いた結論が、《絶望と反魂と滅殺の決断》だったのだ。
このカードであれば、墓地から撃てて、そして墓地に落とされた《天災 デドダム》を蘇生することで、リソースを伸ばしながら妨害を繰り出すことができる。そしてこのカードであれば、ランプ同型で後攻を取った場合にかなり強く使うこともできる。先攻はそもそも手番で勝つから、問題ない。
ランプを継続しつつ、デッキの動きを妨げない、絶好のカードだったのだ。
ちなみに《ロスト・Re:ソウル》も試している。
先攻3ターン目に撃てると言う点で《獰猛なる大地》の互換カードであり、撃ててしまえばコントロール側も動きが止まる。互いに動きが止まったとき、優位になるのは圧倒的にランプ側だ。
しかし実際のところ、7コストのカードを抱えたままハンデスを潜り抜けるというのは難しかった。もちろんトップ解決して勝つ試合もあったが、安定はしなかった。
やはり、何かアプローチをするなら先攻2ターン目までに使えるカード、つまり5コスト以内のカードが欲しかった。
もちろん、妨害という点でも強かった。
そうなると《絶望と反魂と滅殺の決断》は、両方に合致していた。
……まさか自分も、《絶望と反魂と滅殺の決断》を「ブーストカード」ととしてカウントする日が来るとは思っていなかったが。
マナにターンが返ってきた。
マナがわざわざチャージして《【マニフェスト】チームウェイブを救いたい【聞け】》を撃ったのも、回収が《天災 デドダム》なのも、全ては《絶望と反魂と滅殺の決断》のためだった。
「では墓地から《絶望と反魂と滅殺の決断》を撃ちます」
《天災 デドダム》2体が蘇生され、リソースが伸びていく。
ハンデスされたはずのマナの手札は、3枚。いくらハンバーガー侍側の手札が潤沢であるといっても、同一ターンで3ハンデスを要求されるとは思ってもいなかったはずだ。
そして何より、先のターンの《絶望と反魂と滅殺の決断》が、ハンデスへの意欲を削ぐのだ。
「ぐぬぬ……これは医者から食事制限を告げられたときより苦しい……」
ハンバーガー侍も意を決してチャージから《有象夢造》を含めて3ハンデスを決めたものの、後続の《絶望と反魂と滅殺の決断》が墓地にはある。
そしてこのターン手札を使わざるをえなかったハンバーガー侍は、残る手札が1枚しかない。今度はマナからのハンデスが強烈に刺さる。
こうなると、互いにトップ勝負となる。
その場合、勝つのは解答の多いランプ側となるのは、ずっと前から話していた通りだった。
マナはカードを引くと、一度大きく頷いた。
「では、《獰猛なる大地》で。こちら、《天災 デドダム》を下げて《完全不明》を出します」
……ターボ・デュエマにおいて、このカードは実質特殊勝利カードである。ターン開始時に自動的にマナゾーンにカードが置かれることで、ターンが飛んでしまうからだ。
ここから先、マナはあとはデッキを適当に掘り進めて、《神の試練》を撃つだけ。
これを撃って山札さえ引ききってしまえば、あとは向こうが自動的に山札切れになるまでターンを終了し続ければいい。
このゲーム、マナの勝ちだ。
「むむむ、見事だ……少女……。私のコントロールを超えてくるとは……」
こうしてハンバーガー侍は刀を抜いて切腹するかの如く投了し……。
「ありがとうございましたっ!」
マナは会心のガッツポーズを決めていた。
†
マナは見事にそのまま優勝を果たし、その打ち上げで2人はハンバーガーショップにいた。
ちなみにいつものファミレスは、まだイベント中だったため大盛況だった。
……そしてハンバーガーショップにいるということは、である。
「少年少女、ここでハンざむクイズを受けていかないか? いや、受けていくべきだろう、そうに違いない。よし、第1問!」
なんでいるんだ、コイツ。いや、ハンバーガーショップだから仕方ないのか。
「第1問、厚生労働省が定める1日あたりの塩分摂取量の目安はいくらでしょう?」
「…………」
考えたことも、なかった。
たぶん、マナはオーバーしてる。
「残念! 答えは7.5gだ。続けて第2問! ビックバーガーに含まれる食塩相当量は一体塩分何gでしょう?」
「…………」
こっちももちろん、考えたことはなかった。
「残念! 答えは2.6gだ! 2問外しはよろしくないな~~~」
「なるほど、それでハンざむさんは1日に何個ビックバーガーを食べるんですか?」
「…………」
「…………」
「…………」
ハンバーガー侍が袋から取り出したのは、野菜中心のフレッシュバーガーだった。
「少年少女、健康に気を遣うなら早いうちの方がいい。私は医者からハンバーガーを控えるように言われてしまったのだ……」
「可哀想に……」
やはり、年齢というのは残酷なのだろうか。
あれ、でもこの人って大学構内にいたよな? この人って一体何歳なんだ?
……いや、やめよう。世の中には、神秘のベールで包まれたままの方が、良いこともあるんだ。
「しかし今回はよくぞ! このハンバーガー侍に土を付けた。見事な戦いぶり、天晴れである」
負けても偉そう過ぎるだろコイツ。
「だが土が付くというのは、いいことだ。私もこれで分解が進み、きっと雄大な大自然の一部となって、大地に還元されていくのだろう……」
「そうなんですね……」
いや、そういう話ではないからな。
「それで私も、だ。これからの自分の将来について考えてみたんだ」
何がどうやって「それで」に繋がったのかはさっぱりわからないが、目の前の独特なおじさんは、自分の夢や希望についてとても気持ちよさそうに語っている。
「な? そう思うだろう、少年少女……いや、イオナくん! マナくん!」
「まぁ、そうなんじゃないですかねぇ」
何も話は聞いていなかったので、適当に相槌を打っておいた。
すると、彼は何やら満足げな様子を見せていた。
「わかってくれて嬉しいよ。よし、君も今日から同志だ、イオナくん。……いや、イオと呼ばせてくれ!」
「遠慮しておきます」
「うむ、そうとなってはこうしてはいられないな。私は次なる夢に備えて、準備を進めていこう。イオ、君にもいずれ声をかける。楽しみに待っていてくれ」
そう言って、彼は再び大声で僕らの名前を呼びながら去っていった。
なんか嬉しそうに刀を振り回していたが、さすがにそれは店員さんから怒られていた。
「結局なんだったんだ、アイツは……」
†
ハンバーガーショップからの帰り道、混雑が緩和されていたファミレスを覗いてみた。
混雑は解消されていたが、テイクアウトのみとなっていた。
約束通り、イオナはメロンパフェを注文した。
「ちょっと変わってるところもありますよね、ハンバーガー侍さん」
「ちょっとじゃ済まないだろ」
たぶん、いままで見てきた中でもトップクラスに変な奴である。悪い人では一切ないけども。
「それより聞いてください、イオナさん」
マナはちょうどできあがったメロンパフェを、大事そうに受け取りながら言った。
「私、大会の優勝って初めてなんですよ。今回はCSではなかったですけど、それでも本当に嬉しくて……。イオナさん、本当にありがとうございます。イオナさんのお陰です」
「いや、それはマナが頑張ったからでしょ」
協力したのは間違いないが、勝ち取ったのはもちろんマナ自身である。
自分があの場に立って優勝できたかというと、正直わからなかった。
「いいじゃないですかイオナさん。感謝させてくださいよ」
そう言ってマナは、メロンパフェを口へと運ぶ。
「次は私がイオナさんの力になりますから。その時は、頼ってくださいね」
その笑顔を見て、イオナは思わず言葉を失ってしまった。
時間が数秒、止まった気がした。
……なお余談だが、マナの試合を腕を組んでじっと見ているイオナの姿は配信画面にバッチリ映っており、以降イオナはしばらく「彼氏面男」と呼ばれるようになったのは、また別の話である。
(ターボ・デュエマ 完 次回へ続く)
神結(かみゆい)
Twitter:@kamiyuilemonフリーライター。デュエル・マスターズのカバレージや環境分析記事、ネタ記事など幅広いジャンルで活躍するオールラウンダー。ちなみに異世界転生の経験はない。
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