By 神結
森燃イオナはデュエマに全力で取り組むプレイヤー。
ある日大会に向かっていたところ、トラックに跳ねられて意識を失ってしまう。
目を覚ますとそこは異世界で――ということはなく、ごくありふれた景色がある日常に帰ってきていた。
さっそくデュエマの大会へと向かったイオナ。しかしそこで行われていたデュエマは、イオナの知るデュエマとは全くルールが異なるものであった。やはり、異世界へと転生してしまっていたのだった。
どんな世界であっても、デュエマをやる以上は一番を目指す――
これは異世界転生体質になってしまったイオナが、その転生先で行われている”少し不思議なデュエマ”に挑む物語である。
ターボ・デュエマ。それは、黙っているだけで勝手にマナが伸びていくデュエマだ。
大雑把に言えば、《魂の大番長「四つ牙」》が常時場にいるようなルールである。
・各ターンの開始時に、自分の山札の上から1枚目を表向きにし、手札に加える。その後、表向きにしたカードをマナゾーンに置く。後攻のプレイヤーは最初の1ターン目だけ、自分の山札の上から1枚目を表向きにする時、かわりに1枚目と2枚目を表向きで手札に加え、それらをマナゾーンに置く。
一旦手札を経由するのは《DG ~裁キノ刻~》等のメタカードに対する対策のためだろう。実際、先攻1ターン目にブースト用のメタカードを建てられてゲームにならない……というのでは、流石にゲームとして面白くなさそうだ。
さて、マナから聞いたところによると、このゲームには大きく分かれて2つの派閥があるらしい。
それが「ランプ派」と「コントロール派」だ。
簡単に説明すると、勝手にブーストをすることによって早々にビッグアクションを取れる利点を生かすのがランプ派であり、こちらは《ボルシャック・栄光・ルピア》なり《天災 デドダム》なりを繰り出していく。
ちなみにランプ型の最終到達点はイオナの中では明確に答えが出ていて、それが「《完全不明》を場に出すこと」である。
ターボ・デュエマのルール上、相手はターン始めに強制的にマナを置くことになるため、このカードを出してしまうとターンが自動でスキップされることになる。
そのため《完全不明》を出して相手をターンエンドをさせ続け、自分は悠々と山札を削っていきながら《神の試練》を唱えて負けない状況を作る。
あとは相手の山札が消えるまでずっとターンエンドし続ければ、勝ちなのだ。ターボ・デュエマ、最高!
なお《完全不明》は11コストであるが、《獰猛なる大地》が殿堂解除されているため、《完全不明》のコストは8である。
このゲームの8マナとは、先攻1ターン目に2マナブーストを撃って+2ターン目に5マナで《終末王秘伝オリジナルフィナーレ》などを唱えれば3ターン目で到達できるラインである。多色によるタップインもあるが、素出しも考えると、少なくとも4ターン目には安定して場に出すことができるだろう。
一方で、マナチャージをしなくてもゲームが作れるという、手札枚数をキープしながら戦えることの利点を生かすのがコントロール派である。こちらはハンデスを軸に相手をロックして勝つ……というのが大枠のプランだそうだ。
先攻であれば2ターン目になんらかのメタクリーチャーを出してからスタートし、手札にリソースを抱えながらハンデスを駆使していく。基本的にハンデス系はどこかでドローカードを撃って小休止するターンがあるが、このゲームではその必要はない。
《アクア・ベララー》によるデッキトップをコントロール戦術は利かないため、最終的には《魔天降臨》や《CRYMAX ジャオウガ》などを使って殴るというのが一般的らしい。
と、ここまで話してわかるように、ターボ・デュエマは圧倒的にゲームスピードが早い。
だから「2コスブースト」とか「2コスハンデス」など、役割が近しいカードがたくさん存在しているデッキは安定しているし、強いのだ。
例えば当初はループデッキなんかも強いと思っていたものの、基本的にループデッキは「特定のパーツを複数揃える」必要がある。そのため、サーチに使っているターンがあまりに勿体なく、安定しなかった。
またアグロ系の殴るデッキなんかも同じで、例えば火単の《我我我ガイアール・ブランド》なんかも、引けば先攻3ターン目にはあり得ない打点を作れるものの、引けるまでの猶予ターンが少なすぎる上に後攻になってしまうとあまりに弱いという欠点が存在した。
このため、この環境であってもデッキの再現性が高い「ランプ」と「ハンデスコントロール」に分かれるのは、まぁ無理もない話であろう。
問題は、このどちらが強いかという話である。
これについてはだいぶ議論があるという。マナは「絶対ランプの方が強いです」と言っているし、ハンバーガーと刀を持った例のアレは、「コントロールこそ最強である」とかなり自信ありげに言っていた。
デッキトップの解答などを考えるとランプ側が有利にも見えるが、残念なことにイオナはまだこのゲームについてそこまでやり込めてはいない。ランプ側のゲームイメージがわかりやすいが、コントロール側の「手札をキープしながら戦える」というのはデュエマでは普段やることがないため、あまりゲームイメージが湧かないのだ。
そういうわけで、一回は実戦を積んでおきたいのだが。
「…………」
大学構内に、それはいた。
頭巾を被り、腰に刀を下げ、このクッソ暑いのに袴を履いて、そして何故か手からハンバーガーの袋を下げている、例の男。
名を、ハンバーガー侍という。本当に、そのままなんだよな。ちなみに略称は、本人いわく「ハンざむ」。
正直見なかったことにしてさっさと逃げたいところなのだが……実はちょっと対コントロールの練習もしたい。というか、この人のお手並みも一応拝見しておきたい。でもここでわざわざ話しかける必要はないよな……。
と、一瞬考えてしまったのが命取りだったようだ。
ハンバーガー侍が、こちらに気付いてしまったのだ。
「お、イオナくんじゃないか! おーい、イオナくん!」
めっちゃ名前を呼ばれてしまったのだ。しかも、皆に聞こえるほどの大声で。
近くにいた人が、一斉にこちらを振り向く。好奇な視線が痛い。
やめろ、やめるんだ。僕はあんな……えーっと、なんて言えばいいんだろう、独特の世界観をお持ちの方と知人というわけでもないし、友達というわけでもないんだ。
「どうして無視するんだいイオナくん! 一緒にデュエマをやろうじゃないか!!」
どうやら、僕の大学生活は終わりに近づいているようだ。ひとまず、反射的に逃げることにした。
†
ちなみに、逃げ切れなかった。
走った先で一息吐いたところ、目の前にいたのだ。
「なんだ、場所を変えたいならそう言ってくれればよかったのに」
汗一つかいてない、涼しい顔をしていた。恐ろしい話である。
だが僕の恐怖など一切気に留める様子はなく、彼は芝生の広場にブルーシートを敷くと、何故かその上にプレイマットを広げていた。
「ここでやるんですか?」
「やっぱり大自然の恵みを享受しながらやるデュエマは素晴らしいと思うんだ、イオナくん」
ちなみに、彼の使うデッキはハンデスコントロールである。大自然の恵みとは?
だがそれを見透かしたかのように、彼は付け加えた。
「いや、違うよイオナくん。逆に考えて欲しい。大自然の恵みがあるからこそ、ターンの始めにマナが生まれるんだ、と。恩恵を享受するのは何もランプデッキだけではないんだよ。大自然の恵みをどう生かすかは、人の自由なんだよ。アメリカ生まれのハンバーガーに、照り焼きチキンを挟んでも誰にも怒られない、違うかい?」
そう言って、彼はシールドを1枚1枚、まるで定規で測っているかのように垂直かつ等間隔で展開していく。
「ちなみにいいんですか? もうすぐマナと対戦があるというのに、僕と一緒に遊んで」
「問題ないよ、イオナくん。なぜなら私は、マナくんにもコントロールデッキを使って欲しいんだ。世界中のランプ派のみんなが、全員コントロール派になってくれれば、私の勝利、明治維新の達成というわけだ」
……つまり、この勝負に自信があるらしかった。
とはいえ、僕もハンデスコントロール対面など無限にこなしてきている。自信はある方だった。
「じゃあ、先攻で」
ハンバーガー侍のデッキの詳細までは不明だが、ハンデスコントロールであることは事前に分かっている。対人メタになってしまうが、こちらのデッキが分かっているのは相手も同じ。
古来からある対ハンデスのセオリーに従い、こちらは2コストブーストは撃たずにターンを終了する。手札には《天災 デドダム》があるため、ここでは色マナ確保も優先しておきたい。
「なるほど、興味深いねイオナくん」
対して彼の方はというと、3マナは使わずに2マナの《サイバー・K・ウォズレック/ウォズレックの審問》を唱えた。当然、《天災 デドダム》を引っこ抜いてくる。
まぁ、ここまではいい。
こちらもまた、マナをチャージするだけしてターンを終了。基本的に、ハンデスには序盤のやりとりで手札を残せばいい、というのが経験に基づく鉄則であった。
だが少し、ターボデュエマは僕の知らない世界であった。
「ハンデスには手札を残せば勝てると思ってるのかもしれないが……はたしてそれができるかな?」
唱えられたのは、《有象夢造》だった。効果で《特攻人形ジェニー》らが墓地と盤面を行き来して、2ハンデスを食らう。こちらの手札は、これで残り1枚だ。
ターンの始めにブーストできる以上、黙っているだけで上からの解答が増えていくと思っていたが、ハンデスのペースが思ったより激烈だった。こちらはまだ1枚もカードをプレイしていないが、手札が1枚しかない。
次のターン、タップインの都合で引いたカードをマナに置くと、残る手札から《終末王秘伝オリジナルフィナーレ》を唱える。ようやくランプができて、《獰猛なる大地》の回収にも一応成功するが……。
「次で9マナだね」
向こうには潤沢な手札がある。《イグゾースト・Ⅱ・フォー》が召喚されて《有象夢造》が再度唱えられ、ハンデスに加えて《異端流し オニカマス》も場に出た。
対してこちらのドローは、《フェアリー・ライフ》。
「……まぁ、埋めるか」
返しに《龍装艦 チェンジザ/六奇怪の四 ~土を割る逆瀧~》から《機術士ディール/「本日のラッキーナンバー!」》で「11」を宣言されてしまい、《完全不明》のトップデッキによる逆転の見込みもなくなってしまった。あんな見た目だが、手堅いプレイをしてくる。
もちろん、《獰猛なる大地》だったとして、《異端流し オニカマス》に返されてしまうためこれもダメ。
「うん、我ながら堅実でいいプレイだ」
彼は自分のプレイに納得がいったらしく、ご丁寧に(プラスチック製の)刀を抜いてポーズまで決めている。これ、カバレージとかに残る試合じゃなくて本当に良かった。
結局そのまま、《CRYMAX ジャオウガ》まで召喚されてしまって、殴り負けてしまった。
「対戦してくれてありがとう、イオナくん。御礼にハンバーガーを一つ贈呈しよう」
「いや、間に合ってます」
「しかしこれでわかっただろう、イオナくん。コントロールデッキこそが、このゲームの答えなんだよ」
「…………」
「今週の大会、君と大地マナ君が2ターン目に《特攻人形ジェニー》を出していることを楽しみにしているよ。それでは、週末にまた会おう、イオナくん!」
また大声で僕の名前を呼ぶと、手を振りながらいずこへと駆けていった。
「だからなんなんだ、アイツは……」
†
その夜、マナと通話をしながら今日の出来事を振り返っていた。
どうやら「手札をキープしてリソース差をつけてなんとかする」というプレイは、コントロールにはあまり通らないらしい。相手の手札の枚数のお陰で、こちらが手札を広げないとハンデスが追いついてしまうのだ。
それでも、放っておくだけでこっちのリソースが広がる分、黙ってるだけでも勝てると思ったが流石にそこは相手もわかってるらしい。「黙っておけば勝てる」状況になる前に、決着をつけてくるのだ。
じゃあ仮に《サイバー・ブレイン》などのドローするカードを入れたところで……今度は大会で当たる他のランプデッキに構造上不利になる。ランプ同型で撃つカードではないからだ。
おそらくこうしたメタゲームの都合にもつけ込んで、ハンバーガー侍は勝っているのだろう。
「……やっぱり、コントロールなんですかね?」
「…………」
やはり、この前マナが相談しようと思っていたのはデッキ選択についてのことだったのだろう。
それもデッキの構築の話ではなく、そもそも「ランプを使うか」「コントロールを使うか」の大きな話だったのだ。
「でもマナは、ランプデッキの方が好きで、そっちの方が強いと思ってるんでしょ?」
「……自信がないんです」
そう言って、マナは話を進める。
「ずっとそうだと思っていたんですが、この前ハンバーガー侍さんにボコボコに負けて。それで自信がなくなちゃって。イオナさんならあるいは、と思ったんですけど。でもイオナさんも負けてしまったというなら……」
それはいつにもなく、元気のない声であった。
なるほど、そういうことだったのか。
「1つマナに言っておきたいんだけど」
「はい、なんでしょう?」
「僕が今日こうやって通話しているのは、マナにコントロールを勧めにきたわけではないんだよ」
「え……?」
これまでゲームイメージがなくてどうにもならなかったが、今なら確信があった。
いける。ちゃんと、勝てる。
「『デッキ構築』の話をしよう、マナ。一緒に、アイツを倒そう!」
「……イオナさん! はい、やりましょう!」
マナの声が、明るく戻った。
(ターボ・デュエマ 中 に続く)
神結(かみゆい)
Twitter:@kamiyuilemonフリーライター。デュエル・マスターズのカバレージや環境分析記事、ネタ記事など幅広いジャンルで活躍するオールラウンダー。ちなみに異世界転生の経験はない。
『異世界転生宣言 デュエル・マスターズ「覇」』バックナンバーはこちら!!