40mPさんの曲作りに迫る!
2020年9月のサービスイン以来、コロコロオンラインがひたすら追い掛け続けているセガ×Colorful PaletteのiOS/Android向けアプリ『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』。
2021年3月にはハーフアニバーサリーを祝した特集を展開し、
さらに2021年10月には『プロセカ』1周年を記念した大特集を実施するなど、担当からほとばしる圧倒的な“プロセカ愛”をカタチにし続けている。
そんなコロコロオンラインプロセカ班がとくに情熱を注いで追っているのが、このゲームの根幹でもある楽曲……そして、それを制作されている“ボカロP”と呼ばれる“才能たち”であります!!
“子どもが将来なりたい職業ランキング”において、ゲームクリエイターやユーチューバーらと並んでボカロPが上位にランクインし、コロコロの読者層との親和性もめちゃくちゃ高いということで、前述のプロセカ1周年特集の際にボカロ界のビッグネームにつぎつぎとインタビューを敢行!! その内容の濃さは業界内外に衝撃を与え、このたび……不定期連載で、さらに多くのボカロPの皆様にご登場いただき、ナマの声をお届けできることになったのです!!
『プロセカ』はゲーム内容はもちろん、楽曲のすばらしさが高く評価されて現在の人気を確立したと言っても過言ではない。それらを生み出したボカロPたちの考えかた、作品への向き合いかたを掘り下げたこのインタビュー連載を読まれることで、ゲームを遊ぶだけでは知りえない情熱や、楽曲に対する想いを知ることができるはずだ。その結果……さらに登場キャラやユニット、『プロセカ』そのもののことが好きになること請け合い!!
そしてインタビューの後半では、“いかにしてボカロPになったのか?”という、将来この道に進みたいと思っている読者の皆様の道しるべになるような質問もぶつけているので、とにかくあらゆる人たちに読んでいただきたいなと!!
さて今回ご登場いただくのは、“MORE MORE JUMP!”(モモジャン)”にオリジナル楽曲『Color of Drops』を提供された“40mP”(40メートルP)さんだ。
アイドルを目指す少女とアイドルを辞めた少女たちが織りなす群像劇が人気のモモジャン。そのメンバーのひとりである日野森雫(ひのもりしずく)がキーキャラクターとなっているのがイベントストーリー『Color of Myself!』だ。世間の評価と、自身のキャラとのギャップに苦しむ雫の心情を歌い上げた『Color of Drops』は、どうやって生まれたのだろうか?
※インタビューは、オンラインで実施したものです。
“虹”をイメージして作った曲
--40mPさんはコロコロ初登場となりますので、まずは簡単に自己紹介をお願いしたいのですが……!
40mP わかりました。ボカロの楽曲は2008年夏から投稿を始めまして、14年が経ちました。『初音ミク』が発売されてちょうど15周年ということですので、初期のころから活動しているかなり古めのボカロPということになりますね。代表曲は『からくりピエロ』や『恋愛裁判』などなど。自分の特徴は、比較的さわやかで元気が出るようなポップスが多いかな……と思っていて、リスナーの方にも、そういった楽曲が40mPのイメージとして定着しているように思います。最近ではボカロの曲作りと並行して、ゲームやアニメ、舞台の音楽など、いろいろなところで音楽制作の活動をさせてもらっています。
--ボカロの歴史を紐解くとよくわかるんですけど、40mPさんは本当に黎明期から活動をされているんですよね。
40mP はい。本当に、初期のころからだと思います。おそらく第1とか第2世代に属していて、ベテランに数えられるほうですね。
▲プロセカでは40mPさんの人気楽曲『恋愛裁判』(作詞・作曲:40mP)、『からくりピエロ』(作詞・作曲:40mP)、『タイムマシン』(作詞:164、作曲:40mP)がMV付きで遊べるぞ!
--さて、今回は『プロセカ』のアイドルユニット、MORE MORE JUMP!向けにオリジナル楽曲『Color of Drops』を提供されましたが、依頼を受けたときのお気持ちはいかがでしたか?
40mP じつは『初音ミク -Project DIVA-』(PSPやアーケードなどで展開されたセガの音楽ゲームシリーズ)のころからボカロ曲を提供することが多くて、今回の『プロセカ』に関してもリリース前から、セガの担当の方と打ち合わせをさせてもらっていました。そのときに実際にお会いして、『プロセカ』の企画の骨子から説明をしてもらったんですけど、なんと言うか……熱意をすごく感じたんです。「このゲームを通じて、ボカロ界隈をもっともっと盛り上げていきたいんです!」という、熱い想いを。
--あー……! それは、心に来るものがありますねえ……!
40mP そうなんです。説明を聞きながら、「画期的なことが、これから始まるんだな……!」という予感を覚えるほど、開発者の方の想いが伝わってきました。そんなゲームにオリジナル曲を提供できるなんて、すごく光栄なことですよね。
--他のボカロPの方も、おなじようなことをおっしゃっていました。制作サイドのボーカロイドに対する想いが強くて、ぜひとも協力したくなった……と。
40mP やっぱり、そうですよねー! 僕もまったく同じです。そもそもセガさんて、初期のころからずっとボカロに寄り添ってきてくれたメーカーなので、クリエイターが“こうありたい!”と思ったことに対して、すごく真摯に対応してくれるんです。
--そして40mPさんはモモジャンにオリジナル楽曲を提供されたわけですけども、このユニットを初めて見たときはどのような印象を持たれましたか?
40mP 最初に見せてもらったのはキャラデザインだったんですけど、第一印象は“キラキラしてかわいい”でしょうか(笑)。衣装もキャラクタービジュアルも“アイドル然”としていて、そのときは“二次元のアイドルの王道”という感想を持ちました。
--まさに、モモジャンはそういう子の集まりですよね。
40mP でも、その後にストーリーのプロットをいただいて読み込んでいったんですけど、単純にかわいくてキラキラしているだけではない、彼女たちの内面を深掘りしていくような展開になっていて驚いたんです。それぞれが理想とするアイドル像といまの自分とのギャップに悩んでいながらも、純粋にアイドルに憧れるみのり(※花里みのり。モモジャンのメンバーで唯一、アイドルとしての実務経験がない女の子)という存在がいて、さらにバーチャル・シンガーの初音ミクや鏡音リンも関わってくる--。芸能界のきらびやかな部分だけではなく、嫉妬とか羨望とか……心の内に踏み込むような展開もあって、そこはかとないリアリティーを感じたんです。一見華やかに見えるけど、ちょっと中を覗くと悩みや葛藤がある世界って、やっぱり共感を覚えますよね。
--おっしゃる通りモモジャンって、パッと見はキラキラですけど、じつは決して軽くない想いや葛藤を抱えている子たちの集まりなんですよね。とくに、40mPさんの『Color of Drops』がイメージ楽曲となったイベントストーリー『Color of Myself!』は、モモジャンのそういった部分を浮き彫りにしたような気がします。
40mP まさに、その通りですね。『Color of Drops』は日野森雫(ひのもりしずく)をキーキャラクターとして書かせてもらったんですけど、彼女はすごく興味深い女の子だと思いました。表面上は天才肌で、なんでもそつなくこなしているように見えるんですけど、じつは陰で泥臭く努力を重ねる頑張り屋で、まわりからの期待と、真の自分とのギャップに苦しんでいる……。これって、じつは誰もが感じたことのあるリアルな悩みじゃないですか。
--はい、そうだと思います。
40mP ですので、表にあるキラキラした部分と、内面に抱えているモヤモヤした部分を主軸にして曲を書いていこうかな……と思ったんです。
--その言葉を聞いて、すごく腑に落ちました。イベントストーリーを読んだ後に『Color of Drops』を聞くと、「なんて物語を具現化した曲なんだろう!!」って驚くんですけど、曲の背景にはそんな思いがあったんですね。めちゃくちゃドストレートに響きました。
40mP ありがとうございます。そう言っていただけてよかった(笑)。
--改めて、『Color of Drops』という楽曲のテーマを教えてください。
40mP いま言ったことと被るんですけど、まわりから完璧なアイドル像を求められている雫が、本当の自分をさらけ出す勇気を持てるのかどうか……が、根本のテーマです。そこで、雫が自分の力で、自分自身の色を見つけられるのか……という意味を込めて、『Color of Drops』と名付けました。“Drops”って“雫”という意味だと思うので、そこに掛けて。セガさんからのリクエストは“シリアスなストーリー”かつ“暗すぎない雰囲気の曲”というものだったので、バラードという分類にはなると思うんですけど、しっかりとリズムを刻み、聴いていて希望が芽生えてくるようなメロディーとアレンジを心掛けました。
--『Color of Drops』って、歌詞全体がひとつの物語になってっているイメージなんです。取っ掛かりは雫の葛藤ですけど、やがて表の姿は真の自分じゃないと気づき、最後は前を向いて歩いていくという一連の物語……。
40mP あ、その解釈はすごくうれしいですね! 僕、曲を作るときに、小説を書いたり、映画を観ているときのようなイメージで歌詞を膨らませることが多いんです。『Color of Drops』のときも、悩みの芽生えから始まり、気付き、解決、そして1歩前に踏み出す……という、個人的にも好きな展開で書き切ることができたと思います。
--もう、お見事としか言いようがないです。すばらしい曲ですもん。
40mP ありがとうございます!
▲イベント『Color of Myself!』の書き下ろし楽曲としてリリースされた。
--そんな『Color of Drops』中で、とくにお気に入りの歌詞があったら教えてください!
40mP 全体の流れを通して表現した曲なので、ピンポイントで「ここ!」っていうのはけっこう難しいなと思いました(笑)。あえて挙げるなら、2番に「でもそれもこれも全部 受け止めてゆくんだ」っていうフレーズがあるんですけど、ここで雫の“決意”とか“覚悟”のような気持ちを表現できたかなと思っています。ですので、この箇所はお気に入りです。
--あー! そこは力強くていいですよね! ちなみに僕は、「何千回 私が光を浴びたとしても 嘘を重ねた色じゃ輝けないから」という箇所が、美しくてすごく好きです。
40mP ああ、そうですね! その部分も、曲の中ですごく効いていると思います。
--詩的ではあるんですけど、具体性もあるという……。リスナーの声を拾っても、ここでグッときて泣いてしまった……という声がかなり多かったです。
40mP このあたりは、虹をイメージして書いたんです。雨上がりで虹ができる条件が整っていても、光が当たらなかったら色は出ないんだよな……ということを考えて。……ということを、いまおっしゃってくれた言葉を聞いて思いだしました(笑)。
--歌詞って、短い時間と文字数の中で表現しなきゃいけないのに、よくぞここまで美しくて響くフレーズを作れるなぁ……と感心しきりです。
40mP ありがとうございます。おっしゃる通り文字数が限られてしまうので、言いたいことはもっとあるのに表現しきれない……ということは多々あります。そんな中で『Color of Drops』に関しては、表現したい“気持ちの部分”を納得いくまで書き表すことができたかなと感じています。
--それはやはり、『Color of Myself!』というイベントストーリーそのものが、40mPさんに響いたことも大きいですか?
40mP はい、それは間違いないと思います。いろいろな楽曲制作のお仕事をいただきますけど、やっぱりストーリーに自分の気持ちが入り込めるかどうかは大きいです。ですので、いただいたシナリオやプロットは自分の気持ちが入るまで読み込むことを心掛けているんですけど、『Color of Myself!』に関してはすごくすんなりといったことを覚えています。物語の端々から出ている感情……たとえば嫉妬とか、うまくいかない焦りだとか、自分自身も抱えている感情ばかりで、すごく共感できたんですよねー。
--お話を聞けば聞くほど、40mPさんとモモジャンはステキな出会いだったんだなと思います。
40mP はい、僕もそう思います。雫にもモモジャンにも、シンパシーを感じながら作業することができました。
--では、ちょっと似通った質問になってしまって恐縮なのですが、『Color of Drops』の聴きどころを教えてください!
40mP 音楽的なところですと、ラストのサビにかけて畳みかけるようにメロディが展開する造りになっています。『Color of Drops』って2年くらい前に作った曲ですけど(※公開は2021年になります)、ちょうどこのころからこういった展開をする曲作りにハマったんです(笑)。最後の「何千回 何万回~……」とくり返して訴えかけるようなフレーズになっていくところとか、自分的にもけっこう気に入っています。
--なるほどなるほど!
40mP 先ほど“映画を観ているようなイメージで曲を書いている”と言いましたけど、やっぱり最後は、こう……ドラマティックになっていってほしいなといつも思っていて。とくにこの曲は、雫が1歩前に踏み出していくという展開を意識して作っていたので、最後の最後で聴いている人の気持ちに訴えかけようと思いました。
--この楽曲はアイドルを目指す子たちに向けて書かれたものですけど、聴けば聴くほど、親や先生の期待に応えるためにがんばっている、現代の子どもたちの姿が頭に浮かぶんですよね。
40mP ああ、わかります。親御さんや先生はもちろん、友だち間でもそうですもんね。とくに最近はSNSを使って個人で発信できるようになっていますから、そこでも“こういうふうに見せたい”という想いと、現実の自分とのギャップを感じると思うので、気持ちを投影させながら聴いてもらえたらうれしいです。
--SNSって便利でおもしろいですけど、いろんな感情が芽生えますもんね。
40mP そうですねー。みんな、いろいろな顔を持ってSNSの中で過ごしていて、悩みも抱えているんじゃないかと思うんです。そんなとき、『Color of Drops』を聴いて、「自分の本当の姿って、どれなんだろう」と、自身を見つめ直すきっかけにしてもらえたらなと思います。
※下段のMV画面はバーチャル・シンガーver.のものです。
--そんな『Color of Drops』の、制作期間はどれくらいなんでしょうか?
40mP 2年前の曲なので、正確には覚えていないのですが……(笑)。でも、このインタビューのお話を聞いて過去のデータを漁ってみたんですけど、歌詞を書き始めたのが2020年4月中旬ごろで、データが完成したのが6月上旬になっていました。ですので、ざっくり1ヵ月半くらいで作った曲になりますね。とはいえ、他の曲も同時並行で作業していたので、『Color of Drops』にだけ掛かり切りになっていたわけではありませんけど。
--その1か月半という時間は、40mPさんにとってはどういう位置づけなんでしょうか?
40mP 期間だけみれば、ふだん通りかなと思います。でも記憶をたどってみたんですけど、最初の取っ掛かりとなるメロディーを見つけるまでに時間が掛かったことを思い出しました。テーマをどこに置いて書こうか……と、かなり悩みながら進めていた気がします。
--はい。
40mP 先ほど言った、“雫の色”とか“虹のイメージ”を見つけてからは早かったと思います。とはいえ、どの曲もそうなんですけど、取っ掛かりとなるテーマを見つけるまではいつも時間が掛かりますね。
--個人的にお聞きしたいんですけど、歌詞とか曲作りに悩んだときって、どのように打開されているんですか?
40mP 自分の場合、とりあえず寝ます!(笑) キチンと寝て体力を復活させることで、感性がリセットされる気がするので。あとは音楽を聴いたり、映画を観たりして、ちょっと脳にインプットしたりします。
--何も出なくなったときって、インプットが欲しくなるものなんですね。
40mP そうなんです。ただ、本格的に何も出ないで悩んでいるときって、インプットすら身体が拒むことがあるんですよ(笑)。なのでいまは、とにかく寝ること! 寝て起きて散歩して……という自分のライフスタイルに立ち返ることで、新しい気持ちで取り組めるようになったりするんです。
--参考にさせていただきます!!
40mP はい(笑)。
--では、『Color of Drops』がゲームに実装されたときの心境を教えてください!
40mP ずっとイメージイラストだけ見ていたモモジャンのメンバーと、バーチャル・シンガーのルカが自分の曲に合わせて踊っている姿を見て……うん、やっぱり感動しましたね。これは『Project DIVA』のころから思っていたことですけど、自分の楽曲がゲームで使われて、3Dのキャラクターたちが歌って踊ってくれるっていう経験、そうそうできないじゃないですか。本当に、貴重な体験です。『プロセカ』のときも、最初にデモ映像を見せてもらったときは感動しましたし、改めて「すごく貴重な経験をしているな」と思いましたね。
--ファンからの反応はいかがでしたか?
40mP じつはボカロの曲って、それほど一枚岩じゃないと思っているんです。
--ほうほう? それはどういう……?
40mP 聴いてくれる方って、ボカロPというクリエイター個人のファンだけじゃなく、バーチャル・シンガーに付いているファンも大勢いるじゃないですか。こういった層に意図的にアプローチするのって、かなり難しいと考えるんです。たとえば、初音ミクを歌わせれば初音ミクのファンに届くのかというと……決してそんなことはありません。
--確かに、そんな単純な話ではないですよね。
40mP でも、そこで『プロセカ』です。このアプリはすでにボカロ文化の中心地だと思っていて、ここで曲を発信することでそういったギャップも埋まっていくと感じるんです。実際、楽曲の再生数にも大きく影響しましたし、僕のことなんて知らない方々からもたくさんのコメントをいただけるようになりました。こうやってさまざまな人々に自分の楽曲が届いていることを実感できるので、『プロセカ』に関わらせてもらって本当によかったなと思うんです。
--僕が見た中で多かったのは、「『プロセカ』にありそうでなかった曲」というコメントです。確かに『Color of Drops』はいい意味で、雰囲気の違う楽曲だなと思いました。
40mP ああ、そうかもしれませんね。初音ミクはバーチャルアイドルという位置づけですけど、意外や、アイドル感を全面に押し出した曲をあまり歌っていない印象がありますし。そういう意味では、逆に新鮮な響きに聴こえたのかなと思います。
--では、 そんな『Color of Drops』が大好きなファンに向けて、ひと言メッセージをいただけますでしょうか。
40mP いまおっしゃってくれたように、『プロセカ』にある多くの楽曲とはちょっと毛色が違うかもしれません。でもだからこそ、『プロセカ』のあらゆるシーン、キャラクター、声、そしてボカロそのものの新しい魅力に気づくきっかけにもなるんじゃないかと考えるんです。『Color of Drops』を聴いて、「あ、このキャラにはこんな一面もあったんだ」と発見してもらえたなら、もう何も言うことはありませんね。本望です。
--ありがとうございます! ではここから、将来の夢として「ボカロPになりたい!」と思っている人たちのために用意した質問にお答え願えればなと……! まずは……40mPさんが、ボカロPになられたきっかけを教えてください!
40mP わかりました! 先ほど2008年から活動を始めた……と言いましたけど、そのころってちょうど、大学生から社会人になるタイミングだったんですね。それまで、歌のないインスト音楽というものは作っていたんですけど、せっかくの機会なので「新しいことを始めてみたいな」と考えたんです。そこで思い浮かんだのが、ずっとやってみたかった“歌モノ”の制作でした。とはいえ、自分で歌うのは得意ではないし、まわりにボーカリストの知り合いもいません。
--ふむふむ……!
40mP どうしようかなぁ……と考えたときに耳に飛び込んできたのが、当時流行り始めていたニコニコ動画の『初音ミク』の楽曲。「こんなんあるんだぁ」と興味本位でニコ動を覗いているうちに大人気だった“supercell”さんらの曲を聴いて衝撃を受けるんです。「こんなにいい曲があるのか!!」って。これに大いに影響されて、「挑戦してみよう」と思いました。これが、きっかけになりますね。
--それが、2008年なんですね。
40mP はい。2008年の春……だったと思います。
--実際にボカロを使って楽曲制作を始められたわけですけど、すぐに馴染むことはできたのですか?
40mP 歌わせること自体は、じつはそれほど難しくないんです。問題はそこから“クオリティーを上げていく”ことで、それにはいろいろなテクニックや技術が必要になってきます。とはいえ、メロディーを入れて、歌詞を打ち込むだけでそれなりに歌ってくれたので、正直……感動が凄かったです(笑)。機械の声で、たどたどしくはあったんですけど、自分が作った曲を誰かに歌ってもらうという経験がなかったので、「僕の曲を歌ってる!!」と、ひたすら感激したことをよく覚えています。
--その感動がモチベーションになって……!
40mP はい、のめり込んでいきます。じつは最初に手に入れたのは2週間だけ使える体験版だったんですけど、モチベーションが上がり過ぎて一気に2曲も作り、その勢いを駆ってニコニコ動画に投稿してしまいました(笑)。
--やっぱり、そういった初期体験って重要なんだなぁ……! でも、楽曲を作ること自体、決して簡単な作業ではないじゃないですか。何か必要なスキルとか、あるのでしょうか?
40mP 質問をいただいてから考えてみたんですけど……どこからお話しようかなぁ……!
--これは期待……!!
40mP まず大前提として、じつは楽譜の知識ってあまり必要とされていません。ボカロの楽曲はパソコンで作っていくんですけど、音楽制作ソフトで作業をするので、楽譜の読み書きはできなくてもまったく問題ないんです。ただ、楽器は何かしら触れたほうがスムーズに進むと感じます。とくに、ピアノかギターを弾けるとすごく役に立つと思うので、ボカロPになることを見越して楽器を始めようと思う人には、このふたつをオススメしたいです。
--具体的で、ありがたいです!
40mP まだまだありますけど、全部書かなくてもいいですよ!(笑) 加えて必要なのが、パソコンの知識。……いや、タブレットでも曲は作れるので、そのあたりのハードウェアを扱うノウハウは身に着けておくと絶対にいいです! それと……!
--はい……!
40mP 意外と思われるかもしれませんが、“ネット文化に親しむこと”がめちゃくちゃ重要だと感じます。というのも、僕は小学生の息子がいるんですけど、すでにYouTubeやニコ動を見たりしながら、「将来、ボカロPになりたい!」なんて言っているんですね。
--あ、そうなんですか!
40mP まだ小さいんですけど、いまの子って小さいころからネット文化に親しんでいるじゃないですか。大人の知らないところでも。その流れに乗って、ネット上にあふれているいろんなコンテンツに触れて、感動して、「自分も作ってみたい!」とか「やってみたい!」という気持ちを育むことが重要なんだなと思います。作品を発表する場所もひとつだけしかないわけじゃなく、いまだったらYouTube、ニコ動、あとTikTokとかTwitterとかいろいろあるので、実際に触りながら自分に合ったサービスを見つけることも大事だと感じます。
--凝り固まってしまうのではなくアンテナを広げて、いろいろ体験してみよう、と……!
40mP おっしゃる通りです。音楽活動をしていると、いまやSNSを活用することって避けて通れないんですよね。作ったものをどうやって人に届けるのか……ということをつねに考えているので、それこそ人のマネをしてみたり、逆に「自分だったらこうする!」と考えるクセをいまから付けていくといいと思いますよ。
▲『Project DIVA』の時代から、40mPさんの曲はミクたちに寄り添い続けている。そのときどきで映像表現も変わり、いまでも新鮮に楽しめる。名曲は永遠なのだ。
--では、 ボカロPになってよかったと思うこと、何かありましたら教えてください!
40mP いろいろあるんですけど、やっぱりいちばん大きいのは、こうして毎日、全力で音楽に取り組める環境を作ることができた……ってことでしょうか。
--なるほど!!
40mP 音楽を仕事にすることって、昔に比べるとかなりハードルが下がったと思うんです。先ほどのYouTubeにしてもSNSにしても、個人が音楽で収入を得る手段が格段に増えたので……。ひと昔前まで、音楽で食べていこうなんて考えはそれこそ、一世一代の賭けみたいなものだったじゃないですか。
--わかります(笑)。発信の手段がなかったですもんね。
40mP とは言え、実際に音楽1本で生活できる人ってかなり限られているという自覚もあるので、だからこそ、いまこうしていられるきっかけを作ってくれたボカロには感謝しかないんです。
--2008年にボカロに出会ったことが、40mPさんの転機だったんですね。
40mP 始めた時期もよかったんですよね。まだボカロというものが市民権を得る前から、ですから。今となっては音楽をやっている人でボカロに触ったことがない人って……ほとんどいないと思うんです。それくらい普及しているんですけど、だからこそ、ここで頭角を表すのは難しくなっています。そういう意味でも、初期のころから活動を始めて名前を出すことができたのは、ある意味ラッキーだったなと感じるんです。
--それでも、いまの子どもたちの多くがボカロPに憧れています。そんな子たちに、先達としてエールをお願いしたいのですが!
40mP 恐縮です(笑)。そうですね……ボカロに限らずなんですけど、創作活動っておそらく、多くの悩みを抱えながら進む道だと思うんです。技術面はもちろんなんですけど、「いい作品なのに、誰にも評価されない」という壁に、絶対と言っていいほどぶつかりますから。僕自身も悩みながら14年も活動していますが、その時間ってじつは、成長していくうえですごく大切なものなんじゃないかと感じているんです。……まあ、いまだからこそ、そう言えるのかもしれませんけどね。たくさん悩んで、自分なりの解決策を見つけて、達成できたときの喜びを味わってもらいたい--。やっぱり、楽しみながら作った曲のほうが聴いてる人も楽しんでもらえると思うので。
--評価されない苦しさを感じたときって、どうすればいいですかね……?
40mP どうすればいいんでしょうね(苦笑)。これ、昔もいまも関係なく、つねに付きまとってくる話なんですよねー。世間の評価と自分の中の気持ちって、そう簡単に比例しないじゃないですか。
--もう完全に、モモジャンの世界ですね。
40mP あ、まさにそれです(笑)。そうなると、「自分が悪いんだ」とか「聴く人に見る目がないんだ」なんてネガティブなことを考えがちなんですけど、なるべく内にこもらず、もっと前向きに、「じゃあどうすれば聴いてもらえるんだろう?」と研究したり、解決策を見つけていくのが健全なんですよね。これはもう、クリエイティブな仕事をしている人すべてに言えることだと思いますけど。
--けっきょく、がんばるしかないですもんね。力の限り。
40mP はい、そうなんだと思います。そして、悩みを乗り越えて出てきたものって、不思議と受け手にも伝わるんです。この、悩んで、がんばって、乗り越えて、作品にする……という一連のストーリーって決して無駄ではないと思っているので、すべての時間を大切にしながらやっていくしかないんですよね。
--……いまの箇所は、 強調文字で書かせていただきます。
40mP ありがとうございます(笑)。
--では最後に、今後の『プロセカ』に対してもエールをいただけますでしょうか!
40mP 『プロセカ』は、ボカロファンとクリエイターをつなぐ中心的なプラットフォームになりつつあると思っています。これからもボカロの魅力を発信していく場であり続けてくれると、大いに期待しています! 実際、『プロセカ』をきっかけにボカロが好きになった……という声もたくさん聞くので、我々の業界にもすばらしい影響を与え続けてくれると確信しております。
--『プロセカ』に40mPさんの楽曲が追加されることも期待しておりますので!
40mP ぜひぜひ! またお声掛けいただけるとうれしいです!
--本日はお忙しい中、本当にありがとうございました!
40mP
2008年から動画投稿サイトにてボーカロイド楽曲の発表を開始。
2013年には「少年の魔法のロボット」がボカロ楽曲では初となる『NHKみんなのうた』オンエア曲に選出される。
2015年、事務員Gと共同主催するコンサート『虹色オーケストラ』を東京国際フォーラム ホールAにて開催。
2018年、「トリノコシティ」が山口ヒロキ監督によって実写映画化される。
2020年、角川ドワンゴが運営するS高等学校の校歌を制作。
2021年、音楽×ストーリープロジェクト「何時何分地球が何回まわったら」をスタートさせる。
他アーティストへの楽曲提供、アニメやゲーム、TVCM、映画など様々なシーンへの楽曲制作の他、書籍の執筆、学生に向けた音楽制作の講義など幅広く活動を行っている。
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☆☆ボカロPインタビュー企画☆☆
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ボカロPに直撃インタビュー! |
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タイトル概要
プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク
■対応OS:iOS/Android
■App Store URL:https://itunes.apple.com/app/id1489932710
■Google Play URL:https://play.google.com/store/apps/details?id=com.sega.pjsekai
■配信開始日:配信中(2020年9月30日(水)配信)
■価格:基本無料(アイテム課金あり)
■ジャンル:リズム&アドベンチャー
■メーカー:セガ/ Colorful Palette
■公式Twitter:https://twitter.com/pj_sekai