妄想ショートストーリー
その記録はいつの頃のものか、彼自身にも特定できない。ふとした瞬間、断片的にE-レックスの電子頭脳で繰り返し呼び起こされる記憶の欠片。
* * *
暗雲に覆い尽くされ雷光が瞬く異様な空の下。強風が吹き荒れる荒野。E-レックスは傷だらけの装甲の内に残された今にも尽き果てそうなエネルギーを振り絞り、怒気にも似た衝動に突き動かされその地へとたどり着いた。
そこに、探し続けた機体がいた。
「見つけたっ! 見つけたぜ!!」
E-レックスは刃毀れの目立つアックスを強く握りしめ、標的を睨み据える。口の端が自然と釣り上る。それは怒りとも喜びとも見てとれるものであった。
その目に映るのは神々しく、世界の全てを照らす光のような黄金の装甲をまとう1体のエヴォロイド。
その機体、プログレス・ゴッドは切り立った岩場の頂点に佇み暗澹とした空を見つめたまま、視界の端に現れた赤いエヴォビーストへと平板な声をかける。
「君は確か……」
振り向こうとした瞬間、風鳴りと共に鈍い光が閃いた。
E-レックスが投擲したアックスが飛来してきたのだ。
その奇襲にも、プログレス・ゴッドは羽虫でも払うような気安さで手にしているハルバードを軽く払う。弾かれたアックスは天高く舞い上がる。
しかし、その一投は陽動にすぎない。
プログレス・ゴッドは、拳を振り上げて猛然と迫るE-レックスを見やると、軽々と後方へと飛んだ。その動きはまるで木の葉のように流麗で、E-レックスの剛腕はむなしく空を切る。
空振りした拳が爆発めいて岩場を粉砕する。岩の頂は崩れ落ち、ひと際強く巻いた風が砂埃を空へと巻き上げる。
「ずいぶんと野蛮だね」
プログレス・ゴッドは宙に浮かんだまま、瓦礫の上で睨みつけてくるE-レックスを見下ろす。その目は眼下の存在を獰猛な野獣か、さもなければ狂った機械程度にしか見ていない。どちらにせよ知性とは無縁の存在だが、それでもなお問いかける。
「神に逆らうのか?」
「神、だと?」
E-レックスは空から落ちてきたアックスをキャッチしながらプログレス・ゴッドを睨んだ。
“神”という概念ならばE-レックスも知っている。しかしその存在を観測したという仲間には、これまで一度も会ったことがない。未知なるもの。
だが目の前で“神”を自称する存在は自分達と同じ機械の身体、そしてあるとすれば同じ魂を持つであろう者だ。矛盾している。
「神様が俺様たちと同じ姿で、ダチを痛ぶるのか」
「そう、人間には退場してもらう。それを邪魔し、同胞を手にかける君は……」
瞬間、E-レックスの中で何かが弾けた。足元に転がる岩塊を抱え上げると、プログレス・ゴッドへと投げつける。
プログレス・ゴッドはそれを軽く首をかしげるような動作だけで回避し、跳躍して接近するE-レックスへと目を向ける。投擲による目くらましからの突撃……ワンパターンな攻撃だ。次の一手を予測し、回避行動に入る。
拳か、斧か。直線的な攻撃がくるはずだった。
しかし、E-レックスの体は空中できりもみ回転し、加速した尻尾が逆袈裟に振り抜かれる。
プログロレス・ゴッドはその攻撃をも左腕のダガーで弾き返す。派手な見た目に反していやに軽い一撃。僅かに姿勢を崩されるが、それとてスラスターの一噴きで容易に立て直す。
だがE-レックスの攻撃はそこで終わりでは無かった。逆方向へと弾かれた尻尾を中心に空中で旋転し、再び攻撃体勢に入る。姿勢制御スラスターなどハナから装備されていない。あるのはケンカで培った驚異的な荷重移動だ。
「つかまえたァ!」
E-レックスはプログレス・ゴッドに覆いかぶさるようにして、その尖った頭部のブレードを鷲掴む。
しかし、プログレス・ゴッドは何ら反応を示さなかった。その目には驚愕も焦りもなく、ただ一連の動きを静かに観察していた。
「っのヤロウ!」
E-レックスは背負い投げの要領で体を入れ替え、背にしたプログレス・ゴッドを黄金の斧の様に振り下ろす。その渾身の投げはプログレス・ゴッドのスラスターの勢いさえ利用し、2体は空中で風車のように回転する。
やがて重力に引かれ加速しながら落下を始めるがその猛烈な負荷にも『E-レックス』は耐え、目まぐるしく入れ替わる岩肌と黒雲の視界から速度と高度を観測し、タイミングを測る。
「落ちろぉおお!」
E-レックスは叫び、プログレス・ゴッドを地上に向かって投げ放った。
流星の如く装甲を煌めかせて、黄金のエヴォロイドが岩塊を粉砕し地面へと叩きつけられた。火山の噴火にも似た轟音が鳴り響き、雷鳴が歓声のように響いた。
「なるほど、君を操る事ができないわけだ」
プログレス・ゴッドは何事も無かったかのように上体を起こしながら、遅れて落下してくるE-レックスを補足しハルバードを持ちかえる。柄の先端に備え付けられた銃口が狙いを定める。
その動きはE-レックスの側からも見えており、発射するタイミングも容易に予測できた。着地の瞬間。空中での機動力を持たないE-レックスの着地点はすぐに割り出されてしまう。
直後、やはりE-レックスが地面に降りた瞬間をプログレス・ゴッドの射撃が襲う。光弾が一呼吸の間も無く飛来する。
だがE-レックスはその光に臆する様子も無く真向から突進。大上段から振るったアックスで光弾を打ち据える。光弾はそのまま足元の大地に着弾、光芒が膨らみ砂煙が舞い上がる。
プログレス・ゴッドは構わず残光と砂煙の坩堝へと追撃の弾幕を放つ。射撃モードのハルバードからいくつもの眩い光弾がほとばしる。
その光の槍衾のさ中を赤い機体が駆け抜ける。その一歩は大地を揺るがすように力強く、風を切り裂いて疾駆する。
彼我の距離は一瞬にして白兵戦の間合いにまで詰まる。
「……」
プログレス・ゴッドは長大なハルバードをトンファーのように素早く反転させ、力強いアックスの一閃を受け止める。ハルバードの黄金の刃と欠けた鈍色の刃が噛みあい、火花を散らす。
「テメェを倒せば、こんな—-、嫌な気分も終わりだ!そうだろ!?」
E-レックスは出力を上げて、刃を押し込む。頭の芯で、腹の底で、熱くドロドロとした感覚が滞留する。過負荷でオイルが沸騰しているのか、それとも冷却装置がいかれたのか。
ただわかっていることは、“神”を名乗るエヴォロイドが自分の大事なモノを壊した、ということだ。
しかし、プログレス・ゴッドは涼しげにいう。
「同族さえ手にかけて、それでも人間を守ろうとする君の思考は実に興味深い」
「だ、ま、れぇっ!」
E-レックスが吠えると、プログレス・ゴッドは軽く刃をいなして距離を取ろうとする。しかし、E-レックスの連撃がそれを許すまいと続く。
「俺様たちを操って、人間を襲わせる。そういう力がお前にはあるんだろうが、それで神様気取りなんざ、ひとっつも面白くねぇんだよ!」
「半分……正解としておきましょう」
交わる刃が激しい音を響かせ、一合一合が稲光のように瞬く。
E-レックスは手にした斧の重撃に加え、剛拳と豪脚、さらには尻尾まで交え全身を武器とした手数の多さで攻め立てる。仲間たちとの喧嘩で培われた戦闘技術が発揮されているのは明白だ。
だが、その攻撃は徐々に、しかし確実に威力を減じ始めていた。プログレス・ゴッドの足跡を追う旅路で強いられた連戦による疲弊は、すでに機械的な限界を突破している。
しかし、それ以上に彼の心には“迷い”があった。
そのことをプログレス・ゴッドは見抜いている。ハルバードを巧みに操り連撃をいなしながら、E-レックスへと語り掛ける。
「人間から見れば、エヴォビーストはしょせん異物でしかない。良くて研究目的の実験体、そして君達を知れば知るほどに恐れを抱き、遅かれ早かれ自分達を脅かす存在と断じて、君達が暮らす大地や自然もろともに破壊し始めるだろう。そうなる前に……私が立場の違いという物を教えてやるのだよ」
「……つまんねぇ理屈だな」
E-レックスの攻撃が大ぶりになる。
プログレス・ゴッドは軽々と後方へ跳躍し、距離を取った。だが先ほどまでと違いE-レックスからの追撃はない。すでに機体のあちこちから蒸気やオイルが漏れ、スパークが飛んでいる。立ってい事すらやっとの状態だろう。
「お遊びの喧嘩を続けている君には難しい話か。本気で私を破壊できるとも思っていない。小さな群れの中で承認要求を満たしているだけだ」
E-レックスはいよいよ限界に近い己の身体を理解しながらも、さらに四肢に力を込めて相手を睨む。電子頭脳も処理能力が低下してきている。
だが、今になってようやくプログレス・ゴッドのことが少しだけわかった。
「俺様は神様じゃないんだ。テメェの理屈なんざしらねぇが—-」
E-レックスは握りしめたアックスの先端を突き付けながら、しっかりと『プログレス・ゴッド』の目を見据えて言う。
「ダチが欲しけりゃ、考え直しな」
瞬間、プログレス・ゴッドのセンサーアイから光が消える。
「神に必要なものは絶対的な力」
プログレス・ゴッドがゆっくりとハルバードを天に掲げる。ただならない雰囲気を発し、空を覆う暗雲で紫電が瞬く。脈打つように響く雷鳴と稲光が圧迫感を増していく。
「そして、崇拝だ」
突如、空一面の暗雲が真っ白に輝いた。自然の理を超えて帯電した雷雲の異常出力なのか。その光が世界を眩く照らす。
E-レックスがわずかに空から目を逸らすと一転、地上には黒々とした影が落ちている事に気づく。これまで見たことのない無骨で巨大なシルエット。雷雲からの光が弱まるのと入れ代わるように、今度はそのシルエットが眩い金色の輝きを放ち始める。
「なんだありゃあ!」
E-レックスが再度見上げた先、空中に黄金の巨大戦車が浮かんでいた。見たこともない兵器。それが一体何なのか、どのようにしてそこに出現したのかさえE-レックスには見当もつかない。
「見せてあげよう、これが神の姿だ」
プログレス・ゴッドが宙を舞い、それに呼応するように戦車の巨体がいくつもの装甲に分離する。やがてそれらは眩い黄金の煌めきを放ちながら、恒星をめぐる惑星の様に回転しつつ互いの位置を入れ替え始める。プログレス・ゴッドもまた姿を変えながら黄金の装甲を身に纏い、最後にひと際強い輝きを発した。
天をも掴めそうな強靭な両腕、地を揺るがす両足、そして後光を背にするような巨大なバックパックが『プログレス・ゴッド』の新たな姿を形作る。
「開闢機神プログレス・ゴッド マキシマム、降誕」
「・・・ヘッ!・・・上ぉ等ッ!!」
吼えたE-レックスは姿を変えたプログレス・ゴッドを見上げてなお、ふてぶてしく笑って見せる。
例え、機体の大きさに天と地ほどの差があろうとも、神々しい光を放っていようとも、E-レックスには関係ない。
プログレス・ゴッド マキシマムが降り立つと、大地は怯えたように揺れた。それを合図に、赤いエヴォビーストが弾かれたように駆け出す。
相手の攻撃が来る前に自らが飛び込む喧嘩腰の速攻。
だが、プログレス・ゴッド マキシマムにはもう届かない。
正面から駆けるE-レックス。対して、プログレス・ゴッド マキシマムの拳が大地へと振り下ろされる。瞬間、地が裂け岩の柱が隆起してその脚を阻む。
「—-ッチ!」
E-レックスの機体が隆起した岩塊によって宙に撥ね上げられる。
次の瞬間には巨大な黄金の裏拳が目もくらむ速さで襲い掛かった。鋭い衝撃が機体のあちこちに走り、一瞬にして数百メートル先の地面へと叩きつけられた。
だがE-レックスの意識はまだ繋がっている。すぐに機体を起こして反撃に転じようと藻掻いた瞬間、プログレス・ゴッド マキシマムのバックパックに据え付けられたハルバードの銃口が先ほどまでより数段強烈な光を放つ。
まるで流星でも落ちたかのように、凶暴な光がE-レックスのすぐそばで炸裂した。強烈な衝撃に吹き飛ばされ目の前が真っ白になる。地面も空もない。
それでもE-レックスの握りしめた拳は地を突き、鋭いつま先は地面を掻き削る。体中の痛みで無理やり己に活を入れ、再びプログレス・ゴッド マキシマムの前に笑い、立つ。
互いの時間が圧縮されたような奇妙な感覚。オーバークロックによる高速演算なのか、それともただのバグか、もはや判別のしようも無い。
その中で、プログレス・ゴッド マキシマムが繰り出す巨大な正拳に、E-レックスは条件反射的に左腕を合わせる。
互いの拳が正面からぶつかる。しかし、力の差は歴然。E-レックスの拳に力など残っていない。
プログレス・ゴッド マキシマムの輝く拳が軽々と振り抜かれ、E-レックスを暗雲の彼方へと吹き飛ばす。
高速で黄金の機体の姿が遠ざかり、E-レックスの意識もまた光を失って暗闇に落ちていった。
* * *
まどろみと目覚めの狭間。
薄く開いた目の前には使い古された人間用の機材や設備が乱雑に転がり、岩肌が露出した天井があった。そこがいつもと変わりない自分の住処だと再確認する。少し聴覚センサーの感度を上げればどこからか人間の甲高い笑い声が聞こえ、それが様々な機能を呼び覚ましていく。
「ッチ。記録領域がいよいよバグってきたか」
E-レックスは幾度目とも知れないプログレス・ゴッドとの邂逅にウンザリしながら、機体出力を上げていく。
ゆっくりと足を踏み出し、住処から出ていく。
「おい。何はしゃいでるんだ?」
辟易しながらも笑いを浮かべ、自分が保護した人間の元へ歩いていく。
その様子を遥か上空で黄金の機影が静かに見下ろす。そして、何かを確認すると蜃気楼のようにその姿を消した。
テストショットを触ってみて
今回紹介した「プログレス・ゴッド」はより拡張性が強化されたバリエーションキットとなっている。
肩の追加パーツや専用武器は組み替えるだけで様々な形態を作りやすく、「プログレス・ゴッド」単体でも幅広い表現が楽しめる。また、成形色も派手で存在感のあるゴールドとなっており、素組の状態でも抜群の見栄えとなっている。
そして、ジョイント部分が増えたことで「M.S.Gモデリングサポートグッズ」でのカスタマイズの幅もより多彩で遊びごたえ抜群となっている。武装のマウントはもちろん、武器を中心としてオリジナルの武装を作るなどその可能性は大きく広がる。
「プログレス・ゴッド」は7月発売予定。ぜひゲットしてくれ。
商品概要
プログレス・ゴッド■発売月:2022年7月
■価格:3,080円(税込)
■スケール:NON
■製品サイズ:全高105mm
■製品仕様:プラモデル
■パーツ数:51~200
■詳細:https://www.kotobukiya.co.jp/product/product-0000004446/
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※本レビューでは、開発中のサンプルを使用しております。実際の商品とは異なります。
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