【エヴォロイド】キャタピラ、装甲、大砲の重厚感がカッコイイ! 「EVV-GC1 ガンクロン」を先行レビュー

妄想ショートストーリー

鉛色の空から雨が降ってきた。しとしとと降る小雨。森林地帯は雨を吸って、冷たさを際立たせていく。

森の葉も次第に色彩が濃くなり、周囲の色を重く暗いものにしていった。その暗い森の中に身を潜める一体のエヴォロイドがいた。

 苔むした岩陰に溶け込むダークグリーンの装甲、不釣り合いに大きなスナイパーライフルを手にした『EVV-GC1 ガンクロン』だ。微動だにしない機体の側面から展開したレドームだけがゆっくりと回転しながらデータを収集する。

「面白い天気になってきたね、ガンクロン。周囲の状況は?」

 そのコックピットに体を埋めるようにして座るパイロットは両腕を摩りながら問いかける。

『現在、外気温12.5度。湿度75…76%へ上昇。風は北西7メートル前後』
「演習なら、これくらいはないと」

 パイロットはそう言いつつ、狭いシートから立ち上がってキューポラハッチを開く。

 パラパラと枝先からこぼれ落ちて来る雫の冷たさを肌で感じて、灰色がかった森林をぐるりと見渡す。一つ深呼吸をすれば、雨土の匂いが体に染み込んでくる。

 その匂いに懐かしさを感じながら、雨音に紛れて重々しい音を聴き取った。

『姐さん、10時の方向、ジェットンが移動してます』
「その姐さん呼びはやめてよ。見えてるの?」
『いえ、視認までは。すみません。不器用なもんで』

 パイロットはするりとコックピットから出ると、『ガンクロン』の頭上に立ち双眼鏡を構える。高い視点からでも木々と雨に視界は遮られ、『ガンクロン』が指摘する方角にそれらしい姿は確認できない。

 しかし、その音源が標的であると断言する『ガンクロン』の言葉をパイロットは信じた。

「まぁいいさ。どれくらいできるか、からかってみようか?」

 パイロットはそう言うと、首にかけたヘッドセットを耳につけてコックピットのコンソールを見下ろした。

『承知しやした』
『ガンクロン』は短く一言答えると、手にしたスナイパーライフルを展開、設置した。

      *           *           *

『ジェットン』とそのパイロットにとって、地上戦は圧倒的に不利な戦況である。

 元来、空戦を主眼に開発された『ジェットン』は飛行能力と高い機動性を活かして標的を翻弄する戦闘スタイルでその真価を発揮する。しかしエヴォロイドは形態変形による汎用性も持っている。

 “戦闘機”では離陸すら不可能なフィールドでも活躍できるのは、兵器としての進化だ。それ証明するためにも地上戦でのデータは必要不可欠だった。とはいえ、マシンが高い順応性を持っていたとしても、それをパイロットが活かしきれるかはまた別の問題だが。

『ジェットン』がぬかるんだ地面を踏むたびに、泥が音を立てて跳ね飛ぶ。

「エヴォビーストにケンカで負けたからって演習とはね…。しかも、ガンクロン相手に地上戦とは」
『シチュエーションは圧倒的にガンクロンに有利です。加えて、実戦の経歴は教官殿の方が圧倒的に上です』

パイロットは『ジェットン』からまるで他人事のように告げられる状況レポートに辟易しつつ、機体の排熱量をチェックしてコクピットの空調を落とす。雨で周囲の外気温は下がっている。迂闊に出力を上げれば、その熱量変化を感知される恐れがあった。

「らしいな。だが陸戦隊の狙撃手として、だろう? 機動兵器の操縦時間ならば俺の方が上だ」
『それは比較対象として前例がありません』

 断定的な『ジェットン』の解答に、パイロットは眉を寄せて口を尖らせる。

 事実、AI支援によって格段に操縦方法が簡略化されたエヴォロイドにおいて、操縦時間の差が即座に実力の差になるのかは疑問ではあった。しかし兵士には兵士の、エヴォロイドにはエヴォロイドの戦い方という物があるハズだ。

 たとえば歩兵としての豊富な実戦経験があったとして、その人間を戦闘機に乗せたとしても戦力とは呼べない、パイロットはそう考えていた。
 しかしパイロットの脳裏には演習を始める前に教官である『ガンクロン』のパイロットから告げられたある言葉がよみがえる。

「あらゆる状況を想定して挑め、か」

『ジェットン』は木々を避けるようにして進行しながら、ゆっくりと頭部を巡らせ周囲を視認する。

『視界は不良。集音センサーも雨音でノイズが多いです。アクティブセンサーの使用を推奨』
「ダメだ。この状況ではわざわざ自分の位置を教えるようなもんだ」

 パイロットは集音センサーの音域を変えながら、なんとか『ガンクロン』の動きを探ろうとする。スナイパーライフルにレドームを装備した『ガンクロン』は確実に狙撃してくる。すでに動きを止めてじっと身を潜め、タイミングを測っている可能性がある。

 だが、ここは木々が生い茂る森林。遮蔽物が多く、そう簡単に射線が通る事は無い。一方で木々の枝を打つ雨音と柔らかく湿った土によってセンサー類も万全とは言えない。音域を絞っても、様々な音階を奏でる雨土が割り込んでくる。それは相手にとっても同じハズだ。

互いに居場所を隠すには絶好の条件。故に先に相手を捕捉した方が大きなアドバンテージを得るのは明白。

『ジェットン』のパイロットは努めて冷静に考えをまとめていると

『熱源感知!』

『ジェットン』が咄嗟に腰を低くすると同時に機体後方の大木の幹にペイント弾が炸裂し、一瞬遅れてに乾いた銃声が鳴り響いた。

『発砲音、確認。11時方向、距離約700メートル』
「そんな近くに……」

パイロットにはにわかに信じ難い状況であったが、逆に、視界の聞かない現在の戦況では相手にとってもそれが目一杯の射程距離だと推測する。
『ジェットン』はしゃがんだ姿勢を維持したままゆっくりと銃声のした方向へと顔を向け、手した武器を構える。『ジェットン』の武器でも銃声の発信源に届く威力がある。

 だが、パイロットは状況に違和感を覚え、問いかける。

「ジェットン、発射時のマズルフラッシュは確認できたか?」
『確認しました。位置をマップ上に表示します』

 狙撃を行えば、銃口から吹き出す閃光、マズルフラッシュが確認できる。

 実際、パイロットもその一瞬の光を視界の端に捉えてはいた。だが、『ガンクロン』が狙撃したにしては“弱い”印象だった。もちろん、マズルフラッシュを抑える技術はあるが、それでも疑念は晴れない。

 パイロットは改めてメインモニタに重ねられた発光位置を見て決断する。

「ジェットン、予測位置に牽制後すぐにこの場を離脱する」
『了解』

『ジェットン』の機械的な応答を聞いて、パイロットは操縦桿を握る手に力を込める。

 静かに息を止め、そして、トリガーを引いた。

『ジェットン』が発砲すると、ペイント弾は真っ直ぐに予測ポイントに着弾。だが、それが標的に当たったかどうかを確かめる間もなく、走り出した。

「もし、最初の射撃が俺たちの位置を炙り出すためのものだったとしたら、本命は次の射撃になる」

 パイロットのその読みは正しかった。

 だが予測ポイントを中心に捉え小刻みなダッシュを始めた『ジェットン』の“斜め後方”で光が瞬く。
 
 先ほどの違和感と共に第二射に備えていたパイロットは反射的にフットペダルを蹴り飛ばし、『ジェットン』を無理やり方向転換させる。しかし、ぬかるんだ地面に鋼鉄の脚が滑る。

『ジェットン』が泥の上に膝をつくと、これから進もうとしていた地面が弾け、派手にぶちまけられたペイントが『ジェットン』の機体に泥と一緒に降りかかった。遅れて轟く発砲音。

 すぐにセンサーアイにかかった泥が洗浄される。

「回避行動も予測されていた……」

 そのことにパイロットは驚きながらも、狙撃手の影を捉え操縦桿を握る手に力がこもる。

「射撃ポイントは?」
『6時方向、先のポイントより1600メートルの誤差があります』
「初弾はやはりブラフ。今のが本命だ」

 パイロットは頭の中で様々なデータから結論を導き出す。
 『ガンクロン』には対空機銃が装備されている。それを取り外して、何らかの遠隔操作で最初の射撃をしたと考えれば辻褄が合う。

『移動音は検知されていません。ターゲットは依然同じポイントに潜伏を続けていると思われます』

 『ジェットン』も冷静に周囲の情報収集を行う。

「よし、本命まで一気に距離を詰めるぞ」

 パイロットはそう言って、『ジェットン』をターゲットへと走らせた。

      *           *           *

『ガンクロン』の電子頭脳は、忙しなく動いていた。あらゆる周辺情報、標的である『ジェットン』の回避予測、狙撃タイミングのシミュレート。それらの膨大なタスクを統合し、十重二十重の演算が行われている。

 狙撃とはあらゆる状況、可能性を標的への着弾に向けて集約させる戦いでもあるのだ。

『ガンクロン』はスコープによって丸く切り取られた視界の中心に、向かってくる『ジェットン』をしっかりと捉えている。幾度となく撃てる瞬間があった。それでもトリガーを引かない。

 高確率で命中させられるというシミュレート結果、風向その他の環境を加味した弾道予測も導き出され、さらに信頼性を上げてもなお、撃たない。

 それは『ガンクロン』がそれらとは別のモノサシで、決断しているからだ。

模擬戦闘の前日、狙撃の師と仰ぐパイロットから伝えられた“教え”。

「数字を当てにしてはいけない」

 そうした数字は根拠を持つデータである一方で、実際にライフルを握って五感で感じる一切合切からは切り離された“理論値”でしかない。

『ガンクロン』にしてみれば、“理論値”とは正確無比で完璧なロジックだ。しかし、パイロットから言わせれば「それを厳粛に現実にできるのは神様しかいない」とのこと。

 理論は個々の事象を統括し、そこから結果を求めることができる。だから完璧でなければ成立しない。それを『ガンクロン』の電子頭脳は行なっている。

 では、『ガンクロン』の電子頭脳は森羅万象の全てを観測し、統括できるのか。答えは不可能だ。それもまた疑いようのない事実だ。

 だから、『ガンクロン』は“理論的な高確率”を発砲の基準にしないよう自身に制限を課した。それでもどこかで引き金を引かなければならない。

『諸元、再入力完了。目標、補足中』

 『ガンクロン』はスナイパーライフルのボルトを少しだけ引くと、念を込めるかの様に薬室内の弾丸を確認する。

 雨が降っている。雨粒のカーテンが風に揺られている。流れる風に木々がざわめく。重心を微かに落とすと、足元がぬかるみに沈む。キャタピラが泥を押し退ける。空気が重い。湿度ではない。体中の関節のオイルがじわじわと重く固着していくような、不安と緊張と冷静が複雑に入り混じった感覚。

『ジェットン』がさらに距離を詰める。相手の得意なレンジまであとわずか。

 装甲に落ちる雨粒が線を引いて落ちていく。その撫でる感覚を『ガンクロン』は知らない。

 だが、カメラが、集音装置が、バランサーが捉える“感覚”が『ガンクロン』のAIと深く繋がる。思考回路と機体に埋め込まれた様々な装置の伝達系が一本の糸のように繋がる。

 そして、『ガンクロン』の指先がトリガーにかかる。彼は既に、この戦闘を“結末”へと導くイメージを完成させていた。あとは実現するのみ。

それを後押しするように、第三の火点からの銃声が一つ、響き渡る。

 完全に虚を突かれた『ジェットン』が気付いた時にはセンサーアイの大部分がペイントによって封じられていた。センサーアイが洗浄されるまでのわずかの間、『ジェットン』の勢いが弱まる。

『ガンクロン』は何かに背中を押されるようにして、トリガーを引いた。鋭い反動を全身で受け止め、放たれたペイント弾は吸い込まれるように『ジェットン』の胸部に命中。白い装甲をド派手な蛍光ピンクに染め上げられ、大の字にひっくり返った。

      *           *           *

「演習、終了。まぁ、相手の位置を割り出して動いたところは及第点と言ったところかな」

『ガンクロン』のパイロットはライフル銃にセーフティをかけて、横たわる『ジェットン』の元へ歩み寄る。

『教官殿、なぜそこに?』
『ジェットン』が真っ先に見つけ、当然の疑問を投げかける。

「そりゃあ、少し離れたところでこいつを使ってたからだよ」
『ガンクロン』のパイロットは手にしているライフル銃を少し上げて見せた。

『それで本機の目を狙撃したというのですか?』
「ご名答。最初の一発目でこちらの動きを読み違えちゃったのは経験の差が出たねぇ」

 最初の一発。『ジェットン』たちが狙われていると自覚させられた一発だ。

序盤に『ガンクロン』から大まかな情報を得たパイロットは1人身軽に雨中を移動し『ジェットン』の所在を探りあてると、牽制の一発で相手を動かす事で『ガンクロン』へと位置情報を知らせたのだ。

『ではGC1は無人で行動していたというのですか?』
「ガンクロンも君も、1人でも動ける。パイロットがいつも乗っている必要はないでしょ?」
『しかしそれではプログラム基本規約に反するのでは?』
「規約第2条、パイロットの生命を厳守…だったっけ?でも、パイロットの命令がある場合はそちらが優先される。もう少し、自分で色々考えた方がいいよ」

『ジェットン』や『ガンクロン』のAIに組み込まれた規約では、パイロットの命令と生命を守るよう義務付けられている。しかし、そのプログラムは命令が優先され、時に生命を守る義務を負わなくて済む場合もある。

ガンクロン達の取った戦法は、明確に規約に反しているとまでは言えない物の、『ジェットン』にとってはエラーによるフリーズさえ引き起こしかねないと思えるものであった。

『姐さん、首尾はいかほどで?』

 そこにスナイパーライフルを手にした『ガンクロン』が合流する。

「あ、おかえり。上々、上々。ばっちりよ!」
『姐さんの腕に比べれば、アッシはまだまだです』

 それを聞いた『ガンクロン』のパイロットは高笑いする。

「謙遜しない。見なさい、しっかり当たってるよ」

 その会話を聞きつつ『ジェットン』はパイロットの操縦の元ゆっくりと立ち上がる。

「じゃあ、AIが狙撃をしたのか?」

『ジェットン』のパイロットはそんなこと、想像すらしていなかった。誰かが操縦してはじめて、エヴォロイドは兵器として活用できると思っていたのだ。

「そう。陸戦隊員の付け焼き刃の操縦よりよっぽど信頼できるからね」

 それを聞いて、『ジェットン』のパイロットは目から鱗が落ちた。
 そして、『ジェットン』もまた『ガンクロン』を見て問う。

『GC1はなぜ、パイロットの無謀な命令を受理できたのだ?』
『それが姐さんの意志ですから。それに、アッシとは踏んだ場数が違いますからね。こればっかりは逆立ちしたって敵いません』

『ジェットン』にとって、『ガンクロン』とそのパイロットの関係性は理解できるようで、やはり理解し難いものであった。

 互いの得手不得手を理解して戦術を立てることは理にかなっている。だが、だからといってパイロットを危険に晒しかねない判断に繋げる事はできない。
 しかし、『ジェットン』のパイロットはその答えを知っている。

「信頼関係……か」
「ま、そんなところだね」

 『ガンクロン』のパイロットは照れ隠しの様にまた高笑いをする。
彼女にとって、ガンクロンは自分の機体というよりは“巨大過ぎる弟子”というのが心情であった。


テストショットを触ってみて

「EVV-GC1 ガンクロン」は陸戦型のエヴォロイドとあって、重厚感あるデザインと装備が魅力的なキットとなっている。

厚みのある装甲表現や脚部のキャタピラで悪路をものともしない豪快なアクションも楽しめる。そして、重戦車状態の可愛くもカッコいいデザインはデフォルメロボットから変形した時のギャップが強く「こんな変形もできるのか!?」と驚かされた。「EVR-01A ジェットン」のスタイリッシュな変形とは異なる、コンパクトかつ一体感が素晴らしい形態となっている。

今回の「妄想ショートストーリー」のようなミリタリーテイストはもちろん、「ギガンティックアームズ01 パワードガーディアン」で強化アーマーというプランもできるだろう。

「EVV-GC1 ガンクロン」は4月に発売。みんな、ぜひチェックしてくれ!!

商品概要
EVV-GC1 ガンクロン

■発売月:2022年4月
■価格:3,080円(税込)
■スケール:NON
■製品サイズ:全高85mm
■製品仕様:プラモデル
■パーツ数:51~200
■詳細:https://www.kotobukiya.co.jp/product/product-0000004369/
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