7夜連続でお届けするホラーゲームカタログ!
第4夜では、7月30日に発売されたばかりのホラーアドベンチャー『夜、灯す』(日本一ソフトウェア)を紹介していく。
本記者はプレイ前、「百合とホラー要素が合わさったゲームだぞ!!」と、勢いに任せて書くつもりだった。しかし、物語をすべて読みきった今、「あ、これはしっとり書きたい」と思ったので、テンションは抑えめに書かせていただく。
ひと夏の青春を過ごし、少し大人になった。そんなどこか心の痛みを覚えるも晴れやか気分なのだ(36歳談)。
なお、本内容はNintendo Switch版を全ルート攻略した状態でお届けする。ただし、ネタバレは極力しないのでご安心を!
女子校で起こる謎の怪異事件
本作は『流行り神』や『祝姫』などのホラーゲームを手掛ける日本一ソフトウェアのホラーアドベンチャー。
歴史ある女子高を舞台に、怪異事件に巻き込まれる女の子5人のひと夏を描いた作品だ。
かつてお嬢様学校と呼ばれていた歴史ある学校、神楽原女学園。
この学校の筝曲部に所属する十六夜鈴は、夏休み明けのコンクールに向け、仲間と共に練習に勤しんでいた。
夏休みに入って間もないころ、箏曲の家元の娘、皇有華が突然転校してくる。
珍しいタイミングでやってきた転校生。
鈴の夢に出てきた有華そっくりな「お姉さま」。
そして、時を同じくして起きた奇妙な転落事件。
神楽原女学園に隠された闇が動き出す……。
上記のあらすじのように、本作はいくつかの要素が同時に進行する。それらが徐々に解決し、真実が明らかになっていくのだ。
POINT①少女たちによる青春群像劇
“ホラー要素”というポイントの前に、これは絶対に語りたい。本作は、夏のコンクールで全国優勝を目指すため、仲間と共にひたすら努力し、ときにはぶつかり合って、お互いを認め合っていく、そんな大変青春どストライクな物語となっている。
学校の筝曲部にとって大きなターニングポイントとなるが、筝曲の家元の娘である皇有華の転入。卓越した技術を持つ有華が、ある理由によりコンクールに参加するのだが、筝曲部4人の演奏を聞くないなや「これは音楽への侮辱だ」とバッサリ切り捨ててしまう。
有華自体も自身の音のみを追求するあまり、他人を拒絶するなど、多くの問題を抱えていた。しかし、彼女の演奏に唯一合わせられる主人公・鈴の存在が、有華の心の壁を少しずつ崩していく。人との距離の取り方が下手な有華に、鈴がひたすら真っすぐに迫っていく様子は……実に尊い。なるほど、この感情が百合の良さか、と気付かされた。
もちろん鈴と有華だけの物語ではない。鈴の幼なじみである青柳真弥、真っ直ぐな性格の舞原累、学園理事長の孫娘である田鎖麗子。コンクールに出場するこの3人も、それぞれが内に秘めた問題を抱えている。
それと真正面に向かい合うキッカケになるのが、有華が彼女たちの演奏を聞いて発言した”音のノイズ”。
「自分を偽る音」
「やる気のない音」
「ただ走るだけの音」
これは彼女たちそれぞれが抱える精神的問題を表しており、これらを解決するため奔走することになる。
しかしながら、人は触れられたくない部分が誰にしにもある。触れようとする者がいれば、当然拒絶するだろう。
例えば演奏メンバーのひとり・青柳真弥の場合は、幼なじみの鈴のことが好きで、彼女とそばにいたいという、ただそれだけで箏を続けていた。そして、自分が一番、鈴を理解していると、そう思っていた。
しかし、有華が現れたことで状況は一変。自分が親友だと思っていた人が、急に別の人のところに行ってしまったら、もどかしい。でも、「自分を見て!」とも言えない。そういう経験をした方も少なくないだろう。
そして真弥は、自分の最低な部分を元凶である有華に見透かされてしまう。このあたりで描かれる、思春期の少女たちのぶつかり合いは非常に面白い。
引っ込み思案な真弥が、鈴の隣というポジションを得るため有華に勝負を挑むのは、とても青春の香りがした。
このようにメンバー同士がぶつかり合って、少しずつ奏でる音がまとまっていく――というのが本作の大きな流れのひとつである。
POINT②切なく悲しい過去の事件
舞台となる神楽原女学園には、ある噂がある。
大正時代、学園が全寮制のお嬢様学校だった頃。休日の外出も禁止され、まさに“籠の鳥”だった少女たちは“疑似姉妹”なる制度を作り出した。
それは、お互いの一番大事なものを交換して、姉妹の契約を結ぶこと。
しかしある日、“疑似姉妹”の契約を交わしたふたりが心中をした。ふたりはお互いの絆の象徴とも言える“大事なもの”を抱きしめて絶命していたが、教師たちはその“象徴”を元の所有者へと戻して事故死とした。
死ねばずっと一緒にいられる。そんな思いで心中をしたふたりの絆は、このとき容易に踏みにじられた。
時を経て、学校は衰退し廃校となったが、その直後から近所からはおかしな苦情が相次いだ。何かを探す美しい女生徒が現れ、すすり泣く声が聞こえると。
悲しくすすり泣く、少女のこんな声が……。
「カ エ シ テ」
というプロローグで始まる本作。噂話として語られるが、これらは本作の肝となる物語である。
読み進めていくと、疑似姉妹の契りを結んだ”姉”が小夜子という人物であることが発覚する。それは主人公・鈴が毎夜見る夢で現れる”お姉さま”であり、その容姿は転校生の有華と瓜二つで……。
▲筝を奏でる小夜子。その腕前は卓越しており、同年代で対等の実力者はいなかった。
と、学園に残る怪談と、過去の出来事、鈴の見る夢が密接に関係してく。最初はそれぞれ独立した”点”でしかなかったものが、1本の”線”に繋がった時、そういうことだったのかと衝撃を受けた。
ネタバレになるのでこれ以上は割愛するが、徐々に真実に触れていく感じはサスペンス感があって非常に面白かった。時代や視点の切り替わりも丁寧で、混乱することなく頭にすっと入っていく。ストーリー構成がしっかりしている証拠だろう。
POINT③誤った選択は死をもたらす
本作は選択肢によってシナリオが変化していくシンプルなテキストアドベンチャーとなっている。
公式HPでもそう謳っているのだが、選択肢を間違えると100%殺される。
しかしながら、死亡後はすぐに選択肢前まで時を戻せるので安心(?)してほしい。選ばなかった運命を見るのはポリシーに反する!という方でなければ、スムーズに進行するだろう。
ただ一言、「最後の選択肢はしっかり考えて」とだけ、伝えさせていただく。
そんなこんなでクリアしたテンションのまま書かせて頂いた『夜、灯す』。
ゾクッとするようなホラー演出に力を入れているというよりも、人と向き合うことの大切さであったり、思春期特有の不器用さや純粋さ、そしてそれらが織りなす美しさを非常に感じられました。言い換えれば、ホラーが苦手な方でも、とても楽しめると思います。
また、個人的に注目したのが「●●さえあればいい」という考え方への警鐘です。●●は人や物、仕事や音楽かもしれません。
しかし、それは自分の視野を狭め、いつか自分や他人を苦しめてしまうこともあります。彼女たちの物語を通して、色々と思うところがありました。
気になった方は、ぜひプレイしてほしいです。クリア後には、とても晴れやかな気持ちになることをお約束します。
……あ、最後に。できればスタッフロールは飛ばさないでください。日本一ソフトウェアさんは、そういうところにとても良い演出を持っていくので!
商品概要
『夜、灯す』
■発売日:2020年7月30日(木)
■ジャンル:ホラーアドベンチャー
■対応機種:PlayStation®4/Nintendo Switch™
■プレイ人数:1人
■価格:6980円+税
■プロデューサー:菅沼元
■ディレクター:山本義紀
■キャラクターデザイン:カオミン
■CERO:C
■公式サイト:https://nippon1.jp/consumer/yorutomosu/
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