異世界転生宣言 デュエル・マスターズ「覇」 9-3 ~火之国デュエマ 下~

By 神結

 夢を見た。
 
 そこにはすごく懐かしい顔があった。
 思えばもう、4年も前の話になる。
 
「イオナくん、これはもしもの話だよ」

 彼女はいつもそう言ってから、例え話を始める。
 
「私の頭がおかしくなったら、君はどうする?」
「その例えがよくわかりません、先輩」
「そうか、そうだな……」
 
 先輩は、わざとらしく腕を組みながら”例え”を探し始めた。
 
「例えば私が『世界を我がものにしたい』とか言いはじめたら?」
「思ってるんですか、そんなこと」
「いや、いまは別に?」
「じゃあなんでそんなこと」
「ただ――」

 クルミ先輩はいつも通り僕の話を遮ると、話を進めていった。
 
「少し怖いと思うことはあるね」
「何がですか?」
「君と出会わなかった時のことだよ」

 先輩は大真面目な顔で、そんなことを言うのだ。
 
「……どういうことですか?」
「たまにね、頭に浮かぶことがあるんだ。決して健全とは言えないような発想がね。世界征服は冗談だとしても、まぁ倫理的にはおおよそダメだと断言できるようなものもいっぱいあるね」
「…………」

 具体的な中身については、聞かないでおいた。

「でも私は好奇心が強くて、やってしまいたくなるんだよ。命も惜しくないから。ただ、流石にね。流石に君のことを考えると思い止まるね。残った君の心情を慮るとね。そしてそれは、正しいと思っている。だから、君には感謝しているよ」
「これって、喜んでいいんですかね?」
「さぁ? いいんじゃないかな」

 相変わらず、この辺りの答えは適当だった。ただ、クルミ先輩は今度は楽しそうに笑っていた。
 
「というわけでここから先はイオナくんへのお願いだ」
「お願い、ですか?」
「そう」

 クルミ先輩の顔が、グッと近づいてきた。
 
「わからない。わからないけど、もしも私が何かをやらかしたときには」

 顔が、近い。

「刺してでも私を止めて欲しい」

 まぁその前に死にそうだけどね、と言いながらおどけてもいた。

 彼女のこの言葉の意味は、最後までよくわからなかった。
 
 ただ彼女の表情は幻想的で儚いものなどではなく、いつにも増して真剣そのものだった。

          †

 イオナは火之国の轟に伝わる歴史書を読んでいた。
 相変わらず歴史と神話の区別はつかなかったが、気になる記述がいくつかあった。
 
火之国は恐ろしく大きな『炎の力』を有している。この炎は、あらゆる森羅万象を焼き尽くすものだった。この力を恐れた神の使いは、それを防ぐため火之国を3つに割り、その使用を未然に阻止した――」
 
 ……いや、まさか。伝説って、このことなのだろうか。
 強大な炎の力? 森羅万象を焼き尽くす?
 よく意味がわからない。そもそも、滑稽な話だ。
 
「森羅万象を焼き尽くすって……なんだ?」
「文字通り、森羅万象ですよ。いかなるものも燃やし尽くすことができる、そう轟には伝わっています」

 イオナは思わず振り返った。そこにはいた、紅クルミにそっくりな轟コウが。
 
「ごきげんよう、イオナさん。とても感謝しておりますよ」
「もしかして伝説って」
「ええ、そうです。封印されし、炎の力。私が火之国の支配者になった以上、私はこの力を使っていいというわけなんです」
「そういう話ではないのでは?」

 力を得ることと使っていいことは、決してイコールではない。
 
「いやいや、これでよかったんですよ? 私がこの力を使えば、私の望みが叶うんですから。私の望みが叶うということは、皆が幸せに近づくんです」
「何を言って……」
「私も考えたんですよ。何を燃やし尽くすのが一番なのか。そして考えているうちに思いついたのです」

 彼女は屈託のない笑顔で言った。
 
この世界と他の世界、その境界を燃やしてしまうのが一番だ、って」
「え?」
「例えばイオナさんが元々いる世界との境界も燃やしてしまいましょう。生と死の世界も、多次元の世界も。そして境界を失い、統一された世界を私が手に入れる。面白そうじゃないですか?」

 話についていけなかった。背筋がゾッとした。一瞬、異世界の言語を会話されているのかと思った。
 1つ確実に言えるのは、彼女が明らかにおかしなことを言っている、ということだった。
 
「私も徐々にですが、炎の力が身についていくのを感じます。もうすぐ、もうすぐなんですよ。もうすぐ夢が叶います」
「……自分が何を言ってるのか、わかっているのか?」
「もちろん」
「じゃあ、それが明らかにおかしなことだとも分かっているはずだよな?」
「え、どうしてですすか?」
「どうしてって……」
「いいじゃないですか。私が望みを達成できるのですから。もしかしたら貴方は本望ではないのかもしれませんが、それがなんだというんですか?」

 ダメだ、これは全く話が通じない。
 
 轟コウは本気なのだ。炎の力というのがどこまで本当で、いかほどの力を発揮するものなのかはわからないが、これは止めなければいけない。本能が、そう告げている。
 
 だが何を訴えても無駄だろう。彼女は、もはや彼女の世界しか見えていない。

 イオナは今一度、轟コウの顔を見た。やはり、師である紅クルミにしか見えない。生まれ変わりと言われても、信じられる。
 だが、彼女は紅クルミではない。例えばその面影をほのかに感じることがあったとして――紅クルミは死んだのだ。もういない。
 
(先輩では、ないんだ……決して)
 
 無理にでも、そう言い聞かせるしかなかった。

 彼女にここまで協力してしまったという、罪悪感もあった。
 そしていま、彼女を止められるのは……。
 
「……火之国の支配者って、どう決まる?」
「さぁ? ですが、この国を統一した私で間違いないでしょう」
「じゃあ、僕がここで『反乱を起こして』お前を倒したら、支配者は変わるって認識でいいな?」
「なるほど、イオナさんもこの力が欲しくなってしまいましたか?」
「いや、違う。止めるためだ」
「では、そういうことにしておきましょう」

 彼女は愉快そうに、顔をほころばせている。
 
「私にデュエマを挑む、というなら受けて立ちますよ。ですが私のスキルは《音速 ガトリング》でもないし、《轟く侵略 レッドゾーン》でもありません。何だと思います?」
「…………」
「教えてあげましょう。このカード、イオナさんもよく知っているんじゃないですか?」

▲双極編第2弾「逆襲のギャラクシー 卍・獄・殺!!」収録、《”轟轟轟”ブランド》
▲王来篇第3弾「禁時王の凶来」収録、《我我我ガイアール・ブランド》

 提示された2枚のカード。《”轟轟轟”ブランド》、そして《我我我ガイアール・ブランド》
 恐らく、現環境の火単最強の2枚だ。
 
「では、倒してみて下さいよ。私をね」

 彼女は既に勝ち誇ったように、嗤っていた。

          †

<火之国デュエマ ルール解説>

・火文明単色のカードしか使えない。

 火単我我我――それは現環境でも最強デッキの一角だ。
 だが自身がモルト王を使うとわかったときから、「最悪のケース」としてイオナは対我我我を検証はしていた。

 検証の結果、「やはり最悪」という結論に変わりはなかった。2ターン目にプレイされるカードがなんであっても厳しい。テスタ・ロッサ、フロッガ、こたつむり、お前らのことだぞ。そしてもちろん、次のターンにはちゃんと負ける。
 
 というわけでイオナも考えた結果、まともなアプローチで挑むのは困難であるため「あらゆるぼったくり要素をこちらも採用する」ことで勝率を上げるものとした。

▲「最強戦略!!ドラリンパック」収録、《龍世界~龍の降臨する地~》
▲「最強戦略!!ドラリンパック」収録、《紅に染まりし者「王牙」/クリムゾン・ビクトリー》

 
 例えば《龍世界~龍の降臨する地~》であったり、《紅に染まりし者「王牙」/クリムゾン・ビクトリー》であったり。王牙は、呪文がトリガーなので受けとしても期待できる。これらと《ボルシャック・ドギラゴン》を合わせることでカウンターからの打開を図る。
 
 しかしこの試合は後手となってしまった。
 コウは1ターン目からしっかり《ブルース・ガー》でスタートし、さらに2ターン目には《カンゴク入道》。手札を補充する火単最強カードの1つである。

▲覚醒編第3弾「超竜VS悪魔」収録、《ブルース・ガー》
▲「20周年超感謝メモリアルパック 技の章 英雄戦略パーフェクト20」収録、《カンゴク入道》

 
 イオナのデッキは基本的には、3ターン初動のデッキである。後手2ターン目もチャージエンドだった。
 
 対してコウは、ドローしたカードをマナに置くと、1マナで《ブンブン・チュリス》、2マナで《我我我ガイアール・ブランド》を繰り出し、そしてさらに《”轟轟轟”ブランド》までついてきた。
 
 令和最強の火単ムーブといっても、過言ではない。3ターン目にできる動きとしては、デュエマの中でもっとも強い動きなのだ。

 コウは不敵な表情をしていた。イオナも、これには苦い顔をせざるを得なかった。

 そして当然、《”轟轟轟”ブランド》はシールドを攻撃する。
 ただこれにはなんとかイオナも《クリムゾン・ビクトリー》をトリガーさせ、《ブルース・ガー》と《カンゴク入道》を破壊。一応まだイオナを倒しきる打点はちょうどあるが……。
 
《ボルシャック・ドギラゴン》くらいは、持っていますよね?」

▲革命第3章「禁断のドキンダムX」収録、《ボルシャック・ドギラゴン》

 そう言うと《我我我ガイアール・ブランド》と《”轟轟轟”ブランド》の再攻撃でシールドを空にしたところでターンを終えた。
 
 一応、九死に一生を得た格好となったイオナだが、できることは《ボルシャック・ドラゴン/決闘者・チャージャー》くらいしかない。マナを伸ばしながら、《ボルシャック・ドギラゴン》を1枚手札に加える。

▲「夢の最&強!!ツインパクト超No.1パック」収録、《ボルシャック・ドラゴン/決闘者・チャージャー》
▲王来篇第2弾「禁時王の凶来」収録、《赤い稲妻 テスタ・ロッサ》

 返しのターン、コウは《赤い稲妻 テスタ・ロッサ》を召喚した。
 そしてコウも考えた。これで盤面は3体だ。
 
《メガ・マグマ・ドラゴン》もありますからね……」

▲革命第2章「時よ止まれミラダンテ!!」収録、《メガ・マグマ・ドラゴン》

 次のターンにマグマを出されるリスクはある。ただ現状突っ込んで返されるリスクの方が大きい、と最終的には判断したようだ。
 熟考の末、踏み倒しなどによるカウンターをケアしているということでターンをエンドした。次のターンに、万全の打点を揃えて攻撃に来る構えらしい。
 
 イオナもまた、引いたカードを見て考えている。すると潤沢な手札からまずは《決闘者・チャージャー》。追加でめくれた《ボルシャック・ドギラゴン》をさらに手札に加えて、伸びたマナで《ネクスト・チャージャー》も撃った。当然、手札交換はしない。

▲革命第1章「燃えろドギラゴン!!」収録、《ネクスト・チャージャー》

 
 マナは7。ターンを返した。
 
「……《メガ・マグマ・ドラゴン》、入ってないですね?

 《決闘者・チャージャー》でも見えてない、そして持っていたならこのターンに出しているという判断だろう。
 イオナはもちろんその問いには答えず、無言。
 
 それを肯定を見たのか、コウは《月砂 フロッガ-1》《凶戦士ブレイズ・クロー》を場に出す。場には5体。このターン殴れるクリーチャーで言えば、3体だ。

▲王来篇第3弾「禁断龍VS禁断竜」収録、《月砂 フロッガ-1》
▲デュエル・マスターズ第1弾収録、《凶戦士ブレイズ・クロー》

 
 コウの認識では、《ボルシャック・ドギラゴン》は2枚は確定で手札にあって、もう1枚くらい《革命の鉄拳》なり《ボルシャック・ドギラゴン》を抱えているだろう、ということになっている。
 そして《メガ・マグマ・ドラゴン》はない、とも。
 
 ターンが返ってきたイオナは、小さく溜め息を吐いた。

「うん、確信した。やっぱりアンタは、クルミ先輩ではないや

 イオナはマナをチャージして、そう言った。

          †

 それは、ある日の大会の後のこと。
 この日、僕は火光系のビートを使っていたが、結果として芳しくはなかった。
 
「イオナくん、あの試合はぜっっっっっっっったい勝ってたよ」
「いやいやいやいや」

 確か、こう反論したと思う。
 
「それは手札にニンジャがなかったっていう結果論の話じゃないですか? 1枚あったら普通に負けてますよ?」
「いーや、違うんだ。そういう話じゃないよ」

 クルミ先輩は、こんなことを言った。
 
「最初に溜めたのは正しい判断だと思うよ? でもその次のターンも止まったのは流石にいただけないね」
「だってそれはこっちが追加のSAを引けなくて……」
「君はさっき『ニンジャが1枚でも』と言った。それで、ステイを選んだ。なるほど、わかった。で、結果の話をしようか。試合に勝ったのか?」
「………」

 そう言われると、反論がない。
 
「いいかい、イオナくん。よく覚えておくんだ。殴るデッキを選んだなら、最後は殴るプランと心中する覚悟を決めるんだ。もちろんケースバイケースではあるけど、君から一度殴り始めた以上は、止まっちゃいけなかったんだよ」
「ごめんなさい……」

 確かに、もっともな話だとは思った。そのデッキのプランを遂行することが、一番勝ちに近い。なぜなら、そうなるようにデッキを構築しているからである。納得もできた。
 
 ただ、この時の自分がよっぽど落ち込んでいるように見えたのだろうか。彼女は慌てて、こう続けた。

「……まぁ、今回はそれでいいんじゃないかな。いい勉強になったと思ってくれ」

 この人はいつもそうだ。言いたいことを言ったあとのフォローが下手なのだ。

 思わず笑ってしまったが、笑っていたらやっぱり怒られた。

 そう、これも4年も前の話だ。

          †
 
 イオナのマナは8となった。コウの盤面には、5体のクリーチャーが並ぶ。うち2体は、テスタ・ロッサやフロッガといった、こちらの動きを制限するものだ。
 
「最初に止まったのは別にいいと思う。でも次のターンも止まるのはおかしくないですか? そして今のターンも。そのデッキ、火単ですよ? 覚悟を決めて下さいよ」
「私に説教ですか?」
「…………」
 
 変な話だが、この人にミスをされるのはちょっと不愉快なのだ。
 
「それで、説教しておいて何かあるというんですか? この状況で」
「仰る通り、《メガ・マグマ・ドラゴン》は入ってません。一見刺さってそうだけど、入れて勝てる状況があるとは思えなかったので」

 マナを2つタップする。
 唱えたのは、《超英雄タイム》。ご存じ、コスト3以下のカードを破壊できるカードだ。

▲「20th クロニクルデッキ 決闘!! ボルシャック・デュエル」収録、《ボルシャック・スーパーヒーロー/超英雄タイム》

 
 2マナのメタクリをどうするかは当然、今回の課題だった。3コストになると《ゼンメツー・スクラッパー》などもあるが、後手からでも破壊できるカードが必要だった。

 ひとまず、テスタ・ロッサを破壊する。

「踏み倒しはできるようになりましたけど、残り6マナでどうするんです? ドラゴンは出ないはずですよ」
「そんなことないですよ? 知りませんか、赤いカードでコストを下げるカード」

 コウは直後、あっと声を出した。

▲革命ファイナル第2章「世界は0だ!!ブラックアウト!!」収録、《スクランブル・チェンジ》

「……《スクランブル・チェンジ》
「そういうことです」

 まず《スクランブル・チェンジ》を唱え、《希望の絆 鬼修羅》を繰り出す。
 そして鬼修羅は手札から《二刀龍覇 グレンモルト 「王」》を呼び出した。

▲エピソード2「グレイト・ミラクル」収録、《希望の絆 鬼修羅》
▲ドラゴン・サーガ第3章「双剣オウギンガ」収録、《二刀龍覇 グレンモルト 「王」》

 
 元の世界でも、そしてこの世界でも、共に戦った戦友。
 この戦いを終わらせるべく、戦場に到達したのだ。

 装備するのは《覇闘将龍剣 ガイオウバーン》。これでフロッガの処理まで確定している。
 そしてもう1枚は当然、《無敵王剣 ギガハート》

▲「超ブラック・ボックス・パック」収録、《覇闘将龍剣 ガイオウバーン》
▲「ファイナル・メモリアル・パック ~DS・Rev・RevF編~」収録、《無敵王剣 ギガハート》

 
 モルト王は2回殴れないが、《希望の絆 鬼修羅》が《スクランブル・チェンジ》で場に出ている。そう、ドラゴンが2回殴ることができる。
 
 コウはG・ストライクのわずかな可能性に賭けたが……それは叶わなかった。
 盤面には《最強熱血 オウギンガ》、そして《熱血星龍 ガイギンガ》と並び、勝負は決したのだった。

          †

 病院のベッドからも、紅クルミは相変わらずデッキを作っていた。
 入退院を繰り返していたクルミだが、恐らくこれが最後の入院になるだろうことは察していた。
 
 ふと、彼の顔が頭に浮かんだ。
 余命1年、クルミにとっての生きる意味となっていた存在だ。

「結局、何も起こらなかったな」

 クルミは小さく笑った。彼については、少し賢くし過ぎてしまったかもしれない。妙に察しのいい子を作ってしまった。未来で彼の彼女になる子には、ぜひ頑張って欲しい。
 
 そんな折、メッセージを受信した。イオナからだった。
 
 デッキリストと、その雑感が記されていた。彼が自分の退院を信じているのか、それとも何かを察しているのか、それはわからない。だが恐らく、後者だろう。
 それでも、「戻るまでには仕上げておきます」なんて文面で寄越してくるのだ。健気な奴だ、とクルミは思った。
 
 改めて、リストを眺める。
 1年前まで、フィニッシャーのないハンデスを使った子が作ったとは思えないようなデッキが、そこにはあった。
 
「強くなったなぁ……」

 彼の成長は嬉しかった。
 だがやっぱり、悔しさも覚えた。このデッキのこのカード、この採用は自分では思いつかなかったものだ。
 実はもうとっくに、抜かされてしまっていたのかもしれない。

 ふと、気づく。悔しさを覚えた自分が、おかしくなった。
 なるほど、自分はこの期に及んでなおカードゲーマーだったんだな。クルミは笑みを溢した。
 
 管に繋がれた、自分の腕を見る。この姿はやはり、見せたくない。見舞いに来たがったイオナを「大会に出ろ」と追い返したのは、ちょっと申し訳ないと思っている。
 
「私がそうであったんだから、君も最期までデュエマをやってくれよ」

 そしてイオナにメッセージを返すと、窓の外を見つめる。
 
 一日の終わりを告げる夕焼けが、なんとも綺麗に目に映った。

          †

 試合が終わって、すぐ後のことだった。
 
 宮殿の向こう側に見える火山が、突如爆発した。宮殿の至るところから、火の手が上がった。
 ほぼ、同時のことだった。
 
「なるほど、こういうことなんですね」

 轟コウは不気味なほどに落ち着いた声で、そんなことを言った。
 
「炎の力は、支配者の敗北を許さない、そういうことですか」
「おい、このままでは」
「主を見限った、ということでしょうね。恐らく私も火之国も、この力に燃やし尽くされるのでしょうね」

 そう言ってる間にも、足元にもにも火の手が上がっている。
 
「最後の言葉、覚えておきます。覚悟は決めてると思ってたんですけどね。足りなかったのかもしれませんね」

 炎の中に、宮殿が、そして轟コウも消えていく。

 そしてイオナの意識もまた、徐々に遠のいていった。

 ふと、夢をみた。
 
 ここは、現世と冥界の狭間。生と死の境界があやふやな場所。
 イオナはそこで、紅クルミの後ろ姿を見た。
 
 今度こそ、本物のクルミ先輩だ。
 
 ああ、やっと会えたのか。師匠に。
 なんと言葉をかけようか。「あれから僕も強くなりましたよ」だろうか。それとも「もっと自信のあるデッキができましたよ」かもしれない。
 
 だが一歩近づこうとすると、先輩も一歩また遠くへ行ってしまう。
 どうして離れてしまうんだろう? どうして届かないのだろう。
 
 一歩、もう一歩、追いかけようとする。
 
 だがそこで、ふと聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
 
イオナさん、そっちはダメです。こっちですよ!」 

          †

 目が覚めた。顔を上げる。
 周囲は喧噪としていた。
 
「あ、イオナさん起きましたね。全く、突然こんなところで寝ないで下さいよ」
「……マナ?」

 大地マナの顔が、そこにはあった。

「何言ってるんですか? 寝ぼけてます?」
「わからない、たぶんそんな気はする」

 ここは、大会後に来るいつものファミレスだった。マナの横には空き皿がいくつか重なっていた。
 記憶はないが、思ったよりもぐっすり寝てしまっていたのかもしれない。

「それにしてもだいぶうなされていたように見えましたけど、大丈夫ですか?」
「……夢を見ていたと思う」
「それはそうなんでしょうけど、悪い夢だったんですか?」
「どうだろう」

 まだ少し、夢と現実の境界があやふやだった。
 
「わからない。わからないけど少し懐かしかった気もするし、寂しかった気もするし、いい思い出だった気もするな」

 悲しいわけではなかった。
 それでも、目からは自然と涙が溢れていた。

(火之国デュエマ 完。次回、10-1に続く)

神結(かみゆい)
Twitter:@kamiyuilemon

フリーライター。デュエル・マスターズのカバレージや環境分析記事、ネタ記事など幅広いジャンルで活躍するオールラウンダー。ちなみに異世界転生の経験はない。

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