By 神結
(前回までのあらすじ)
目を覚ましたイオナは、何故か自分が高校時代に戻っていることに気が付いた。しかしそこにあったのはかつての母校ではなく、生徒会によって徹底管理された自由のないものだった。
自身のデュエマを守るため、そして自由を取り戻すため、イオナは一週間後に生徒会長と「イニシャル・デュエマ」で決着をつけることを約束したのだった。
・互いのプレイヤーは、どちらかがバトルゾーンに出した/唱えたカードと、同じ頭文字のカードをプレイすることができなくなる
(例:どちらかのプレイヤーが《ヤッタレマン》をプレイした場合、”や”から始まるカードは互いにプレイできない)
・濁点、半濁点は別の頭文字として扱う(例:ひ、ぴ、び、は全て違う頭文字として扱う)
†
会長との決戦の日は迫っていた。
あれからマナにイニシャル・デュエマの概要について教えてもらい、かれこれ三日三晩このゲームの勉強をしている。
イニシャル・デュエマについて、改めておさらいしておきたい。
ルールは自分の知ってるデュエマとほぼ変わらないが、「一度使われたカードと同じ頭文字のカードは使えない」という点だけ違う。
そしてこの違いは、当然ながら大きい。
まず第一に、「同じカードの2枚目」が弱い。それはそうだ。プレイできないのだから。
こうなるとハイランダー気味に構築するのもあり、という考えもあるが、1枚引いた時点で勝てると思うなら4枚採用してもいい。しかしここにもまだ但し書きがあって、対戦相手に先攻を取られると致命傷になりかねない。先に相手にプレイされるからだ。
あとはロングゲームをしながらカードを使い回すデッキよりも、アグロやミッドレンジ系の方が強い、という考え方もありそうだがデュエマは中終盤に強いカードの方が多いので、ハイランダー的な構築を目指すならロングゲームを前提とした方が強いのかもしれない。
……というように、構築をとっても可能性が無限にある。
果たして一週間で詰め切れるのか、という不安しかない。
そういう意味では相変わらずマナにおんぶに抱っこ状態で申し訳なさもある。
ただマナはマナで構築に関してはそこまで得意ではないため(ゲームの理解は早いしプレイも丁寧だと思うが)、人の心を折るレベルの強さという会長に対しては構築よりもプレイで肉薄するしかなさそうだ。
「まあこのルール特有の特殊なプレイングを覚えつつ、自分で扱える構築を使うしかないな……」
これはありがたいことなのかどうかは知らないが、新しいゲームを学習すること自体、慣れてきている。
そんなわけで昼休み、学食でカレーラーメンなる奇妙なメニューを食しながら、マナとイニシャル・デュエマについてあれこれ話していた。
「会長がどんなデッキを使うか、についての情報はないんだよね?」
「これはほんとにわかんないですね。もうしばらく対戦は行われていないですし」
「完全にぶっつけ本番か……」
「あ、でも聞いた話によると」
「よると?」
「ロックコンボみたいなのが好きみたいです。例えばキングデルフィンみたいな」
「となると、比較的遅めのデッキではあるのかな」
いかにも学食、といった具合の中華麺を啜りながら、ロングゲームのプランについて考える。
相手の切り札がわかっているなら、それにイニシャルを先に被せていくのがわかりやすいんだが……それが厳しいなら、結局引いたカードの中からアドリブで上手く対応していくしかない。その中で自分が先に”カードを使う側”、つまり相手に対応を要求していく側になれるかどうか。
ちなみに、このルールの《光神龍スペル・デル・フィン》はそんなに強くないと思っている。効果云々というより、単純に《偽りの名スネーク》のようなアウンノンのカード群とイニシャルが被っているからだ。ちなみに同じく呪文ロック効果を持つ《古代楽園モアイランド》ともイニシャルは被っている。
細かくやっていけば「強い頭文字Tierランキング」とか作れそうだが、たぶんそこまでの時間はない。カード検索もコストや文明ごとには分けられても、頭文字ごとのカード検索はない。
いずれにせよそこまで深めている時間はない。勝負は一本。最悪一本勝つための方法も、考えておかねばならない。
「あっ、そういえばなんか前は《零獄接続王 ロマノグリラ0世》のデッキを使っているとかなんとか聞いたことがあります」
「あー……いかにも校則とかいっぱい作る人が好きそうなカードだな……」
「ですねぇ……ただこれはあくまで噂というか伝聞ですけど」
「まあ会長に関する情報がないのが一番の問題な気がするなぁ」
「そうですね……」
「会長について、知りたいのですか?」
ちょうどその時、自分たちの横に一人の女性が座ってきた。
少し髪が長めで、身なりもきっちりと整えた人だった。恐らく学年も上だろう。
「横、座ってよろしいですか?」
「問題ないです」
そう言ってマナの方をみると、マナはあわあわとしていた。
まさかと思って再度彼女の方を見ると、腕に『生徒会』の腕章があった。
「貴女はもしかして生徒会の……」
「ええ。初めまして、森燃イオナさん、大地マナさん。生徒会で副会長を務めています、中之瀬スズナと申します。以後、お見知りおきを」
「……森燃イオナです」
なんというか、俗っぽい言い方になるがいかにも秀才といった雰囲気だった。頭が良さそうだし、弁も立つんだろう。ただ”鬼の副会長”と言われるような印象は受けない。
「ところで森燃イオナさん、大地マナさん、1つ確認しておきたいことがあるんですが」
「はい、なんでしょうか」
「実は貴方たち二人が恋愛禁止の校則を破って放課後デートしていた、と密告があったのですが」
「放課後デート……?」
いや、それはおかしい。マナに「デートに行こう」と言った記憶もないし、言われた記憶ない。そもそも昨日はずっとマナとデュエマしていたはずなんだが。
というか、恋愛禁止の校則もいまここで初めて知った。
「で、実際のところどうなんでしょうか?」
「いえ、普通にデュエマの練習していただけです」
チラリとマナの方を見たが、マナは頷いていた。
まあ確かに超超超拡大解釈すればデートになるのかもしれないが、でも相当真面目に練習してたからな……。
「なるほど、それは感心ですね」
「ありがとうございます」
「これからは密告されないようにしてくだい」
「というか、密告? え、密告って言っちゃうんですか?」
「事実、密告としか表現しようがありませんからね、残念ながら。そうなってしまうとこちらも確認しなければいけないわけです。一応校則ですから」
はぁ、とスズナは小さな溜め息を吐いた。
あれ?
これは少し意外だ。というより、真意が読めない。”鬼の副会長”の台詞とは思えないが。
そして特に追及もされていない。『感心ですね』の一言で終わりである。
となるともしかして、別に副会長自身は校則の遵守にそこまで興味はないのか? もしくは、事実として確認できないことを追及することに意味を感じてないのかもしれない。
「ひとまず事情は把握しました。しかし本当にデュエマをやっていたなら、ちゃんと相応の実力が身についている、とお見受けしてよろしいですよね?」
あれ? 流れ変わった?
ここは1つ、鎌をかけていいかもしれない。
「練習を頑張っているのは、3日後に会長に勝たなくてはならないからですよ」
「それは無理な話でしょう」
それは実際、そうなのかもしれない。
「会長がどれくらい強いのかはわかりませんが、勝たねばならない以上はそれを目指す努力はします」
「なるほど、わかりました」
一瞬だけ、彼女は嬉しそうな顔をした……気がする。
そうであれば、と続けた。
「せめて私くらいには勝っていただかないと」
「なるほど?」
まあこっちから鎌をかけてるし、そうなる。
僕は急いで中華麺を啜ると、デッキを取り出した。
†
対戦は、申し込まれた以上断るわけにはいかない。まして、副会長直々に来たのなら尚更だ。
まあそもそも断るつもりなどないが。
意味合いとしては「森燃イオナの実力を測る」といったところだろうか。
さて、今回副会長こと中之瀬スズナが持ってきたのは、アグロ系のデッキだった。ロングゲームするデッキの方が実力なども測りやすいはずだが、ゲームの長いデッキだとそもそも昼休みが終わってしまう。
まあアグロ対策ができていないならその旨を伝えればいいし、別にそこは問題にならないのだろう。
「ところで副会長、1つ聞きたいのですがいいですか?」
僕は目の前に出てきた後攻の《凶戦士ブレイズ・クロー》の対処に悩みながら、気になることを1つ投げてみた。
「副会長は、会長と個人的に仲いいんですか?」
「……どうしてそんなことを聞きたいんですか?」
僕は《学校男》を召喚し、ブレイズクローを割った。これは対アグロ用に調整していたときに入ってたパーツそのままで、なんと3ターン目の《我我我ガイアール・ブランド》の召喚を阻止することが可能なカードだ。
「いえ、仲がいいと言いますか……なんでしょう、会長と理念を共有しているのか、と言いますか……」
「言いたいことははっきり仰ってください」
「……じゃあ、遠慮無く」
スズナが出した2ターン目の《一番隊 チュチュリス》は流石に強い。どちらかというと主要カードを4枚積んで被りを割り切るタイプのようだ。
「会長を止めないんですか?」
「……一応、断っておきますが」
僕の3手目は世界最強の《天災 デドダム》(ディザスター)。
このカード、どんなルールでも強い。《ディメンジョン・ゲート》などとは両立できないが、それを差し引いても強力な上、《SSS級天災 デッドダムド》(トリプルエスきゅうディザスター)とも《S級不死 デッドゾーン》とも《虹速 ザ・ヴェルデ》(こうそく)とも被らない。
「私、会長の考えには賛同していますからね」
「じゃあ何故、横暴を止めないんですか?」
「横暴、ですか」
スズナが召喚したのは《ゴリガン砕車 ゴルドーザ》。《”轟轟轟”ブランド》とは両立しないが、サブプランの1枚ということだろうか。
「会長は決して横暴なんかしていません。会長は会長なりの意図があってやっています」
ゴルドーザの攻撃が入り、残シールドは4枚。そしてここでターンを終了した。寝かせるとダムドなどの裏目が大きいと考えたのだろう。
実は現状だと、《ダチッコ・チュリス》+《”罰怒”ブランド》でゲームセットだ。
ちなみにここは《ダチッコ・チュリス》じゃなくてもいい。
「会長の意図、といいますと?」
スズナはその疑問に答える。
「会長には明確な目的と、期待する結果があって、いまの事態を作っています。私はその目的と結果に対しては、会長と同じ方向を目指している、という話です。だから会長に対して、反対はしません」
「でもどういう意図があったとしても、起こす行動に問題があるなら、それはダメだと思うんですよ」
「それはもちろん、そうですよ」
「じゃあ副会長は、いまの現状に満足しているってことですか?」
「そこに関しては、私はノーコメントとします」
ただし、と彼女は続ける。
「私から言えるとしたら、”会長の意図することに賛同しているか”と”私個人が現状を好ましく思っているか”はまた全然違う話ですからね」
「……なるほど」
「さぁ森燃イオナさん、貴方のターンです。何をプレイしますか?」
ちなみにこれは余談なのだが……今日僕が使っている構築はアグロにはかなり強くなっている。
マナとの調整の過程でたまたまそうなっているだけだが、どうやら今日のところはかなり運がいいらしい。
「じゃあ《バングリッドX7》で」
「あー……」
このカードが《一番隊 チュチュリス》を「マッハファイター」で討つのはそうなのだが、もう一つ大きな役割があった。
それはもちろん、マナゾーンからジョーカーズを召喚すること……などではなく。
「というわけで“バ”を縛りますね」
「随分、デュエマがお上手なことで」
「ありがとうございます、よく言われます」
アグロの切り札《”罰怒”ブランド》、その召喚を阻止する役割だ。こうなるとスズナの攻勢は一気に頓挫する。
結局試合はこのまま、僕が盤面をコントロールしきって勝利することができた。
「流石に完敗でしたね。私では手に負えないようなので、会長に託します。どうやらデュエマの練習をしていたというのも本当みたいですし」
「……会長は何を考えているのですか?」
「それは後日、会長自身にお尋ね下さい。昼休みもそろそろ終わるので、早めに教室に戻ってくださいね」
それでは、といってスズナは去っていく――途中で彼女は立ち止まった。
「ところで……これは副会長ではなく中之瀬スズナとして森燃イオナさんに質問したいのですが」
「はい?」
「『恋愛禁止』の校則ってどうだと思いますか?」
「普通にクソだと思いますけど」
「わかりました、覚えておきます」
ちょうどそのタイミングで、昼休みを終えるチャイムが鳴った。
スズナはチャイムが鳴り終わる前に、校舎の方へと戻っていった。
「……なんといいますか」
ずっと黙って見ていたマナが口を開いた。
「めっちゃ会長の彼女面してませんでした?」
「そう?」
「恋愛禁止って自分で言ってたのに。まあ、だから最後の質問だと思うんですけど」
「まあ人の行為に制限かけるのはともかく、感情をどうこう言うのはなぁ」
なんというか、例のデュエマの楽しみ方もそうだけど普通に不愉快なんだよな。
「まあ彼女が何を考えているかはわかりませんけど、とはいえ会長をなんとかしないとどうにもならなそうですね」
「そうだね……」
結局、会長はどんな人なんだろうか?
「まあ聞いてみるか、会長自身に」
そう言って僕もマナも、教室の方へと戻っていった。
†
ここは生徒会室。部屋には二人の人影があった。
「会長、ようやく求めていた対戦ができるのかもしれません」
「何度も言ってるけど、一個人による打破は望んでないよ、スズさん」
ふふっ、と天本ツバサは小さく笑った。
「僕はいつスズさんが裏切ってくれるかと期待していたんだけどね」
「残念ながら、その期待は叶わないですよ」
「でもまあ、今回の件で望む目的が達成するキッカケになるかもしれない」
そう言って、彼は自身のデッキを手に取った。
「期待しているよ、森燃イオナ」
(次回、6-3 イニシャル・デュエマ 下 に続く)
神結(かみゆい)
Twitter:@kamiyuilemonフリーライター。デュエル・マスターズのカバレージや環境分析記事、ネタ記事など幅広いジャンルで活躍するオールラウンダー。ちなみに異世界転生の経験はない。
『異世界転生宣言 デュエル・マスターズ「覇」』バックナンバーはこちら!!