By 神結
ようこそ、デュエマーパークへ。
ここはデュエマを愛する人にとっての夢の国です。
子どもも大人も親子連れも、ぜひ夢の時間を過ごしてくださいね。
お勧めですか? そうですね……迷宮仕立てのアトラクション、『デュエダンジョン』なんかはいかがでしょうか?
完全制覇は難しいですが、そのぶんやり応えがありますよ。
そう、特に腕に自信を持ったトッププレイヤーの皆さま方。
ゆ っ く り た の し ん で い っ て く だ さ い ね。
†
ふと気が付くと……という話にまたなってしまうのだが。
とはいえ気付いたときに身に覚えのない状況に置かれていることが多すぎるから、それも仕方ないのだが。
ともかく、気付けば自分は電車に揺られていた。もちろん、乗った記憶は無い。強いて直前の記憶を言うならば、トラックに跳ねられたということくらいだろうか。
ということは、ここは新たな異世界ということになる。とりあえず、電車は普通にある世界らしい。乗客を見ても、服装や様子などに違和感はなかった。
じゃあ一体、今回はどんな世界なんだろうと気にもなったが、誰かに聞くわけにはいかないし、行き先も電車に聞くより他ない。
「見えてきました、イオナさん。あれですよ、あれ」
マナが外の風景を指差して言った。
どういう巡り合わせなのか、運命か必然か、どの世界に行ってもマナとは出会うようになっているらしい。
ちなみにマナの差した方向に目を向けると、何やら巨大な施設があるのはわかった。ぱっと見た感じ、遊園地のような、アミューズメント施設だろうか?
「マナ、あれは……?」
「あれ? 言わなかったですっけ? まあ、行けばわかりますよ、行けば」
……とりあえず何もわからないまま、連れて行かれることは確定したようだった。
山羊山駅で降りると、目の前には遊園地が広がっていた。
巨大な看板の文字が、目に飛び込んでくる。
「デュエマーパーク……?」
確かに、そう書いてある。《独裁者ケンジ・パンダネルラ将軍》の顔出しパネルとかも置かれていた。それは動物園では? と突っ込みたくもなるが、どちらかというともっと他に言及しておきたいことがある。
「デュエマ、こんなに人気なんだ……」
「何を言っているんですか、今更」
マナは笑っていた。
周囲を見ると、家族連れから友達同士・学生など様々な人たちが遊びに来ていた。《コッコ・ルピア》や《時の法皇 ミラダンテXII》のぬいぐるみを大事そうに抱えている子どももいる。正直、ミラダンテのぬいぐるみは自分も欲しい。
どうやらここでは、遊園地のモチーフになるほどデュエマが大人気ということらしい。誇らしい気もするが、これはこれでやや困惑している自分もいる。
まあ、いいことなのは間違いはない。活躍すれば、色んな人から注目されるのかも。
どこかで見覚えのあるようなネズミのマスコットに手を振り返しながら、入り口への方へと向かう。
ここは結構混んでいたために並ぶことも覚悟したが、そこは大丈夫とのことだった。
「頑張ってファストチケット手に入れたんですよ、褒めてください」
「ファストチケット?」
「要するに、優先チケットみたいな感じです」
ということらしい。
曰く、CSの優勝賞品がデュエマーパークのファストチケットだったらしく、マナはこれが欲しくて大会に出て勝ったとのことだった。大会の賞品としては、確かに嬉しいかもしれない。
というわけでマナの恩恵に授かりながらパークの中へと入っていった。案内図を見るとクリーチャーなり背景ストーリーなりを模した乗り物や施設がたくさんあるが、マナはそれに一切目をくれずどんどん奥へと進んでいく。
「乗らないの?」
そう訊くと、マナはわかってないなぁという顔をしながら指を振っている。
「イオナさん、軟派ですよ。私たちの目的はただ1つなはずです」
「そうだったんだ……」
「私たちはそう、あの巨大なダンジョン『デュエダンジョン』の攻略をせねばならないのです!」
確かに案内のパンフレットを見ると、パークの一番奥に大きな城のような建物が描かれている。
「このデュエダンジョンに何かあるの?」
「浅いですよ、イオナさん。このデュエダンジョンはトッププレイヤーでも完全攻略が難しいと言われていて、CSで優勝したようなプレイヤーじゃないと建物にすら入れてくれないんです!」
「随分と排他的だなぁ……」
「というわけで、今日は一緒にデュエダンジョンを攻略しようというわけですが、どうでしょう?」
一気にまくし立てられてしまって素っ気ない返事になってしまったが、『トッププレイヤーでも完全攻略が難しい』という部分にはかなり興味がある。
デュエダンジョンが具体的にどういうものなのかは不明だけど、やってやろうという感情も芽生えてくる。
「行くか、デュエダンジョン」
「そうこなくっちゃ。では行きましょう」
1. ダンジョンの入り口で、デッキをゲットしよう! 中身はランダムだ!
2. ダンジョンを進んでいこう! 道中にいる敵と戦って、勝利を目指せ!
3. 勝利してもらったパックで、デッキを強化しろ!
4. ???
5. 最後に待ち受けるボスを倒してダンジョンを制覇せよ!
デュエダンジョンは、文字通りのダンジョン攻略ゲームだった。
入り口でデッキを配布され、これを手に道案内通りに進んで行く。進んだ先には、デッキを持ったプレイヤーが待ち構えている。このプレイヤーを倒すことで追加のパックをもらうことができて、これでデッキを強化してまた次のプレイヤーへ……となっていくわけだ。
で、道中のプレイヤーを全て倒した上でラスボスも倒すと無事“完全攻略”となるらしい。
完全攻略をするとその証が渡されるらしいが、これを持っているのは極々わずかなプレイヤーだけとのことだった。
マナが燃えている意味も、デュエマーパークに来た意味も、ダンジョンを目指した意味も、これならよくわかる。完全攻略はトッププレイヤーの証なのだ。それは当然、是が非でも取りたい称号だ。
入り口で、マナと僕はそれぞれデッキを受け取った。僕は火自然のレクスターズ中心のデッキで、マナは火水自然のディスペクター中心のデッキとのことだった。
しかしなぜかマナはデッキに《禁断竜王 Vol-Val-8》が最初から入ってたらしく、山札を掘り進めながらVol-Val-8を投げてさっきから圧勝しているらしい。
一方自分はというと、地道にクリーチャーを並べて地道にトリガーをケアしながら地道に勝利をしている。難易度に随分違いがあるように見えるが、気のせいだろうか。さっき、もらったパックから《ボルシャック・モモキングNEX》が出てきて、思わずガッツポーズを決めてしまった。
ところでダンジョンの入り口で渡されたシートには、5つの勝敗記入欄がある。最後の記入欄はラスボス戦だと考えると、道中の敵は4人いるということになる。
現状3人まで倒しているので、残るは1人だろうか。
ダンジョンの道中は意外と分岐も少なく割と一本道だ。別に道に迷うとかはなかった。この辺の迷路作成的な部分は、別に難易度を上げてないのかもしれない。
そして(恐らく)最後の1人と思しきプレイヤーを発見する。精悍な顔つきをした大人の男性だった。明らかに戦い慣れている人のそれだ。
こちらとしても、特に避ける理由はないから向かっていく。目が合えば、即勝負だ。アイコンタクトがあった後に、互いにデッキを取り出して戦いが始まる。
先攻を持ったのは自分だ。ひとまずマナを伸ばして、スター進化に繋げたい。
「《フェアリー・Re:ライフ》でブーストします」
「《メンデルスゾーン》で2ブーストして、ターンエンドです」
相手はドラゴンデッキのようだった。普通に2ブーストされるのは辛い。
こちらは《モモキング -始丸-》で《王来英雄 モモキングRX》を拾ってターンを返す。
だが相手の動きも《ボルシャック・栄光・ルピア》で、しかもしっかり2ブーストだった。
マナゾーンを確認すると《ボルシャック・決闘・ドラゴン》など、ボルシャックの名の付くカードが並んでいる。これは所謂【火自然ボルシャック】と呼ばれるデッキだろう。
こちらとしては、《ボルシャック英雄譚》を撃たれると相当厳しいが、相手は7マナ。《ボルシャック・決闘・ドラゴン》からの展開を考えるなら、あと1~2ターンくらいはまだギリギリ猶予があるとみていいはずだ。
この対面での役割が一切なさそうな《モエル・モヒッチ》をマナに置いて、《王来英雄 モモキングRX》を出す。
ちなみに渡された最初のデッキには、《王来英雄 モモキングRX》は複数枚入っていた。しかし、進化クリーチャーはほとんど入っていなかった。最初の試合はRXを横に並べて殴って勝った。
いまのデッキは、もらったパックから出てきた進化クリーチャーをそれぞれ1枚くらいずつ積んでいる。
ここではRXは進化させなかったが、《モモキング -始丸-》で攻撃しながら《富士山ン <ジャック.Star>》を「侵略」する。《ボルシャック・栄光・ルピア》を破壊しつつ、W・ブレイクすると残るシールドは3枚。
RXも一緒に殴りに行きたかったが、ここで《スーパー・スパーク》を踏んでしまったので留まらざるを得なかった。
相手は《ボルシャック・NEX》から再度《ボルシャック・栄光・ルピア》を投げると、マナが10に到達する。こうなると《ボルシャック・決闘・ドラゴン》が複数並び、一気にワンショットを決められてしまう流れだ。
ただこちらも、それに対しては対策がある。
2体目のRXを召喚すると、《キャンベロ <レッゾ.Star>》に進化。これで相手は、次のターンに1体しかクリーチャーを出すことができない。
ただ、ボルシャックには《ボルシャック・ドギラゴン》がある。詰めるのは慎重になる必要がある。ここはシールドを0にして、ターンを返した。
こうなると相手も手札に《ボルシャック・ドギラゴン》を抱えつつ、こちらの盤面を削る動きをしてくる。《ボルシャック・決闘・ドラゴン》を出して、除去と破壊を駆使し、盤面を可能な限り減らしてきた。
ただ、これに対してもこちらは用意があった。
「進化、《モンキッド <ライゾウ.Star>》で」
このカードは、端的に言うとパワーが高く、さらにマナから進化クリーチャーを場に出すことが可能だ。
スター進化は、破壊されても一番上のカードしか墓地に置かれない。アタック中であれば、進化元のダイレクトアタックが継続される。
そして、モンキッドの上に進化クリーチャーを追加で置くこともできる。
というわけで、僕は《ボルシャック・モモキングNEX》を重ねてダイレクトアタックの宣言をする。これならば、ボルドギの複数枚ケアも可能な上に、そもそも《ボルシャック・モモキングNEX》も墓地のカードによってパワーが上がっている。
要するに、これは僕の勝ちというわけだ。
正直《メンデルスゾーン》で2ブーストされたときはヒヤッとしたけど、上手く進化クリーチャーを使い分けながら勝利することができた。
「参りました」
相手はそう言うと、僕の勝敗記入表に最後の結果を記入した。これで星が4つ溜まった。
そしてほぼ同時に、マナも勝利を手にしたらしい。ニコニコしながら、パックを手に駆け寄ってきた。
「あとはラスボスだけですね」
「デッキ強いでしょ、マナ」
「もちろん。イオナさんのデッキも、なんだかんだで形になってきましたね」
そう言いながら、マナはパックを開けていた。自分も開けようかというところで、何かを感じてふと顔を上げた。
見ると、この先の道が2つに分かれていた。そして分かれ道の入り口には『ここから先、決して引き返してはいけません』と書かれている。
「マナ、これってどういうこと……?」
「そのままの意味だとは思いますけど、タイプの違うラスボスがいるってことなのではないでしょうか? ほら、ハンデスコントロール系のラスボスとビートダウン系のラスボスがいる、みたいな」
「いや、待って。他にも何か書いてあるよ」
『貴方たちの中で、もっとも腕に自信のある1名は左の道へお進みください』
つまり、左の方がより難関ということのようだ。ただし「もっとも腕に自信のある1名」と書いてあるのがちょっと気になった。
「これ、1人だけしか左に進めないってことですかね?」
「そういうことだよね」
「うーん……」
マナは腕を組んで少考したが、「まあ、認めましょう」と言ってこっちを見た。
「悔しいですけど、私よりは流石にイオナさんの方が強いと思うので、左に行ってください。私は右に行ってゴールした先で待っていますから」
「わかった、ありがとう」
「その代わり、ちゃんとクリアしてきてくださいね。ゴールに着いたら2人で勲章見せ合いましょう」
「大丈夫、任せなって」
こうしてマナは右に、自分は左に進んだ。
そしてのその直後である。
突如足元がぐらつきはじめ、足元が崩れていく。
暗闇の中に落ちていく感覚に気が付いたのは、そのわずかあとのことであった。
(次回、5-2 ダンジョン・デュエマ 中 に続く)
神結(かみゆい)
Twitter:@kamiyuilemonフリーライター。デュエル・マスターズのカバレージや環境分析記事、ネタ記事など幅広いジャンルで活躍するオールラウンダー。ちなみに異世界転生の経験はない。
『異世界転生宣言 デュエル・マスターズ「覇」』バックナンバーはこちら!!