By 神結
さて、このケビンライネCSも準決勝を迎えている。
準決勝の対戦カードを紹介しよう。
一人はもはやお馴染みとなっている、“雷(いかづち)のリュウ”だ。
雷のような息もつかせぬ怒涛の攻めからこの名前が付いたと思われがちだが、実は単に雷が怖いだけという話もある。本人の名誉のために、ここでは一応「真偽不明」という体で収めておきたい。
対するは突然現れた天才、森燃(もりもえ)イオナ。
言うならば無名のプレイヤーだったはずだが、ある日突然参加した店舗の勝ち抜きバトルで12連勝を達成。リュウの記録に並ぶという偉業を成したのだ。
その連勝が決してフロックではなかったことは、破竹の勢いで準決勝までやってきたことで証明したと言えるだろう。
聞いたところによると、歳も同じという二人。
だがそのスタイルは真逆と言っていい。
リュウは『Lock Luck』というチームを率いて仲間と共に戦っている一方で、イオナは本人曰く「ほぼほぼマナとしかやっていない」という、どちらかと言えば少数で戦っているプレイヤーだ。
またリュウは直感でカードを選択して、テンポを重視するプレイを基本としているのに対して、イオナはこれも本人曰く「空いた時間はカードリスト眺めてる」というレベルのデータオタクなのだ。
ここまで好対照な対戦もなかなかない。
ではこの二人はどちらが強いのだろうか?
その答えは、いまここでわかる、というわけだ。
(『第8回ケビンライネCS 準決勝カバレージ』より引用)
†
「イオナさん、今日は順調ですね。調子よさげですか?」
「なんか上手くいってるね」
例のゲーミングキーボードみたいな光り方をしているショップに今日も来ている。このイルミネーション、慣れたといえば慣れたのだが相変わらず癖が強い。やっぱりデザインの問題なんだろうか。
とはいえ、今日のCSは自分にとってそれなりの意味がある大会だ。大舞台ではないかもしれないが、
「次は準決勝ですか。相手はわかってます?」
「もちろん」
これまでも、これからも。
自分はカードリストと睨めっこをし、そこでアイデアを拾って続く戦いの勝利を掴むプレイヤーだ。
そもそも、アイデアや閃きというのは経験から生み出されるもの。デュエマの知識もプレイ経験もない人が、強力なデッキを組むことはできない。
言うならば、デッキ作成はジグソーパズルを組み立てるのに似ている。知識や経験というのは、イラストだ。無地のジグソーパズルを組み上げるのは、はっきり言って不可能に近い。
だがもし、本当に無地のジグソーパズルを組み立てられる人がいるのだとすれば……。
「僕と勝負だ、”雷のリュウ”……」
†
準決勝の序盤は、積極的なリュウとカードをプレイしないイオナ、という構図でゲームが進んだ。リュウが2、3ターンとカードプレイしたのに対して、イオナはチャージエンドのみ。
確かにこのゲームで先に手札を吐くという行為は、リスクを伴う。
1枚の手札から取ることができる選択肢が大きい以上、カード1枚が持つ意味は大きいのだ。
しかしターンごとの思考時間は限られている。無限の時間が許されれば正確な回答に辿り着ける盤面でも、それは許されない。
ゆえにハイテンポなプレイというのは、それだけ相手に圧をかける。その圧が、ゲームを動かす。それがメンタル・デュエマの面白いところだ。
知略だけではない精神の部分が、ゲームの結果を変える。
さて4ターン目、リュウはここで《Disジルコン》を《天災 デドダム》としてプレイし、リソースを拡張していく。このカードプールにおいては、最強にも近い動きだ。
というのも、ここから単純に《天災 デドダム》を進化元として《超奇天烈 ギャブル》や《復讐 ブラックサイコ》という進化カードが出てくる可能性があるし、そうでなくとも後続のプランの幅が一気に広くなる。
対して後手のイオナはこのデドダムを除去するためか、ここで《ドンドン吸い込むナウ》を宣言する。しかくバウンスすると思われた《天災 デドダム》は場に残ったままとなった。というのも、火や自然のカードが捲れなかったようだった。
水文明のカードを見せて、ターンを終了する。
返しのリュウのプレイは、やはりというべきか《ドルファディロム砲》を《復讐 ブラックサイコ》として宣言。当然のように2ハンデスが刺さる上、盤面の状況も悪い。
彼の繰り出すハイテンポなプレイの押しつけが光っている。
ゲームは始まったばかりだが、イオナは早々に劣勢に立たされる格好となった。
(『第8回ケビンライネCS 準決勝カバレージ』より引用)
†
勝利は誰のためか。
もし森燃イオナがそう問われたら「自分のためだ」と答えると思う。それが正しいプレイヤーとしての在り方なのは、間違いない。
しかし、自分――雷のリュウであれば、「チームのため」という回答もまた、選択肢となる。
別に、望んで立ち上げたチームではない。
たまたま自分はカードゲームが上手い方だったらしく、勝つことが多かった。結果、自分を慕って、プレイヤーが集まってきた。彼らは、勝ちたいという。デュエマを教えてくれと乞うのだ。
別に教えるのが上手いわけではない。最初は「カード全部覚えれば勝てるよ」なんて返していた。別にそれが間違いだとも思っていなかったし。だが結局そうやって勝てたプレイヤーは見たことがない。
はっきり言って、メンタル・デュエマは難しいゲームだ。自分が勝つのも一苦労なのだ。
かといって、自分を慕って集まってくれた人を無下にできない……そんな気持ちが心の何処かにあった。
彼らが勝てるようになるにはどうすればいいか。別に必勝でなくていい。誰かがたまに勝てれば、それでいいのだ。
そうして考えた末に至ったのがチームという答えだった。そしてこのチームの中で、平均的なプレイまでを教えて、人数と参加回数を稼ぎ、たまに上振れれば誰かが勝つこともある。それは即ちチームの勝利であり、「俺らの」勝ちと称してやればいい。
直感でプレイをしろとは、一見すると呪いの言葉のようであるが、その逆だ。高度で難解なメンタル・デュエマ。「勝てない」「苦しい」という呪いから解き放つ、魅惑的な言葉だ。
だが、同時に思うのだ。
じゃあ俺は? 俺の勝利は? 俺が求めた勝利は、何処にある? この平均的な色のない戦いの中に、俺の求めたものはあるのだろうか?
そんな時、流れ星のように現れたのが森燃イオナという男だった。
彼は言い切った。自分はカードを全て覚える、そうあるべきだ、と。
つまり勝ちを渇望し、苦しむ覚悟を持っている。呪いを背負し者の自覚がある。
なるほど、面白い。
「じゃあ俺と戦おうか、森燃イオナ」
†
イオナの場には、《切札勝太&カツキング -熱血の物語-》が立っていた。《ドンドン火噴くナウ》から宣言されたカードだった。
また、続くターンには《龍素記号Sr スペルサイクリカ》が召喚され、墓地の《ドンドン吸い込むナウ》が唱えられた。手札を破壊されており、状況は苦しかった。だがこのサイクリカによって一呼吸つけるだろうか。サイクリカ自身がバウンス対象として宣言さて、手札へと帰っていく。
手札がようやく、充実する。戦える状況になってきた。
だが、リュウの方も《復讐 ブラックサイコ》の後に手をこまねいてゲームを眺めていたわけではない。来るべき「リソースを回復し、立て直しに成功したイオナ」を葬り去るべく、準備を進めていたのだ。
続くターン、リュウが唱えたカードは用紙周到の《ロスト・ソウル》。
ようやくこれから、というところのイオナの手札を全てたたき落とす。
こうなると、イオナは引いたカードで戦うしかない。だが不運にも、ここで引いたのは《フェアリー・Re:ライフ》。ここからゲームを作れそうな《未来設計図》は、既にリュウが唱えている。
「《フェアリー・ライフ》で」
マナを1つブーストして、ターンを終えた。
返しのターン、リュウも手札を整え盤面を作りに行くと、ターンを終える。状況的に、フィニッシャーの着地も近いのだろう。
それはつまり、リュウの勝ちもまた近い。筆者の目には、そう映った。
(『第8回ケビンライネCS 準決勝カバレージ』より引用)
†
ターン開始前、周囲をふと見るとマナが店長と話しているのに気が付いた。その会話が、小さいながらも耳に入ってくる。
「リュウくんの《ロスト・ソウル》が通ったか、流石にこれは決まったかな」
「ですね、決まったんじゃないでしょうか」
「いやぁ、うちの店の12連勝同士の対戦だから楽しみにしてたんだけどね、ちょっとイオナくんは前半で事故っちゃったね」
「まあ、そんな感じもしますね」
「とはいえ、リュウくんは見事だったな。あとはゆっくり並べて勝つだけか」
「店長にはそう見えますか?」
「マナちゃん的には違うの?」
「はい」
マナは一瞬、チラリとこっちを見た。目が合った、そんな気がする。
「私はイオナさんが勝つと思いますよ」
ああ、ありがとうマナ。
君のような全てを理解してくれるプレイヤーと練習を積めたことに、心から感謝をしたい。
僕はひとつ深呼吸をすると、リュウへと話しかける。
「このトップデックさ、流石に重要だと思うんだ。このカード、何だといいかな?」
突然話しかけられたリュウは、少し驚いたようだった。
「さぁ、好きなカードでいいんじゃないかな」
「そう? じゃあ《極世接続 G.O.D.Z.A.》にしようかな」
そう言って、僕は山札のトップをそのまま盤面へと置いた。現れたのは《極世接続 G.O.D.Z.A.》だった。
リュウは一瞬怪訝な顔をしたが、直後何かに気付いた。彼の口から思わず「あっ」という声が漏れていた。
そう、このゲームは僕の勝ちなのだ。やはりデュエル・マスターズの女神は、僕の勝ちを望んでいるらしい。
「《ドンドン吸い込むナウ》……」
「そういうこと」
つまり、僕は複数の《ドンドン吸い込むナウ》と《切札勝太&カツキング -熱血の物語-》によって、山札の順番を完全に操作している。だからこのトップデックは必然なのだ。
そして《極世接続 G.O.D.Z.A.》がもたらすカード、つまり光闇自然の9コストがもたらすカードといえば……。
「《天罪堕将 アルカクラウン》を召喚します」
《邪帝類五龍目 ドミティウス》と同じ効果を持つ、アルカの将。そしてこのカードもまた、山札の上から5枚を参照する。確定している未来から、カードが呼び出される。
《麗姫 アントワ-2》が水として場に出て火水のクリーチャーになり、闇の《Disモールス》は《解体人形ジェニー》となって、相手のニンジャ・ストライクを許さない。
自然の《蟲偵電融 ゼノジェント》は6コスト。これは《異端流し オニカマス》と同様の《地神エメラルド・ファラオ》であれば、G・ストライクをも貫通する。
火の《炎機混成 ボルスレン・バスター》は《傾国美女 ファムファタァル》。自軍全体にスピードアタッカーとパワード・ブレイカーを付与する。
そして、光のカードはあの《龍風混成 ザーディクリカ》。
アルカクラウンを巻き込み、あのときは活躍しなかった《無限王ハカイ・デストロイヤー》として超無限進化を遂げてバトルゾーンに登場する。
その効果は、ブレイクしたシールドの呪文を全て、自由に唱えることができるというもの。
ファムファタァルの効果で4打点となったハカイデストロイヤーが動いてしまえば……めくれたカードからハンデス、盾焼却、呪文縛り……好きなものが好きなだけ起動し、ゲームは終わる。
それを察したのか――リュウは筐体を離れ、手を差し伸べてきた。
「イオナ。お見事だった」
「まあ、今日のところは僕の勝ちだった、ということですね」
†
準決勝に勝利した僕は、そのまま決勝も制して優勝を果たした。リュウの方も、3位決定戦であっさりと勝ったらしかった。
帰り道、僕はマナと一緒にファミレスに来ていた。
「いいんですか、イオナさん。ご飯、リュウさんたちと一緒じゃなくて」
マナは大量にタバスコがかかったピザを、涼しい顔をしながら頬張っている。
「まあ、今日はいいでしょ。また次の機会、ということで」
「再戦がある、ということですか?」
「そうだね」
「ふーん、そうですか」
なんとなくだが、そんな予感がしている。
強いプレイヤーと戦うのは、単純に楽しい。しかし、それは自分もまた強くあればこそ、の話だ。当たり前ではなるが次の勝ちは何処にも保証されていない。勝ち続けるには、常に気を引き締めなければいけないのだ。
「ところでイオナさんに訊きたいんですけど」
マナは一旦ピザを皿に置くと、こんなことを言う。
「イオナさん、チームってどう思いました?」
「ん? チーム?」
元々は自分の4人ぐらいの身内で集まって練習なり研究なりをしていたこともある。それが何らかのチーム名を名乗ればチームということにはなるのかもしれない。どちらかと言えば「グループ名」かもしれないが。
まあ、それは置いておいて。
「今は特に必要性を感じてないかな」
「そうなんですか? それはどうして?」
「え、だって……」
別に困っていないのだ。
「マナがいればそれで済んでるし」
「え? そ、そうですか?」
少し迷ったようにデザート表を眺めるマナに、夕日が差し込む。
明日は北四町のショップで大会があったな……と予定を思い出しながら、僕もフライドポテトを口へと運んだ。
(「メンタル・デュエマ」完。 次回、4-1へ続く)
神結(かみゆい)
Twitter:@kamiyuilemonフリーライター。デュエル・マスターズのカバレージや環境分析記事、ネタ記事など幅広いジャンルで活躍するオールラウンダー。ちなみに異世界転生の経験はない。
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