By 神結
mental
1. 心の・精神の
2. 知略・知力の
また「頭の中で諳んじるもの」を意味することもある。
例:mental arithmetic(暗算)
†
眼前に、何かが迫っている。
そう、トラックだ。
あー、またこのパターンか。3回目ともなると、そろそろ慣れてきたな。
毎回思うのだが、もしこれが本当にトラックに突っ込まれて普通に痛くて単に墓地送りされるパターンだったらどうしよう?
それは単純に怖いし勘弁して欲しいんだよな。
せめてトラックに「異世界転生御用達」とか書いておいてくれないかな。でも書いてあったところでそうなる保証もないんだよな。
で、そんなことを思っているうちに、今回も轢かれた。
†
ふと気が付くと、見覚えのある天井があった。
そう、ここは確か……。
「あ、気付きましたか?」
この声も、聞き覚えがある。というか、よく聞く声だ。
「イオナさん、人の家の前でふて寝するのはやめてください」
「えーっと……」
「わかりましたか?」
「あっ、はい。ごめんなさい……」
やっぱり何故か大地マナ宅の前に転がっていたらしいし、何故か大地マナ宅の天井と向き合ってるし、そして何故か身に覚えのない説教を食らっている。
いや、確かにこれが事実なら僕は謝罪するべきなんだろうけど。
ひとまずここは、話を聞き流しながらこの時間を適当に耐え抜くしかない。
そして一旦流れが変わると、この後の話の展開もだいたい想像がついている。
「それで前に約束していたCSの話なんですが、これから始まるんで一緒に見に行きませんか?」
「ハイ、イキマス」
そう、こうなるわけだ。
†
さすがにそろそろ、自分に降りかかってくる事情というものも薄々気付いてきている。
どういうわけかは理解できないが、僕はトラック激突による異世界転生に巻き込まれ続ける運命らしい。
まあこの世界を”異世界”と呼ぶべきか否かについては厳密には議論があってもおかしくないが(誰が誰と議論するんだ?)、ともかくそういう厄介(厄介の一言で済む問題か?)に巻き込まれている、ということになる。
いや、なんで? 普通に理不尽だろ。
「イオナさん着きましたよ。ここです、ここ」
そして恐らく予想が正しければ、ここでまた見覚えのないデュエマが繰り広げられてる、ということになる。
しかしなんか今回は会場からすごい。
カードショップという呼ぶには明らかに異様で、全体的に暗いのだが部分的にカラフルに光っている。電気屋さんで見かけてるちょっと高いキーボードが、こんな光り方をしているのを見たことある。
とりあえず、マナに案内されながら中に入ってみる。
見た目はこうだけど実は奥は普通のカードショップ……なんてパターンもあるかと思ったが、そんなことはなかった。その光景は、自分も初めて見るようなものだった。
これまでは「なんかよく見たら違うデュエマやっているな」って感じだったけど、今回は明らかに視覚的にわかる。これは知らないデュエマだ。
というのも会場にはゲームセンターに置いてあるような筐体が並んでおり、そこに向かってプレイヤーたちがカードを並べてプレイしているのだ。
やっぱりゲームセンターじゃないか、と思ったかもしれないが、そこは違う。なんとなく会場全体がスタイリッシュなデザイン、ライトアップをされていて、かなり近未来的な光景がそこにはあるのだ。少なくとも、自分が知っているゲームセンターの類ではない。
「向こうで試合やっているみたいなので見にいきましょう」
一体この筐体でどんな試合をしているのかは、演出等も含めて興味があった。
ぱっと見たところ、試合自体は本来のデュエマに近いもののように見えた。筐体に紙のカードを並べながら、それが画面に反映される、といったような具合になっている。
もちろん召喚したSRクラスのカードたちが、モニターを経由して迫力のある演出で召喚されているのはやはりかっこよかった。
が、よくよく目を凝らすと妙なことに気付く。
「7マナで《龍素記号Sr スペルサイクリカ》を召喚します」
そう言ってカードを盤面に置くと、確かにモニターには《龍素記号Sr スペルサイクリカ》が映っている。SRカードということも手伝って、かなりカッコいい召喚エフェクトが表示された。
だが、よくよく見るとやっぱりおかしいのだ。
彼が「サイクリカ」として召喚したカードをよく見ると明らかに「サイクリカ」ではない。確かあのカードは《森海縫合 デスブレード・オリオン》。かなり最近のカードではあるが、それはそれとしてマイナーカードではあるため、恐らくシールド戦に積極的に参加していたプレイヤーでもないと覚えていないだろう。
対して、返しの相手プレイヤーの選択はというと、5マナ払っての《ジャミング・チャフ》。多分、サイクリカで手札に戻った呪文を抑止するための選択なのだろう。
もしやと思って反対側の墓地を除いたが、墓地に置かれているカードはやはり《ジャミング・チャフ》などではない。《アブソリアス・ガード》とかいう、こちらも思わず効果を確認してしまいたくなるようなカードだった。
「マナ、あのカードってサイクリカじゃないよね?」
「え? どう見たってサイクリカですよ?」
「いや、あの盤面に置いてるカード、デスブレード・オリオンにしか見えないんだけど……」
「??? 元のカードがどうかは知らないですけど、水の7コストのカードであれば、それはサイクリカですよ。あと《ガンリキ・インディゴ・カイザー》でもありますし、《知識の包囲網》でもありますし、《サイバー・I・チョイス》でもありますね」
…………?
「イオナさん、もしかしてまた寝ぼけてますか? いま私たちは令和をときめく『メンタル・デュエマ』をしているんですよ?」
「メンタル・デュエマ?」
†
1. 40枚のランダムなデッキが筐体から排出されます。現在は王来篇第1弾からランダムに40枚、という感じになっています
2. シールド、手札を準備して試合開始です
3. カードをプレイするとき、そのカードと同じマナ・文明を持つカードとしてプレイします。逆にそのカードとしては使うことができません(例:《異端流し オニカマス》は水文明の2コストのカードとして使用可能。クリーチャー・呪文等を問わないので、《貪欲な若魔導士 ミノミー》や《スパイラル・ゲート》などとしてプレイできるが、逆に《異端流し オニカマス》そのものとして召喚することは不可能)
4. 誰かが一度でもプレイしたカードはそれ以降使うことはできません。しかし、一度使って墓地に置かれたカードなどは筐体に”そのカード”として記録されるため、再利用が可能です(例:《蒼き団長 ドギラゴン剣》を《スパイラル・ゲート》でバウンスされたが、《蒼き団長 ドギラゴン剣》として記録されたカードは手札に戻っても《蒼き団長 ドギラゴン剣》のままになる)。
5. あとは普通にシールドがない状態でダイレクトアタックを決めれば勝ちです!
†
「みたいなゲームです!」
「なるほど、そうきたか」
「席も空いてるみたいなんでちょっと対戦しませんか?」
まあ、百聞は一見にしかずとか習うより慣れろとかそういう言葉もある。ここで使うのに相応しい言葉かはちょっと微妙だけど。
筐体のゲームはそんなに経験があるわけではないが、直感的な操作はわかった。とりあえずIDカードみたいなのをかざす必要があるみたいだが、仮のものでもいいらしく筐体に備え付けてあったカードで済ませた。
ゲームが起動し、それと同時に筐体からカードが排出される。
カードを見ていくと王来篇の第1弾「王星伝説超動」のカードのようだった。内容を確認してみると、パックを剥いて出てきた40枚、といった具合にランダムにカードが入っていた。イメージとしては、「トッキュー8」みたいな感じだ。
「じゃあ、始めましょうか」
山札やシールドをセットするとカードが筐体に読み込まれ、映像としてモニターに表示される。単純にカッコイイし、技術力のもの凄い進歩を感じる。
手札を見ると「まあこうなるよな」といった感じの内容だ。シールド戦の方がまだ整っている。まあ実質的なトッキュー8なのでしょうがない。
マナの先攻でゲームが始まったが、やっていて気付いた。
このゲーム、思ったより難しい。
というか、カードがぱっと出てこないのだ。
もちろん実戦レベルのカードであれば、名前を聞けば効果などを簡単に答えることはできるのだが、このゲームは言うならば“逆引き”なのだ。
適切な状況で適切なカードを選び出してこなきゃいけないし、手札にカードがある時点から先の展開を呼んでカードをイメージしておかなきゃいけない。
当然、カードプールは同じなので相手に先にそのカードを使われることもある。そうなると、プランを練り直さなきゃいけない。
ちなみに引いた《とこしえの超人》を《ベイB ジャック》としてプレイしようとしたが、認識できないカードとして弾かれた。やっぱり、この世界でもダメなものはダメ、ということのようだ。
盤面はというと、マナの小型の優秀なクリーチャーたちにボコボコにされて、風前の灯火である。
このゲーム、トリガーを宣言し放題だからビートが弱いと思っていたんだけど、《猛菌 マリフラ-1》が《異端流し オニカマス》になって、《Disライター》が《単騎連射 マグナム》になって、《Disタルー》が《正義の煌き オーリリア》になって出てきたら流石にキツイに決まってるんだよな。
あと地味に今後のためにそのカードを温存しておいたりというプレイもあるから、案外ここのトリガーって打ち損かもしれない、という場面もある。「トリガーとして唱えると1面処理だけど、自分のターンで使ったら2面処理出来る」みたいな場面はそこそこありそうだ。結構深い。まあいまはどっちにしろ、メタカードに止められてるんだけど。
とりあえず《王来英雄 モモキングRX》を《無双竜鬼ミツルギブースト》と言いながら、一旦《正義の煌き オーリリア》を割る。
が、マナは別な動きも用意していた。
「5マナで《異端流し オニカマス》を《超奇天烈 ギャブル》に進化させます」
《未来覇王 ググッピー》が、《超奇天烈 ギャブル》として召喚れた。
説明しておくと、このカードは相手の山札を上から5枚見て、その中の呪文を1枚選んで撃てる、というものだ。
「え、これってちなみにどうなるの?」
「イオナさんの山札を見て、そっから好きな呪文を撃ちます」
「いや、そうなんだけど、例えば光の5コストのカードが見えたら『あっ、これで《ジャミング・チャフ》です』って言って唱えられるってことでいいの?」
「当然、そうなりますね」
え、強くない? 《ホーガン・ブラスター》とかより期待値凄いじゃん。
というわけで山札の上から5枚を見る。デカい数字は勘弁してくれと祈ってみたが、めくれた中に《ゲンムエンペラー <デスザ.Star>》が混ざっていた。
そう、闇の7コストである。
流石にこのコストがマズいのは、今日このゲームを始めた僕でもよくわかる。
「あ~、闇の7コストだと《デビル・ハンド》が撃てちゃいますねぇ~~。どうしよっかなぁ、撃っちゃおうかなぁ~~~」
「やめろやめろわざとらしい」
ニコニコしているマナ。本当に楽しそうである。
人間、マウントを取ったときが一番楽しいのだ。
「あ!!!! そうだ!!!! いいカード思い付きました!!! ここで《ロスト・ソウル》を撃つ、なんていうのはどうでしょうか???」
「わかったわかった」
「じゃあお言葉に甘えて、《ロスト・ソウル》で」
Wブレイクも通り、ほぼほぼ負けである。
さすがに投了か……と思い、一応ドロー。
「何か引けましたか?」
引いたカードは、《龍風混成 ザーディクリカ》。
一瞬、目を奪われた。すわ逆転か、と思ったが、すぐ冷静になる。
メンタル・デュエマは、引いたカードをそのカードとして使うことはできない。要するに、ザーディクリカをザーディクリカとして使うことはできないのだ。
だから《S・S・S》なら《龍風混成 ザーディクリカ》になるスーパーカードだけど、逆はそこまでスーパーなカードではないのだ。
そして、僕は5c系のデッキを作ったときに調べたことがある。そもそも、火水光という3色カラーのカードが極端に少ないこと。そして7コストともなると――
「マナ、一応確認なんだけどさ。僕の記憶してる限りだと《龍風混成 ザーディクリカ》を引いたときにプレイできるカードって、《S・S・S》を除くと……」
「はい、《無限王ハカイ・デストロイヤー》だけですね」
「…………」
いや、無理だろ。
僕の盤面に、クリーチャーはいない。
「えーっと、投了で……」
「やったー! 楽しいですよね、このゲーム。ほら、次の試合始めますよ、イオナさん」
こうして僕は、この日マナにボコボコにされ続けたわけである。
メンタル・デュエマ、深い。
(次回、3-2へ続く)
神結(かみゆい)
Twitter:@kamiyuilemonフリーライター。デュエル・マスターズのカバレージや環境分析記事、ネタ記事など幅広いジャンルで活躍するオールラウンダー。ちなみに異世界転生の経験はない。
『異世界転生宣言 デュエル・マスターズ「覇」』バックナンバーはこちら!!