パイオニア新妄想紀行 vol.4 ~他のフォーマットのデッキを再現しよう~

By まつがん

1. プレイヤーズツアーによる環境の進展

2月の前半に、日本・ヨーロッパ・アメリカという3か所でパイオニア+『テーロス還魂記』ドラフトのプレイヤーズツアーが開催された。
 
多くのプロプレイヤーたちが環境を研究し、それぞれに洗練されたデッキを持ち込んだ結果、メタゲームは刷新された。
 
ここでは、プレイヤーズツアー後に活躍を見せているデッキをいくつか紹介しておこう。
 
『サンプルデッキ:青黒真実を覆すものコンボ (djbmppwns チャレンジ3位)』

枚数 カード名(メインボード)
5 《島》
2 《沼》
4 《湿った墓》
2 《異臭の池》
4 《寓話の小道》
4 《水没した地下墓地》
2 《詰まった河口》
1 《イプヌの細流》
1 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》
3 《タッサの神託者》
4 《真実を覆すもの》
4 《選択》
4 《致命的な一押し》
4 《思考囲い》
2 《検閲》
2 《思考消去》
1 《神秘の論争》
1 《英雄の破滅》
4 《時を越えた探索》
1 《海の神のお告げ》
1 《覆いを割く者、ナーセット》
4 《神秘を操る者、ジェイス》
枚数 カード名(サイドボード)
3 《神秘の論争》
2 《ヴリンの神童、ジェイス》
2 《喪心》
2 《軍団の最期》
2 《減衰球》
1 《タッサの神託者》
1 《ゲトの裏切り者、カリタス》
1 《英雄の破滅》
1 《覆いを割く者、ナーセット》

 

 
3つのプレイヤーズツアーで最も流行し、かつ結果を残したのが青黒《真実を覆すもの》コンボというデッキタイプである。《真実を覆すもの》は自分のライブラリーを追放して代わりにその時点での墓地をライブラリーにするという効果だが、ライブラリーの枚数が極端に減少するので、《タッサの神託者》や《神秘を操る者、ジェイス》の特殊勝利条件を一気に満たしてしまえるコンボになっている。
 
このアーキタイプの強みはベースが青黒コントロール軸になっていることで、《思考囲い》や《致命的な一押し》で序盤をしのいで《時を越えた探索》で中盤に一気にコンボパーツを揃え、終盤になる前に《真実を覆すもの》を着地させて唐突に解答を迫ることができる。そして大抵、このコンボに対する解答は存在しないのだ。
 
『サンプルデッキ:バントスピリット (原根 健太 プレイヤーズツアー・名古屋優勝)』

枚数 カード名(メインボード)
2 《島》
2 《平地》
4 《繁殖池》
4 《神聖なる泉》
4 《寺院の庭》
4 《植物の聖域》
4 《氷河の城砦》
4 《霊廟の放浪者》
2 《幽体の船乗り》
4 《至高の幻影》
4 《鎖鳴らし》
4 《無私の霊魂》
4 《ネベルガストの伝令》
4 《天穹の鷲》
4 《呪文捕らえ》
2 《厚かましい借り手》
4 《集合した中隊》
枚数 カード名(サイドボード)
4 《拘留代理人》
4 《神秘の論争》
2 《蔓延するもの》
2 《安らかなる眠り》
1 《大天使アヴァシン》
1 《軽蔑的な一撃》
1 《残骸の漂着》

 

 
前回も載せていたように、プレイヤーズツアーの前はスピリットといえば青白が主流だった。だが継戦能力に不安があったり後手番の際の脆さがあったりしたところ、そうした弱点を《集合した中隊》で補い、名古屋で開催されたアジア大会での優勝を見事勝ち取ったのがバントスピリットだ。
 
このデッキはプレイヤーズツアーの優勝後もほぼリストが変わらず使われ続けており、75枚の完成度の高さが窺える。赤いデッキが少ないタイミングで持ち込むと良さそうだ。
 
『サンプルデッキ:タカオーラ (kiyoaggro プレリミナリー5-0)』

枚数 カード名(メインボード)
6 《平地》
4 《神無き祭殿》
4 《秘密の中庭》
4 《コイロスの洞窟》
4 《恩寵の重装歩兵》
4 《命の恵みのアルセイド》
4 《憎しみの幻霊》
4 《上級建設官、スラム》
2 《騒音のアフィミア》
4 《ケイラメトラの恩恵》
4 《天上の鎧》
4 《結束のカルトーシュ》
4 《グリフの加護》
4 《歩哨の目》
4 《きらきらするすべて》
枚数 カード名(サイドボード)
4 《浄光の使徒》
4 《静寂をもたらすもの》
4 《死の重み》
2 《試練に臨むギデオン》
1 《脳蛆》

 

 
MPLプレイヤー・行弘 賢が使用し、アジア大会で惜しくも準優勝となった日本発のアーキタイプ。《命の恵みのアルセイド》《憎しみの幻霊》《ケイラメトラの恩恵》《騒音のアフィミア》《歩哨の目》と実に5種類もの新カードを採用しており、『テーロス還魂記』のカードを最もうまく使ったデッキと言えるだろう。
 
一見コモンとアンコモンを集めた弱そうな束のようで、常に相手より多い手数を使ってシナジーを爆発させることができるよう計算されたカードチョイスになっている。
 
専用機に見えてプレイヤーズツアー後も結果を残しており、強力なアーキタイプとして環境に定着している。
 
『サンプルデッキ:白単信心 (misonikomi プレリミナリー5-0)』

枚数 カード名(メインボード)
17 《平地》
3 《のどかな農場》
2 《アーデンベイル城》
3 《ニクスの祭殿、ニクソス》
4 《歩行バリスタ》
4 《スレイベンの検査官》
4 《白蘭の騎士》
2 《太陽に祝福されしダクソス》
2 《族樹の精霊、アナフェンザ》
1 《高名な弁護士、トミク》
4 《太陽冠のヘリオッド》
4 《秘儀術師のフクロウ》
2 《不可解な終焉》
4 《停滞の罠》
1 《きらきらするすべて》
1 《エルズペス、死に打ち勝つ》
3 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》
枚数 カード名(サイドボード)
3 《安らかなる眠り》
3 《試練に臨むギデオン》
2 《異端の輝き》
2 《不可解な終焉》
2 《ギデオンの介入》
1 《耳の痛い静寂》
1 《封じ込め》
1 《エルズペス、死に打ち勝つ》

 

 
パイオニアで《真実を覆すもの》以外にもう一つある2枚コンボ、「《太陽冠のヘリオッド》+《歩行バリスタ》」をコンセプトに据えたデッキ。
 
相手にしているとコンボをちらつかせながら破壊不能だったり無限に続くリソースだったりで力強く殴ってくるので、コンボに備えて除去を温存するのはなかなかに難しい。マナが足りないから死なないと思っても《のどかな農場》が絡んで一瞬で死んだりもするので、鈍重に見えて意外とシャープなデッキだ。
 
『サンプルデッキ:スゥルタイ昂揚 (yoman5 チャレンジ4位)』

枚数 カード名(メインボード)
2 《森》
1 《島》
1 《沼》
4 《繁殖池》
4 《草むした墓》
2 《湿った墓》
3 《寓話の小道》
4 《花盛りの湿地》
1 《植物の聖域》
1 《イプヌの細流》
1 《歩行バリスタ》
4 《サテュロスの道探し》
2 《ヴリンの神童、ジェイス》
1 《漁る軟泥》
1 《脳蛆》
4 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
2 《クルフィックスの狩猟者》
2 《不屈の追跡者》
1 《残忍な騎士》
1 《墓後家蜘蛛、イシュカナ》
1 《約束された終末、エムラクール》
4 《ウルヴェンワルド横断》
4 《致命的な一押し》
4 《思考囲い》
2 《突然の衰微》
1 《忌まわしい回収》
1 《最後の望み、リリアナ》
1 《世界を揺るがす者、ニッサ》
枚数 カード名(サイドボード)
3 《神秘の論争》
2 《漂流自我》
2 《虚空の力線》
2 《減衰球》
1 《不屈の追跡者》
1 《再利用の賢者》
1 《ゲトの裏切り者、カリタス》
1 《軽蔑的な一撃》
1 《害悪な掌握》
1 《魔女の復讐》

 

 

 
ヨーロッパのプレイヤーズツアーで優勝し、一躍注目を浴びたアーキタイプ。3色だが《ウルヴェンワルド横断》と《サテュロスの道探し》で安定したマナベースで戦えるのと、《自然の怒りのタイタン、ウーロ》を中盤の潤滑油兼終盤のフィニッシャーとして運用できるのが強みだ。
 
……といったメタゲームの最先端の事情はすべて一切無視することにして、今回もいつも通りメタゲームの最底辺で元気にクソデッキを作っていくとしよう。
 

2. Red Storm

『エルドレインの王権』に、《僻境への脱出》というカードがある。

▲《僻境への脱出》

スタンダードではたまに使われているカードだが、こうした「山札の上から数枚を追放して唱えられるようになる呪文」というのは、他にもパイオニアでいくつかバリエーションがあることに気づいた。

▲《衝動的な行動》
▲《ハゾレトの終わりなき怒り》

《衝動的な行動》《ハゾレトの終わりなき怒り》は、レガシーでは《ルビーの大メダル》や《覚醒の兜》を使用した赤単ストームなどでも活躍している。
 
ここで、デッキコンセプトとは再現性のある動きのことだ。同様の役割を果たすカードが数種類あるなら、それらをまとめてデッキに放り込めば (実際に回るかどうかは別として) コンセプトになる。
 
そして「山札の上から数枚を追放して唱えられるようになる呪文」はパイオニアに幾種類も存在する。
 
ならば。

▲《ゴブリンの電術師》

パイオニアでも赤単ストームが組めるのでは???
 
赤い呪文しか入れなければ《ゴブリンの電術師》は実質《ルビーの大メダル》(?) になる。
 
だが、《炎の儀式》などのマナを増やす手段がないという点がネックとなった。山札の上を追放する呪文で次なる呪文をめくることはできても、呪文のコストを軽減するだけではマナはいずれ尽きてしまう。
 
つまり、0からマナを生み出せるカードが必要なのだ。
 
しかし、モダンですら《炎の儀式》《煮えたぎる歌》といったマナ加速カードが禁止となっている現状、近年のスタンダードの延長線上にあるパイオニアにそんな壊れたマナ加速呪文があるはずもない。
 
それでも、私は答えを求めて探し続けた。
 
そして、運命の邂逅を果たしたのである。

▲《遁走する蒸気族》
▲《双つ身の炎》

《遁走する蒸気族》を《双つ身の炎》でコピーしたらマナが増えまくるのでは???
 
《双つ身の炎》はパイオニア環境でも最軽量クラスでクリーチャーをコピーできる呪文であり、「奮励」で対象を増やすことができるのでついでに《ゴブリンの電術師》をコピーしておくとその後の呪文連打が楽になる。
 
そうして「山札の上から数枚を追放して唱えられるようになる呪文」を連打しながら《遁走する蒸気族》と《ゴブリンの電術師》をどんどんとコピーして増やしていき、最後は大量のマナから《苦悩火》を打てばフィニッシュだ。
 
というわけで脳内でできあがったのがこちらの「Red Storm」だ!
 
『Red Storm』

枚数 カード名(メインボード)
1 《山》
4 《蒸気孔》
4 《踏み鳴らされる地》
4 《マナの合流点》
4 《尖塔断の運河》
3 《シヴの浅瀬》
4 《遁走する蒸気族》
4 《ゴブリンの電術師》
1 《苦悩火》
4 《胸躍る可能性》
4 《双つ身の炎》
4 《舞台照らし》
4 《衝動的な行動》
2 《正気の欠片》
4 《海賊の略奪》
4 《僻境への脱出》
1 《思考閃光》
4 《ハゾレトの終わりなき怒り》

 

▲《致命的な一押し》
▲《胸躍る可能性》

……無論《致命的な一押し》が環境最強除去としてのさばっている環境で《ゴブリンの電術師》も《遁走する蒸気族》も生き残れるはずもなく、現状このデッキはほぼ一人回し専用のおもちゃデッキではあるのだが、新カードによってクリーチャーに依存しない構築ができるようになれば、デッキとして完成する日が来るかもしれない。そんな《胸躍る可能性》を感じさせるアーキタイプだ。