かいりきベアさんの曲作りに迫る!
2020年9月のサービスイン以来、コロコロオンラインがひたすら追い掛け続けているセガ×Colorful PaletteのiOS/Android向けアプリ『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』。
リリース当初からこのコンテンツを追いかけてきたコロコロオンラインプロセカ班は、2023年10月に『プロセカ』3周年を記念した大特集を実施するなど、担当からほとばしる圧倒的な“プロセカ愛”をカタチにし続けてきた。
そんなコロコロオンラインプロセカ班がとくに情熱を注いで追っているのが、このゲームの根幹でもある楽曲……そして、それを制作されている“ボカロP”と呼ばれる“才能たち”であります!!
“子どもが将来なりたい職業ランキング”において、ゲームクリエイターやユーチューバーらと並んでボカロPが上位にランクインし、コロコロの読者層との親和性もめちゃくちゃ高いということで、前述のプロセカ1周年特集の際にボカロ界のビッグネームにつぎつぎとインタビューを敢行!! その内容の濃さは業界内外に衝撃を与え、このたび……不定期連載で、さらに多くのボカロPの皆様にご登場いただき、ナマの声をお届けできることになったのです!!
『プロセカ』はゲーム内容はもちろん、楽曲のすばらしさが高く評価されて現在の人気を確立したと言っても過言ではない。それらを生み出したボカロPたちの考えかた、作品への向き合いかたを掘り下げたこのインタビュー連載を読まれることで、ゲームを遊ぶだけでは知りえない情熱や、楽曲に対する想いを知ることができるはずだ。その結果……さらに登場キャラやユニット、『プロセカ』そのもののことが好きになること請け合い!!
そしてインタビューの後半では、“いかにしてボカロPになったのか?”という、将来この道に進みたいと思っている読者の皆様の道しるべになるような質問もぶつけているので、とにかくあらゆる人たちに読んでいただきたいなと!!
さて今回ご登場いただくのは、“25時、ナイトコードで。”(ニーゴ)にオリジナル楽曲『バグ』を提供された“かいりきベア”さんだ。
『バグ』が書き下ろされたイベントストーリー“迷い子の手を引く、そのさきは”は、朝比奈まふゆの心が壊れてしまった根本のエピソード……つまり心の原風景が語られるイベントストーリー。子ども心に遊園地のマスコットキャラクターに惹かれて、母親のもとを離れてしまったまふゆ。迷子になってしまったわけだが、幸いなことにすぐに母親と合流することができたが、まふゆ母が放ったひと言は、「どうしてお母さんの言うことを聞かなかったの?」という苛烈なもの。ここから、まふゆ母の“優しい束縛”が始まる……。
この、衝撃的な物語に書き下ろされた『バグ』は、2024年6月現在で再生数4300万超。数ある『プロセカ』の楽曲の中でも最高の数字を記録している。そんな『バグ』はどのようにして作られたのか? かいりきベアさんに、じっくりと語ってもらったぞ。
※インタビューはオンラインで実施したものです。
“バグ”の意味とは?
――今回、インタビューで詳しくお話を聞く『バグ』は、2024年6月現在において『プロセカ』のオリジナル楽曲の中で最高の再生数を記録。我々取材班も、非常に気合が入っております!
かいりきベア 恐縮です(笑)。よろしくお願いいたします。
――こちらこそ、よろしくお願いいたします! そんなかいりきベアさんにコレをお聞きするのはたいへんおこがましいのですが、簡単に自己紹介を……!
かいりきベア わかりました。ロックミュージックをこよなく愛するギタリスト、かいりきベアと申します。よろしくお願いいたします。
――ありがとうございます! では、まずは『プロセカ』から楽曲制作の依頼が来たときのことを振り返っていただきたいのですが、どんな心境になられましたか?
かいりきベア じつは……。「いい曲を作らなければ!」というプレッシャーに押しつぶされまして……!
――押しつぶされたんですか……!
かいりきベア はい。やっぱり締切があるので、睡眠中にかなり寝言……というか、うなされていた記憶があります。ですので完成するまでは、つねに重圧を背負いながら生きていた感じになりますね……。でも、プレッシャーを感じようがへっちゃらだろうが作らないといけないわけで、当時はかなり精神にキテいたはずです。
――かいりきベアさんはそれまでにも、『ベノム』、『ダーリンダンス』という代表曲が『プロセカ』に収録されていますよね。そういった楽曲の収録のときとは、まったく違う心境になっていたわけですね。
かいりきベア もう、ぜんぜん違いましたね。もともとできている楽曲を実装するのではなく、今回は完全オリジナルかつ登場人物に深くかかわってくるストーリーに合わせた曲……という依頼でしたから。「これはどうしたもんだろう……」と思い悩みつつ、「でもがんばらなきゃ!」という狭間でプレッシャーを感じていました。
――そのストーリーという点についてですが、『バグ』を書き下ろされたユニットはニーゴです。彼女たちを初めて見たときに、どんな印象を持たれましたか?
かいりきベア やっぱり立ち位置的にもビジュアル的にも、他のユニットとは一線を画している印象を受けました。ひと言で言うなら“ただならぬ雰囲気を漂わせる存在”ということになりますかね。それと、気になったのがユニット名。“25時、ナイトコードで。”という名前の構成も他のユニットと違って、すごく目を引いたんです。
――おお、ユニット名に。
かいりきベア はい。このユニット名だけは、ニーゴのことを深く知る前から目にしていたんですけど、そのときからとてつもなく惹きつけられていたんです。なんだか……まるで、触れてはいけないパンドラの箱を開けてしまいたくなるような、そんな魅力を感じたんですよね。
――わかる気がします。ニーゴって、とてつもなくミステリアスというか、触っちゃいけない雰囲気がありますもんね。
かいりきベア まさに! そんな、ちょっと近寄りがたい空気感に魅力を感じました。
――そんなニーゴの中で、『バグ』が書き下ろされたイベントストーリー『迷い子の手を引く、そのさきは』のキーキャラクターは朝比奈まふゆです。彼女には、どんな印象を持たれましたか?
かいりきベア 資料やストーリーを読ませていただいたとき、まふゆが直面している数々の苦労を知って、こちらが辛くなってしまうことがたくさんありました。「どうにか助ける方法はないの!?」と、何度思ったことか……。
――ニーゴは苦しいストーリーが多いですけど、この『迷い子の手を引く、そのさきは』はとくに強烈ですもんね。まふゆと、その背後にいるお母さんとの絡みが顕在化してきますし。
かいりきベア そうなんですよ。どうすればいいんだろう……とプレイヤーに思わせるシーンが非常に多くて、ニーゴのストーリーのシリアスさを強調する物語になっていたと思います。
――そんなイベントストーリーに書き下ろされた楽曲が『バグ』なわけですが……! この楽曲のテーマと、“バグ”が何を指すのかを、ぜひお聞きしたいなと!
かいりきベア まずテーマですが、これはストーリーを読ませていただいたときに、まふゆが感情の行き場を見失ってしまって、頭の中で爆発を起こす……というイメージを思い浮かべました。そこで、この“感情の爆発”をテーマに曲を作ろうと決めたときに、“感情の爆発=バグ”に想いが行きついて、タイトルに採用することにしました。“バグ”についてもっとわかりやすく説明すると、“感情がバグを起こすくらい、心が行き詰ってしまった状態”ということになりますね。
――すごくよくわかりました。というのも、この曲ってファンが非常に熱心に考察をしているので、それを見て「バグは何を指しているんだろう……?」と、いろいろ考えてしまっていたので。“まふゆの感情のバグ”という考察もあれば、一方で“まふゆのお母さんから見て、まふゆがバグってしまっている……という視点なのでは?”なんて解釈もあって、確かにそれもあるなと。
かいりきベア もう、いろいろと考察していただける時点でとてもうれしいですし、読んでいて僕も楽しいです。やっぱり曲を作るときって、僕ひとりで歌詞を考えるわけです。そのときは僕なりの答えを胸に言葉を紡ぐわけですけど、公開した瞬間に何百、何千という人の目にさらされますよね。言ってしまえばそこから、聴かれた方ひとりひとりの解釈が生まれるわけで、そこには作った僕も「なるほどなぁ!」と感心してしまう捉え方もあったりするんです。ですので、リスナーの皆さんの解釈を読んで、逆に勉強させてもらったりしています。本当に、ありがたいです。聴き込んだうえでさまざまな考察をしてくれるコメントは、ただただうれしい限りですね。
▲イベント『迷い子の手を引く、そのさきは』の書き下ろし楽曲としてリリースされた。
――確かに、目から鱗のような解釈も多いですよね。僕が個人的に「おお!」と思ったのが、“まふゆの母から見て、自分の娘を音楽で誘惑する奏たちがバグなのではないか?”という考察。言われてみれば、そういう見かたもあるのか! と思いました。
かいりきベア それは、すごくおもしろいですね! 確かに、そう捉えることもできると思います。
――ですよねーー!
かいりきベア この『バグ』に書き下ろした歌詞って、かなり抽象的な部分が多いと思うんです。と言うのも、まずは音楽的に、聴いて気持ちいい語呂感を出すために、あえて抽象的なワードを選んでいたりするので。そのおかげもあって、奏たちをバグと捉える……なんていうおもしろい解釈も生まれるのかもしれませんね。作り手としても、非常に興味深い反響を得ることができました。
――おっしゃる通り、想像の余地がすごくある歌詞で、リスナーも自由に聴いている感じがします。
かいりきベア そうなんですよ。僕も、皆さんの反応を心から楽しませてもらっています。
――ではその歌詞なんですけど、作られたご本人的にとくにお気に入りな箇所は?
かいりきベア そうですね。……ひとつ挙げるとしたらサビにある、「的ハズレズレ慈愛 嫌嫌」のところ。ここは、母からの愛情が的外れである……という意味を込めたのと、まふゆ本人が弓道部で的を狙う……という、ふたつの意味を重ねています。この、両者の立ち位置を歌詞に落とし込めたのは、自分的にもお気に入りです。
――掛詞になっているわけですね。
かいりきベア そうですね。まふゆ視点で考えたときに、ふたつの意味を持つ言葉になったんじゃないかなと思います。
――その箇所も含めて、語呂感も重視してワードのチョイスをされていると。
かいりきベア はい、そうです。
※MV画面はバーチャル・シンガーver.のものです。
――でもストーリーと絡めて見ると、すごく意味深な単語が連なっている印象を受けるんです。たとえば「アドミニストレイター嗚呼」とか。管理者……ってことはまふゆの母を髣髴とさせます。あと「抱っこ抱っこいらない子だ」もそうですね。
かいりきベア おっしゃる通りで、そういった単語はストーリーを吟味して選んでいったものですね。
――この曲でもっとも印象的な「パラノイア」もそうですね。
かいりきベア あ、まさに! そこはもう思いっきりストーリーを反映させつつ、かつメロディーにうまくハマる単語はどれかな……ということを考え抜いてチョイスした言葉になります。
――こういった、世界観に合致しつつ印象に残る言葉を紡ぐコツを、ぜひお聞きしたいのですが……!!
かいりきベア いえいえ! お教えできるようなことはとくにないのですが……。そうですね……!
――ごくり。
かいりきベア 僕はいつも、完全にメロディーを作ってしまってから、そこに歌詞をハメていく……という作り方をしているんです。
――はい。
かいりきベア それと、先ほども言いましたけど語感を気にしながら歌詞を考えることが多いので、コツ……と言っていいのかわかりませんけど、低学年の子が使う“あいうえお表”を開いて、「あ」から順番に単語をひとつひとつ眺める作業をしているんです(笑)。たとえば、「“あ”で始まる言葉で、意味が当てはまるものはあるかな……」って、コツコツと……(笑)。
――え!!!
かいりきベア 全部が全部そうじゃないんですけど、そういった作業をすることもよくありますね。
――突然言葉が降ってくることもあれば、そういった……言ってしまえば泥臭いこともされていると!?
かいりきベア そうなんです。意外と、地道な作業のくり返しだったりするんですよね。この『バグ』のときは……降ってきた単語と地味に探し当てた単語は、半々くらいだったかな。もう2年くらい前のことなので、細かいことは忘れてしまいましたが(笑)。
――わかりました! では、ちょっといまの質問とかぶってしまうかもしれませんが、『バグ』の聴きどころをぜひ教えてください。
かいりきベア ではせっかくなので、音の面での聴きどころを挙げたいんですけど……!
――お願いします!
かいりきベア いま聴き返してみても、やっぱりイントロのフレーズがいちばん印象的なのかなと思いました。もちろんサビも、独特な勢いがあるので聴いていただきたいのですが、まずはイントロのピアノフレーズが気に入っているので、ここを挙げておきたいです。
――『バグ』のイントロ、耳に残るんだよなーーー!
かいりきベア ありがとうございます(笑)。ここは、バグを起こした感情が、ピアノの音で鋭い刃になったかのような雰囲気を醸せていると思うので、聴き始めからこの曲の虜になってもらえるような工夫ができたかな……と思っています。
――すごくわかる……! 絶妙に不安を覚える感じが、めちゃくちゃニーゴらしいんですよね。
かいりきベア そう言っていただけてよかったです!
――そしてサビに関しても、「耳から離れない!」といううれしい悲鳴がリスナーから多数上がっていますよね。
かいりきベア サビに関しては、「勢いのいいモノが作れた!」と完成した当初から自負していたので、そのように言ってもらえるのは作り手冥利に尽きます。メロディー的には、すごく音程が上下するので覚えにくいかな……という危惧もあったんですけど、「耳から離れない」という反応をお聞きできて、「こういう作りにしてよかった!」といま改めて感じています。
――今回、インタビューをさせていただくので『バグ』を聴き直したんですが、夕べからサビが脳内でリフレインして止まりません……。
かいりきベア あ、本当ですか! すみません、恐縮です(笑)。
――さて、そんな『バグ』の制作期間が気になるのですが、振り返ってみていかがですか?
かいりきベア 思い返してみると、だいたい通常通りの作業だったかな……と思います。長くかかったわけでもなければ、パパっとできてしまったわけでもなく……という感じで。
――難産だったな……という思いは?
かいりきベア 総合的に考えれば、決して難産ではなかったと思うんです。ただ部分的に、自分で投稿したボカロバージョンのほうなんですけど、セリフで「あはっ」って笑う部分があるんですけど、これがなかなかどうして、ものすごい難産で……!
――「エンドレス病み…?」のあとの笑い声ですね……!
かいりきベア はい。これをボカロに、どういうテンションで発音させればいいのかな……と悩みまくったんです。不自然さのないバグった様子を表現したいと思い、このひと言のために想像以上の時間を費やしてしまいました(苦笑)。
――それこそ、クリエイターのこだわりなんですねぇ……! でも、それほどこだわった『バグ』がゲームに実装されるわけですけど、初めて見たときはどのように思われましたか?
かいりきベア これはもう、「うれしい!!」という感情に尽きますね。
――ご自身でもプレイをされましたか?
かいりきベア はい、遊ばせてもらいました。
――『バグ』は、かなり難度が高い曲だと思いますが。
かいりきベア そうですね。……でも僕、音ゲーを夢中で遊んでいたのってかなり昔なんですよ。なので正直、『バグ』に限らず、「最近の音ゲーって、全部難しいな!!」って思いました(笑)。
――(笑)。では、公開後にたくさんの反響があったと思いましたけど、何か印象に残っていることはありますか?
かいりきベア いただいたコメントや考察は、すべてがうれしかったです。というのも、リスナーの反応を見るまでは不安のほうが大きかったですから。(この歌詞でよかったんだろうか……?)、(この曲調で大丈夫だろうか……!?)と思っていたので……。僕の曲がリリースされる前から、『プロセカ』にはたくさんのファンがいたわけです。そんな、熱量の高い人たちに認めていただけるだろうか……という気持ちは、ずっと心にありましたから。
――あー……!
かいりきベア なので、公開されてからの皆さんの反応を見て、本当にホッとしました。
――そんなファンのコメントで目立つもののひとつに、「この曲を歌いこなせる声優さんもスゴイ!」というものがありました。
かいりきベア 僕が言うのもなんですけど、非常に共感するコメントです(笑)。
――あはは。ですよねーーー!
かいりきベア レコーディングにも立ち会わせていただいたんですけど、声優の皆さんが『バグ』をすごく聴き込んでくださっていて感動したんです。皆さんの言う通り歌うのが非常にたいへんな曲なので、現場に行くまでは正直、大丈夫かな……なんて思ったりもしていたんですよ。ところが、いざレコーディングが始まったら……皆さん、完全に歌いこなされているんです! これには、本当にビックリしました。『バグ』は本気で一線を画するくらい難しい曲だと思うので、歌いこなしていただいて心から嬉しかったです。
――わかりました! では、そんな『バグ』が大好きなファンに、ぜひひと言お願いいたします。
かいりきベア 『バグ』を書き下ろしたイベントストーリーもそうなんですけど、やっぱり生きていると誰しもが、何かにストレスを感じたり立ちいかなくなったりすると思うんです。そんなときは『バグ』を聴いていただいて、行き場をなくした感情を発散してもらえたらなと思います。ぜひノリノリで聴いていただけたらなと!
▲バグは3DCGライブ“プロジェクトセカイ COLORFUL LIVE”やゲーム内バーチャルライブ“コネクトライブ”でも披露され、観客を大いに盛り上げた。
――ありがとうございます! ではここから、将来の夢として「ボカロPになりたい!」と思っている人たちのために用意した質問にお答え願えればなと……! まずは……かいりきベアさんが、ボカロPになられたきっかけを教えてください!
かいりきベア わかりました。僕はボカロPになる前はバンドでギタリストをやっていたんですけど、これがなかなか人気が出ませんで……。売れる人なんて本当に一握りなんだな……と、人生はままならないことを実感したんです。
――はい。
かいりきベア そんなときに、初期のニコニコ動画に出会いました。そこでは初音ミクが活躍していて、まもなく鏡音リン・レンも出てきてさらに盛り上がっていく……と現象をリアルタイムで見ていたわけですけど、そんなキラキラとした時代を目の当たりにし続けた結果、「自分もやるしかないな!」と思いました。
――へぇ~~~!!
かいりきベア そこで初めてボカロに触ったんですけど、コレが……ものすごくおもしろくて! 一気に引き込まれていくんです。たとえば、生身の人間じゃ絶対に歌えない速さで歌唱できたり、初音ミクを始めとする各バーチャル・シンガーの個性が際立っていて親しみやすかったり。そのおもしろさとキャラクター性にどっぷりとハマって、気づいたときにはボカロPになっていました。
――ボカロの黎明期から、その時代を見ていたんですね。
かいりきベア そうなんです。2007年から聴いていましたね。当時はまだバンド活動をしていたんですけど、「このままバンドを続けたい」という気持ちと、「本格的にボカロをやろう」という気持ちが、徐々に移り変わっていく感じを覚えていました。
――ボカロのソフトは、すぐに使いこなせるようになったのですか?
かいりきベア いやもう、昔の曲を聴き返すと、やっぱりぜんぜんよくできていないなと思います(苦笑)。それを考えると、やっぱり少しずつ少しずつボカロというものに慣れていって、自分なりの手法を見つけていったんだろうな……って思いました。
――そこでぜひお聞きしたいのが、ボカロPになるために必要なスキルです! 何かヒントを教えていただけるとうれしいのですが……!
かいりきベア これ、事前に質問をいただいてから考えてみたんです。でも、僕は楽譜の速読なんてできませんし、楽器を弾けないボカロPもたくさんいます。それを考えると、絶対に必要なスキルって、じつはないんじゃないかなって思ったんです。具体的に必要なのはボカロのソフトだけなので、その資金をいかに調達するか……ってところに帰結するんじゃないかなと(笑)。
――なるほどーーー!(笑)
かいりきベア お年玉とかを貯めて自分の力で購入するのが正攻法だと思います。でも親御さんに買ってもらうなら、いかにして納得してもらうか……という理論武装がカギになるんじゃないかなと感じました。
――あの……かいりきベアさんは、バンドをされる前から音楽はやられていたのですか?
かいりきベア あ、そうですね。その前からギターを弾いていました。小さいころからやっていたわけではなく、学生時代からですけど。
――形から入る子だと、やっぱり「まずは楽器を!」と考えたりすると思うんです。そんな子たちにオススメするとしたら、どんな楽器になりますか? ギターですかね?
かいりきベア いや! ギターはオススメしないです! ていうか、楽器をわざわざ習う……というところはすっ飛ばして考えてもいいんじゃないかな、って。それよりも、いまの時代はパソコンか、スマホでも作曲ができるので、そういった機器の操作を覚えることに時間を使うのがいいのかなと思います。子どものころから打ち込みの操作を覚えたら、めちゃくちゃ有利になりますからね。
――まずパソコンと仲良くなろうと。
かいりきベア まさに、おっしゃる通りです。パソコンと、ソフトの操作に慣れてしまうのが何よりも大事だと思います。
――ちなみに、「音楽をたくさん聴いておいたほうがいい」という意見もかなり多いのですが。
かいりきベア はいはい、ありますよね。
――これについては、どうお考えですか?
かいりきベア 僕は、それほどこだわらなくていいと考えているんです。好きになった曲だけをひたすら聴く……という、自然な流れに任せてしまっていいんじゃないかな、って。というのも、勉強のために無理矢理にでも音楽をたくさん聴くと、凝り固まった音しか作れなくなってしまうのでは……と、ちょっと危惧してしまうんです。これは、“どういったボカロPになりたいのか”という目指す先によって変わってくるとは思うんですが、たとえば誰の耳にも残るようなキャッチーな曲を作りたいと考えるのであれば、あまりマニアックな方向には進まないほうがいいのかなと。そしてそういうブレが生まれてしまうくらいなら、無理していろいろなジャンルの音楽を聴く必要はないと考えます。
――これはおもしろい視点だなーーー! 確かに、知識がある分いろいろなところに引っ張られることって、音楽に限らずありますもんね。ボカロPさんごとにさまざまな考え方があって、非常におもしろいです。
かいりきベア でも、このインタビュー連載をすべて読んだら、逆に迷っちゃうかもしれませんね。「けっきょくどうしたらいいの!?」って(苦笑)。
――そこはもう、自分に合った手段を選択してもらいましょう!
かいりきベア あはは。そうですね(笑)。
――では、ボカロPになってよかったと思うことがありましたら、ぜひ教えてください。
かいりきベア これ……じつは初めてお話することなんですけどね。
――!!! ほ、ホントですか……? ごくり。
かいりきベア バンドをやっていたとき、月の半分……だいたい15日くらいはライブとか写真撮影の仕事があって、髪の毛をカッチカチにヘアメイクしてもらっていたんですよ。
――……は、はい。
かいりきベア そのときに……毛根へのダメージがハンパなかったんです!!! バンドを辞めてボカロPになったときから毛根にムチャをさせることがなくなって、みるみるうちに髪の毛が元気になっていきました! そのときに、「ボカロPになってホントによかった!」って思ったんです!!
一同 (爆笑)
――何をおっしゃるのかと思ったら!!!!(笑)
かいりきベア いやあ、これは切実でしたよ! でも、そうですね……。コロコロの読者層には年齢的に、ちょっとピンとこないかもしれませんね。
――僕個人には、すごく刺さりました。
かいりきベア よかった(笑)。「髪の毛をカチカチにしなくても、音楽は続けられるよ!」と書いていただければ幸いです。
――これを読んでいる小学生には刺さらないかもしれないですけど、大人になったときに、「あのときかいりきベアさんが言っていたのは、こういうことか!!」ってわかる日が来るかと思います。
かいりきベア そうですね(笑)。……あの、ボカロPになると横のネットワークが広がって楽しい……なんてこともあるんですけど、それってけっきょく、どんな業界でもいっしょじゃないですか。それよりも、僕が言いたいのは髪の毛のことです。
――そちらを採用させていただきます(笑)。
かいりきベア あはは。ぜひよろしくお願いいたします。
――もうひとつ、ボカロで音楽を作ってみたけど、人に聴かせるのが恥ずかしい……と思ってしまう子がいたりするのですが、そういった場合、どうすればいいですかね……?
かいりきベア ああ、わかります。恥ずかしくてストップしてしまう……って人、たくさんいると思います。でも、ボカロPとして活躍することを目指すならば、曲を完成させて公開することが、その第1歩なわけです。これはもう、絶対的に。
――はい、そうですね。
かいりきベア この、恥ずかしさのハードルを乗り越えられた時点で、同じような夢を持っている人に差をつけて前に進むことができた……と思ってしまっていいです。ですので不協和音が残る楽曲でも、まずは公開しちゃいましょう。
――おおお……!
かいりきベア それにボカロPって、“歌ってみた”のようなジャンルと違って、自分の歌声を世にさらすわけではないじゃないですか。その時点でハードルはすごく低いと思うので、恥ずかしさは突っ切っちゃってください。
――かいりきベアさんは駆け出しのころ、そういう恥ずかしさのようなものは感じなかったのですか?
かいりきベア まったくなかったです。ですのでいま質問されて、(なるほど! 恥ずかしいと感じることもあるんだな!)って、逆に気づかされたくらいです。だって、ライブに出て人前でギターを弾くほうが圧倒的に恥ずかしいですし(笑)。
――なるほど!! ライバルたちに先んじるためにも、恥ずかしさを感じているヒマはありませんね。
かいりきベア はい。本当にそう思います。
――では、そんなボカロPを目指す少年少女に、先達としてぜひエールをお願いいたします。
かいりきベア 子どもたちが「将来はボカロPになりたい!」と言っても、まわりに否定されることがあると思うんです。「意味のわからないことを言って」とか、「続けられるの?」なんて言われて。でも本当にやってみたいのなら、突き進みましょう。ボカロPは、本気で行動すればすぐにでもなれます。否定的な意見には立ち向かって、夢に向かって歩んでください。
――ありがとうございます!! では最後に、『プロセカ』にもひと言お願いいたします。
かいりきベア 僕らがかつて作った曲から最新の楽曲まで、本当に幅広く楽しめる『プロセカ』には心から感謝しています。リズムゲームとしての完成度の高さと、各キャラクターの濃厚なストーリーも魅力的で、僕もいちユーザーとして純粋に楽しませてもらっています。これからどんな未来を見せてくれるのか、今後の運営にも期待しつつ、関わるすべての皆さんのご健勝をお祈りしております。
――わかりました! 本日はお忙しい中、本当にありがとうございました!
かいりきベア
ボカロP「かいりきベア」
作詞・作曲を行うレベルの知能を持つ生命体。
生み出される不可思議な音の合成物には、不安定な魅力が潜んでおり、
奇妙なハーモニーをもたらし、聴く者を病み付きの狂気へと誘い込む。
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タイトル概要
プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク
■対応OS:iOS/Android
■App Store URL:https://itunes.apple.com/app/id1489932710
■Google Play URL:https://play.google.com/store/apps/details?id=com.sega.pjsekai
■配信開始日:配信中(2020年9月30日(水)配信)
■価格:基本無料(アイテム課金あり)
■ジャンル:リズム&アドベンチャー
■メーカー:セガ/ Colorful Palette
■公式Twitter:https://twitter.com/pj_sekai