【プロセカ】ボカロPに直撃! “八王子P”さんが語る“Vivid BAD SQUAD(ビビバス)”と、オリジナル楽曲『RAD DOGS』について!【ボカロPインタビュー企画 #8】

八王子Pさんの曲作りに迫る!

 2020年9月のサービスイン以来、コロコロオンラインがひたすら追い掛け続けているセガ×Colorful PaletteのiOS/Android向けアプリ『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』。

 2021年3月にはハーフアニバーサリーを祝した特集を展開し、

『プロセカ』ハーフアニバーサリー特集は下記の画像をクリック!!
 

 さらに2021年10月には『プロセカ』1周年を記念した大特集を実施するなど、担当からほとばしる圧倒的な“プロセカ愛”をカタチにし続けている。

『プロセカ』1周年記念特集は下記の画像をクリック!!
 

 そんなコロコロオンラインプロセカ班がとくに情熱を注いで追っているのが、このゲームの根幹でもある楽曲……そして、それを制作されている“ボカロP”と呼ばれる“才能たち”であります!!

 “子どもが将来なりたい職業ランキング”において、ゲームクリエイターやユーチューバーらと並んでボカロPが上位にランクインし、コロコロの読者層との親和性もめちゃくちゃ高いということで、前述のプロセカ1周年特集の際にボカロ界のビッグネームにつぎつぎとインタビューを敢行!! その内容の濃さは業界内外に衝撃を与え、このたび……不定期連載で、さらに多くのボカロPの皆様にご登場いただき、ナマの声をお届けできることになったのです!!

 『プロセカ』はゲーム内容はもちろん、楽曲のすばらしさが高く評価されて現在の人気を確立したと言っても過言ではない。それらを生み出したボカロPたちの考えかた、作品への向き合いかたを掘り下げたこのインタビュー連載を読まれることで、ゲームを遊ぶだけでは知りえない情熱や、楽曲に対する想いを知ることができるはずだ。その結果……さらに登場キャラやユニット、『プロセカ』そのもののことが好きになること請け合い!!

 そしてインタビューの後半では、“いかにしてボカロPになったのか?”という、将来この道に進みたいと思っている読者の皆様の道しるべになるような質問もぶつけているので、とにかくあらゆる人たちに読んでいただきたいなと!!

 さて今回ご登場いただくのは、Vivid BAD SQUAD(ビビバス)にオリジナル楽曲『RAD DOGS』を提供された“八王子P”さんだ。

 男女2名ずつの実力派ストリートユニット、ビビバスのイベントストーリー『Period of NOCTURNE』に書き下ろされた『RAD DOGS』は、物語のキーキャラクターである青柳冬弥が直面する葛藤を正面から表現した楽曲だ。クラシックとストリートミュージックの融合を見事に実現したこの曲は、いったいどのようにして生まれたのだろうか?

 3年ぶりのニューアルバム『HIDEOUT』のリリースを8月31日に控えた八王子Pさんに直接お会いし、じっくりと話を聞かせてもらったぞ!

※インタビューは感染対策を徹底して行っております。

クラシックとストリートの融合

--八王子Pさんは、じつは昨年の10月にもコロコロオンラインに登場してもらっているんですよね! 『プロセカ』の1周年を記念したイベントに出演された後に、まらしぃさん、sasakure.UKさんとともにインタビューさせてもらって。

八王子P はい、よく覚えています。またまたありがとうございます!

--ですので改めてになるのですが、簡単に自己紹介をお願いできればなと……!

八王子P わかりました。えー、八王子Pです。ボカロPとしての活動は2009年12月からなので……もうすぐ13年になりますね。ボーカロイドでの制作と並行して、他のアーティストさんへの楽曲提供や、DJとしても活動しております。

--2009年というと、ボカロの初期のころですよね。

八王子P そうなんです。わりと早いうちから活動を始めたほうですね。

--そんな八王子Pさんは『プロセカ』にオリジナル楽曲『RAD DOGS』提供されています。この依頼を受けたときの思い出や、率直な感想をお聞きしたいのですが。

八王子P これはもう素直に、「めちゃくちゃうれしかった!」のひと言に尽きますね。というのも、僕もひとりのプレイヤーとして『プロセカ』を遊び、ストーリーも全部読んでいますし、イベントもやり込んでいて、お世辞抜きに「おもしろい!!」と思っているゲームなんですね。じつは先に『Gimme×Gimme』(作詞:q*Left、作曲:八王子P、Giga)というボカロ曲が『プロセカ』に収録されてはいたんですけど、『RAD DOGS』に関しては書き下ろしですから、喜びの度合いが違います。

--そんな『RAD DOGS』はVivid BAD SQUAD(ビビバス)に書き下ろされた曲です。男女ふたりずつの実力派ストリートユニットですけど、彼らを初めて見たときの印象は?

八王子P もともと、「おもしろい子たちだなー」と思いながら見ていたんですよね。元は別々のユニットだったところを、紆余曲折あっていっしょになる……という出自からして個性的だな、って。そんなビビバスがやろうとしている音楽や活動を見て、なんか、こう……僕が作る音楽と近しいモノを感じたんですよね。強烈なシンパシーを覚えて、「心から応援したい!」と思いました。

--ああ、それはいい出会いですねぇ……。そして『RAD DOGS』はイベントストーリー『Period of NOCTURNE』のために書き下ろされたものですけど、この物語のキーキャラクターとなったのが青柳冬弥君です。彼に対しては、どのようなイメージを持たれていますか?

八王子P クールで、不器用……。感情をストレートに出す彰人(東雲彰人。ビビバスのメンバー)と、まさに対極にあるキャラというのが第一印象でした。

--『RAD DOGS』を作られる前に、このイベントストーリーの詳細は読まれていたんですか?

八王子P そうですね。ストーリーの概要が書かれたプロットをいただいたので、まずはしっかりとその世界観を曲に乗せて表現していこうと思いました。

--『Period of NOCTURNE』は、クラシック奏者として有名なお父さんに自分の活動を否定された冬弥が、その現実にどう向き合っていくのか……という葛藤を描いたものです。ストーリー的に、かなり重い印象がありますよね。

八王子P 重いのは間違いないんですけど、冬弥が直面した現実にすごくシンパシーを感じたんです。

--これは興味深い。

八王子P 格式高いクラシックをやられているお父さんに、冬弥は否定されるわけです。「もうそんなお遊びはやめて、クラシックの世界に戻ってこい」と。でも冬弥は、クラシックの価値は認めつつも、ビビバスのメンバーとやっているストリート音楽だってすばらしいと知っている。互いが相容れないゆえに葛藤が生まれるわけです。この状況が、僕がこの世界に入ったボカロ黎明期と重なるんですよね。最近活動を始めたボカロPの方々はそんな気持ちはないかもしれませんけど、2009年当時は声高に「自分、ボカロPです」なんて言えない雰囲気があったんです。

--あ、そうなんですか! そんなこと、考えもしませんでした。

八王子P たとえばロックバンドだとか、メジャーで活躍されているミュージシャンとか、シンガーソングライターとかとか、そういった方々と肩を並べるなんておこがましいと思っていたんです。「しょせん、僕らはアマチュアだしな」という気持ちがぬぐいきれなくて。もちろん、全力でいいものを届けたい……という気持ちはつねに持っていましたけど、世間的な評価は他のアーティストとは違う感じがしていました。そういったところが、冬弥が置かれている状況と重なるな、って……。

--ボカロの『初音ミク』が発売されたのが2007年ですから、八王子Pさんがデビューした2009年はまだまだ初期の時代。そのころから活動している他のボカロPさんも、「自分たちが同列に語られていいのか?」と思っていたとおっしゃっていました。

八王子P あ、やっぱりそうなんですね。自分もまったく同じです。その時代を知っている人は、皆さん同様に思われているだろうなぁ。

--僕はゲーム業界の人間ですけど、似た話をよく聞くんです。スマホアプリが台頭してきたのって2012年ですけど、この分野で大ヒット作を作ったクリエイターも、AAAタイトル(オープンワールドRPGなどに代表される大規模なゲームのこと)を作られている人にすごく引け目を感じるって。

八王子P あー、なるほど!! それはすごく腑に落ちる話ですね! 考えてみれば確かに、ボーカロイドとスマホアプリって頭角を現してきた時期もいっしょくらいですし。むしろ、同期と言ってもいいかも(笑)。

--それがいまや、子どもたちの憧れの職業です。これはもうお世辞抜きで、皆さんの努力のたまものだと思います。

八王子P 思うに、当時活動していたボカロPの中で、十数年後に子どもたちの憧れの職業になると思っていた人って……おそらくひとりもいないと思います。もちろん、音楽に対しては本当に全力で、真摯に向き合ってきましたけど、ここまでの隆盛はまったく想像できなかったなぁ……。

--ボカロPの方々はもちろん、セガを始めとするゲームメーカーの努力も大きいですよね。

八王子P いやもう、本当にその通りです!

▲イベント「Period of NOCTURNE」の書き下ろし楽曲としてリリースされた。

--では『RAD DOGS』についてお聞きしますが、この楽曲を聴いて驚いたのが、クラシックの雰囲気とストリートミュージックの融合……! 見事にイベントストーリーの世界観を表しているんですよねー!

八王子P おお、ありがとうございます! そう言っていただけてうれしいです!

--ぜひ、『RAD DOGS』のテーマをお聞きしたいのですが!

八王子P 『RAD DOGS』に関しては、作詞を妹が担当しているんです。

--ビビバスの『Ready Steady』でも作詞をされている“q*Left”さんですね!

八王子P そうですそうです。『RAD DOGS』も作詞は妹で、作曲と編曲は自分が担当しました。この曲はイベントストーリーのテーマソングみたいなものですので、歌詞についてはその世界観をしっかりと踏襲するようにお願いして、音の部分でもキチンと、“らしさ”を出すように努めました。セガさんからも、「クラシックの要素が大きく関わってくるストーリーなので、それをぜひ意識してもらいたい」とのオーダーをいただいていたので、ビビバスらしさとクラシックをどうからめるのか、最初からかなり悩みました。

--『RAD DOGS』は最初の5秒を聴いた瞬間に“神曲だ”と思い、同僚に自分のことのように自慢してしまいました。

八王子P あははは! ありがとうございます!(笑)

--その5秒って、クラシックを彷彿とさせる部分なんですよね……!

八王子P まさに……! イントロ部分で、もっともこだわったところです。

--いま「悩んだ」とおっしゃいましたけど、完成しているいま聴けば「すごい曲だな!」って納得しちゃいますけど、生みの苦しみは相当だったと。

八王子P そうですね。クラシックの要素をどういうバランスで入れ込んでいくのがいいのか、本当に悩んだんです。露骨に“ザ・クラシック”みたいなパートを入れるのか、それともクラシックと言えば誰もがイメージするストリングス(バイオリンやチェロなどに代表される弦楽器のこと)をメインに据えればいいのか……とか。本当にいろいろなパターンで試行錯誤して、最終的にあの形に着地した感じです。

--イベントストーリーでカギを握る冬弥のお父さんが、バイオリンやピアノの奏者ですよね。そして冬弥もお父さんの指導のもと、このふたつの楽器を子どものころからやっていた、と……。こういった設定も意識して作られたわけですね。

八王子P はい、その通りです!

--とはいえ、ビビバスはそもそもストリート音楽のユニットです。そんな彼らとクラシックって、素人目にも相反する位置にあるような気がしました。……って、冬弥のお父さんみたいなことを言っちゃいましたけど(苦笑)。

八王子P あははは! でも、僕もクラシックの知見があるわけじゃないので、同じように思いましたよ。

--あ、そうなんですね! クラシックをやられていたのかと思っていました。

八王子P いえいえ! だからこそ手探りでしたし、最終的には「自分に本格的なクラシックは無理だから!」と開き直れて、八王子Pらしい表現に行きついたのかな……と、いまは思います。

--では、歌詞は妹さんが作られたということですけど、八王子Pさん的にお気に入りの歌詞ってございますか?

八王子P ラップ部分のいちばん最後、「秘める闘志の悩める勝ち犬」というところですね! ラップのパートは、全般的に好きなんですけど(笑)。

--ラップを入れられたのには、何か理由があるんですか?

八王子P これはもう、冬弥の声優が伊東健人さんと知った時点で「ラップを入れるしかないよな!」と思いました(笑)。そしてもうひとつ、『RAD DOGS』を作った当時、まだビビバスにラップを使った楽曲がなかったんですよね。でも彼らのスタイル的にラップは絶対にあったほうがいいな……と思っていたので、自分がオリジナル曲を担当することになったら必ず入れ込もうと決めていました。

--これがまた、見事に融合しているんですよねぇ……! 先ほどのクラシック的な要素とも……!

八王子P 『RAD DOGS』を構成するふたつのポイントがあるとすれば、ひとつは“クラシック”ですよね。わかりやすい音色として、ピアノやストリングスを使って表現しています。そしてもうひとつのポイントが“ストリート感”。これをもっともわかりやすく表現する手法がラップだったので、クラシックとの対比としてもすごくおもしろいよな……と思って、存分に入れてみたんです。

 

--では、『RAD DOGS』の聴きどころと言いますと……?

八王子P ラップのパート……とくに先ほど言った「秘める闘志の悩める勝ち犬」の部分などは、ディレクションのときもレコーディングのときも、かなり細かなニュアンスを試しながら作り込んでいきました。相当な試行錯誤の結果、あの形で完成することができました。

--なるほど!

八王子P それと、楽曲を作る方は皆さんそうだと思うんですけど、耳を澄まさないと聴こえないような小さな音でも、じつはめちゃくちゃこだわって作っているんですよね。音楽を聴いていると、「なんだかわからないけど、この箇所が妙に好きなんだよな……」なんて感じることがあると思うんですけど、それはきっと、そういった作り手のこだわりが琴線に触れているからだと思うんです。なので「ここを聴いてほしい!」と僕が言うより、皆さんに自由に感じ取ってもらって、「私はここが好きだなあ」という箇所を見つけてもらえればいいと思います。

--おっしゃる通り、すごく多くの人に『RAD DOGS』は刺さって、くり返し視聴されていますよね。PVの再生数とか、とんでもないことになっていますし、皆さん独自解釈されて議論もされているという。

八王子P ああ、そうですね。ありがたいことに、1000万再生くらいになっているとか……。正直、まさかここまで伸びるとは思っていませんでしたし、聴かれた方の読みが深くて「なるほど……!」と驚いています(笑)。

--ファンの方が『RAD DOGS』を解析しているコメントを読んで、そのあまりの奥深さに驚いたんです。「八王子P、ここまで作り込んでいるのか!!」と。

八王子P いえ、僕自身が、「おお……! こういう解釈の仕方もあるのか!!」と驚いていますから(笑)。先ほども言いましたけど、僕は楽曲って作り手のものではなく、聴かれた方が自由に受け取って、解釈して楽しめばいい……と思っている人間なんです。もちろん、いろいろなことに思いを巡らせて制作はしていますけど、「じつはここ、こういう意味なんだよ」って“答え”のようなことを言うのは好きじゃないんですよね。ですので、聴かれた方の想いが正解なんです。それがいちばん、楽しいじゃないですか。

--そういうスタンス、すごくいいですね。「もうこの曲は、みんなのものだよ!」みたいな。

八王子P すごくボカロ的ですよね。二次創作……とは違うかもしれませんけど、自由に解釈して楽しんでもらうのが、いちばん健全だと思います。

--ちなみに『RAD DOGS』の制作期間はどれくらいですか? それだけこだわって作ったとなると、かなりの時間を想像するのですが。

八王子P 最初の依頼から完成まで……となると、めちゃくちゃ時間がかかっていると思います。おそらく……2、3ヵ月は使ったんじゃないかなぁ……。レコーディングが終わってからも細かい部分をいじったりしていたので、しっかりとした終わりを意識していなかったかもしれないです(笑)。歌う人によって曲の印象がぜんぜん違ってくるので、レコーディングのあともアレコレと調整したくなるんですよねー。

--ほかの八王子Pさんが作られた曲と比べても、時間はかかったほうですか?

八王子P はい、かかったと思います。時間はもちろんなんですけど、僕が『プロセカ』に対して人一倍思い入れが強いので、余計にこだわってしまったのかもしれません。

--八王子Pさんは、『プロセカ』のプレイヤーとしてもイベントに出演して、腕前を披露されていますもんね。

八王子P 本当に、好きな作品なんですよね! これだけ楽しませてもらっている『プロセカ』に関われるんだから、絶対にしっかりとしたものを作ろう!! という強烈な気持ちがありましたもん。自分がユーザーとして楽しんでいるからこそ、このゲームのファンの気持ちもよくわかるんですよね。なので自分で勝手に、作るときのハードルを上げていたかもしれないです(苦笑)。

--でもその努力の甲斐あって、ファンからの反響もすごかったんじゃないですか?

八王子P いやもう、本当にありがたくて……。こういうのって、蓋を開けてみるまでファンの反応がわからないじゃないですか。ですので公開日は、「受け入れてもらえるだろうか……?」と本当にドキドキしていたんですけど、おかげさまで多くの人に楽しんでもらえているようで、いま心からホッとしております。

--ゲームに実装されたのを初めて見たときはどうでしたか?

八王子P やっぱりひとりの『プロセカ』プレイヤーとして、真っ先に譜面が気になりました(笑)。

一同 (爆笑)

--やっぱりそこなんですね!!(笑)

八王子P どういう譜面になるのかは僕らも配信されるまでわからないので、嬉々として遊びまくりましたよ!

--遊んでみて、いかがでしたか?

八王子P 「ああ! ここの音を取るのね!!」なんて言いながら遊んでいます。譜面制作チームの方がどのように楽曲を分析されているのかがわかるので、楽しいんですよねー!

--AP(オールパーフェクト)は取られました?

八王子P いえ……。フルコンはしていますけど、APはまだ取れていないんです……(笑)。ぶっちゃけ、曲調は知っているから遊びやすいかもしれませんけど、気持ちは完全にイチプレイヤーですよ! 『RAD DOGS』のMASTERレベルは、クリアーはしやすいけどフルコンは難しい……という譜面だと思うので、皆さんもぜひやり込んで、フルコンを目指してください!

--この、ゲームとしての部分はもちろんなんですけど、ファンの声として印象的だったのが、「音ゲー目当てで『プロセカ』を始めたけど、『RAD DOGS』を聴いてキャラやストーリーに興味を持ち、そこからボカロそのものにハマってしまった」というもの。ひとつやふたつじゃなく、こういう声がたくさんあるんですよね。

八王子P それはめちゃくちゃうれしいですね! 『プロセカ』っていろいろな入り口があるゲームだと思うんです。その方のように音ゲーを目当てで入ってくる人もいれば、ボカロが好きで始めた方も多いでしょう。そんな人たちがキャラやストーリー、世界観を知って、“ゲームそのもの”にハマっていくって……すごくステキな流れですよね。その一端を担うことができているとすれば、こんなにうれしいことはないです。

▲“コネクトライブ Vivid BAD SQUAD 1st CRASH”でパフォーマンスをするビビバスのメンバー。RAD DOGSではクールでかっこいいダンスを初披露し、会場を大いに盛り上げた。

--ではここから、将来の夢として「ボカロPになりたい!」と思っている人たちのために用意した質問にお答え願えればなと……! まずは……八王子Pさんが、ボカロPになられたきっかけを教えてください!

八王子P もともと音楽は作っていたんです。本当に、趣味レベルのものですけど。打ち込みのインスト音楽(歌詞のない楽曲のこと)だったんですけど、そのうちに「歌モノが作りたいなー」と思うようになって。と言っても、歌唱を頼めるようなボーカリストの友だちがいなかったので、「だったら初音ミクに歌ってもらうか」と……(笑)。そういう意味では、遊びの延長で始めた……という感じでしょうか。

--実際にボカロに触れてみて、すぐに「これならイケる!」と思ったのですか?

八王子P いやいや! もう、試行錯誤のくり返しです。でも、最初に完成した『エレクトリック・ラブ』という曲が運よくニコニコ動画で10万再生を記録して殿堂入り。もちろん、そんなにすぐに再生数が伸びるだなんて考えてもいなくて、「誰も聴いてくれなくても、1年はがんばって続けよう……」と思っていたくらいでした。それが、1曲目からたくさんの人に聴いてもらうことができて……。この瞬間に、人生が変わったんだと思います。

--とりあえずやってみて、それがすごくハマってのめり込んでいった……と。

八王子P そうなんです。ただ、ビギナーズラックも考えられたので、2作目はけっこうなプレッシャーを感じながら作っていました。言葉はアレですけど、「一発屋と思われたくない!」と言いながら作っていた記憶があります。

--そんな八王子Pさんにぜひともお聞きしたいんですけど、ボカロPになるため必要なスキルって、何かありますか?

八王子P 僕、特別な音楽経験ってまったくしていないんです。バンドをやっていたわけじゃないし、ピアノを習っていたわけでもない。ましてや音大に通っていたわけでもないですしね。本当に独学でやってきたんです。

--ああ、そうなんですね!

八王子P そうなんですよ。当時からネットで調べれば、シンセサイザーの音色の作り方とかコード進行の解説なんかもいろいろと出てきたので、それらを参考にしながらコツコツとやっていたんです。……ていうか、現在もそうです(笑)。ですのでここで言いたいのは、“特別な音楽教育を受けていなくても、僕レベルには絶対になれます!”ということですね。

--いやいや!! 八王子Pさんレベルに簡単になれたら、僕もいまから始めますよ!!

八王子P とはいえ、こうして音楽を生業にしたいまになって、「バンドやっときゃよかった……」とか「ピアノを習っていたら、もっと楽だったよな……」とか、毎日のように思います(苦笑)。でも、それらをやるにしてもハードルが高いじゃないですか。「ピアノをやりたい!」と思っても親御さんが許してくれるかわかりませんし、「じゃあバンドを!」となっても、まわりに賛同してくれる仲間がいるかどうかもわからない……。そんなときに何をすればいいのかと言うと、“いろんな音楽を聴くこと”だと思うんです。

--おお……!

八王子P 自分の好きなジャンルを聴き込むのはもちろんなんですけど、もっとこう、幅広く……! ボカロ好きな人はボカロばかり聴いちゃうかもしれませんけど、たまには洋楽を聴いてみたり、日本の歌謡曲に耳を傾けるのもいい。とにかくジャンルを問わずさまざまな音楽に触れておくと、「曲を作ろう!」と思ったときに、絶対に役に立ちます。

--自分の引き出しを増やしておこう、と。

八王子P はい、その通りです。ぶっちゃけ小さい頃の僕は、特別に音楽が好きというわけではなかったですし、「将来はこの分野で飯を食べていこう」なんてまったく考えていませんでした。でも、高校のときにできた友だちがたまたまバンドをやっていて、いろいろな音楽を教えてくれたんです。そこから「こんな曲もあるのか!」となって、気付いたら音の世界にのめり込んでいました。そういう意味ではスタートも遅いし、かなり偏った音楽体験をしてきたんですけど、自分で曲を作るようになってから「このままじゃいかん!」となって、慌ててさまざまなカテゴリーの楽曲を聴き始めるんです。いまになって「もっと若いうちから、選り好みせずに聴いていればよかった!」と心から思っているので、これをお読みの皆さんは、今日からさまざまな音楽に触れていかれるといいと思います。いまだったら、音楽系のサブスクも充実していますしね。

--実際、小中学生時代の、頭の柔らかいときに身に付けたことって、一生モノになりますもんね。

八王子P まさに!! 中学生のころに聴いた音楽って、忘れないですもん。欲を言えば、楽器を習っておくとのちのち楽だよ……とは思いますけど。僕、何の楽器も弾けないので……。

----それが意外なんです。いかにもギターとかお上手そうじゃないですか、八王子Pさんて。

八王子P 一音一音、手作業で打ち込んでいますよ!!(笑) 『RAD DOGS』も、PCとにらめっこしながら、マジで1個1個マウスで拾って……(苦笑)。

--『RAD DOGS』、八王子Pさんの労作なんですねぇ……。

八王子P “単純に時間がかかった”という意味でも、労作ですね(笑)。

--ボカロPになってよかったこと、何かありますか?

八王子P たくさんありますけど、やっぱりいちばん大きいのは“いろいろな人に出会うきっかけになったこと”でしょうか。いまでこそ、音楽に絵を付けて動画にしてアップする……という活動は当たり前になっていますけど、『初音ミク』が登場しなければいまでも存在しない文化だったと思うんです。でも、ミクをハブとして、イラストレーターや動画制作者、今回のインタビューもそうですけど、本当にさまざまな世界の人と出会うことができたんです。こういった無数の出会いを得られたことが、ボカロPになっていちばんよかったことだと思います。

--後ほど最新アルバムのこともお聞きしますけど、これもさまざまな人が参画して完成したものですもんね。

八王子P はい、そうですね!! アルバムのジャケットを毎回描いてくださるTNSKさんも、彼が僕の曲のファンアートを描いてくれたのを見てコンタクトを取った……というのがきっかけでした。また、ボカロPって家にこもって黙々と作業をすることが多いんですけど、そんなときも「ミクがいてくれてよかった!」と思います(笑)。

--ではそんな八王子Pさんに、ボカロPを目指す少年少女に向けてエールをお願いしたいのですが。

八王子P 「作曲って難しそう」と思っている人が多いと思うんですけど、じつはそれほどハードルが高いものじゃありません。鼻歌とか、つい口の端に乗ったメロディーを録音するだけでも、立派な作曲なんですよね。ですので変に気構えず、自分のできるところからトライしてみてください!

--ありがとうございます! ……でもそうやってできた作品を人様に聴かせたり、見せたりするのが恥ずかしい……という声もよく聞くのですが。

八王子P ああ、それはそうですよね。この、世間に発表することに関しては、ある種の才能が必要な気がします。いい意味での鈍感力というか。

--おお! では八王子Pさんは、そういった恥ずかしさみたいなものはあまり感じないんですね!

八王子P ……いや、人並みに恥ずかしいっす(苦笑)。

--恥ずかしいんかい!!(笑)

八王子P でも、ひとつ確信しているのが、この恥ずかしさという殻を破ったときがいちばんアツい!! ってことです。クリエイティブな仕事はすべてそうだと思うんですけど、自分の中で完結していたものを世間にお見せして評価をもらう……という瞬間に、言い知れないカタルシスがあるんだと思うんです。

--ああ、僕も文章を書く人間なので、それはすごくわかります。……そう言えば以前、ナユタン星人さんにもお話を聞いたんですけど、「僕の場合、「これは自分ではない」と思い込んで活動しています。「ナユタン星人がやっていることだ」と割り切っているので、恥ずかしさは消える(笑)」って言っていました。

八王子P ああ、それはよくわかります! ボカロというもの自体が自分で歌うのではなく、初音ミクを始めとするバーチャル・シンガーに歌ってもらうシステムですからね。たとえばめちゃくちゃこっぱずかしい歌詞を書いたとしても、歌うのが自分ではなく、歌い手さんでもなく、初音ミクなので、敷居がグッと下がる感じがするんです。表現にも拍車がかかると思うので、ありがたいですねー!

--では最後に、 8月31日にリリースされる八王子Pさんのニューアルバム『HIDEOUT』についてもお聞かせください。

八王子P ありがとうございます! じつに、3年ぶりのアルバムなんです。

--どんな内容になっているんでしょうか?

八王子P この3年の間、日本だけじゃなく世界的にも暗いニュースがたくさんあったじゃないですか。僕のマインド的にどうしても明るい気持ちになれず、ちょっと沈んでいた時期なんですね。ですので今回のアルバムも、無理にテンションを上げて作ったものではありません。いまの気持ちに素直に、気張らず、感じたままを投影した作品になっています。

--コロナ禍も続いていて、暗澹(あんたん)とした日々が続いていますもんね。

八王子P はい。そんな中で、「前を向いて行こうよ!」と明るく導いていこうとするのって……何か違うなと思ったんです。アルバム名の『HIDEOUT』って“隠れ家”という意味なんですけど、そこはかとない不安や暗い気持ちを抱えているのって、あなただけじゃないんだよ。僕もそうだよ。そんな人たちで隠れ家に集まって、静かにこのアルバムを聴きましょうよ……。そんな気持ちを込めました。

--今回詳しくお話を聞いた『RAD DOGS』も、ボカロバージョンが収録されているんですよね。

八王子P 『RAD DOGS』に関しては、ボカロの調声もすごくこだわって作りました。なんというか……いままでの調声とはガラリと変えて、誤解を恐れずに言いますけど、八王子Pらしくない仕上がりになっていると思います。

--おお! それは聴くのが楽しみです!

八王子P ……でも、こう言っちゃうと身も蓋もないんですけど、やっぱり『RAD DOGS』は『プロセカ』の曲なんですよね。『プロセカ』の、あのストーリーのための楽曲……。ビビバスの4人とミクがいっしょに歌うあの形が、自分にとっても完成形だと思っています。ですので、最初から“ボカロでベストな曲”というイメージで作っていなかったので、「調声、どうしようか……」と悩みました。その結果、僕はいままでロボットボイスを活かす調声が多かったんですけど、このバージョンではあえて、人っぽいニュアンスをふんだんに入れて仕上げてあります。

--その、“『プロセカ』の中の『RAD DOGS』が完成形”って、ちょっと鳥肌ものですね……!

八王子P でも僕だけじゃなく、『プロセカ』にオリジナル楽曲を提供されているボカロPは、皆そう思っているんじゃないですかね。

--……八王子Pさんって、こう言っては何ですけど、すごく一本気というか、真っ直ぐというか……。

八王子P 単純に、ゲームが好きだからだと思います(笑)。そこに楽曲提供をするなら、ゲームの中から聴こえるものをベストな状態にしたいじゃないですか。ですので曲を作ったときも、iPadやiPhoneなどいろんな端末で出力して、聴こえかたをチェックしますしね。とはいえ、アルバムに収録されているボカロバージョンの『RAD DOGS』も本当に気合を入れて調声したので、ぜひ聞き込んでほしいと思います!

--そして今回のアルバムでは、“kz”さんとか“R Sound Design”さんともコラボされているんですよね。

八王子P はい、そうなんです。こうやって合作するたびに思うんですけど、皆さん自分にはないアイデアとかメロディーを持っているんですよねー! そこから少なくない刺激をもらえますし、単純に楽しいんですけど、陰では……落ち込んだりもしています(苦笑)。

--え。それはどうしてですか?

八王子P 「すげぇなぁ……!」って(笑)。シンプルに、自分では絶対に出てこないアイデアや音を見せつけられるので、ショックを受けるんです。先ほども言いましたけど、ボカロPって孤独な作業が多いので、たまにこういった刺激を受けると驚いて、落ち込んだりするという……(笑)。kzさんとRさんはサウンド感で言ったら近めのおふたりですけど、もともとの音楽のルーツも違いますし、楽曲の作りかたも違います。そういう意味ではショックを受けつつも……やっぱり、ごいっしょできて楽しかったですね!

--では、このアルバムを楽しみにしているファンの皆さんにメッセージをいただければ!

八王子P この3年間に作ってきた曲はもちろんですけど、このアルバムのために新しく作った楽曲も収録されています。かなり新しいことにも挑戦した1枚になっているので、ぜひ聴いていただきたいです。……とはいえ、先ほど言った通り、そんなにポジティブなアルバムにはなっていないかもしれません。でも、なんて言いますか……聴いてくれた皆さんに寄り添いたいと心から思って作った作品なので、たくさんの方に届くといいなと思います!!

--わかりました! 本日はお忙しい中、本当にありがとうございました!!

ニューアルバム

「HIDEOUT」

2022.08.31 (Wed.) Release

 

初回生産限定盤(CD+DVD+ボーナストラック2曲) TFCC-86875~86876 ¥3,500(税抜価格¥3,182)

通常盤(CD) TFCC-86877 定価:¥2,800 (税抜価格¥2,545)

 

<CD>

01.hero_bot feat. 初音ミク – 八王子P

02.RAD DOGS feat. 初音ミク・鏡音リン・鏡音レン – 八王子P

03.フィフティキャリバーパニッシュメント feat. 鏡音リン – 八王子P

04.推シ舞イガール feat. 初音ミク – 八王子P

05.モノクローム//ディストピア feat. 鏡音レン – 八王子P

06.NEEDY feat. 初音ミク・鏡音リン – 八王子P

07.ネオンライト feat. 初音ミク – 八王子P × R Sound Design

08.Baby I Love You feat. 初音ミク・鏡音レン – 八王子P

09.Twinkle Starry Night feat. 初音ミク – 八王子P

10.Glimmer feat. 初音ミク – 八王子P × kz(livetune)

11.Gimme×Gimme feat. 初音ミク・鏡音リン -EasyPop Remix-  (Bonus Track)*初回生産限定盤のみ収録

12.気まぐれメルシィ feat. 初音ミク -irucaice Remix- (Bonus Track)*初回生産限定盤のみのみ収録

 

<DVD>

01.RAD DOGS feat. 初音ミク・鏡音リン・鏡音レン*初回生産限定盤のみ収録

 

ニューアルバム「HIDEOUT」より「RAD DOGS feat. 初音ミク・鏡音リン・鏡音レン」の先行配信リリースが2022.8.10に決定!同日20:00にはMVをYouTubeにてプレミア公開。

 

 
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【HIDEOUT (初回生産限定盤)】
【HIDEOUT (通常盤)】

八王子P

ボカロ界の貴公子。ダンスミュージックをベースにしたエレクトリックなサウンドのボーカロイド楽曲を中心に発表しており、中川翔子や椎名ぴかりん、東京女子流等、リアルボーカリストのプロデュースワークや、吉川友や渡辺麻友、平野綾のアレンジワークも行なっている。
DJとしての活動も積極的に行っており、クラブでのパフォーマンスを始め『ROCK IN JAPAN FES』といった国内の大型フェスへの出演や、アジアを中心にヨーロッパ、北米~南米等、国内外で精力的に活動中。

 

『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』の関連記事こちらをチェック!!

☆☆ボカロPインタビュー企画☆☆

連載記事

#1:市瀬るぽさん       

#2:R Sound Designさん

#3:ナユタン星人さん

#4:じんさん

#5:すりぃさん                         

#6:OSTER projectさん

#7:40mPさん

#8:八王子Pさん

☆☆プロセカ一周年特集はこちら☆☆

ボカロPに直撃インタビュー!

#1:DECO*27さん

#2:ピノキオピーさん

#3:Mitchie Mさん

#4:Gigaさん

#5:syudouさん

 

 

衣装カタログ

#1:バーチャル・シンガー編

#2:Leo/need編                        

#3:MORE MORE JUMP!編

#4:Vivid BAD SQUAD編      

#5:ワンダーランズ×ショウタイム編

#6:25時、ナイトコードで。編

 

タイトル概要

プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク

■対応OS:iOS/Android

■App Store URL:https://itunes.apple.com/app/id1489932710

■Google Play URL:https://play.google.com/store/apps/details?id=com.sega.pjsekai

■配信開始日:配信中(2020年9月30日(水)配信)

■価格:基本無料(アイテム課金あり)

■ジャンル:リズム&アドベンチャー

■メーカー:セガ/ Colorful Palette

■公式Twitter:https://twitter.com/pj_sekai