すりぃさんの曲作りに迫る!
2020年9月のサービスイン以来、コロコロオンラインがひたすら追い掛け続けているセガ×Colorful PaletteのiOS/Android向けアプリ『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』。
2021年3月にはハーフアニバーサリーを祝した特集を展開し、
さらに2021年10月には『プロセカ』1周年を記念した大特集を実施するなど、担当からほとばしる圧倒的な“プロセカ愛”をカタチにし続けている。
そんなコロコロオンラインプロセカ班がとくに情熱を注いで追っているのが、このゲームの根幹でもある楽曲……そして、それを制作されている“ボカロP”と呼ばれる“才能たち”であります!!
“子どもが将来なりたい職業ランキング”において、ゲームクリエイターやユーチューバーらと並んでボカロPが上位にランクインし、コロコロの読者層との親和性もめちゃくちゃ高いということで、前述のプロセカ1周年特集の際にボカロ界のビッグネームにつぎつぎとインタビューを敢行!! その内容の濃さは業界内外に衝撃を与え、このたび……不定期連載で、さらに多くのボカロPの皆様にご登場いただき、ナマの声をお届けできることになったのです!!
『プロセカ』はゲーム内容はもちろん、楽曲のすばらしさが高く評価されて現在の人気を確立したと言っても過言ではない。それらを生み出したボカロPたちの考えかた、作品への向き合いかたを掘り下げたこのインタビュー連載を読まれることで、ゲームを遊ぶだけでは知りえない情熱や、楽曲に対する想いを知ることができるはずだ。その結果……さらに登場キャラやユニット、『プロセカ』そのもののことが好きになること請け合い!!
そしてインタビューの後半では、“いかにしてボカロPになったのか?”という、将来この道に進みたいと思っている読者の皆様の道しるべになるような質問もぶつけているので、とにかくあらゆる人たちに読んでいただきたいなと!!
さて今回ご登場いただくのは、“25時、ナイトコードで。”(ニーゴ)にオリジナル楽曲『限りなく灰色へ』を提供された“すりぃ”さんだ。すりぃさんは、8月21日(日)に開催される音楽イベント“SUMMER SONIC 2022 大阪”への出演も決定している気鋭のボカロPである。
ネットを通じて出会った4人の表現者が織りなす物語が、非常に根強い人気を誇るニーゴ。そのメンバーのひとり、東雲絵名(しののめえな)の才能への渇望と葛藤を描いたイベントストーリー『満たされないペイルカラー』に書き下ろされた楽曲が、すりぃさんの『限りなく灰色へ』となる。絵名の心情に寄り添い、そのすべてを表現したかのような楽曲は、どのように生まれたのだろうか!?
※インタビューは、オンラインで実施したものです。
自分の心情を詰め込んだ曲に
--すりぃさんはコロコロ初登場となりますので、まずは簡単に自己紹介をお願いしたいのですが……!
すりぃ はい! “すりぃ”と申します。ボカロPの活動を始めたのは2018年の3月3日なので、もう4年以上になりますね。最近は自分で歌ってライブをしたり、小説を書いたりで、個人的には幅広く活動してるつもりです。どうぞよろしくお願いいたします!
--今回はボカロPとして、『プロセカ』にオリジナル楽曲『限りなく灰色へ』を提供されましたが、この依頼を受けたときの率直な感想や、思い出をお聞かせ願いたいのですが。
すりぃ お話をいただいたのは『プロセカ』がリリースされる前で、確か……半年くらいの期間があったと思います。そのころってボカロブームの波が来始めていたタイミングで、僕のまわりのボカロPたちもYouTubeの爆発的な普及とコロナ禍の影響が相まって、動画再生数や認知度が飛躍的に伸びてきていた時期なんです。ちょうどそのころに『プロセカ』のお話を聞いたので、なんと言うか……「こんなにバッチリなタイミングで配信されるのか!! スゴイな!!」と感じたのが率直な感想かなと(笑)。そんなゲームにボカロPのひとりとして参画できるというのも、非常に大きな意味があるなと思いました。
--そこですりぃさんが楽曲提供されたのがユニット“25時、ナイトコードで。”(ニーゴ)。他のユニットとは明らかに毛色が違う、特殊な子たちがそろったユニットになっていますけど、彼女たちを初めて見たときの印象はどうでしたか?
すりぃ メンバーそれぞれに役割があって、作業を分担して作品を作っていく……というユニットですけど、4人は最初、顔や名前も知らない状態で集って活動を始めるんですよね。じつはこの状況って、僕らボカロPの活動とかなり似ているなと思うんです。というのも、僕は曲を作るわけですが、それに合わせて他のクリエイターにイラストをお願いしたり、動画制作を発注したり、楽器の演奏を依頼したり……と、すべてオンラインでこなしたりしているわけです。そして、そういった方々と実際にお会いしたことって、ほぼないんですよね。
--あ! そうなんですか!!
すりぃ はい、そうなんです。イラストを描いてくれるイラストレーターさんとも、面識はほとんどないですし。
--そうだったのか……。昔から交流のある方にお願いしているのかと思っていました。
すりぃ 本名も知らないですし、顔も、どこに住んでいるのかもまったく……。Twitterで見つけて、「ぜひいっしょにやりたい!」と思ったら、以降はダイレクトメッセージでやり取りをするので直で会う必要もないんです。そんなところが、ニーゴの活動と近しい……というか、ほぼ同じですね(笑)。ですので第一印象は、「我々と似てる!」でした。
--すぐに親近感を覚えられたんですね。
すりぃ はい、まさに親近感です。仲間は全員オンラインで繋がっているけど、なんか、こう……それぞれが孤独な思いや悩みを抱えていて、それがじつに現代っぽいし、僕らボカロPと似通っているなと。ボカロPとか音楽家って、ひとりで部屋にこもって黙々と作業することが多いんです。誰かと対面で話したり、やり取りするのが苦手な人が、家の中でコツコツ、粛々と作業する……というパターンがほとんどだと思うので、そういう部分でも勝手に、ニーゴにシンパシーを感じていました。
--そんなニーゴのために作られた『限りなく灰色へ』ですが、個人的にも大好きな曲なんです。でも、すりぃさんの代表曲である『テレキャスタービーボーイ』(プロセカではワンダーランズ×ショウタイムが歌唱)や『ジャンキーナイトタウンオーケストラ 』(プロセカにはバーチャル・シンガーver.のみ収録)などと比べると、見事なまでに雰囲気が違いますよね。
すりぃ そうですねー! だいぶ……というか、ぜんぜん違う雰囲気ですね(笑)。
--なので、『限りなく灰色へ』をすりぃさんが作られたと聞いて意外にすら感じていたんですけど、いまニーゴに対する印象をお聞きして、腑に落ちた気がします。
すりぃ 『テレキャスタービーボーイ』はバンドサウンドで、言ってみれば王道な造りの曲だと思うんです。一方で『限りなく灰色へ』は……確かにギターもぜんぜん使っていませんし、ダンサンブル(ダンスに適した曲のこと)っていうか、かなり落ち着いた雰囲気が強いですもんね。
▲『プロセカ』初の3DCGライブ、”プロジェクトセカイ COLORFUL LIVE 1st – Link -” では、ワンダーランズ×ショウタイムが『テレキャスタービーボーイ』(作詞・作曲:すりぃ)を披露! 会場を大いに盛り上げた。
--そうなんです。その引き出しの多さにすりぃさんの才能を感じてしまうんですけど、一方でこの曲が流れるイベントストーリー『満たされないペイルカラー』は、ニーゴのイラスト担当・東雲絵名ちゃんが自身の才能のなさに苦しむ……という内容ですね。
すりぃ そうですね。僕も、自分に才能があるだなんて思っていないので、シンパシーを感じた部分です。
--えええええ! そうなんですか!?
すりぃ はい。「自分には才能がある」だなんて、一度も思ったことがないですから。ですので、シナリオの概要を読んだときに「いっしょだな」と思えたし、気持ちも込めやすかったんだと思います。……絵名ちゃんて、周囲の評価を気にする女の子じゃないですか。
--はい、そうですね。
すりぃ 父親から否定されたことをきっかけに、自分には才能がないんだと思い込んでしまっている……。僕もそういう部分があって、どうしても他人の評価軸で生きてしまっているなぁ……と感じるんです。近しい人のちょっとしたひと言とか、些細な評価で一喜一憂してしまったり。
--あー……。『限りなく灰色へ』の根底には、すりぃさんが感じられた“共感”があるのかもしれないですね。
すりぃ はい、その通りだと思います。このイベントストーリーの設定やプロットを通じて、才能とか評価に対する絵名ちゃんの立ち位置を見て、「わかるわかる……」って頷いていましたから。ですので、歌詞のテーマはすぐに決まりましたし、ふだん自分が思っていたことを落とし込めたので、そういう意味ではすんなりと作業に入れたと思います。
--そうだったのですね。
すりぃ やっぱり評価って、自分の安心材料にもなるじゃないですか。「これ、すごくいいよ!」って言われれば自信になるし、それゆえに「ダメだ」なんて評価をひとつでももらうと「僕じゃ無理なんだ……」と沈んでしまったり……。でも、押されると反発するのは心も同じで、沈みはするけど心の奥底では、「ダメって言うけど……やっぱりええやん、僕の作品!」って必ず思うし、“思いたい”んですよね(笑)。本当は、まわりの声なんて気にせずに自由でいたいんですけど、そんなに簡単なものじゃない。そして絵名ちゃんも、きっと同じように感じているんだろうな……って、勝手に思っていました。本当は自分のことを、もっともっと好きになりたいんじゃないかな、って。
--……もう、その言葉のひとつひとつが、モノ書きの端くれである僕にも刺さるんですが(苦笑)。『限りなく灰色へ』って、曲全体が発しているメッセージが、クリエイティブを生業にしている人間にグッサグサ来るんですよ!
すりぃ ありがとうございます(笑)。そう言っていただけて、うれしいです。
▲イベント「満たされないペイルカラー」の書き下ろし楽曲としてリリースされた。
--すりぃさんが、とくに気に入っている歌詞はどのへんですか?
すりぃ 2番のサビ前で、「美学とかプライドとか語る前に やれることやっていけ」ってあるんですけど、ここは……自分でもかなり大事にしている部分だなって思いました。物事を始める前に、「俺にはこういう美学があるから」とか「プライドがあるので無理」とか言って、ぜんぜん行動に移そうとしない人っているじゃないですか。僕もそういう面があるんですけど、「御託を並べるヒマがあるなら、いまできることをやっていけ!」という気持ちを、この歌詞で表しています。言うなればこれは、僕みたいに物作りをしている人に向けたメッセージ……いや、自分に対する戒めでもあります。
--耳が痛いくらい、よくわかります。
すりぃ 「いまはその時期じゃない」とか、逆に「ちょっと遅い」なんていう言い訳がありますけど、傍で聞いていると、「ゴチャゴチャ言う前に、まずはちょっとやってみれば?」と言いたくなりますよね。
--そう、やれない理由を探すんです。……自戒を込めて言いますけど(苦笑)。
すりぃ そうですそうです。「この仕事を終えたら本気になる!」とかね。やらない理由を探すほうが楽なんですもん、人間て。……自戒を込めて言いますが(笑)。
--そういう意味では、すりぃさんの中にある素直な気持ちをカタチにした楽曲……ということになるんですね。
すりぃ はい、その通りだと思います。じつは僕の中では……絵名ちゃんが僕のところに、「モノ作りで悩みがあるんだけど」と相談に来て、それに対して真摯に考えて答えてあげている……というつもりで作っていった曲なんです。
--!!!! なるほど……!! それは、この曲を聴いているとすごくよくわかりますね! ……ちなみに僕は、「滲む想いなぞって描いた 夢の形に泣いちゃった」って歌詞がすごく好きです。絵名ちゃんの才能への渇望とか、届かないもどかしさだとか、そういう想いが明確に表された歌詞で聴いているだけで切なくなります。
すりぃ ああ、確かに。その部分は、すごく切ない感じになっていますね。
--モノ作りをしている人間が聴くと、おそらく全員が切なくなると思います。
すりぃ 才能って、努力ではどうにもならない大きな壁に見えますもんね。僕にもそういう傾向があって、たとえばすばらしい芸術作品とかを見た後、感動しつつも、ひとりで切なくなったりしているんです。「これって……努力だけで作れるものなのか……?」って。そうすると、生まれ育った環境とか、それこそ人付き合いとかのせいにしたくなったりして……。
--人間て、そんなに強くないですもんね。どうしても、環境のせいにしたくなったりとか。
すりぃ そうなんです。自分のせいじゃなくまわりの環境が悪い……という考えにしてしまったほうが、傷つきにくいですから。そんな中でも絵名は、もがきつつも自分の問題に向き合えている子なんじゃないかな……とも思います。
--3DMVを見ていると、冒頭からずっと灰色の世界でニーゴのメンバーが歌っているんですけど、最後にパーっと色が広がってカラフルな世界になる……という表現が、『限りなく灰色へ』にすごく合っていると思いました。
すりぃ ああ、わかります。あの演出はすごくいいですよね!
--では、この楽曲の聴きどころをお聞かせ願いたいんですが。
すりぃ ニーゴ版のMVですと、やっぱり声優さんたちの表現力がすばらしいので、キャラの背景やストーリーと相まって、歌詞にリアリティーが生まれていると思うんです。心の声、温度感みたいなものまで表に出ていると思うので、そのへんをぜひ味わってほしいなと思います。それと細かな部分になるんですけど、先ほども言った壁とか行き詰った感じを表現したかったので、水の中に沈んでいるような感覚を意識して作っていきました。光が届かない水の底のイメージを強くしたかったので、本当に水の音を入れてみたり。あと、何度も何度も書き直す姿を曲に入れ込みたくて、ところどころに紙をグシャグシャっと丸める音も取り込んで入れてあります(笑)。すごくアナログな造りなんですけどね。
--!!? そんなことをされていたんですか!?
すりぃ いまはモノ書きの方もパソコンで作業されていると思うので、紙をグシャグシャにすることも少ないと思うんですけどね(笑)。でも失敗作にイラついている表現としてわかりやすいので、実際に紙をクシャクシャして取り込みました。オフボーカルにして聞くと、たぶん聞き取れるんじゃないかなー。本当に些細なことなんですけど、興味のある方はぜひ聞いてみてください。
--それは聞き直すしかないですね!
すりぃ あとは、やっぱりサビの部分。初めての挑戦だったんですけど、サビで静かになって音数が減り、キメを多くして、間奏がいちばん盛り上がる……という構成にしました。EDM(Electronic Dance Music。電子音のダンスミュージック)的になっていて、かなりこだわった部分になります。
--ちなみに、制作日数はどれくらいだったのですか?
すりぃ はっきりとは覚えてないんですけど、確か1ヵ月くらいだったかなと思います。ワンコーラスを提出したラフ音源だと、確か2週間ほどだったかなー。
--他の作品と比べて、いかがでしたか?
すりぃ 時間的には、それほどかからなかったほうだと思います。先ほども言いました通り、自分とリンクする部分が多かったんで、ストーリーが浮かびやすかったんです。かなりスラスラと、日常的に自分が思ってたことを書き連ねられたので、僕的には難産ではありませんでした。ただ……。
--ただ??
すりぃ これ、じつはふたつのパターンを作っていたんですよ。
--え? それは……別のバージョンの『限りなく灰色へ』があったということですか??
すりぃ そうなんですよ。具体的には、“サビが違うパターンが存在する”ですね。ふたつの曲を作って『プロセカ』の制作陣に聴いていただき、どちらがいいかを決めてもらいました。
--そ、そのバージョン違いの曲は……公開しないんですか!?
すりぃ しないですね(笑)。
--えええ! そんな幻の曲があったとは!!
すりぃ たぶん、僕のPCのどこかにあると思います(笑)。
--では、『限りなく灰色へ』がゲームに実装されたのをご覧になって、どう思われましたか?
すりぃ 単純に、スマホゲームから自分の曲が流れてくるのがうれしかったんですけど、「これ、ホントに自分で書いたんだっけ?」という不思議な感覚にもなりました。おそらく、まったく実感がなかったんだと思います。学生時代に『太鼓の達人』にハマっていたんですけど、楽曲選択画面でその曲のサビが流れるじゃないですか。あの瞬間が好きだったんですけど、同じように僕の曲が『プロセカ』から流れてくるわけです。もうね……夢の世界の出来事ですよ。「自分の曲なの……?」と思うと同時に、「遠くに行っちゃったなぁ……」という感慨も覚えました(笑)。
--遠くにいっちゃった!?(笑)
すりぃ あははは! 不思議な感覚なんですけど、僕の手元から離れてひとり立ちしていった……って気がしたんですよねえ。
--それはおもしろい感覚ですね。
すりぃ はい、自分でもなかなか理解できない感覚でしたよ。もちろん、うれしかったんですけどね。
--ゲームに実装された後、聴かれた方の反響がすごかったんじゃないですか? 実際、めちゃくちゃ考察されている曲ですし。
すりぃ そうなんです! 先ほどおっしゃってくれたように、『テレキャスタービーボーイ』などと比べるとかなり曲調を変えたので、「前のほうがよかった」と言われるかと思ってドキドキしていたんです。でも、想像していた以上に好感触で……!
--うんうん……!
すりぃ みんなやっぱりキャラが好きで、ゲームが好きで、感情移入して遊んでいる……という事実が大きいと思うんですけど、驚くほど歌詞に反響があったんです。モノ作りをされている人が「刺さりました」と言ってくれたり、逆に「現実的すぎて、歌詞を見るのがツラい」という反応もありました。でもネガティブなものはほとんどなくて、最終的には「やるしかないですよね!」と前に踏み出そうとしてくれていたり--。背中を押された人、元気を得られた人、現実を直視した人、現実逃避から戻ってきた人……。いろいろな受け止めかたをしてもらえたのを見て、「こういう歌詞にして、よかったな」と思えました。
--これほどまでに、いろいろな感情を聴く者に植え付けた楽曲も少ないんじゃないかと思いました。
すりぃ 僕もいろいろな曲に元気づけられて生きてきた人間なので、『限りなく灰色へ』を聴いてひとりでもポジティブな気持ちになってくれたのなら、こんなにうれしいことはありません。そして、そういう楽曲を作れるようになったこと、『限りなく灰色へ』がそういう楽曲になってくれたことに、無上の喜びを感じました。
--ではここから、将来の夢として「ボカロPになりたい!」と思っている人たちのために用意した質問にお答え願えればなと……! まずは……すりぃさんが、ボカロPになられたきっかけを教えてください!
すりぃ コレっていうきっかけは、じつはないのかもしれません。というのも、僕はもともとバンドをやっていたんですけど4年前にそれをやめて、ひとりでの活動を模索し始めるんです。もともとボカロが好きだったのでソフトも揃っていたので、そこから本格的に楽曲制作を始めた感じになります。
--あ、もともとボカロの環境はお持ちだったんですね!
すりぃ ただ持っていただけで、本気で取り組んではいなかったんです。オリジナルの楽曲は作ったりもしていたんですけど、それを世に出そうだなんてまったく思わず……。ただひとりでの活動が始まったので、どっぷりと浸かってみようかなと思いました。
--ご自身の状況から、わりと自然の流れで……。
すりぃ そうですそうです。それで曲を作り、イラストとか動画をお願いしたところ最初の曲を投稿できるのが3月ごろになりそうだったので、「せっかくだから、3月3日にしよう!」となりました。そこから、自分の名前を“すりぃ”にしたんですけど(笑)。
--あ、そういうことだったんですか!!
すりぃ 名前の由来は、相当適当ですよね(笑)。……しかしちょっと驚いたんですけど、最近の子どもたちの“将来なりたい職業ランキング”で、本当にボカロPが上位に入っているんですね。なんか、こう……違和感を覚えるというか、そもそもボカロPは「職業なの?」という気持ちがぬぐい切れず……。
--いやいや、バリバリ上位に食い込んでいますし、立派な職業じゃないですか!
すりぃ 僕も実際にそういう記事をよく見かけるんですけど、自分でやっていてなんですが、職業という感じがあんまりしないんです。子どもたちは、YouTuberとかと同じカテゴリーだと思っているんですかね?
--ちょうど、端境期なんでしょうね。YouTuberとかプロゲーマーとか、ちょっと前では想像すらできなかった職業が生まれて子どもたちの憧れとなっています。ボカロPとか、ゲームクリエイターも近いと思うんですけど、いまの少年少女はしっかりと、“将来就きたい職業”として認識し、目指し始めていますね。
すりぃ うん、確かに……! いや、じつは僕、べつの場面でも尋ねられることが多いんです。「どうすれば将来、ボカロPになれますか?」って。コレに対するもっともシンプルな答えは、「パソコンを買ったらなれるよ」なんですよね。面白味も何もないですけど(苦笑)。目的が“ボカロPそのもの”であるなら、パソコンとボカロのソフトを買って、何かしらの曲を作ってネットに投稿すれば、その瞬間に「自分はボカロPだ!」と名乗れると思うんですよ。でも彼らの目指す先にあるのが、“音楽でお金を稼ぎたい”とか“有名になりたい”とかになってくると、答えが変わってくるんですよね。ただボカロが好きで曲を作れればいい……ってことだったら、何も言うことはないというか(笑)。
--思うに、いまの子どもたちは驚くほど現実的なので、「ただ曲を作りたい」だけじゃなく、その先も見据えているんだと思います。有名になりたいもそうですし、“自分を承認してほしい”という承認欲求もあるんじゃないでしょうか。
すりぃ ですよねー! でも、これを言うと話が終わっちゃうかもしれないんですけど、そもそも僕自身が有名だなんて思っていませんからね!(笑) そして、僕がアレコレと具体例を挙げてそれを実践してもらったとしても、すでにその方法は僕がやってしまっていることなので、マネしても仕方がないんです。
--な、なるほど……!!
すりぃ けっきょく頭角を現す人って、自分で必死に考えて、何かしら別のアプローチをしているんですよね。教えてもらったことをそのままトレースしても二番煎じにしかならないので、やっぱり……活路は自分で見いだすしかないんだと思います。
--うーん、これはでも真理だな……。自分もモノ書きの世界にいるので、激しく頷くばかりです。
すりぃ 「楽器は必要ですか?」と聞かれれば、「ぜんぜん必要ないです」と答えます。僕のまわりにも、パソコン1台ですばらしい曲を作られている音楽家がたくさんいますから。質問に対する返しはありますけど、それが本当に答えなのかと言うと……自分次第なんでしょうね。
--その流れで、たとえば楽譜は読めたほうがいいと思いますか?
すりぃ いや、楽譜もまったく必須ではないです。ぶっちゃけ、僕も楽譜はぜんぜん読めませんから。
--あ、そうなんですか!
すりぃ 読めもしないし、書けもしません。パソコンで曲を作る場合ひたすら打ち込んでいくんですけど、曲を書いているというより、パズルをしているような感覚が近いと思いますよ。とはいえ、やりたい音楽にもよるかもしれないです。僕みたいにギターが入ってる曲をやりたいんだったら、ある程度知識を持っていたほうがいい……というか楽しいと思います。もしもうまくいかなかったら、できる人にまかせてしまえばいいだけですしね。それがオンライン環境の強みだと思うんで、ギターが欲しければギターが弾ける人に、ベースの音が欲しければベースの人に……と託していって、自分はできることをひたすら突き詰めていく……というスタンスでいいと思いますよ。
--まさに、ニーゴのように。
すりぃ そうですそうです! モノ作りをしていると、いつの間にか「自分で全部できなきゃダメだ」なんていう思考に陥ることがあるかもしれませんけど、まったくそんなことはないです。逆に、いろいろなことに手を出し始めると、器用貧乏になってしまう恐れもありますから。
--ああ、確かに! その分野のエキスパートではなく、広く浅くの人になりがちですよね。
すりぃ どれも中途半端……というのが、いちばん悲しいですから。実際、僕もそういう経験を山ほどしてきたんです。ずっとギターをやっているんですけど、ある日突然、「ちょっとピアノもやってみようかな」なんて思って手を出すも、いまだにまったく弾けないとか……(苦笑)。好きなことだったら挑戦するのも勉強になると思いますけど、無理に手を広げようなんて思う必要はないってことですね。
--では、ボカロPになるのに必要な能力というのは……?
すりぃ これもよく聞かれるのですが、僕が伝えたいのは“興味”と“探求心”を持つこと。けっきょく、ここに行きつくんじゃないかな、って。何かに興味を持ったとき、「なんで自分は、これのことが気になるんだろう?」と解剖していく作業が大事だと思うんですね。たとえば楽曲だったら、歌詞が好きなのか、メロディーが好きなのか、それともギターのフレーズが好きなのか……とかとか、着目する部分によって自分の興味の方向性が見えてくるんです。これをくり返すうちに自分の傾向がわかってきて、次第に好みの曲が作れるようになると思うんですよね。“なぜ自分は好きなのか?”ということを解剖していく作業のほうが、楽器を弾けることよりも大切かなと思います。
--これは、すごく具体的で刺さりますね。歌詞に惹かれたんだとしたら、もしかしたら作詞を重点的にやっていったら特異な才能があることに気付くかもしれませんし。
すりぃ その通りですねー。曲や歌詞じゃなくとも、ジャケットのイラストに惹かれたり、動いているアニメーションから目が離せなくなったり……。自分が何に興味があるのかに気付くって、大事なことですね。
--非常に具体的なヒントをたくさんいただけました!
すりぃ そう言っていただけたなら、よかったです!
--ちなみに、ボカロPになってよかったと思うことって、何かありますか?
すりぃ “自分の選択肢が増えたこと”でしょうか。僕はボカロPですけどその活動だけしてきたわけではなく、最近は自分で歌ったりもしていますし、いろいろな道が見えてきました。ちょっと見渡してみると、「あっちもいける……こっちにも道がある……!」と、さまざまな方向に道が伸びているのがわかったので、それがいちばんの収穫かなと思います。あと、いままではひとりで楽曲を作っていましたけど、知り合いが増えたことで思考の幅も広がりました。ひとりだと凝り固まった考えに固執しがちだったんですけど、まわりの人から刺激を受けることで、そこから脱却できたかなと感じます。もちろん、交友関係が広がるほどに嫌なことにもぶつかったりしますけど、それはそれで、うまく作品に落とし込んで消化できるかな、と……(笑)。
-- 視界が広がった感じですか?
すりぃ 広がりましたし、自分とは真逆の考えかたにも向き合えるようになった気がします。ふつう、真逆の考えってなるべく遠ざけようとすると思うんですけど、それすら受け止められるようになってきたかな、と。これがボカロPの活動と関係あるのかわからないんですが、見える景色とか選択肢が増え、いろんな考えかたができるようになったのは間違いないです。だって、ふつうに生活していたら絶対に出会わないような人が、たくさんいる世界なんですもん。……まあ、僕自身が相手から、「コイツ、ちょっとヤバいな……」って思われているかもしれませんけどね!(笑)
--でも、そういう人こそ魅力的だったりするんですよねー!
すりぃ そうなんです! 僕、会社員になったことがないんで勝手な想像かもしれないんですけど、サラリーマンってある程度は決まった様式の中で働かないといけないので、それほど奇天烈なことはできないと思うんです。でも、僕のいる世界って最低限のルールみたいなものもないので、「この人……ヤベェな!!」っていうクリエイターがそこら中にいるんですよ。そういう人に出会う経験って、もちろん作品作りにも好影響しますけど、単純に「俺、おもしろい世界で生きているんだなぁ……」って思います(笑)。
--では、ボカロPを目指す少年少女に向けて、先達としてエールをお願いしたいんですけれども。
すりぃ これ、『限りなく灰色へ』の歌詞になっちゃうんですけど、「美学とかプライドとか語る前に『やれることやっていけ』」ですね!
--ありがとうございます!
※MV画面はバーチャル・シンガーver.のものです。
すりぃ これから音楽の道を歩もうとすると、親御さんの問題にもぶつかるかもしれません。というのも、僕も学生のころに「音楽でやっていく」と言ったら、まわり中から「そんなことはやめておけ!」と反対されましたから。
--そうなんですか!?
すりぃ 質問も多くもらうんです。「親から反対されています」、「先生にダメと言われました。どうすればいいですか?」とかね。まさに、絵名ちゃんと同じ状況ですよね。でも、これはあくまでも、夢に向かうための第1関門と捉えてほしいなと思うんです。ここでもしもあきらめの気持ちが芽生えてしまうようだと、その先に出てくるさらなる苦難と対峙したときに、ツラくなると思うので……。では、どうやって反対している人を説得するのか? これは説得を試みるのではなく、自分を顧みるきっかけにしてほしいと考えるんです。本気度が伝わっていないのなら、たとえばキチンを曲を完成させて聴いてもらうとか……。
--すりぃさんは、どうされたんですか?
すりぃ あくまでも僕の例ですけど、「やると言ったらやる! ひとりでやっていってみせる!」と言って、踏み出してしまいました(苦笑)。強引な方法でしたけど、何もやらないでグズグズしているよりは、よっぽどよかったなといまでも思います。
--行動を起こさないと、始まらないと。
すりぃ そうですね! 「やろうと思っています」じゃなく、「いまこの瞬間に始めようよ!」と言いたいですね。だって調べればいくらでも、ネットに必要な情報があふれているんですから。悩むのは、踏み出してからでいいんです。
--「明日からやる」じゃダメなんですよね。ダイエットといっしょで……。
すりぃ あははは! でも、その通りなんですよ。「明日から」とか「今度ね」とか、絶対にやりませんから! めちゃくちゃ好きなことって、そういった思考に陥る前に始めちゃっていると思うんです。悩むヒマがあったら、やってみる。もう、これしかないです。成功するための魔法の言葉なんて、ありませんから。
--ありがとうございました! では最後に、『プロセカ』の今後に向けてコメントをいただければなと!
すりぃ アッと驚かせるような新しい展開とか、「こう来たか!」とビックリするようなものを、これからも期待しています。そして、機会があれば僕もぜんぜん曲を書くので、今後ともよろしくお願いいたします!
--楽しいお話、本当にありがとうございました!!
すりぃ
アニメ「けいおん!」を見て軽い気持ちで音楽をはじめる。
2018年3月3日に一作目「空中分解」を60秒シリーズとして初投稿。
代表作「ジャンキーナイトタウンオーケストラ」「テレキャスタービーボーイ」「エゴロック」などロックサウンドの楽曲を多く投稿。
2020年1月には自身初の1st Full Album 「パンデミック」を発売。
『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』の関連記事はこちらをチェック!!
☆☆ボカロPインタビュー企画☆☆
連載記事 |
☆☆プロセカ一周年特集はこちら☆☆
ボカロPに直撃インタビュー! |
衣装カタログ |
タイトル概要
プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク
■対応OS:iOS/Android
■App Store URL:https://itunes.apple.com/app/id1489932710
■Google Play URL:https://play.google.com/store/apps/details?id=com.sega.pjsekai
■配信開始日:配信中(2020年9月30日(水)配信)
■価格:基本無料(アイテム課金あり)
■ジャンル:リズム&アドベンチャー
■メーカー:セガ/ Colorful Palette
■公式Twitter:https://twitter.com/pj_sekai