異世界転生宣言 デュエル・マスターズ「覇」 3-2 ~メンタル・デュエマ 中~

By 神結

 ここは、とある地域にある公園。
 夕暮れ時も過ぎて子供たちの姿がすっかりなくなったところに、彼らは集まっていた。
 
「いいかい、君たちがもしもメンタル・デュエマで勝ちたいと思うなら――」

 グループの中心にいる青年は、左手でバスケットボールを器用に回しながら話をしていた。
 
「まずはそのくだらない確率計算をやめるところから始めるんだ」

 青年はやや赤みがかった髪を揺らし、蒼い瞳で真っすぐに夜の月を見つめている。
 
「『キング』と呼ばれる選手を知っているか? レイカー・デイビスという男だ。彼の3ポイントの成功率は34%。3回に1回だ。だが彼が試合中、『自分の3ポイント成功率は34%だから……』と考えながらシュートを撃っていると思うか? 答えはNOだ」

 彼はそう言って、ゴールに向かってシュートを撃つ。ボールは綺麗にリングへと吸い込まれた。

「一流のメンタル・デュエマプレイヤーになりたいと思うなら、今から言うことをよく覚えておくんだ」

 彼の周りに集まる人は、それを黙って聞いている。
 
直感だ。直感でプレイしろ。まずは最初に思い付いたカードからプレイするんだ。だいたいそれが正着だ。膨大過ぎるデータも知識も、勝ちの助けにはならない。脳みそに回線を引いてWifiを繋いだところで、マトモな結果になるわけじゃあないんだ」
「でもよぉ、リュウの兄貴」

 グループの中の一人が、困ったような声を挙げた。
 
「オレ、学校のテストを直感で解いてきたけどよぉ、マトモな点数取れたことがないんだ」
「はは、それはテストが知識ゲーだからだな。大人しく補習を受けてくるんだな」
「メンタル・デュエマは違うのか?」
「ああ、違う。一見すると知識ゲーのように見えるが、そうではない。あれを知識ゲーに持ち込むなら全カードの全テキストが逆引きで瞬時に出てきて、その上で性能の比較をできるレベルの知識が必要だ。それができる自信のあるやつは、一生懸命カードリストと睨めっこすればいい」

 彼は手元に戻ってきたバスケットボールを弾ませる。
 
「勝ちたいなら考えるな。感じろ。感じられるプレイヤーになれ。脳みそをグルグルかき混ぜながらあーだこーだやる必要はない。考えるリソースは優勝コメントと勝ったあと飯屋を何処にするかにでも割いた方がマシだ」

 と、いうわけで、と彼はバスケットボールを再びリングに向かって投げた。今度は弾かれて跳ね返ってくる。
 
「行くか、俺たちの巣(カードショップ)に」

 “雷(いかづち)のリュウ”というのが彼の名前である。メンタル・デュエマプレイヤー集団「Lock Luck」のリーダーその人だ。

          †

 目を覚ますと、明らかに朝ではなかった。多分昼過ぎくらい。そう思って時計を見ると12時15分だった。休日に起きる時間としては、言い訳すればギリギリ許されそうな時間だった。
 
 まあこんな時間に起きてしまったのは、それなりに訳がある。

 とりあえず身体を起こして、机の方へと目を向ける。
 そこにあったのは、厚さが10センチは超えているであろう一冊の本(というか辞典)だった。
 
 『デュエル・マスターズ カード大全』と背表紙には書かれている。話によると、その年の最終弾が出ると発売されるらしい巨大な辞典だ。デュエマの全カードが、文明・コスト別に掲載されている。
 もっとも最近では新カードが出る度にリアルタイムでアップデートされるという電子版がリリースされていることもあって、受注生産らしい。紙版を持っていると様々な特典があるらしいという噂もあるが、真偽は不明とのこと。
 
 何が言いたいかというと、何故かマナがこの本を持っていたので借りて徹夜で頭に叩き込んでいた、というわけである。
 もちろんだいたいのカードは知っていたが、頭の中では整理できていなかったので、カード名も含めて一旦記憶の整理をしていたというわけだ。
 
 結局このゲームはよりデータの整理ができているプレイヤーが勝つのではないか、というのが自分が至った結論だ。
 だったら知っているカードを適切な場面で正確に使う必要がある。そのためには、データの整理と練習を積むしかないわけだ。
 
 と、このタイミングでスマホの通知が鳴った。見ると、マナからだった。
 
「『火の3コストのチャージャーは全部で何枚?』」

 なるほど。
 王来篇の第1弾には火の3コストのカードが《アッポー <ヴァルボ.Star>》を始めとして、4枚ある。初動として唱えることも多いので、恐らく抑えておくのは必須なのだろう。
 ええっと、《決闘者・チャージャー》《メテオ・チャージャー》《ネクスト・チャージャー》、それと新しい《ボイル・チャージャー》も含めて4枚……か? あ、《フロンティア・チャージャー》もあるから5枚か。あ、《ダッシュ・チャージャー》もあったわ。あと《勝負だ!チャージャー》も。じゃあ7枚か。
 
「『残念、《エナジー・チャージャー》もあるので8枚ですね』」

▲「夢の最&強!!ツインパクト超No.1パック」収録、《ボルシャック・ドラゴン/決闘者・チャージャー》
▲「ステキ!カンペキ!! ジョーデッキーBOX」収録、
《メテオ・チャージャー》
▲「四強集結→最強直結パック」収録、《ネクスト・チャージャー》
▲王来篇第3弾「禁断龍VS禁断竜」収録、《ボイル・チャージャー》
▲新3弾「気分J・O・E×2メラ冒険!!」収録、《フロンティア・チャージャー》
▲エピソード2「ビクトリー・ラッシュ」収録、
《ダッシュ・チャージャー》
▲エピソード1「ガイアール・ビクトリー」収録、《勝負だ!チャージャー》
▲闘魂編第2弾「時空超獣の呪」収録、《エナジー・チャージャー》

 ……悔しい。
 まあ使わんだろ、と言いたくなる気持ちもあるが、どのカードがどの場面で最適解となるかわからないからこのゲーム結構難しいんだよな。
 
「『それで、今日空いてるんですけど夜一緒に練習しにいきませんか?』」

 それはこちらともしても歓迎したい話だ。
 二つ返事でOKと返したところで午前を全て寝飛びしたことを思い出し、ひとまず各方面に謝罪の連絡を入れてやり過ごすことにした。
 
          †
 
 平日夜のショップも随分と盛況だった。会社帰りの社会人や、高校生・大学生などで賑わっている。
 空いてる席は少なかったが、とりあえず二人分はあったのでそこを借りることにした。
 
 この前発行した、自分のIDカードをかざす。
 ちなみに自分のIDカードがあるとどんなメリットがあるかというと、対戦がカードに記録され専用のサイトから対戦のリプレイを確認することができるのだ。便利だ。
 
 排出されたカードは、相変わらず王来篇1弾からの40枚。しばらくはこのレギュレーションらしい。ちなみにマナ曰く、「コスト・色で共通するカードがない場合は出てこない」とのこと。だから例えば第1弾のカードでも《神龍連結 バラデスメタル》は出てこない、ということらしい。

▲王来篇第1弾「王星伝説超動」収録、《神龍連結 バラデスメタル》

 席について試合を始めようとしたところで、店内の様子をみていた店員さんが話しかけてきた。
 
「せっかく人数も集まってくれていますし、突発非公認イベントでもやろうかと思うんですが、参加します?」

 実戦経験は欲しいので、こちらとしてもありがたい話だ。
 二つ返事で参加します、と回答した。

          †

 非公認イベントのルールは勝ち抜き戦だった。
 
 ガンスリンガーに近いかもしれない。要するにいくつかの卓を使って、勝った側を固定して負けた側が次のプレイヤーに変わっていく、というものだった。勝ち続ければ無限に試合ができるし、5連勝すると店認定の強豪プレイヤーとして登録してもらえるらしく、大会の優先権とかがもらえるらしい。
 
 というわけでまずは5連勝を目標にしていたのだが、今日は調子もよくてあっという間に10連勝をしてしまった。
 常に最善の選択ができているとは言い難いが、詰め込んだ知識が役に立っている。予想通り、やっぱりこのゲームは知識の蓄積と活用がものを言いそうだ。
 幸いなことに、僕はロジカル・デュエマをしたときにカードリストと一生睨めっこしていたので、この辺りの蓄積はあるつもりだった。活用に関しては昔遊んでいたタワーデュエルなり、シールド戦なりの経験が生きているように思う。
 
「イオナさん凄いですね。もう11連勝ですよ。お店の記録が12とかだった気がするので、このまま抜いちゃいましょう」

 どうやら、ありがたいことに凄い記録を叩き出しているらしく、卓の周りに人も集まってきた。

「お店の記録を持っている人って、今日いるの?」
「”雷のリュウ”さんという方なんですが、今日はみていな――」
「いや、ちょうどいま来たところだ」

 背後からの声に僕は振り返った。
 少し朱色の髪をして、蒼い瞳を持った青年――僕と同じくらいの年齢だろう――が、そこにはいた。
 
 取り巻きなんだろうか? 彼の周囲には、先ほど戦って勝ったプレイヤーも何人か一緒にいた。
 
「はじめまして。名前はさっき聞いたよ。森燃イオナ、で合ってるかな? もしよかったら、記録更新をかけて俺と戦ってくれないか?」

 僕は少し息を飲んだ。彼が”雷のリュウ”本人だ。
 久しぶりに感じる気がする。これは、“強者”のオーラだ。
 少し言葉を出せずに詰まっていると、彼は少し表情を崩して話を続ける。

「いや、別にいいんだ。わざわざここで戦う必要はなんだよ。でも、イッヘとリーベが君に負けたという連絡が来たからね。ちょっと対戦してみたくなって、慌てて来たんだ。だから”よかったら”という話ではあるんだけど、どうだろう?」
「一応その、順番待ちがあるので後ろに並んでもらって……」
「確かに、それはごもっともだ。せっかくなので順番に並ばせてもらおうかな」

 そういうと彼は僕の後ろに陣取って、腕を組みながら僕の試合を見ていた。
 まあまあやりづらい話ではある。
 
 結局ミスもあったが、この試合も勝利した。12連勝、彼の記録に並んだことになる。
 そしてこのリュウという男は、意気揚々と向かいの筐体へと向かった。
 
 が、思わぬ横槍が入った。

「あの、お店の閉店時間になりましたので、ここでイベントはここでおしまいです」
「なるほど、それは残念だ。俺の連勝もこの閉店時間で止まったから仕方ない。お相子ということで、文句は言わないよ」

 ……正直、ちょっとほっとした。対戦する楽しみより、怖さの方が勝っていた。
 というわけで、店の記録としては僕と彼の12連勝、というのが刻まれることになったようだ。
 
「イオナ、君のプレイを見ていたけど面白かった。次は直接戦いたいね」
「……その時は、よろしくお願いします」
「ところで俺は今からコイツらと一緒に飯に行くんだが、もしよかったら一緒にこないか?」

 イオナは一瞬、マナと顔を見合わせる。
 まぁ、せっかくだし……ということになったので、二人で彼らに付いていくことにした。
 
          †
 
 大変失礼な言い方なのだが……見た目の印象とは裏腹に、リュウという人は結構いい人のようだった。

 まず、妙なほどに面倒見がいい。取り巻きの子(イッヘとリーベ、と言ってた気がする)の試合のリプレイを一緒に見ながら、あーだこーだとアドバイスをしている。そしてその流れで二人にフライドポテトを奢ってあげていた。
 
 言葉自体は時折結構キツイのもあって、そんなに褒められないのかもしれないが。
 恐らく学校だったら担任だったり生活主任の先生だったり教頭先生に目を付けられるタイプで、優等生ではないだろう。が、彼の本性を知っている用務員さんとか校長先生とかとは逆に仲がいいタイプ……とか、そういうカテゴライズだ。
 
「で、イオナ。飯に付いてきてくれて嬉しいよ」
「それは、どうも」

 僕は初対面の人と話すのが凄い苦手なのだが、彼はそうでもないらしい。

「まあイオナを飯に誘ったのは実はちょっとした考えがあってのことなんだ」
「考え?」
「うん。もしよかったら、うちのチームに入らないか?
「チーム?」

 チームとは、よくある話だ。調整グループとか調整チーム、なんて呼ばれることが多い。要するに普段集まって一緒に練習なりするグループを特別「チーム」なんて呼んでいるわけだ。
 
「そう。うちのチーム『Lock Luck』って言うんだけど。単純に強いプレイヤーを探していてね。それでどうだ? と話を振っているというわけだ。ちなみに難しい条件なんかそんなにない。俺の考えと近ければそれでいい」
「考え?」
「そう。メンタル・デュエマに対する考え。本当は色んな考えの人がいた方がいいんだろうけどね。意見が食い違うと揉める原因になるから」

 まあ、言ってることはわかる。

「で、リュウさんの言うデュエマに対する考えってどんな感じなんですか?」
「そう、そこなんだよ。イオナ、君の強さの要因はなんだ? このゲームにどうやって取り組んでいる?」
「どうって……」

 知識の蓄積と、その活用である。膨大なデータを頭に整理して詰め込んだ上で、その引き出しをどう開けていくか。そこを実戦で練習している、ということになる。
 
「……そうか、それは残念だ」

 残念?
 
「俺はそれは無理だと思ってるからな。長丁場の大会の中で、それを確実に遂行し続けるのは無理がある。ミスが出る。そのミスが出たとき、『自分が浅かった』と結論づけるのは酷だよ」
「……じゃあ、リュウさんはどうやって取り組んでいるんですか?」
「感覚だよ、感覚。第一感が重要だ。このゲームには制限時間がある。だから第一感が大事なんだ。それで8割は正しい」

 うーん? いや、でもそれだと別な問題がある。

「でもその戦い方だと安定しなくないですか? その時に運よく閃けたかどうか、で結果が決まると思うんですけど。それに8割正解できても、ゲームの中で2回の8割があったとき、そこで正解を通せるのは6割しかないんですよ」
「だからチームを組んでいるんだ。チームで戦えば、個人が常に安定しなかったとしても、誰かが勝ってくれる」
「本当にそうですかね? それは一人のプレイヤーの完璧なプレイングに負けませんか?」
「”完璧なプレイヤー”がいるなら、そうなるね。現実はそうじゃないよ」
「僕はそれを目指しています」
「なるほどね。それは面白い」

 リュウは楽しそうに笑った。

「俺はコイツらにも勝ちを経験させてやりたい。だから俺には今の戦い方が合ってる。過去にイオナのようなプレイヤーを目指していたとしても」
「…………」

 なんとなく、リュウが『考えが合う』ことを条件にした理由はわかった。

「まぁ、というわけでチームの件は残念ながらなしということで。考えが変わったらいつでも歓迎するけどね。せっかくだし、大会で決着を付けられるのを楽しみにしているよ」

 彼は僕とマナの分のお金も置いていくと、最後に僕を一瞥してニヤリと笑った。
 たぶんそれは、彼からの挑戦状なんだと僕は受け取った。

(次回、3-3 メンタル・デュエマ 下へ続く)

神結(かみゆい)
Twitter:@kamiyuilemon

フリーライター。デュエル・マスターズのカバレージや環境分析記事、ネタ記事など幅広いジャンルで活躍するオールラウンダー。ちなみに異世界転生の経験はない。

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