この冬、もっとも時間を割くゲーム
黙っていたことがある。
「1日も早く、このゲームのことについて触れておかないと……!><」
そう思いながらも、
「口に出した瞬間……俺の首が回らなくなるのは目に見えている!!!」
と恐れおののき、
「ギリギリまで、見なかったことにしておこう」
ってんで、記憶の奥底に封印しようとした“1本の新作タイトル”というものが存在したのであるよ。でも、存在を意識した瞬間に心がどこかに飛んで行ってしまうんじゃないかと恐怖し、いまのいままで、
(*゚―゚)b シー……
↑こんな顔で黙り込んでいたのだ(苦笑)。
でも……俺もいよいよ、我慢の限界である。具体的な発売日が発表され、さらにソフトの予約も始まったとあっちゃぁ……現実を直視しないわけにいきまへんがな!!!
好きなあまり、あえてその存在を認識しないようにしてしまったほど、俺にとって大事なシリーズ。それは……そう! 12月3日にゲームアディクトから発売予定のNintendo Switch用競走馬育成シミュレーション『ダービースタリオン』なのです!!
じつは『ダビスタ』って、俺がゲームメディアに入るきっかけにもなったタイトルなので、その想いはひとしおなのだ。今回は、ちょっとそのへんの思い出話を書きたいと思う。
ダビスタの思い出
俺が、古巣の週刊ファミ通編集部に入ったのは、いまから26年(!)も昔の1994年6月。その年の年末に初代プレイステーションやセガサターンが発売されるという、ゲームの歴史に燦然と刻まれている群雄割拠の年のことで、市場はもちろん、ゲームメディアも、いまでは考えられないほど活況を呈していた時代のことだ。
……って書くと、現在が疲れ切ってアワアワしているように思われてしまうかもしれないが、当時は見るもの触るものすべてが新しく、メディアもメーカーも「おもしろそうなことは、何でもやっちゃおう!」というノリに包まれていたので、こなれて落ち着いた現在とはまるで雰囲気が違ったんだよねぇ。
そんな、どこかハイな状態にあったゲームメディアの門を23歳だった俺は叩いたわけだが、一次選考を通過し、面接までこぎ着けた日のことはいまでもはっきりと覚えている。
1994年5月のある日、新宿の初台にあった大きなビルの5階に来るよう連絡をもらった俺は、着慣れないスーツに身を包み、
「一応……予習しておくか」
と、最新号の週刊ファミ通をコンビニで立ち読みしてから面接会場に向かった。そして、若干緊張しながら会議室に入ると……5人のおっさんがしかめっ面をして、テーブルの向こうに座っている姿が目に飛び込んできた。
「そちらにどうぞ」
真ん中に座っていた、眼鏡とヒゲと小太りな身体が特徴的なおじさんが、椅子に座るように促してきた。後からわかったことだが、その人こそ後に俺の師匠となる浜村通信(当時のファミ通の編集長)だった。さらに、これもあとで思い返して気付いたことだけど、ほかの4人のおっさんも当時の副編集長とデスクだったんだよなあ。
面接は、真ん中のヒゲ眼鏡のおじさんが仕切っていた。
そして自己PRと志望動機など、予定調和な質問と回答が終わったとき、急にヒゲ眼鏡のおじさんが目を光らせてこんなことを聞いてきたのである。
「では、最近遊んで印象に残っているゲームはなんですか? そのゲームのいいところと気になるところを教えてください」
俺の脳内で、いくつものゲームが明滅した。
(えーっと、『ベアナックルIII』かな……それとも『バーチャレーシング』かな……。いや、『モンスターワールドIV』も……)
セガ派だったので、メガドライブのソフトしか浮かんでこない。別にどれでもいいんだけど、ここはなんとなく、スーパーファミコンのソフトを挙げておくのが無難なような気がした。本当に、なんとなくだけど。
そんなとき、脳裏に閃いたのが先ほど立ち読みした最新のファミ通だった。たまたま開いたページに載っていたのがスーパーファミコン用ソフトで、しかも当時、もっとも時間を割いて遊んでいたタイトルだったのである。緊張のあまり、そのことが完全に抜けてしまっていたのだ。
俺は若干胸を張り、その後、記者としてのイロハを叩き込んでくれるヒゲ眼鏡のおじさんに堂々と言ったのだ。
「いまいちばんおもしろいのは、スーファミの『ダービースタリオンII』です。最強馬を作るために、寝る間も惜しんで遊んでいます!」
この回答に、端に座っていたもうひとりのヒゲのおっさんが、少々トゲのある言い方で突っ込んできたことも忘れられない。
「『ダビスタII』ね。アスキーのゲームだもんね」
当時のファミ通は、アスキーから出ていたのだ。(イヤな人だな)と、直感的に思った。
とまあ、ここで『ダビスタII』と答えたことが功を奏したわけじゃないだろうけど、俺は無事にファミ通編集部に配属された。そして入って早々、ヒョロっとしたヒゲ眼鏡(ヒゲ眼鏡ばっかだな!)の男性編集者に、
「ねぇねぇ、かどま~ん。『ダビスタII』好きなんだって~?」
と、のんびりした口調で話し掛けられることになる。この人こそ、浜村さんの後を継いで編集長になるバカタール加藤さんであり、俺の“大塚角満”というペンネームの名づけ親だ。加藤さんはたびたび、
「ダビスタ談義しようぜ~。ボードゲームでもやりながらさー」
と声を掛けてくれ、俺が編集部に馴染む橋渡しをしてくれた。そして実際に『ダビスタII』もメチャクチャやり込んでいて、大学ノートにビッシリと書き込まれた“配合ノート”なるものを見せてくれた。なんと加藤さんは当時、掛け合わせた種牡馬と牝馬をすべてノートにメモし、生まれた仔馬の調教状況も完璧に書き留めていたのである。
「これだけやっても、夢のように強い馬はなかなか生まれないんだよねぇ~。ま、それがおもしろいんだけどさー」
加藤さんは、そう言って笑った。コレに俺は思いっきり影響され、その後、『ダビスタ』シリーズを遊ぶときは必ず“配合ノート”を作っているのであるw
ほかのことが手につかなくなる予感
そんな思い出のゲームである『ダビスタ』の最新作が、12月3日に登場する。
当然の如く2020年の最新データを搭載し、ライバル馬としては、無敗の快進撃を続けるコントレイルやデアリングタクト(史上初の無敗の3冠牝馬!)も登場するというからたまらない!
さらに、シリーズ初となる音声実況や、
全国のプレイヤーと競い合う“ブリーダーズカップ”ももちろん実装される。
『ダビスタ』というゲームは、はっきり言って底なし沼のようなものである。
「この馬は伸びなかった……! でも、つぎこそは!!」
「またダービーを獲れなかった……! しかし、来年は!!」
こんな思考サイクルに入ってしまったら、ちょっと他のことが手につかなくなるかもしれない。
でも……!
甘んじて、身をゆだねよう。ずっと、Nintendo Switchで『ダビスタ』ができる日を待っていたんだし!
『ダービースタリオン』が発売されたら、間違いなくどこかでマニアックな記事を展開すると思う。どうかご期待を!!w
大塚 角満
1971年9月17日生まれ。元週刊ファミ通副編集長、ファミ通コンテンツ企画編集部編集長。在職中からゲームエッセイを精力的に執筆する“サラリーマン作家”として活動し、2017年に独立。現在、ファミ通Appにて“大塚角満の熱血パズドラ部!”、ゲームエッセイブログ“角満GAMES”など複数の連載をこなしつつ、ゲームのシナリオや世界観設定も担当している。著書に『逆鱗日和』シリーズ、『熱血パズドラ部』シリーズ、『折れてたまるか!』シリーズなど多数。株式会社アクアミュール代表。
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