いまから17年も昔の2003年8月8日。ゲームキューブとゲームボーイアドバンスをリンクさせることで、多人数同時プレイを実現したエポックメイキングなゲームがあった。
その名は、『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』。
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その伝説のゲームが現代の技術により命を吹き込まれ、『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル リマスター』として生まれ変わる。
プレイステーション4、Nintendo Switch、iPhone、Androidという4つのプラットフォームで同時展開され、なんとクロスプラットフォームによるオンラインプレイも可能!
この画期的な作品はどのようにして生まれ、そしてどういった経緯でリマスターされることになったのか?
コロコロオンラインでは、17年前に発売されたオリジナル版のディレクターであるスクウェア・エニックスの青木和彦さんと、リマスター版のプロデューサーである荒木竜馬さんを直撃! それぞれの立場から、『FFCC リマスター』について語ってもらったぞ!
こちらでは、オリジナル版のディレクター、青木和彦さんのインタビューをお届けする!
なお、インタビューはZOOMにて実施。
テーマは“ワイワイガヤガヤ”
――『FFCC』は17年前、ゲームキューブとゲームボーイアドバンスを接続して遊ぶという、非常にエポックメイキングな作りをされていました。今回、リマスター版の発売を前に、このオリジナル版のことも紐解きたいと思います。当時、あまりにも斬新なシステムだったゆえに制作も苦労されたと思うのですが、いかがでしょうか?
青木 僕はもともと多人数で協力プレイするゲームが好きだったので、プレイヤーおのおのが独自の画面を持ち、装備を変えたりマップを見るなんて遊び方ができればどうなるだろう……と考えてワクワクしていました。で、実際に作り始めたわけですけど、GBAのほうで個人個人がセッティングをしているとみんなが見ているゲームキューブの時間が止まってしまう……という課題が浮き彫りになりました。これは、ゲームの流れを断ち切ってしまうのでよくないなぁ……ということになり、試行錯誤してバランスを取った結果、17年前に発売したオリジナルの『FFCC』の形に落ち着いたんです。そういう意味では、バランス調整で苦労しましたね。
※記事中の画面写真は『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』のものです。
――企画段階で、当時のハードの性能的に、できることとできないことを検証していった……という感じですか?
青木 はい、そうですね。GBAのメモリや通信スピードの問題もあり、実際にこちらが想定していたものをあきらめざるをえなかった……なんてことは、多々ありましたよ。
――そんな作品が17年の時を経てリマスターされ、当時はできなかったことも実現できるようになったと思うのですが、それは青木さん的にはどのように感じるのですか?
青木 当時は、GBAを所有する人が4人集まり、さらにゲームキューブもないと多人数プレイができないことが大きなハードルだったわけですが、いまはそんな準備は必要なく、すんなり立ち回れることが大きいわけですね。
――はい、そうですね。
青木 でも、当時は物理的に友だちが集まることで、声や会話が生む空気みたいなものがゲームの味付けにもなったと思うんですけど、リマスターではそれがありません。インターネットでつながりながら、プレイヤーの皆さんがどのように楽しまれるのか……非常に興味深く見守っています。
――17年前に独自のマルチプレイを設計するにあたり、もっとも大切にされていたことは何でしょうか?
青木 最初に考えたことが、ふたつあります。ひとつは、画面の中にいま起こっている事象を表示すること。というのも、当時の画面がスクロールする多人数協力プレイというと、プレイヤーがバラバラに画面の端っこに行き、ボタンを連射して画面外の敵を倒して何となく進む……というタイプが多かったんですけど、やっぱり協力プレイするには、そこで何が起こっているのかとキッチリと共有させるのが大事だなと。これは必ず実現したいと思いました。もうひとつが、プレイヤーどうしの会話です。
――プレイヤーどうしの会話……ですか。
青木 ピンチになったり、ボスを倒したりしたときに「わーっ!!」ってなるのは当たり前だと思うんですけど、これに加えておのおのの画面で、ある人はマップが出ていたり、ある人はモンスターの状況が出ている……なんてことになったら、攻略に関する会話も発展すると思ったんですね。これを“動の時間”として、さらに敵を倒したのちにユーザー間で故郷からの手紙をやり取りできるようにすると、“静の時間”でもコミュニケーションが生まれる。これをきっかけにさらに会話をしてもらいたいと思って、最初からゲームに盛り込むつもりでいました。
――それもあってか、どちらかというとストーリーよりも、“旅の雰囲気”に重点を置いた作品だったな……という印象があります。
青木 そうですね! とにかく旅をしている雰囲気を出したかったので、オープニングで焚き火のシーンを入れたり、楽曲担当の谷岡久美さんに「そういう雰囲気の曲を作ってね!」と頼んだり……。システム的には、ひとりでも4人でも遊べたので、ユーザーによって受け取り方が変わるゲームになったんですけど、根っこの部分で大切にしたのは“みんなが集まってプレイした瞬間がとにかくいちばんおもしろい!”ということ。仲間と旅をするのが、もっとも楽しいですから。
――わかります。そういう空気のゲームでした。
青木 ゲームってストーリーをなぞらなくても、友だち数人で集まってワイワイガヤガヤとやり始めた瞬間に楽しくなるじゃないですか。なので作り手側も、物語もキチンと用意はするけどマストの遊びではなく、「興味がある人は、そちらもどうぞ」という感じで制作していました。そういう意味では、“RPG屋が作ったアクションゲーム”という感じでしょうか。
――たいへんおもしろいアプローチだと思うのですが、それゆえに戸惑うスタッフさんもいたのではないですか?
青木 そうですねー。制作の過程は、とにかくやりたいことを詰め込んでみてできるかできないか試そう……という感じだったので、紆余曲折はありました。ただ、「みんなで楽しむならアクションだよね」という想いはチームで共有できていたので、向いていた方向はいっしょだったと思います。
――(スクエニ宣伝担当)ストーリーの語り方も他のゲームとは少し違っていて、特にダンジョンに入るときのYaeさんの語りはファンの間でも印象的です。ああいった形に落とし込んだ経緯も宜しければお聞かせください。
青木 “旅情感”という意味での語り……という雰囲気もあるんですけど、実際はそのマップを紹介するという役割がメインでした。冒険者のための旅行ガイド的なもので、物語をまったく知らなくても4人で遊ぶときに共通の認識を持って楽しんでくれたらうれしいな、と……。
クリスタルケージの秘密
――もう少し細かいところをお聞きしたいのですが、オリジナル版の特徴的なシステムとして“クリスタルケージ”があると思います。一定範囲から出てしまうとダメージを受ける……というものですが、これを導入された経緯をお聞かせください。
青木 大前提としてあったのは、“4人を画面内に収めておきたい”という考えです。でも、なかなかうまいアイデアが出てこなくて、チーム内でアイデアの募集をしたんですよ。そうしたら、「一定範囲から出るとダメージを受けてしまう……という仕様はどうですか?」という話が出て、「じゃあクリスタルを中心に置こう」、「クリスタルの効果の外は瘴気が渦巻いていることにしよう」と、アイデアが肉付けされていきました。結果、クリスタルには使命があって……という世界観が出来上がっていったんです。
――なるほど! クリスタルケージのシステムが先にあって、そこから必然的に瘴気のアイデアが生まれていった、と。
青木 そうですね。画面内で起こっていることはキチンと見せたい……という思いがあったので、それを中心にアイデアが付け加えられていったイメージです。
――チーム内で意見を募る……ということは、ほかの場面でも?
青木 ありました。会議をしているときに、雑談レベルで出てきたものをみんなでコネくり回して実装したり。当時の作り方って、いろんな要素をとにかく入れて、みんなで触ってあーだこーだといいながらブラッシュアップしていく……というものだったので、スタッフの意見を聞くというのは非常に重要な役目を果たしていたんです。
――なるほど! 制作過程も“協力プレイ”だったわけですね。
FFCCの作り方
――今回、リマスター版が発売されることで、17年の時を経て初めてプレイするユーザーも多いと思います。そういった新規のプレイヤーには、どういった点に注目してほしいですか?
青木 リマスター版の開発が始まった当初は考えてもいなかったんですけども、いまはこんなご時世なので、できれば音声を共有して、しゃべりながらプレイしてもらいたいな、と。もちろん、リマスター版はおしゃべりをしなくても楽しく遊べるんですが、オリジナル版のアイデンティティは“みんなでワイワイ騒ぎながら”というものですので、ちょっとでもそれに近い環境で遊んでもらいたいなと思います。しかもリマスター版は、ホストが製品版を持っていればLite版しか持っていない人もかなり遊べるらしいので、新たなゲームの提案としても、ぜひ触っていただきたいなと思います。
――17年前と比べて、本当に環境が変わりましたもんね。いまのこの環境が当時もあったら……と、クリエイターとして考えることはありますか?
青木 ありますし、いまも『ドラゴンクエストX』の開発を担当していますけど、こういったMMORPGを開発することで、そのような欲求を満たしているのかもしれません(笑)。
――では逆に、17年前にオリジナル版を遊んだ方も、リマスター版をプレイするかと思います。彼らに対する思いもひとしおなんじゃないですか?
青木 おっしゃる通りで、新しい方に遊んでもらいたい……という思いが強いのは確かなんですけど、17年前に協力プレイがしたくてもできなかった人に、いまの環境で存分に遊んでもらいたいな、と思っています。リマスター版は簡単に多人数プレイできるようになっているので、親子で遊ばれるのもヨシ、ネットでつないで不特定多数の方と遊ばれるのもヨシ。17年前に遊ばれた方が懐かしさを感じるとともに、「これ、おもしろいな!」と新たな楽しみを発見されて広めてくれれば、さらにユーザー層が拡大すると思いますしね。それが、理想でしょうか。
――……僕も、マルチプレイをする友達がいなかったクチで……。
青木 リマスター版を通じて、ネット友だちを作る。これが、いちばんよろしい流れなんじゃないかと(笑)。
――長年の夢が……(笑)。そのほか、オリジナル版の制作現場で、印象に残っている出来事などがあればお聞きしたいのですが。
青木 ……実際には入れられなかったというか、大きく方針転換した要素がありますね。
――おお、それは興味深い!
青木 戦略の要素なんですけど、たとえばモンスターどうしが連携をしてて、1匹に見つかると、「わーっ!」って感じでモンスターが集まってきて全滅の危機に瀕する……とか。そんな感じのことを最初はイメージをしていて、いろいろ考えていたんです。マップのギミックで敵の数を制限するとか、油の壺で火をつけるとそっち側から援軍が来ないとかとか……。あとは、ちょっとおもしろいアイデアであったのは、食べ物に変身すること。“まんまるコーン”に変身すると、まんまるコーンが好きなモンスターだけがひょろっと釣れるので、まずはそうやって切り崩していく……とかね(笑)。そんなことをいろいろと考えていたんですけど、実際に試してみると4人プレイのワチャワチャ感にすべてかき消されるという(苦笑)。しかも、戦略的な要素ってイチからキチンと段階を踏んでユーザーに覚えてもらう必要が出てくるので、快適なプレイとの両立がむずかしいかな、と……。最終的に、軍隊的な統率の取れた動きを導入するより、ワイワイガヤガヤの楽しさを追求しようということになりました。
――しかし、ワイワイガヤガヤのマルチプレイも当時はほとんどなかったわけですから、テストをするのもたいへんだったんじゃないですか?
青木 ひたすらテストのくり返しです。そしてテストをするたびに新たな疑問とか質問が出てきて、それも作って試して……。でも、ふだんはニコリともしないプログラマーが4人プレイの楽しさに「ぷっ!」って噴き出しているのを見たりすると、「勝ったな!」なんて思って楽しかったですよ(笑)。
――そうして完成した『FFCC』が、その後のスクウェア・エニックスのマルチプレイの作品に大きな影響を与えた……という部分があるんじゃないかと思いますが、いかがですか?
青木 どうでしょう……。それは……考えたこともないですね。そもそも、僕は作品を作り終わると全部忘れるという方針なので。制作中はめちゃくちゃ遊びますけど、製品版になったらいっさい触らないので。
――あ、そうなんですか!
青木 はい。でも苦い思い出だけは残っているので「同じような轍は踏むまい」と、つねに考えているんです。いま『ドラゴンクエストX』をやっているんですけど、これは毎回パッチが当たって変わっていくので、発売後に継続して遊んでいるのは本当にこれだけです。
──今日のインタビューがまさにそうですが、発売後に「あれはどうだったんですか?」、「こういうところが好きです」なんて聞かれる機会が多いと思うんです。その際に「それって、何のことだっけ?」と思うことは?
青木 『クロノトリガー』を作ったときに、当時の社長が途中で迷ったらしく、夜中に電話をしてきたんです。「ここで迷っているんだけど……」って。でも当時ってROMカートリッジなので、製作が終わってから3ヵ月後のリリースだったんですよ。なので、完全に忘れてて。「うーん、どこでしょうねぇ……」としか答えられなくて(笑)。
――あははは! そんなことが! でも、その『クロノトリガー』にしてもやり込む人が多いゲームですが、作り手の青木さん自身は、それほどやり込むタイプのゲーマーではないんですか?
青木 興味のあるゲームは、しばらく会社に行かなくなるくらいやりこむんですけどね。でも、自分が作ったものって開発中にめちゃくちゃプレイするので、発売されるころにはお腹いっぱいになっているというか……。それよりは、他の人が作った新しいゲームをプレイするほうに時間を使いたいなと。
――“つねに新しいものを”という考え方?
青木 こんなゲームを作りたい……と思っても、技術的にはまだまだ難しいってことが、けっこう多いんです。でも、僕らが少しづつ「こういう方向に……」って歩いていく中で、じゃあこういうシステムで補おうとか、環境が整ったときのために準備をしておこうとか、なんとなく理想形に向かって点を打って開発していくことが重要だと考えています。当然、失敗も多いですよ。触った瞬間に「なんか違う」と思ったり……。チャレンジした結果として、いろいろなものは残っていくんですけども、“いまいちばんおもしろいもの”を最優先にするので、失敗は多いですねー。
――青木さんがゲーム作りをされるうえでスタート地点になることって、おもにどんなことですか?
青木 ケースバイケースです。1枚の絵を見て頭の中で展開させた瞬間、システムを思いついたりとか。たとえば『クロノトリガー』の時に見たのは、女の子が川辺に立っていて、それを見ている老人がいる……という写真。そこから、「じゃあこの老人が見ている風景は……もしも老人が来なかったら、どうなっていたんだろう?」とifの部分を考え始めて、システムに活かしていきました。
―― へーーーー!!
青木 “今年の一文字”って、あるじゃないですか? あれをゲームにしたらどうなるかな? とか(笑)。あと、自分で原作を書くならどうするかな……なんて、つねに何かを考え、考察するクセがついていると思います。これ、職業病なんでしょうね。何を見ていても、なんとなく勘繰っているという。
――でもそれって、休みがないようなものですよね? もちろん楽しい面もあると思うんですけど……疲れは大丈夫なんですか?
青木 のめり込むとそれにばかり気を取られて、我を忘れてしまうという部分はあります。ただ、100個考えても形になるのは1個くらいなので、やっぱり積み重ねなんでしょうね。「そんな時間も楽しいな」と思わないと、やってられないかもしれません(笑)。
――なるほどなぁ……。
青木 逆に、けっこう楽な時間だとも思っていて。たとえば『FFCC』を作っていたとき、ディレクターとして「こういうものが出ますよ!」と発表すると、多くの人が期待してくれるじゃないですか。もちろん会社的には、期限内に作らないといけないという責任も負うわけですけど、それよりも「おもしろそうだよね」と思ってくれた人の期待にどう応えるか……というプレッシャーのほうが圧倒的に大きくなります。それと比べれば“考える”という作業は、やっぱり楽しいことなんだと思いますね。
――……日々の仕事への取り組みに活かさせていただきたく思います!
青木 あははは。
――最後に、ぜひお聞かせください。発売から17年が経ち、いまなお多くの人から愛されている『FFCC』ですが、長年のファンに向けてメッセージをいただければなと。
青木 いまでも『FFCC』に関して、「本当に大好き」なんて言っていただけているのを見ると……心からうれしくて。ゲーム制作の過程でうれしいと思う瞬間って稀なんですけど、そういったファンの言葉に触れるたびに、「『FFCC』に関われてよかった!」と、掛け値なしに思います。いま、僕が代表でインタビューを受けて、昔からのファンの皆さんに感謝の言葉を述べていますけど、この作品に関わったすべてのクリエイターが同じ思いです。『FFCC』を愛してくださっている皆さん、本当にありがとうございます。このひと言に尽きます。「ゲームを作ってきてよかった」なんて思うことは滅多にありませんが、リマスター版を「楽しみ!」と言ってもらえているのを見て、「作ってよかったなぁ……」としみじみ思います。
――ありがとうございます! 原作ファンのひとりとして、リマスター版もじっくり楽しませていただきます!
コロコロオンラインでは、リマスター版のディレクター、荒木竜馬さんのインタビュー記事も公開しているので、ぜひチェックしてほしい!
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作品概要
『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』
ジャンル:アクションRPG
発売日:2003年8月8日
オリジナル版公式サイトはこちら
『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル リマスター』
発売日:2020年8月27日(木)
対応機種:
Nintendo Switch™ / PlayStation®4 /
iOS / Android
価格:
[Nintendo Switch版™/PlayStation®4] 4,800円+税(パッケージ/ダウンロード)
[iOS版/Android]2,820円(税込)※ダウンロードおよび、一部のプレイは無料。
リマスター版公式サイトはこちら
© 2003, 2020 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
CHARACTER DESIGN: Toshiyuki Itahana
※記事中の画面写真は『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』のものです。