ゲームはここまで怖くなるのか……!
コロコロオンライン、夏のホラーゲーム特集……今回はますますヤバい!!
ゲーム好きは少なからず、心に残る怖いゲームってのがあると思うけど、このたび開発者インタビューにこぎ着けたこのタイトルは(個人的にも)別格である。2000年代初頭に無数のユーザーを恐怖させた、ジャパニーズホラーの代表作としてゲームの歴史に残っている“逸品”だ。
そのタイトルは……ソニー・コンピュータエンタテインメント(当時。現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)から発売されたプレイステーション2用ソフト、『SIREN(サイレン)』である。
日本の地方に残る土着信仰を題材に、不気味な儀式、鳴り響くサイレン、迫りくる屍人の恐怖、無慈悲なほどの難度、そして斬新な“視界ジャック”というシステムなどなど、あらゆる意味でユーザーの記憶に残るゲームとなった。
今回、お話を伺ったのは、そんな今も人々に強烈な印象を残すゲームのディレクターを務めた、ソニー・インタラクティブエンタテインメントの外山圭一郎さんである。当サイトで今年の2月に展開したプレイステーション4の特集において、『GRAVITY DAZE』のディレクターとしてもご登場いただいたゲームクリエイターだ。
そんな外山さんとホラーの出会いから掘り下げたぞ。
(※メールで行ったインタビューをまとめたものです)
影響を与えたものは?
--さっそく切り込みたいのですが、そもそも外山さんはオカルトものが好き……なんですよね?
外山 大好きですねー(笑)。と言っても、さすがに昨今は科学的検証や、それらを扱っていたメディアの裏事情なども熟知した状態ですので、真剣にとはいきませんが……。大昔の、“心霊”、“UFO”、“超能力”、“UMA”といったものが現実と虚構の狭間にフワフワと存在し得た、そんな時代のロマンに思いを馳せるという感じです。
--わかる!! 怖いんですけど、それは突き詰めればロマン以外のナニモノでもないんですよねぇ……。そんなオカルトものを好きになったきっかけって覚えてます?
外山 きっかけは“従兄姉シリーズ”が多いんですよね。
--……従兄姉シリーズ?
外山 ほら、よくあるじゃないですか。たまに会う親戚の影響で、何かに目覚めること。僕の場合、叔父叔母の家に訪問したときに従姉に聞かされた『エクソシスト』のサントラレコード(悪魔の声入り)と、本棚にあった『ノストラダムスの大予言』が忘れられません。
--うわーーー!! その世代ですよねーーー!!(※注:外山さんと書き手は同世代)
外山 あと、別の従兄の本棚にあった、楳図かずお先生の漫画『おみっちゃんが今夜もやってくる』(『怪』3巻の加筆されている方)とかね……。本気で恐ろしいのに、なぜか目が離せなくなるというか、行くたびに必ず手に取ってしまうのが不思議でした。
--となると……外山さん自身も、オカルトな体験をしてそうですね。
外山 残念ながら(?)、霊感の類はまったくなくてですね……というか、あったらこんな仕事からは全力で逃げていると思うんですが(笑)。
--あ、そうなんですか(笑)。じゃあ、その手の体験は何も?
外山 でも小学生のころ、オカルト好きの友人たちと心霊写真を撮りに行ったり、霊の声をテープに録音しに行ったり、自動書記の会を開いたり……。
--自動書記の会は……コックリさん系の交霊術のことですね!?
外山 はい、当時はどれもそこそこ結果を出していたような気がします! あれは何だったんでしょうね??
--それはきっと……ロマンです(笑)。
人を怖がらせるコツ
--外山さんは『SIREN』以前から有名なホラーゲームを手掛けられています。ゲームでホラーを題材にした理由を教えてください。
外山 これは身も蓋もなくて申し訳ないのですが、SIE入社前に別の会社で新人ディレクターとして抜擢していただいたときに、当時のサバイバルホラーブームを受けて、はじめからジャンルは指定されていました。怖がりだったのもあって、最初はかなり方向性に悩んだんですけど、それこそオカルト要素など、「自分がワクワクできるもので構成してしまえ!」と居直ってからは、制作自体とても楽しめました。結果的には、とても自分に合っていたと思います。
--へーーー! 意外!! では、ゲームとホラーの相性について、どうお考えですか?
外山 映像、音響、文芸を駆使するあたり映画に近いかなと思いますが、暗闇に躊躇したり、それでも自身の決意で一歩を踏み出したり……といった“能動性に特化した演出”が可能なのがホラーゲームの特徴だと思います。キャラクターへの感情移入というレベルを超えて、あたかも自身の体験であるかのように感じさせられるのが強みです。
--うんうん、わかります。
外山 しかし昨今、ハード性能が高度化してからとくに顕著なのですが、コストの面でのバランスを取るのが難しく、ビジネス的にはそこそこ難易度の高いジャンルになったかな……とは思います。そもそも、人を選ぶ面があるのは避けられませんしね。一方で、熱心なホラーファンの方は評判になった作品は必ずプレイしてくださるので、そのありがたさは身に染みています。
--ゲームで人を怖がらせるコツみたいなものはあるのですか?
外山 ゲームに限らないとは思いますが、“見えていない、見せていない”部分を想像させることかなと思います。そのために、どこかで自分との繋がりのあるような世界観であるとか、登場人物の心情、自身の日常との繋がりを感じられるようなちょっとしたリアリティ……といった部分を疎かにしないようにするのは大事だと思います。
--ここ、もう少し掘り下げさせてください。ホラーゲームに必要な要素については、どうお考えでしょうか?
外山 強いて言えば、基盤となるテーマ的な部分でしょうか……。僕は“寓話性”と言ったりするのですが、個人を超えた普遍的な“因果”のようなものは、人が人である前から生き物として積み上げ、刻み込まれた、共通の遺伝子的なものの奥底にあるのかなと思います。具体的要素としては、受け手が「これはホラーだ」と思うのであれば、とくに必須となるものはないと思いますね。逆に既知のものが入って来たときに安心感を抱いてしまうので、これまでにないものを編み出すことが必要かと思います。
--ではさらに踏み込んで、映像、音楽、シナリオ……という作品を形作る部品は映画やテレビ番組と同じですが、ゲームには“インタラクティブ性”があります。しかし、これはともすれば“紛れ”につながり、制作者の意図しない展開につながるんじゃないかとも思えます。ホラー作品を作るうえで、ゲームのインタラクティブ性は邪魔にならないのでしょうか?
外山 確かにテストプレイの際に後ろからこっそり覗いていると、真っ直ぐ歩いてくれれば何事もなく進むところで、なぜかあらぬ方向へ行ってしまって頭を抱えることがあったり……。後で聞くと、「何か嫌な予感がしたから」と言っていましたが(笑)。しかし、この制作者も読めないカオスな感じは、ゲーム独特の強みではないかなと思うことがあります。とくに『SIREN』では、プレイヤーがどう進んでいくのか、意図的にコントロールできない構造になっていて、“困惑する”、“途方に暮れる”、“足掻く”といった感情が、実体験に近いものとして表現できたのではないかな、と。
『SIREN』のバックボーン
--ここから具体的に『SIREN』についてお聞きします。外山さんのホラー1作目は海外が舞台でしたが、『SIREN』は日本のさびれた村が舞台です。この設定にした理由は?
外山 初めてホラーゲームを作ることになったときに、まず既存の作品群とどう差別化するかが重要と考えまして、そのときにふたつのテーマを思いつきました。
--これは興味深いですね。
外山 ひとつは学生時代、ビデオレンタルのアルバイトをしていたときに、“スティーブン・キング原作コーナー”というのが地味に人気だった事を思い出しまして。いわゆる“モダンホラー”と呼ばれるジャンルの知識は当時はぜんぜんなかったですが、皆が借りていくからにはきっとおもしろいんだろうな、と。それともうひとつが、ラヴクラフト小説、クトゥルフ神話の系譜。その中での異端、TBSでドラマ化された『インスマスを覆う影』(※編集部注:ラヴクラフトの『インスマスの影』を映像化した、単発のテレビドラマ)が、よくわからないながらも印象に残っていたんですよね。
--ふむふむ。
外山 90年代後半から、ホラー界は『リング』に端を発する“Jホラーブーム”が席巻します。そんな中、日本が舞台のホラーゲームを目指したのは必然と言える部分があったと思います。そして再び、差別化を考える中で、『インスマスを覆う影』のことを思い出したのです。心霊系と異なる日本のホラーの道筋は、そこから得られたように思えます。
--この流れで、さらに具体的に! 『SIREN』を作る上で、モチーフになった作品等はあるのでしょうか? 八つ墓村や伊藤潤二の短編を髣髴とさせる雰囲気ですが。
外山 『SIREN』はとくに、自分が影響を受けてきたホラーや怪奇的なエッセンスをバンバンぶちこんでいこう、というコンセプトでもありましたので、ちょっと挙げきれないぐらいありますね。制作当初、「ホラーの『グランツーリスモ』を作る」とか言っていましたし(笑)。
--あははは!! それはおもしろいなあ。
外山 影響という意味でとくにひとつを挙げると、小野不由美先生の小説『屍鬼』ですね。制作直前に読んで、その群像劇感や村の雰囲気、登場人物などに大きく影響され、イメージの基盤とも言える存在感がありました。
--『SIREN』でも描かれていますが、日本の地方に残る風習や伝承というものに魅力と恐ろしさを感じます。『SIREN』を作る上で、そういったものを研究・調査されたりされたのでしょうか?
外山 きちんと学術的な研究をしたことはなく、“遮光器土偶=宇宙人説”、“うつろ舟=UFO説”とかいった、いわゆる“『ムー』的な知識”として自然にあったという感じです(笑)。また、諸星大二郎先生や山岸凉子先生の漫画で、神話、伝承的テーマと現代劇エンタメを織り交ぜる作風に親しんでいたので、自然とそういった手法が取り入れられたというのはあります。
--『SIREN』シリーズで恐怖をあおる手段として、村に鳴り響く大音量のサイレンがあります。これの発想はどこから?
外山 当初、“毎夜0:00に人が人でなくなる”みたいな思い付きがあったので、それを登場人物全員に知らしめるようなギミックとして考えたものだと思います。それが遠い海の向こうから聞こえてくることで、海の彼方の得体のしれない存在について想像力を刺激するだろうと……。
--なるほどなるほど。
外山 サイレン自体は、デビッド・リンチの作品の中で印象的に使われていたので好きなモチーフでしたし、自分の幼少期、市内で火事があると大音響で鳴り響いて(消防署の近所だったもので……)、その不穏な非日常感の印象もあったと思います。
--もうひとつ、『SIREN』の象徴的なシステムに“視界ジャック”がありますが、このアイデアはどこから?
外山 もともとストックしていたネタのひとつで、シンプルにFPSでの対戦中、いま自分を狙っているスナイパーの視線が見えたらな……と思ったのがきっかけです。悪意のある存在が自分を狙っている、自分に近づいてくるが、それが何者であるかはわからない……という想像力を刺激する特性がホラーにマッチしているので、組み合わせることにしました。
ホラーとハードの関係
--では最後に、個人的にお聞きしたいことをいくつか。まず、ハードの進化とともにゲームの写実的な表現が格段に向上しましたが、一方で、スーファミや初代PS時代の若干粗いグラフィックで描かれた映像にも恐怖を感じたりします。クリエイターは、この粗い映像すら利用して恐怖を作り出しているのだろうなと思うのですが……いかがでしょうか?
外山 チープさが必ずしも弱点にならない、むしろ想像力を刺激する好材料になり得る……というのは、間違いなくホラーの強みです。とはいえ当時は「利用してやろう」というより、「何とかならないか……」と悩んで四苦八苦していたというのが正しいのですが。現実に根差した舞台設定だけど、人を大勢出せなかったり、建物の構造が曖昧だったり……という制約があったので、“夢と現実の狭間にある街”という世界観が捻り出されたんですよね。結果的に功を奏したというものが多いです。
--その一方で、実写と見紛うレベルのホラーゲームにも期待するのですが、ハードの進化とともにホラーゲームもさらに進化されるとお考えでしょうか?
外山 “性能が向上することで可能になる恐怖表現”というものも、間違いなくあります。私の時代でも、影の表現ができるようになったというだけでどれほど喜んだか……。選択肢の増加は間違いなく歓迎すべきことだと思います。インディーズやモバイルなど、媒体面での選択肢も増えて、あえてレトロチープを選ぶといったことも可能になりましたし。
--この流れでぜひお聞きしたいのが、VRについて。ホラーとは最高に相性がいいアイテムだと思うのですが。
外山 VRとホラーの組み合わせは、間違いないですよね。ヘタをすると何もしなくていいというか、それっぽい空間を用意してそこを歩かせるだけで……すでに怖かったり(笑)。ただし、現時点ではVR機器は普及の過渡期にあり、ビジネス的にはシビアに考えねばなりません。加えて、ある意味“怖くなりすぎる”がゆえに、尻込みされてしまう懸念もあるかなと……。それでも、今後の大きな潮流のひとつになっていくことは間違いないと思います。
--非常に腑に落ちる回答、ありがとうございます! ……では最後に、いちばんお聞きしたかったことを。今後、外山さんがホラー作品を手掛けられることはあるのでしょうか!?
外山 ホラーに限らず、まだまだやってみたいテーマやジャンルはあるのですが、ホラーファンの方が待ち望んでくださっているということはとても大きなモチベーションになります。ですので……また機会があれば手掛けてみたいと、つねづね思っております!
--ありがとうございました! 今後のご活躍、期待しております!
PlayStation 2用ソフト『SIREN』
(C)2003 Sony Interactive Entertainment Inc.
※現在は、PS3で遊べるデータがPlayStation Storeで購入できます。
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